転生者は、この世界の本当の姿を知る
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気づけば森の中。
いや森というより背の高い草木の間というべきか。
道なき道を迷いなく進んで行くアルの背中を目印に歩き続ける。
(ここ、なんか見覚えがある。)
「おいちゃんとついてこい!」
「あ、ごめん。」
周りを見回しているといつの間にかアルと距離が離れていたようだ。駆け足で彼の元に近寄ると、おでこにデコピンを喰らう。
「だから離れんなって言ってんだろうが!その耳はお飾りか?別に首輪して引きずってもいいんだぜクソモブが!」
「いやなーんか見覚えあると思って。」
「あ"?……覚えてんのか単細胞のくせに。」
「その意外だみたいな顔やめてください。」
大きめの舌打ちをしたアルは無言で私の手を取ると、足元にあった石像のようなものを蹴飛ばした。するとゆっくり草木が縮んで行き、見覚えがあったわけを理解する。
「ここ……。」
以前も来た、あの丘である。
この間来た時は夕焼けだったが、今は蒼い月明りに照らされてまた一味違う神秘的な異空間と姿を変えている。
「ほら。」
アルが呟きながら私の手を引いて丘の1番高いところまで登る。
王都の明かりは全て消えており、まるで町自体が眠っているかのようだ。
私たちの村も月明りでかろうじて見えるが、夜中独特の静けさに包まれていた。
「おお…夜も絶景だね。また来れるとは思わなかった。あ、これを見にきたの?」
「ちげーよ。」
「違うんだ。」
じゃあ本当になんなのだろう。
いい加減ネタバラシをしてくれてもいいのではないか。
そんな風に思った私はアルに疑問をぶつけた。
「そろそろ教えてよ。ここになにかあるの?それともなにか伝えたいことでもあるの?」
「はぁ!?こ、これは断じてアピールとかそういうもんじゃねぇしオレの特訓の成果を披露するいい機会っつうかなんつーかそういうことだ!」
「え?なんて?……あ!それ!」
息継ぎなく話すアルの言葉に思考が追いつかずはてなマークを浮かべていると、アルが左ポケットから四角い黒い物体を取り出した。
「あ?」
「それワンダさんから貰ってたやつでしょ?修行に必要とかいってさ。」
「なんでそういうことは覚えてんだよ。」
若干気まずそうに顔を歪めたアルはそのまま私の前に物体を持ってくると、彼の金色の瞳が一瞬激しく煌めく。すると物体は大きく花開くように姿を変え、真っ黒だった色は穢れを知らない白へと変色した。
「おお!すごい!すごい!」
「……問題ねぇな。」
ほっとしたようなアルの音色は気にせず、目の前をクルクル回る花に感動する。
これは魔法だ。しかも無害のやつ。
「なにこれすごい!キレイ!」
「はっ、そうかよ。」
「もしかしてこれを見せてくれようとして?」
「………違う。」
違う?
私が先を促すように視線を向けると、深呼吸をしたアルが私の視界を手で遮る。
「ん?どうし」
「うるせぇ!いいから目を閉じろ!」
「ええええ……。」
急にキレたアルを刺激しないよう、言われた通りに目を閉じる。
すると肩に重みを感じるとともに身体が暖かくなってきた。
ポカポカしているせいか、時間のせいか…あくびが止まらない。
「寝たら殴るぞ。」
「すいません。なんかポカポカしてきたからつい……。新しい癒しの魔法とかなにか?」
「ちげーよ!!!」
激しくアルに突っ込まれたところでまぶたの裏も暖まり、いよいよ不思議になってきた。
というか前にもなんかこんなことがあったような……。
記憶を掘り起こそうと首を傾げると、王都から日にちが変わったことを告げるベルの音が鳴り響いた。
「おいモブ。」
大きなベルの音が鳴り終わると、アルの穏やかな声が耳元で聞こえた。
「オレたちの世界を見せてやる。目を開けてみろ。」
促されたとおりに目を開けて、優しい顔でこちらを見るアルの顔を見つめる。
特に変わったことはない……そんな風に思った時だった。
「…………あれ?」
我がイケメンな幼馴染の顔の横を通る青い光。
初めて見る光景に数回またばきをする。
その光に導かれるように視線を動かしていると、アルが吹き出すように笑い出した。
「な、なんで笑ってるの。」
「いや別に?ほらそっち見てみろよ。」
アルに促されるまま再度王都の方へ視線を向けると青い光を纏った何かが、月に向かって飛び立っていく。
その数、100、300、いやそれ以上か。
あまりにも幻想的な光景が私の前に広がっていた。
「な、なん!?ファッ!?」
「見えるか?あれが妖精だ。」
よ、妖精…。あれが?
あの子達がいつも私の周りにいるの?
あんなに綺麗な子達が?
すごい、とにかくすごい。
信じられない光景に開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
興奮は収まらず、私の肩に手を置いているアルの手を叩きながら単語で会話をする。
「よ、妖精!」
「そーだな。」
「妖精!キレイ!!」
「妖精の夜渡りの影響で青く光ってんだよ。」
「いつもは違うの!?」
「ちげーよ。いつもはもっと……クソ虫っぽい。」
「クソ虫!そっか!」
「そうだクソ虫だ。」
王都から少し視線をずらすと私たちの村からも青く光る大群が空へ飛んでいくのが見える。
「あれは妖精牧場に暮らしてる妖精じゃねぇか?」
「あの子達が?」
「こうしてみるとお香の効果か、アイツらは他のやつより冷静だな。」
確かに他の青い光は個々に飛び上がっているが、村から飛んできているあの妖精たちは集団でまとまって行動している。明確な意図を持って飛んでいるように見える。
(冷静ってことは、私に気づいてくれたりしないかな。)
そんな期待を持って手を振ってみるが、もちろん気づく様子はない。
まぁそうですよね。
贅沢は言いませんとも。
真っ直ぐ力強く蒼い月に向かって羽ばたく彼らを見ていると、アルの横をフヨフヨ漂っていた青い光が私の鼻の上に止まる。
じっくりと見ていると青い光に目が慣れてきて、妖精の姿がはっきりと見えた。
愛らしい顔立ちに尖った耳。
4枚ある羽は透き通っており、肩が凝ったのか細い腕で肩を揉んでいる。その度に私が唯一見えていた妖精の粉が舞い散る。
そうか。いつもこんな風に妖精の粉が。
私の視線に気づいた妖精がクリクリとした大きな瞳をこちらに向けて首を傾げる。
『レイちゃん?レイちゃん!』
「分かるの?」
『分かるヨ!ミーたちはみんなで1つだもノ!ナーンダ!レイちゃんミーが見えるのネ!』
嬉しそうに笑い私の鼻をペチペチと叩く愛らしい姿に思わず涙が溢れた。
『どうしたノ?痛かったノ?泣かないでホラ!変なカオー!!』
可愛い顔を左右に引っ張って舌を出す妖精にますます涙がこぼれた。
『ネェ!変なカオしてるのになんで泣いちゃうノ?悲しいノ?』
「……悲しくないよ。やっと変な顔が見れたなって思って嬉しいの。」
『?嬉しいのに泣くなんて変ナノ!デモそれならアルに任せても大丈夫ダネ!ミーはもう行かなキャ!』
「ムズムズする?」
『ソウ!ムズムズするノー!』
そっか。じゃあ行っておいで。
妖精に震えながら指を向けると、私の指におでこをつけた妖精は嬉しそうに笑いあっという間に大空へ飛んで行った。
小さい頃、蛍が私の周りを飛んでいた光景を思い出しました。
蛍の光って儚くて…なんかいいですよね。
光ってないときの蛍の写真を見て絶叫しましたけど笑(虫が苦手なので)