転生者は、誘われる
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結界の補強から数ヶ月。
かなり平和な日々を過ごしていた私、いやモブロード家に新たなる壁が立ちはだかっていた。
「レイちゃん……本気なのかい?」
父親が見定めるように私を見る。
腕をまくりハチマキを額につけた父親は、いつもと様子が違う。
それほどまで気合を入れる必要がある出来事だということだ。
私も靴紐を結び直し鼻息荒く大きく頷いた。
「……危険だよ?やっぱりエマと一緒に家で……」
「百も承知。でもやりたいの。」
父親は私の頑固さをよく理解している。
諦めたようにため息を吐き、私の頭に手を置いた。
「分かった。レイちゃんも立派な牧場経営者だものね。……あの子たちも悪気はないけど、今の時期は感情が高ぶってる。絶対に無理はしないで。ベテランのダディの言う通りにすること。いいね?」
自然に顔が強張るのを感じる。
それほどまでに今から踏み入るエリアは、現在とてつもなく危険な地帯なのである。
父親の背中は珍しく男らしく、そしてたくましいように見えた。
「それじゃあ……行くよ。」
彼らを刺激しないよう父親が一歩牧場に踏み入る。
すると同時に私の耳元から聞こえた妖精たちの声。
『イタズラ開始ダーー!!』
『アヒャアヒャ!ソーレ爆発!』
「あいえぇええええええ!!!」
爆発音。そして悲鳴。
その後プスプスと黒い煙を上げてスローモーションで倒れこむ父親。
……あいえぇえって言ったよあの人。
数秒フリーズした後、静かに手を合わせる。
『ヒャッホーーイ!スッキリー!』
『タノシカッター!』
焦げたパンのような匂いがする父親を引きずって適当な場所に横たわらせていると、再度耳元から楽しそうな声が聞こえてきた。
こんなイタズラを仕掛けてくるのはこの子達しかおるまい。
「なかなかやってくれるじゃないか。」
『エドワード黒焦ゲー!』
『今日はココに入っちゃダメなノ!』
「そう言われてもねぇ……。」
いつもはなんの抵抗もなく牧場に入れるのだが、今日は違う。
正確にいえば、妖精たちの情緒が不安定のため入らせてもらえないのだ。
『モー!ムズムズするノー!!イヤー!』
「だからそれを少しでもよくしようとこのお香を焚こうとしてるんでしょ?」
『でもダメ!レイちゃんでも入っちゃダメー!イヤー!』
毎年この時期に現れる、蒼い月。
その蒼い月に向かってこの世界にいる全ての妖精が、今日の夜中に一斉に飛び立つのだ。
なんのために一斉に飛び立つのかそういったことは全くわからない。妖精たち自身もよくわからないがエネルギーがみなぎってきて飛びたくなるのだと、以前聞いたことがある。
だからそんなエネルギーがみなぎった妖精たちを落ち着かせるため、毎年父親が黒焦げになりながら牧場にある一本の大木の麓に特殊なお香を焚きに行くのだ。そのお香を置けば彼らは穏やかに眠りにつき、本番の妖精の夜渡りのあとには迷子にならず必ず牧場に戻ってきてくれる効果があるのだそうだ。
友達がほとんど妖精で構成されている私にとって、これは極めて重要な任務である。
「ふっふっ。今までの私とはひと味もふた味も違うのだよ諸君。」
今までは幼かったこともあり意地でも母親とお留守番をさせられていたのだが……。
「君たちがそーんなワガママを言ってる間に、このレイちゃんがパパッと行ってお香を焚いてやんよ!」
『アー!レイちゃんが牧場に入っタ!』
『レイちゃんダメー!』
はっはっは。
牧場は私の庭だぞ。
止められるものなら止めてみたまえ。
もうすぐ5歳になる私に不可能はない。
妖精の静止を聞かず前だけを見据えて走り抜ける。
『ア!レイちゃんソッチ!』
「ふははは!もらった!」
目前に迫った大木に思わず笑みがこぼれる。
あと少しで目的を達成できる、そう思い足を伸ばした先は。
『そっちは泥沼だヨ!レイちゃん!!』
はいそうですね。
私も今思い出しました。
以前アルと泥団子合戦をした場所に足を取られ、思いっきり顔面から泥に突っ込んだ。
すごいスピードで突っ込んだものだから、なにが起こったのか数秒理解できずフリーズしてしまった。
本当もうなんなの。
泥で重たくなった身体を起こそうと力を入れる前に、凄まじい勢いで身体を引っ張り起こされる。
「なにやってんだクソモブ!!」
「…アル?」
泥まみれだった視界を拭ってくれたのは黒焦げになっていた父親ではなく、今日は会うはずのない幼馴染だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふざけやがって……!心臓止まるかと思ったじゃねぇか!!ミミズにでもなりてぇのかお前は!」
「いやちょっと妖精のテンションに当てられてさ……。ほら誰かテンション高い人がいるとつられちゃうじゃん?そんな感じでなんでも出来る気がしちゃったんだよね。」
「それで泥沼に顔面に突っ込む人間なんていねぇよ!」
「それはわざとじゃ…いやすみません。反省してます。」
一瞬で周りの気温が氷点下になったかのように凍りついたため、最後まで言い切れずとにかく謝る。
すごいよ。人を殺せそうな瞳をしてるよ。
鬼もびっくりの形相で私を睨みつけるアルだが、私を起き上がらせるために彼も泥だらけになってしまったことに心が痛む。
泥団子合戦したときあんなに汚れないようにしてたのに、非常に申し訳ない。
「ッチ、テメェのせいで今日の洗濯大変じゃねぇかよ。」
「も、申し訳ない。心配して起こしてくれてありがとうね。」
「別に心配してねぇわクソが!」
安定にアルにキレられたところで、体中についた泥を落としながら疑問をなげかける。
「ところでアルくん、今日はクラウスさんのところに行く日じゃないよね?」
「…まぁな。」
「どうしたの?何かあった?」
「いや……その……」
頭を乱暴に掻きながら視線を逸らすアルを、目を細めて見つめる。
なんかこの光景前も見たな。
それでも特別急かす必要もないかと思い直し、準備体操を開始する。
「…………なにしてんだクソモブ。」
「私は大事なお仕事があるんだよ。終わったら話聞くからちょっとここで待ってて。」
「あ"?両親はどした。」
「お母さんは家、お父さんはあそこでこんがり焼けちゃってる。上手に焼けたよ。」
私が指差した方向を見て顔をしかめるアル。
かと思えばはっとした表情を浮かべた後、鋭く私を睨みつける。
「さてはお前……お香を置きに行く過程で調子に乗って泥沼に落ちたな?」
「お、ご明察。」
「やめろ!またどうせなんかやらかすだろうが!!」
「えーやらないと妖精さんたちが…。」
「そんなの焚かなくても他の妖精はなんとかなってんだ!ほっとけ!」
「でもムズムズして気持ち悪いってずっと言ってるし…。」
アルと話している間でも妖精たちの不満そうな声が聞こえてくる。
『ムズムズするノー!』
『イタズラしてヤルー!』
牧場の中では妖精たちが暴れているのか、花まで少し焦げてしまっている。あの花気に入ってたくせに。
「私にとっては見過ごせないわけでして。」
やっぱりイヤな思いをしてる彼らを見て見ぬふりするのは耐えられそうもない。
去年もこの日1日だけムズムズして気持ち悪いのだと言っていた。実際翌日には何事もなかったかのように私に話しかけてきたし。
それに明日になって正気に戻った時に、大好きな花が枯れていたら可哀想ではないか。
自分で再度決意を固めてアキレス腱を伸ばしていると、ため息を吐いたアルが立ち上がり私からお香を取り上げた。
「あ。」
「どうせ失敗してお香を割るだろ。没収。」
「えー。こんな大事なもの割らないよ。」
「ポーションを割っといて何言ってんだ!前科があんだよ!!」
た、確かに。
私が愕然としていると面倒くさそうな表情で、お香を持っていない方の手で私の頬を引っ張りながら言葉を続ける。
「ついでに言うとその後にはいじけて布団に包まるクソモブ虫の光景まで浮かんでくるからな!そんな害虫を相手にしてる時間はねぇんだよ!」
「い、いふぁい(痛い)。」
抵抗する私なんて痛くもかゆくもないのだろう。ふっと柔らかく一瞬笑ったかと思えば、少し緊張したように私の頭をぎこちなく撫でててくる。
おお、こんなちゃんと撫でてくれたのはじめてだな。
頬をつねられたことなどすっかり忘れてニヤニヤしていると、アルが深く息を吸ってその勢いのまま言葉を続けた。
「仕方ねぇからコレはオレが置いてきてやる!その代わり今日の夜オレに付き合えクソボケが!」
「………く、クソボケ…?」
……なんで頭撫でながら暴言を?