転生者は、警告を受ける
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あれよあれよと話は進み、そのまま一言も発せないまま診断室へと誘導される。
「とりあえず一通り検査するからエドワードたちは待合室で待っててくれよ?」
「どのくらいで終わるんだい?」
「まぁ……1時間くらいか?俺に任せとけって親友!」
一体なにがどうなっている。
頭に蘇ったセリフの声は、間違いなくヒューズ先生だ。だが私は先生に会ったのは今回が初めてであり、前世で彼に出会うなんてことはそれこそ不可能。
(前世の記憶じゃないなら、情報源はどこからなのだろう。)
どちらにせよ、いくら両親と顔見知りとはいえこの人と2人きりになるのは避けたい。
あ、そうだ。5歳なんてちょうどイヤイヤ期とかじゃない?初めて会ったおじさんと2人きりなんて怖くて嫌だと駄々をこねて一緒にいてもらおうか。
精神年齢三十路女が駄々をこねるなんてなかなかの醜態だが、そんなことを言ってる場合じゃない気がする。
歩きながら目を閉じ、一度深く息を吸う。
よし今だ。
「お、お父さんお母さん!私!」
「よし、じゃあ検査を始めようぜ。レイちゃん?」
うわぁ………遅かった。
無情にも両親と分断する扉が先生の後ろでゆっくり閉まっていくのを、恨めしげに見つめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よーし準備はいいか?」
腹はくくった。やるしかない。
緊張した面持ちで片目に目隠し版を押し当てる。その瞬間、目の前のボードに大きなCの字が浮かび上がった。
「気楽にいってみようぜ。これは?」
「…右。」
「これは?」
「下。」
「じゃあこれは?」
「う、上?」
「………これは?」
「ひ……み………ひぎっ………」
「……がっはっは!こりゃたまげたな!」
ボードをしまいながら大笑いする先生の姿を合図に目隠し版を外して一息つく。
なんか前もやった事あるな視力検査。
「俺が魔力を込めると途端にダメだ!確かにこれなら妖精も見えない!いやーこんな症例は初めて見たな!」
「そうですか…。」
「おうよ!となると次は体内の魔力測定だが、今はアイツが測定器を使ってるから……よし!おじさんと少しお話しして待とう!」
「いや…あの…」
「がっはっは!おいおいそんな緊張するな!おじさんは怖くないぞー?ジュース飲むか?」
「飲みます。」
「いい返事だ!せっかくだし俺も飲むとするか!ほら!乾杯!」
つられるように先生と乾杯をし、ふかふかのソファに腰をかける。
横に並ぶように腰かけた先生は、お菓子の袋を開けて私へと差し出す。
それを無言で口に含み咀嚼しながら、ジュースを飲む。
「それにしてもエドワードとエマちゃんのお嬢ちゃんがこんなに大きくなってたなんてなぁ。歳を食うと感覚が鈍っていけねぇ!で?今何歳だ?」
「5歳です。」
「5歳か!幼いのに本当にしっかりしてんな!俺の息子が同じくらいのときなんて、もっと聞きわけが悪くて大変だったのによ。あ、もしかして人生二回目とかそういうくちか?」
「ごふぁっ!」
「おいおい!器官にでも入ったのか?がっはっは!!そんな急いで飲まなくても取り上げたりしねぇよ!ほら、背中叩いてやる!」
ビックリした。超ビックリした。
力強く背中を叩かれ喉の調子を元に戻す。
悪い人ではなさそうだがいささか心臓に悪い。早く検査が終わらないかとソワソワしていると、その様子を見た先生は少しトーンを落として私に話しかける。
「それにしても本当にエマちゃんの病気が治ったようでビックリしたぜ。いつ頃完治したか分かるか?」
「きょ、去年の今頃…くらいですかね。」
「へぇ…なぁ…どんな治療をしてたか、レイちゃん知ってるか?」
「……へ?」
私が呆けたような返事をすると焦れったくなったのか、私の目線に合わせてしゃがみこんできた。
「エドワードは奇跡だって言ってたけどよぉ、そんなわけない。アレは呪いだ。神に祈ったくらいで治る代物じゃない。…レイちゃんには難しいかもしれないけどな?」
私の右肩に大きな手が置かれ、強く力を入れられる。先生の瞳はサングラスに隠れて見ることはできないが、なんらかの激情を感じ取ることができた。
「もしアレについてなにか知ってるなら、なんでもいい。教えてくれないか。」
手の震えが肩からダイレクトに伝わる。
頭の奥で痛みが走ると、今度は断片的な映像が流れてきた。
明かりがついていない、大きな部屋の中で佇む大男。
窓の外は大荒れで雷鳴が鳴り響き、閃光で部屋内部が照らされるとソファの上に体育座りで座る少年の姿が浮かび上がった。
口元を隠してからかうように大男を見つめて、ゆっくり立ち上がる。
「ねーねー?バカなの?おじさん。」
「……頼む。」
「い・や・だ。」
歩み寄り大男を見上げる少年だが、さっきまでのからかうような眼差しとはうって変わり殺意が込められていた。
「役に立たないなら別にいいよ。もういらないから。知ってると思うけどさ…ボクね、オモチャはいっぱい持ってるんだー。」
その言葉に震えだす男の姿を見て、嘲笑うように言葉を続ける。
「そんな顔してもダメ!ボクを睨みつけるのはお門違いでしょ。というか、そもそもは自業自得でしょ?…おバカなおじさん。」
この光景を、確かに私は見ていた。
(うっわぁ…性格悪っ)
そんなことを思いながら。
「…脅されてるの?」
「………え?」
浮かび上がった映像に思わず口から出た言葉。
私でさえこれがなにを意味しているのか分からないものなのに、先生にとってみればなんの脈絡のない言葉に感じるだろう。
だが私の話を聞いて、確かに先生は動揺した。
思わずじっと見つめていると後ろから男性にしては少し高めの声が聞こえてきた。
「あのー…お待たせしました。」
先生が驚くように発した声につられて後ろを振り向くと、顎の関節が外れたように口が開いてしまう。
輝く銀色の髪に、爽やかな笑顔。
私が太鼓判を押したエクボがなんとも可愛らしい。
「魔力測定器、もう使えますよ。」
「お、おう。ありがとうなランディ。よし!じゃあ行こうか!」
「いえ行きません。」
「え?」
間違いない。
王都指定調剤師、ランディ。
こんな人間国宝級のイケメンを目の前にしているのに関わらず、みすみす見逃せと?
「断じて否!」
「どうしたレイちゃん!」
「先生。検査とかそれどころじゃないのでもういいですか。いいですよね。私ちょっと全世界のイケメン愛好家を代表してやらなければならないことがあるので。ええ。」
「おいおいとんだ饒舌じゃねーか!がっはっは!やっぱりエドワードの娘だな!」
笑う先生を放っておいて呆然と瞬きを繰り返すランディさんに握手求める。
「こんにちはランディさん。ある村からやってきたレイ・モブロードです。」
「え?あ、も、モブロードさん?」
「想像以上の貴方の可愛さに心が撃ち抜かれました。よければあちらでお茶でもいかがですか?」
「ええ!?か、可愛いだなんてそんな…。」
照れたように頬を赤らめて視線を逸らす姿に思わず天を仰ぐ。
なんと尊い。生きててよかった。
「がっはっは!!誘い文句まで一緒かよ!!こりゃたまげた!せっかくだ、誘いに乗ってやれよランディ!魔力測定はまた今度な!」
笑いで込み上げてきた涙を拭いながらランディさんの背中を叩き、私に向かって親指を立ててくる先生。
「了解です先生。特にお父さんの足止めをお願いします。」
「おう請け負ったぜ!それじゃあ俺は、エドワードとエマちゃんの相手でもしてくるか!」
私も親指を立てて先生に感謝の意を示す。
私はどうやら誤解していたようである。
先生、貴方はいい人だ。
一気に先生と打ち解けて警戒心を解いた私は、あの映像が示した警告を完璧に忘れてしまった。