少年は、思い悩む
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控えめに言っても穴があったら入りたい。
アルフレッド・フォスフォールはここ数週間、頭を抱えている。
村の結界を補強しに行った際、ドロドロした感情に支配されてなにも考えられないまま幼馴染を責め立てるというなんともみっともない真似をした。
ありえない。ダサすぎる。
なにしてんだオレ。
それだけでも信じられない失態なのに、あの幼馴染はとんでもない返しを。
ああ、まただ。
あの時の幼馴染の言葉がグルグルと頭の中を巡る。
「アルが頭を撫でてくれるほうが本当に褒められてる感じがして嬉しい。」
やめろ。
違うことを考えなければ。
「性格までイケメンとかずるいよね。本当かっこいいと思う。」
違う。誰が続きを思い出せといった。
このままいくと。
「私と1番仲良しだったはずなのにイチャイチャしちゃってさ。私だってヤキモチ妬いてるんだからお互い様。」
「だああああああああああ!!」
バキッ!
動揺のあまり持っていた箒を真っ二つにしてしまった。
そうだ、庭掃除をしていたんだった。
落ち着くように何回か深呼吸をしていると家の中からだいぶ見慣れた少年が顔を出す。
全体的に色素が薄いのはコイツの正体が白蛇の魔物だからか。
「旦那?なにしてんすか?なんか顔があか」
「赤くねぇわクソが!死ね!!」
「ええええ………。」
困惑したような表情でオレを見るクソ蛇だったが、ここ最近のオレの様子に思うところがあったのか再度問いかけてくる。
「本当にこの間なにがあったんすか?なんかネェさんと」
「別になんもねぇよ!」
「いやそんな顔で言われても説得力皆無っすよ旦那。」
そんな顔ってどんな顔だ。
思わず自分の顔に触れてみると案の定熱い。
そういえばアイツも頬が熱かった。
いつもヘラヘラとしているアイツが、オレの言葉で嬉しそうにした。
あのクソ真面目に頭を撫でられている時でさえ、あんなに頬を赤らめたりはしない。
ああ、くそだめだ。まただ。
身体中の血液が沸騰したように熱くなる。
忘れろと頭を振るが、それでももう一度あの表情が見れたらと考えてしまう自分に嫌気がさす。
「まぁ旦那が幸せそうならオレはそれでいいっすけど。でもメディサマが以前言ってたっす。」
「……あ?誰だよメディサマって。」
「オレの前の主人っす。あ、もちろん今は旦那一筋っすよ?」
「別にいらねぇよその情報は。」
「ま、とにかく。喉から手が出るほど欲しいものは、押して押して押して押しまくってなんとしても手に入れるべきらしいっす!」
「…意味わかんねぇっつの。」
真っ二つに折れた箒をゴミ箱に投げ入れながら、小さく呟いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ポケットの中から四角い黒い物体を取り出す。
これは魔力を繊細にコントロールをできるようにする魔法道具の一種だ。
修行の一環として借りていたのだが、あのババアが消えたせいで返せずずっと持っていた。
お茶を飲みながら、そして手元でクルクルと回しながら魔力を込めれば、花のようなシルエットに姿を変えた。さらに力を込めれば色まで自在に変えることができる。
今のオレであれば小さな針穴に魔力を通せと言われても、問題なくできるだろう。
それほどまで簡単に魔力操作を行えるようになっていた。
「旦那ー?」
「茶なら自分で入れろ。」
「違うっすよ。それずっとやってるっすよね?なんでそんな面倒なもの使ってるんすか?あ、もしかして拷問魔法とか習得しようとしてんすか!?」
「ちげーよ!お前オレをなんだと思ってんだ!」
「魔王サマの素質を持つオレの主人っす!」
「寝言は寝て言え!」
これはそういったもののためにやっているのではない。
以前ババアの魔力操作で、モブは魔物が一時的に見えるようになっていた。
つまりは、オレも魔力操作をあのババアレベルまで使えるようになれば。
アイツに妖精を見せてやることが出来るかもしれない。
そう思いババアに不本意ながらあのババアに修行を頼み込んだのだ。
「いいかい小僧!この物体を花の形に変化させて、色を黒から白に変色させるんだ。それが出来なきゃワタシと同じ境地には辿り着けないよ?フェッフェッフェ!さぁやってみな!」
(チッ。うぜぇ奴を思い出しちまった。)
実際にできるようになった頃に確認してもらう予定だっだが勝手にいなくなるし、それを知ったモブが悲しそうに顔を歪めたのもムカつく。
決めた。
次会ったらあのババアぜってぇにしばく。
話は外れたがここまで出来るようになっていれば妖精を見せてやることができる………はずだ。多分。
それでもなんとなくきっかけが掴めず、ここまで時間が経ってしまった。
「ま、おそらくネェさんのためでしょうけど。」
「ごふっ」
いきなり言い当てられてお茶に噎せる。
「あーやっぱり。旦那が率先して動くのは全部ネェさんのためっすからね。」
「そんなことはねぇ!」
「そうっすか?じゃあ例えば?」
「…………。」
「…………………ほら。」
「うるせぇ!んなことより皿洗え!今日はテメェが当番だろうが!」
「はーい。」
しぶしぶと腰を上げたクソ蛇が台所へ向かうと同時に、ジジイが買い物から帰ってきた。
「あ、爺ちゃんお帰りっす!今日のご飯なんすか?」
「ああシラタマくん。今日は魚にしようと思ってのぉ。ほれ、特売で大量買いしてきたわい!」
「さすがっすね爺ちゃん!」
ジジイとクソ蛇が楽しげに会話をする姿を見ながらため息を吐く。
ジジイには一緒に暮らすにあたってコイツが魔物であることは伝えている。それもなかなかの手練れだということも伝えた。
それなのに。
「まぁレイちゃんがペットにしたがった魔物なら、問題ないじゃろう。」
とかほざきやがった。
オレの周りはバカしかいねぇのかよ。
一通りジジイとじゃれあったクソ蛇はその後、言われた通り洗い物をするため台所に向かった。入れ替わるようにオレの目の前に座ったジジイは少しニヤつきながら話しかけてくる。
「なんじゃなんじゃ。今日はレイちゃんに会いに行かんのか?」
「うるせぇ。別にモブに会いに行ってるわけじゃねぇ。」
「嘘つけい!あーんなにアイビスの花を大事にしておいてよく言うわい!」
「……あ"!?また勝手に部屋に入りやがったなくそジジイ!!入んなっつってんだろ!」
「お前さんは意外と乙女じゃからなぁ。もっとこう…ガンガン押して行かんか!」
「うるせぇほっとけ!!」
本日二度目の苦言に思わず頭を抱える。
自分でさえこの感情に振り回されてんのに一体どうしろっていうんだ。
深いため息を吐きながら椅子によりかかると、穏やかな表情を浮かべたジジイが口を開いた。
「そういえばお前さんの母親は父親が大好きでのぉ。毎日毎日それはそれは猛烈にアピールをして寡黙な父親を落としたんじゃ。」
「母さんが?」
「そうじゃ!あやつはいつでも直球勝負じゃったからのぉ。」
懐かしむように目を細めるジジイにつられるようにオレも母親との記憶を思い出す。
オレに魔法を教える先生として、そして愛情を注いでくれる母親としてオレのために生きて死んでいった母親。
(アイビスの花を送ったのは父親だったから、てっきり父親が母親を落としたんだと思ってたが。)
オレが首を傾げるとジジイは楽しそうに大笑いする。
「分からんか?でも父親をなんとかして口説き落とそうと考えて妖精の夜渡りを見に連れていったりとなかなか行動派じゃったぞ?」
「……ああ、それは聞いたことある。」
妖精の夜渡り。
年に一度、真夜中に妖精が蒼色に輝く月に向かって一斉に飛び立つ現象だ。
原因は分かっていないがその幻想的な光景から、一時期恋人たちの間でそれを共に見ることが流行ったらしい。
「その時の光景が綺麗でね!お母さんとお父さんはそこでキスしちゃったのよ!きゃー!私たちって大胆ね!」
(耳がタコになるくらい聞いたっつの。)
「まぁでもレイちゃんは妖精牧場に通い詰めているからのぉ。妖精の夜渡りぐらい見たことはあるじゃろうが、たまには母親の行動力を見習ってなにかしらのアピールしてみたらどうじゃ?」
オレの頭を何度か撫でて席を立つジジイを呆然と見送る。
アピールなんてしたところでどうすんだ。
意味わかんねぇ。
大きめに舌打ちをして床に寝っ転がる。
するとふとカレンダーが視界に入ってきた。
時期的に言えば妖精の夜渡りは数ヶ月後に起こる。
(モブはそもそも妖精が見えてねぇから、夜渡りも見たことねぇんだろうな。)
妖精牧場で働いてんのに、その習性を一度も見たことないのは良くないだろう。
それにこの特訓の成果を見せるタイミングとしても丁度いい。
そうだ、だからこれはアピールなどではない。
あいつの勉強のための手助けなのだ。
誰にするわけでもない言い訳を心の中で唱え、大きく頷く。
あわよくばもう一度あの嬉しそうな顔を見れないかと考えている自分の心は見て見ぬ振りをして、手元にある魔法道具を握りしめた。
そういえば始めて主人公サイドで主人公が一度も登場しませんでした……。
すまんレイちゃん。
次回は出番あるから。