転生者は、約束する
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「おい、はじめから説明しろ。」
「なにを…?」
私、レイ・モブロード。
腕を組んで見下ろしてくる幼馴染に全力でびびっております。
いまから約数十分前。
血迷ったあげく王都に行きますと高らかに自慢したあと、ダイナミックにアルが飛び出してきた。
引きこもりにならなかったのは良かったものの、私の腕を掴んで指を鳴らすと気づけば一瞬で森の中。
そのまま無言で隠れ家まで連れてこられ、尋問されているわけである。
意味が分からん。
アルは一度ため息を深く吐くと、急に不気味な笑顔を向けながら私の両肩に手を置く。
「そうかそうか、理解出来ねぇのか。トリ頭の哀れなモブにも分かるように言うとな……なにが、どうなって、なんのために王都に行くっていう結論になったのか今ここで早急に説明しろって言ってんだよ!!」
「はい喜んで!!」
笑顔なのに目が笑ってない。
しかも両肩から骨が悲鳴を上げている音が聞こえる。
情緒不安定すぎる幼馴染を刺激しないよう、ゆっくり、こと細やかに昨日の出来事を話した。
「………つまりは5歳になったにも関わらずクソみてぇに魔力を使えないグズなお前を心配して、王都の病院に診せに行こうってなったわけか。」
「そ、そんな感じですね…」
なぜこんなに責められているような気持ちになるのだろうか。
彼にとってなにが地雷なのか分からず、思わず下を向いてしまう。
するとアルが言葉を続けた。
「……別に行くのが悪いって言ってんじゃねぇよ。原因が分からねぇのはオレでも気になってんだから、親なんて特に心配するだろ。」
「そ、そうだよね。調べといた方がいいよね。」
先ほどより幾分か穏やかになったアルの言葉を肯定しながらゆっくりと顔を上げる。
しかしながら彼の表情と言葉は全く一致していなかった。
苛立ちを顔に出さないように懸命に抑えようとしている努力は評価するが、これは酷い。
親の仇を見ているかのような鋭い眼光が怖すぎる。
「王都の病院で診察出来んならそれに越したことはねぇ。良かったじゃねぇか。」
「そうだね…そろそろ肩から手を」
「すげぇ腹が立つけどな!!!」
「一体なぜ!?」
流石に心配になって逆にアルの両肩に手を置く。側から見れば互いに肩に手を置いて見つめ合っているという異様な光景だろう。
私をしばらく睨みつけたアルはぶっきらぼうに言葉を続けた。
「誰と行くんだよ。」
「え?両親と行くよ?」
「じゃあいつ帰ってくんだ。」
「……検査が終わり次第?あー、そこ聞いてなかった。」
そんなに長い間滞在することになるのだろうか。そうしたらしばらくアルたちに会えなくなって寂しくなるな。
今更ながらそんな風に思いアルの様子を見ると、顔を背けられたが眉を思いっきり潜めている。なんだか怒っているというより拗ねているような感じに見えてきた。
もしかして…
「私に会えなくなるから寂しかったり」
「はぁ!!?!?ち、ちげぇよ!!なに勘違いしてんだ!むしろ清々するわ!」
「せ、清々するんだ…」
迷惑しかかけてない自覚があるから余計に何も言えない。
思わずため息を吐くと、アルが先ほどのしかめっ面のまま呟く。
「脳細胞だけじゃなく危機管理能力まで死滅してるクソモブは知らねぇだろうけど、あそこは治安が悪い。」
「へぇそうなんだ?王都っていうぐらいだから厳重に守られてそうだけどね。騎士団とかいるんでしょう?」
「分かってねぇな!騎士団はいるが基本貴族のお守りだ!万が一悪徳ギルドの奴らに絡まれでもしたら、自分で撃退しないとならねぇんだぞ!」
私の手を引っ張り丘の上から王都を見下ろす。
アルが勢いよく指をさした先は、以前教えてもらったギルド組合本拠地である。
「特にあそこには近づくな!もし魔力がほとんどないことでもバレたら、面白半分で売りさばかれるぞ!」
怒りながらも私に注意点を教えてくれるアルを見て、思わず笑顔になってしまう。
「おい聞いてんのか!?人が説明してんのになにニコニコしてんだよ!」
「ん?いやぁ…優しいなぁって思って。」
「…は?」
私だってそこまで鈍いわけではない。
きっとアルは心配してくれているのだ。
あまり王都にいい思い出がない彼にとって、比較的親しい人間が突然王都に行くというのはかなり衝撃だったはず。
彼に出会って一年ちょっと。
どのくらい離れることになるのか分からないが、少し…いやかなり寂しい。
「気をつけなきゃならないことたくさんあるね。」
「……病院以外どこにも行くなよ。」
「お土産はいらないの?」
「あ"!?誰がいるか!!土産なんて買って帰ってきたら本気で張り倒すぞ!!病院で検査するだけだ!それ以外認めねぇ!」
「えへへ、分かった。」
綺麗な夕焼けに照らされて彼の瞳がより金色に輝く。
その瞳を見つめると突然、頭の中にある光景が浮かび上がった。
燃え盛る王都、丘の上に立つ少年はその光景を楽しそうに鼻歌を歌いながら眺めている。
そんな少年にゆっくりと近づいてきた男は鞘から光り輝く聖剣を抜き、静かに構えた。
「王都に暮らしていた住民は貴様のせいで全滅した。聖女様の救いの手を拒んで何もかも破壊し、心は満たされたか?哀れな化け物よ。」
その男の声を聞き、鼻歌をやめて振り返った少年は爽やかに笑った。
「んなわけねぇだろ。もっと跡形もなく燃やし尽くさないと気が済まねぇよ。」
そして名案が思いついたとばかりに手を大きく叩くと、ゆっくりと歩み寄る。
「ああそうだ!テメェのその剣があればもっと暴れられそうだなぁ?………それ、寄越せよ。若き騎士団長サマ。」
楽しそうに目を細めたその瞳は、炎の煌めきに反射して赤みがかった金色に輝いていた。
「おい、どうした。具合でも悪いのか。」
心配そうに私を見つめる彼の瞳は赤みがかってはいない。綺麗な金色である。
大丈夫。
まだ大丈夫。
なぜかそんなことを思ってしまった自分を戒めるように緩く首を振り、小指を上げて彼に笑いかける。
「あ?なんだその指」
「約束する。危ない場所も行かない。お土産も買わないで出来るだけ早く帰ってくる。」
「意味分かんねぇ…」
戸惑うアルに小指を絡め、一度大きく手を振るった。
「…テメェが言ったんだからな。危険な真似は絶対するな。出来るだけ早く帰ってこい。」
「アルも大人しく待っててね。白玉に迷惑かけちゃだめだよ?」
「あ"!?迷惑かけられてんのはオレだっつの!」
互いに小指に力を入れ、そのまま一緒に王都を見下ろした。