転生者は、破顔する
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クラウスさんが出した結論として、必ず2日に一度は関所に顔を出し、クラウスさんに状況を報告をするという条件付きでアルが面倒をみることになった。
魔物さんは見える方曰く白い蛇らしいので、親しみやすい名前を私がつけた。
「アル、白玉、おはよう。」
「おはようっすネェさん。」
「もう昼だって言ってんだろうが!何時間寝てんだクソモブ!!」
別に白玉が食べたかったとかそんな理由ではない。断じてない。
話を戻すと白玉を飼おうと言い出したのは私だからと駄々をこねて、関所に行くときは出来る限り同行するようにはしている。
(迎えに来てもらってるけどね…)
「ネェさんネェさん。今日は旦那に弁当作ってもらったっすよ!一緒に食べるっす!」
「弁当!?ほんとお母さんだなアルは。楽しみ楽しみ。」
「お前ら遠足と勘違いしてねぇだろうな…!今日は時間がかかるから弁当作っただけだっつの!あとテメェの分はねぇよクソモブ!」
「ええ!!!」
「何言ってんすか旦那。ちゃんとネェさんの分も作ってたじゃないっすか。」
「…………」
「…………」
「皮剥いで売り捌くぞクソ蛇が!!」
「えぇ!?なんでっすか!?」
あの騒動から早1ヶ月。
白玉も裏切る気配はないし、むしろアルとは兄弟のように仲良く見える。いや実態は見えていないけど。
事の顛末を知らない人たちは、白玉は私たちと同い年くらいの少年の姿に見えているらしい。化けるのは得意と言っていたけど、本当に誰も気づく様子がないから驚きだ。
「それにしても時間がかかるって……なんかあったっけ?」
「あ"?村の結界の補強って言っただろうが!!一昨日言われたことも記憶できねぇのか!その使えねぇ脳みそ取っ替えてこい!」
「…そうだっけ白玉。」
「そうっすよ?あとネェさん、オレそっちじゃなくてこっちっす。」
アルに言われてぼんやり思い出す。
そういえばあの騒動の時に急遽アルが手を加えたあの結界をクラウスさんが気に入ったらしく、村中を取り囲む結界の補強を手伝ってくれないかと頼まれていた。
そんな大変なことを引き受けるはずがないと思っていたのだが。
「確かに馬鹿が変なことをしても死なねぇようにしねぇとな。心臓がいくつあっても足りねぇ。」
とか恨めしそうに私を見ながらすぐに快諾した。
「村に結界が張ってあるなんて知らなかったな…」
「でも今ある結界は獲物丸呑みするぐらい簡単にぶっ壊せるっすよ?ほとんどあってないようなもんっす。」
「やめてくれませんかね。」
「ッチ、喋ってねぇで歩けノロマ!」
やいやいと賑やかに会話しながら道を進んでいると、いつのまにか村を超えて関所へ到着していた。
この間のエミリー現象のおかげで、特に兵士さんたちはアルに対して剣を抜くこともなくなったから全く気がつかなかった。
「来たな。」
「あ、クラウスさん。おはようございます。」
おはようと返してくれるクラウスさんはいつもよりラフな格好で私たちの前に現れた。
腰に剣を差しているものの、いつもの鎧は見当たらない。
「今日は随分身軽そうですね。」
「ああ。非番だからな。」
おい休めよ社畜。
そんな私の視線に気がついていないのか、優しく私に微笑みかけながら頭を撫でてくる。
イケメンに撫でられるなんて役得とか考えてると、仏頂面のアルが私の頭を撫でるクラウスさんの手を跳ね除けてくる。
「触んな。」
「ああすまない。小動物みたいでつい…な。とにかく結界の中心まで私が案内しよう。」
「いらねぇ来んな帰れ。」
「そうっす。この貴重な時間を邪魔されると、この後旦那の機嫌が悪くなって大変なんすから。」
「?むしろ邪魔してるのは貴様自身だろう。」
数秒の沈黙。
はぁ。とため息を吐く音が聞こえると、続けて白玉の声が聞こえた。
「全然分かってないっすね。オレがいないと旦那は緊張しちゃってネェさんに上手くアプローチが」
「歯くいしばれクソ蛇が!!!」
何かを言いかけていたようだが凄まじいスピードでアルの拳が私の真横を通り過ぎる。
耳元で聞こえる鈍い音、そして白玉の悲鳴。
そして最後には遠くの小屋が大きな音を立てて崩壊した。
ああ、死んだな。と冷静な声でクラウスさんが呟いたのを聞いて戦慄する。
え、なにがどうなってんの。
白玉?白玉が死んだの?
「あ、え、し、白玉……は…?」
軽くパニック状態で呆然としていると、肩で息をしていたアルがギロリと私を睨む。
思わず背筋を正すと低い声で私に問いかけてきた。
「……シラタマァ?」
「イエナニモ。」
すまん白玉。
私は自分の命を守ることで精一杯だ。
「私はあの魔物の様子を見てくることにしよう。君たちは結界の中心部に向かうといい。」
え、この状態で2人きりにされんの?
クラウスさんはアルの肩にポンと手を置き(すぐに払われていたが)、崩壊した小屋の方へと歩き出した。小屋の方ではちょっとしたパニックになっている。
「……行くぞ。」
「う、うん。」
心の中で白玉に合掌をし、私の手を取り歩き出すアルについていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いや気まずい。
なぜか一言も喋らないアルになんと声をかけたらいいか分からない。
あの光景が鮮烈すぎてそれまでどんな話をしていたかぶっ飛んでしまった私に、アルの地雷を踏まないように話題提供をする技術は持ち合わせていない。
(思い出せ私。なにがあったんだ。)
いくら思考を巡らせても思い出すのはアルの全力で拳を振るう姿。フォームが美しかった。いや、そうじゃなくて。
悶々としているとアルが急にピタッと歩みを止めたため、彼の背中にぶつかってしまう。
「いたっ。…どうしたの?」
無言でくるっと私の方に振り返ったアルは、私の顔を見てさらに顔をしかめていく。
「……んだよその顔。」
「え?」
「そんなにあのクソ真面目野郎とクソ蛇と一緒に来たかったのかって聞いてんだ!!」
…………は?
意味が分からずぽかんと口を開けていると、苛立ちを抑えきれないようにアルが舌打ちをする。
「確かにあのクソ真面目兵士はお前好みの顔だし、クソ蛇は無駄にお前と仲がいい。」
「待った待った。なんでクラウスさんの顔が好みだって知ってるの?」
「あ"!?毎度毎度見惚れてるくせして何言ってんだ!!気づいてねぇとでも思ったか!!ガキのくせに鼻の下伸ばしやがって!」
「め、面目ありません……。」
プルプルと震える様子に戸惑いながらも必死にアルの真意を探る。
すると彼は絞り出したかのような小さな声で呟いた。
「オレといるのに…」
その呟きでダムが決壊したかのように私に詰め寄り不満をぶちまけてくる。
「アイツに頭撫でられて随分嬉しそうだったよなぁ?あ"!?満更でもねぇような顔しやがって!!」
「ん?んん?」
「ここに来る道中だってあのクソ蛇と普通に会話してっけどな!もともとアイツはお前を殺そうとしてたんだぞ!危機感持てって散々言ってんだろうが!お前とアイツが近寄るだけでどんだけ気を揉んでると思ってんだ!」
多分、これ。とんでもなく可愛いことを言ってるんじゃないか?
そして恐らく、アルは今自分が何を言ってるのか分かってない。
「なのにオレと2人になった途端に不満そう……な………」
私の顔を再度睨みつけたアルは急に勢いを失った。そりゃそうだろう。不満そうな顔とでも言おうとしたのかもしれないが、今の私の表情はそんなものではない。
自分でも分かるほど緩んだ表情筋、そして少し熱を持った頬。
嬉しさ9割と照れが1割の、最高に情けない顔をしているのだから。