転生者は、特別な日を迎えた。
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少し間があいてしまい申し訳ないです…。
書きたい内容はあるのに時間が取れなくて歯がゆい…。
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綺麗だった。
自分の語彙力の無さを呪うほど綺麗だった。
大興奮の末、大号泣した私は鼻をかみながら目を冷やしている真っ最中。
目を閉じても鮮明に焼きついたあの光景は消えることはなく、まぶたの裏で何度も何度も上映されている。
「凄まじき感動!」
「分かったっつの!いつまでグズグズ泣いてんだ!泣き止め!」
「だってまさか妖精さんを見れるなんて思わなかったから……!本当最高!アル最高!私の幼馴染最高!」
「よし黙れ!それ以上何も言うな恥ずかしい!玉子焼き食うんだろ?騒いでると食わせねぇぞ!」
「食べる。」
「……この食い意地野郎が。」
鋭く睨みつけながら玉子焼きとおかずを私に取り分けてくれるアルだが、彼も10分前まで大変だった。
今回妖精たちが見えた仕組みとして、どうやらアルの魔力を私の瞳にコーティングしたことで出来た事らしい。
前にワンダさんが蛇の魔物を見せてくれた方法と全く同じとのことだ。
確かアレってちゃんと特訓しないと対象者の瞳が爆発するとか言ってなかったか?
私の幼馴染すごい。
けれどかなりの長時間神経を使っていた彼の負担は、やはり半端じゃなかったらしい。
しばらく原っぱに寝っ転がって口がぼんやり開いちゃうくらいの脱力具合だった。(その顔がとんでもなく可愛かったけど、言ったら殴られそうだから黙っておく)。
そんな風になってまで私に妖精を見せてくれた優しい幼馴染がいるなんて幸せ者である。
あとこの玉子焼き、すごく美味しい。
「体調はどう?まだ怠い?」
「さっきよりはマシだな。……ってどんだけ食ってんだクソが!!5個目だろそれ!」
「長時間本当にありがとう。妖精ってあんな顔してるんだね。いつもあの可愛さを見れるなんて羨ましいなぁ……あーあ、最後の1個になっちゃった。」
「……ッチ、今度また見せてやるから我慢しろ!……なんだその目は!やらねぇぞ!」
「………………。」
「…………ッチ、分かった。食え。」
「本当ですか!!ありがとうございます!!いやぁアルのお陰で今日は最高の誕生日だなぁ!」
「……あ?」
初めて妖精の姿をこの目で見れて、しかもその後アルの美味しい玉子焼きまで分けてもらって。
こんなに贅沢で本当に大丈夫なのだろうか。明日槍でも降ってきたらどうしよう。
ルンルン気分で最後の一個の玉子焼きを取ろうとすると、一瞬でアルに右手を押さえつけられた。
(な、なん……だと………)
この状態だと玉子焼きを取れない。
まさか私に食べさせるのが惜しくなったのか。
「い、いやだ!この玉子焼きは私のもんだ!男に二言はないはずでしょ!?自分の言葉に責任を持てる大人になりましょう!」
「あ"!?何言ってんだ!そこじゃねぇよ!飯から一旦離れろ!」
アルが早業で玉子焼きを没収すると、頭を鷲掴みにして詰め寄ってくる。
「今さっきなんて言った?」
「え、えーと?なんて言ったっけ?」
「殴るぞ!今日が誕生日って言わなかったかお前!?」
「うん?…うん言った。」
そう、私ことレイ・モブロード。
つい先程5歳の誕生日を迎えたのである。
「さっきベルが鳴ったし、あー誕生日来たなーって。」
「……………。」
「どうしたの?」
「そういうことは早く言えクソが…。」
「ええええ…。」
なぜか急に頭を抱えてしまったアルに首を傾げる。
一体どうしたのだというのだろうか。
私としては玉子焼きをいただきたい。
アルの袖を引っ張り催促をすると苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
「知ってりゃ日にちを変えたのによ。」
「え!なんで!?」
「………そういうもんは家族と一緒に迎えるもんだろうが。オレと誕生日迎えるなんてついてねぇな。」
自嘲気味に笑い、深いため息を吐く。
そんな彼の様子を見て私は、彼に向かって思いっきりチョップを繰り出した。
予想以上に石頭で手がジンジンしているが、何も反応がないアルにイラっとしてそのまま2回、3回と連続してチョップを繰り出す。
4回目のチョップにして真剣白刃取りのように受け止めたアルは、ゆっくり私の腕を逆方向にひねった。
「いたたたたたたたたた!!!」
「鬱陶しいわ!!言いたいことがあんなら口で言えクソが!このまま腕をへし折ってやろうか!あ"!?」
「だってアルが全然分かってないから喝を入ようと思って!!ギブギブギブ!!やばいやばいミシミシいってるって!」
「あ"?」
私の言葉に反応して力が緩まったのを見逃さず、すぐに拘束から逃れる。
危なかった。あと数秒遅かったらきっと持っていかれてた。チョップして腕を失うとか本気で笑えないわ。
「分かってないってどういうことだよ。」
アルが脅すように指を鳴らしながら私に問いかける。座っている彼を見下ろすように立ち上がり、演説を開始する。
「私が今回の誕生日をどれだけ楽しく迎えられたかということを、君は分かっていない!」
「……あ?」
「確かに家族が祝ってくれる誕生日は最高だよ?私の好きなご飯が出てくるし、プレゼントも貰えるし。なによりお母さんもお父さんもニッコニコだから。私以上に喜んでくれることも嬉しいし幸せ。」
「……なら。」
「でもこの妖精の夜渡りがあるから、誕生日を迎える瞬間は妖精の声が全く聞こえないの。お香でギリギリまで寝かしつけてるからね。」
黙って私の話を聞いているアルに目線を合わせるため、目の前に座り話を続ける。
「その日以外毎日あの子たちの声を聞いてるし、しかも誕生日前日ってこともあるからか結構それが悲しくて。初めて妖精の夜渡りを知った時は寂しくて寂しくて枕を涙で濡らしたよ。」
「……そんなにか。」
「ただでさえ姿が見えないから、声が聞こえないと側にいるのかも分からない。どことなく置いていかれたような気持ちになっちゃうの。情けないことに。」
まっすぐ私を見て何かを考えているアルに若干苦笑し、それでも感謝の気持ちを込めて今度は私がアルの頭を撫でた。
「ありがとうアル。こんなドキドキな気持ちで誕生日を迎えられたのは初めてだよ。とっても嬉しかった。最高の思い出だよ!」
私の言葉に顔を真っ赤にするアル。
怒っているのかと思い慌てて手を引こうとするが、ガシッと手を掴まれて動けない。
え、まさかこのタイミングでまた捻られるの?
今度は緊張した眼差しをアルに向けると、彼もまた緊張した眼差しを私に向けている。
「今日、誘ってよかった……か?」
なんだそんなことか。
気にしすぎなアルに対して不安を吹き飛ばせるように笑顔を見せる。
「もちろん!アルと誕生日を迎えられて嬉しいよ!ありがとう!」
私の言葉に赤い顔のまま少し微笑むが、慌てて大きく舌打ちした。
「変なこと考えて損したわ。」
「本当だよ。アルってそういうところあるよね。………あ、ダジャレじゃないよ?」
「すげぇ今イラっとしたわ。ほら帰るぞ。」
言葉とは裏腹に優しい声で私に手を差し出してくる。
「せっかくだからイラっとしたって言われるより、お誕生日おめでとうって言われたいんだけどなー。」
少しからかうように言葉を続けながらその手を掴むと、強めに握り返された。
「どうしたの?」
「お……お…………」
真っ赤な顔で「お」しか言わないアルを見つめる。
もしかしておめでとうって言ってくれるとか?
そんな風に少しまたドキドキしながら言葉を待っていると、大きく舌打ちをした後意を決したように私を見つめた。
「お、おめ……おめ…!……お前ちょうど一年前の誕生日は吐き散らしてたってことだな………」
「もうちょい言い方を考えて。」
まさか黒歴史の箱の蓋を全力で開けにくるなんて。
うなだれるように片手で顔を隠すアルに、こっちが顔を隠したいわと心の中で呟きながら小さくため息を吐いた。
レイ・モブロード、5歳。
また新たな一年が幕を開ける。