未来の聖女は、番犬をからかう
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今回は居残り組パートとなります。
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買ってもらった白いワンピースに、お気に入りのピンクのヘアゴム。
自身の緑がかった髪の毛を高めの位置に2つ結いあわせて、鏡に向かって微笑んでみる。
うん、完璧。
自分の今の格好に点数をつけていると、控えめに部屋がノックされた。
「だれー?」
「ワシじゃよ。」
「お爺様!」
扉を大きく開けると、杖をついたエミリーの唯一の家族がそこに居た。
床まで伸びる、長くて白い髭。
いつもニコニコしてるから目が開いているところなんて一度も見た事がないし、家の外に出ることも滅多にない。
だから村の人間もほとんどお爺様に会ったことはない。
あのクラウスでさえ、会ったことがない。
……もしかしたら存在も知らないかも。
そんな不思議なお爺様だが、エミリーにとっては最高の癒し。
痩せている身体なのに決してよろけることなく、突進してくる私をなんなく受け止めた。
「はっはっは。元気な子じゃ。そんなに勢いをつけて、転んで怪我でもしたらどうする?」
「大丈夫!エミリーが怪我しないようにお爺様が絶対受け止めてくれるもん!」
「おお、それなら信頼に答えんとな。爺やはぎっくり腰にならん限りは無敵じゃよ。ほら、散歩に行こう。」
ニコニコしているお爺様と手を繋いで、庭園を散策する。
村の外に出ることが許されないエミリーにとって、ここは外の世界に触れられる唯一の場所だ。
珍しい植物、生き物、どこかの風景の絵画。
お爺様が集めてきた全てがここにある。
若い頃はいろんなところを冒険していたようで、そんな思い出の品の見ながら知識豊富な体験談を聞かせてくれるのが好きだ。
いつかこの村から飛び出せる日が来たら実際に自分の目で確かめに行くことにしている。
だから、退屈な日々に彩りを添えてくれる庭園は、エミリーにとっては小さな楽園。
「ねぇ聞いてよお爺様!モブちゃんが今王都に行ってるんだよ!」
「ほぉ、あのお祭りに一緒に行った子か。旅行かい?」
「ううん。なんか身体の検査しに行くんだって。詳しくは分からないんだけど!」
「それは心配じゃのぉ。」
「モブちゃんがいないと退屈でつまんないんだ。番犬くんなんてすっごい不機嫌で遊んでくれる感じじゃないし。」
「番犬くん?」
「うん。ほら前に話したでしょ?モブちゃんのことがだーいすきな赤髪の子!」
「…………ああ、彼、か。」
「?お爺様?」
少しトーンが高くなったお爺様に違和感を覚え、思わず顔を見るがいつもと変わらない。いや、やっぱり少し嬉しそうな顔をしている。
「お爺様?番犬くんの話しをすると嬉しそうにするよね?どうして?」
「ん?そうだねぇ……彼とワシは似てるから……応援したくなるんじゃよ。」
「えー!!そうかなぁ?似てるかなぁ?」
首を傾げるエミリーに少し笑うと、しわくちゃの手でゆっくり頭を撫でられる。
「はっはっは。まぁいずれ分かるよ。……それで?その番犬くんがどうしたんじゃ?」
「ビタミンとモブちゃん不足で、血管が切れちゃいそうなくらいずーっと怒ってるの!まだ数日だよ?このままだと番犬くん爆発して死んじゃうと思う!」
「それはそれは……大変じゃのぉ。」
長い髭を梳かしながら考え込むお爺様に、エミリーも一緒になって考える。
番犬くんのところに色白くんが住み始めてから、クラウスにあまり近づかないように釘を刺されていた。
あの色白くんが蛇っぽくて気持ち悪いから近寄らないのは賛成だったけど、モブちゃんともっとお話ししたいのに。王都に行かれちゃうと何にもできない。
あ、なんかムカムカしてきた。
「はっはっは。怒ってるのかい?エミリー。」
「うー!ムカムカするのー!モブちゃんとお話ししたいのー!」
「こらこら。そんな顔していると爺やとシワの数が同じになってしまうぞ?」
「そんなの嫌!」
「はっはっはっ。……素直でよろしい。それじゃあかわいいエミリーのためにワシが一肌脱ごうかのぉ。」
「え!本当!?」
「そうじゃ。ついでに番犬くんにも声をかけておいで。」
「分かった!!!お爺様ありがとう!」
優しいお爺様に抱きついて、すぐに玄関へと向かい村へと飛び出す。
モブちゃんがいない今、彼が外に出ることはまずない。
目指すは番犬くんのお家だ。
(ワクワクする!)
足取り軽く走るエミリーの後ろ姿を、お爺様はニコニコと見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「番犬くーん!いますかー!?」
彼の家の扉を大きくノックする。
すると番犬くんのおじいさんが顔を出した。
「おやおや!可愛らしいお客様じゃの!アルのお友達かな?」
「そうなの!番犬くんいるよね!もちろんいるよね!モブちゃんに置いてかれていじけて引きこもってるよね!」
「んだとゴラァ!!土の中に埋めてやろうかこのエセ聖女が!!」
「あー!ほらいた!」
久しぶりに見た彼はますますイライラが募っていたようで、だいぶ髪の毛が逆立っていた。なんか全身で威嚇してるみたいで面白い。
からかって遊ぼうと思い一歩足を踏み出すと、番犬くんと私の間にねじり込むように色白くんが立ち塞がる。
「なんなんすかアンタ。旦那に近寄らないでほしいっす。」
「色白くんじゃなくて番犬くんに用があるの!そこどいて?」
「アンタ腹立つ顔してるんで嫌っす。それに先輩もアンタのこと警戒してたっすから、旦那に近寄らせないっす。」
「えーそんなことエミリーに言われてもなぁ。そもそも先輩って誰なの?」
「………とにかく旦那はネェさん不足でイライラしてるっす!これ以上刺激しないでほしいっす!」
「あ"!?別にイライラしてねぇって言ってんだろ!適当ぬかしてんじゃねぇぞカス!!」
雪のように真っ白な手で私を追い払う色白くんに、その後ろからビシッと中指を立てている番犬くん。
ふーんそっか。
でもそんな態度でいいのかなぁ?
「こらお前さんたち!女子になんという口の聞き方をしとんじゃ!」
「いいよおじいさん!エミリー気にしてないから!でも残念!せっかくモブちゃんの件で話があったのにな!」
ピクリ。
エミリーの言葉に2人して大袈裟に反応を示した。
「レイちゃんの件?今レイちゃんは王都にいると聞いとったが…。」
「そうなの!エミリーのお爺様にね、モブちゃんに会えなくて寂しいって言ったら一肌脱いでくれるって!」
チラリと視線を向けると、青筋を浮かべてエミリーを見つめている番犬くん。
気になる。
気になるけど聞くのは癪に触る。
うぜぇ、早く続きを話せ。
そんな彼の言葉が聞こえてくるようで、思わず口元を押さえ笑いを堪える。
そんなエミリーの様子を見て泣いていると思ったのか、番犬くんのおじいさんが優しく声をかけてくれた。
「そうじゃったのか。すまんのぉコヤツらが乱暴な口を聞いて……」
「いいのいいの!エミリーは、モブちゃんが恋しくて恋しくてしょうがない番犬くんも誘ってあげようと思ってきたんだけど……今ので面倒になったからもう行くね!じゃあばいばーい!」
「っおい待ちやがれこの腹黒クソアマがぁあああああああ!!」
後ろで鳴り響く爆発音。
ああ、分かりやすくて最高。
これで番犬くんはエミリーを絶対追ってくる。
お爺様は外には出ないからお家に連れて来なきゃいけなかったんだけど、普通に誘っても面白くないからこれくらいいいよね。
(よーし!待っててねモブちゃん!)
鬼の形相で追いかけてくる赤髪を適度に挑発しながら、自宅まで急いだ。