〇〇は、異変を察知しない
いつもありがとうございます!
ブックマーク登録ありがとうございます!
皆様のおかげでやる気がみなぎっております…。
今後も楽しんでいただけるよう更新していきますので、よければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!
「あー……肩凝ってんなぁ…俺。一回水浴びしよう。」
空を飛びながら左肩を揉みほぐし、誰に言うでもなく小さく呟く。
広大な砂漠を飛び続けて早数時間、仕事終わりにこの距離はなかなか痺れる。
大あくびをしながら自慢の黒い翼を羽ばたかせていると、黒い霧が前方から近づいてきた。
自分の目の前で霧が晴れると、そこにはメイド服を着た黒髪少女が頭を下げていた。
「ガンマ様、おかえりなさいませ。」
「おーアルファ……あれ?お前しばらく有給使って浮気した彼氏を制裁しに行くとか言ってなかったか?なんでメイド服着てんの?」
「はい。ガンマ様が帰投されるとお伺いしましたので、急遽早上がりに変更し糞男の心臓を握り潰すことで我慢いたしました。お心遣い感謝いたします。」
「お、おうそうか……なんかおつかれ。」
過激な部下の発言に顔が引きつるが、気を取り直し飛行を再開する。
「ダニエルは帰ってきてるか?」
「いいえ。…それどころか収集の魔女の捕縛に向かわれたまま、一切応答がありません。」
「……サボってそうだなアイツ。あ、メディシアナは?」
「メディシアナ様はあの後すぐに黒蛇と白蛇を例の村へ派遣。その後は城内にて器物損壊に勤しんでおられます。」
「破壊に勤しむってそれ………もう寝れる場所ないんじゃないの?…はぁ…頭いてぇ……癒しが欲しいわ。」
「ベータがカモミールティーを用意してお待ちしております。」
「もう本当最高俺の眷属たち。」
「もったいなきお言葉。」
アルファの一言でやる気を取り戻した俺は、一気にスピードを上げて城を目指した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後久しぶりに城の入り口から入って帰宅すると、燕尾服を着た少年が笑顔で駆け足で近寄ってきた。
「あ!ガンマ様ー!おかえりー!おんぶしてー!!」
「ベータ、ガンマ様はお帰りになられたばかりです。自粛しなさい。」
「あ、浮気されたアルファちゃんもおかえり!彼氏はどうだった?殺した?」
「ええ、お望みなら貴方もぶっ殺しますよベータ。それよりカモミールティーはどうしたんですか。」
「あ、お昼寝してて忘れちゃった!」
「本当殺しますよ。」
「いいっていいってアルファ。ありがとうよ。それとベータ、おじさんはおてんば娘のご機嫌を取りに行く予定があるからまたあとでな。」
「はーい。」
可愛らしく微笑むベータの頭を数回撫でて階段を上がろうとすると、上階から凄まじい破壊音が聞こえてきた。
目の前の眷属よりも手のかかる少女をなだめるため、一度自分の頭を数回掻いた後ゆっくりと階段を上がる。破壊音が続けて聞こえる部屋の扉を開けると、嬉しそうな顔で床を破壊しているゴスロリ少女の姿が目に飛び込んできた。
「一応聞いておこうか。なにしてんの?メディシアナ。」
「あら?帰ってきたのガンマ!ねぇ聞いて!アタシちゃんと仕事したのよ!褒めなさいよ!」
「うん分かったからその床を元に戻して。おじさん話をちゃんと聞くから。」
俺の言葉に一度大きく頷くと剥いでいた床板を踏み潰し、意気揚々とソファへと座るメディシアナ。床を元に戻してって言ったんだけど、破壊してるよなそれ。だが敢えて触れる必要もないと判断した俺はメディシアナの横に深々と腰掛けた。
「で?なんだっけ?」
「アタシ、ガンマに言われたあと黒蛇と白蛇をあの村に送ったのよ!偉いでしょ?跪きなさい!!」
「おーそうか約束守って偉いな。それで?結果はどうだって?」
「白蛇曰く、なーんにもないつまんない村らしいわ。白蛇は今人間に化けて村の中に紛れ込んでるらしいけど、誰も気づかないみたい。馬鹿よね!まぁこのメディシアナ様じゃないと見破れるはずないんだけど!」
オーッホッホッ!といかにも悪役っぽく高笑いするメディシアナを尻目に俺は眉をひそめた。
(白蛇ってそんなに頭が回るやつだったか?)
眷属は主人によく似た性質を持つ。
メディシアナの眷属は暴力的で、そしてとてつもなく単純だ。
力で言えばダニエルの眷属よりもはるかにパワーがあるが、計画性はまるでない。
その凶暴さから数日偵察できればいい方だと思っていた。だから怪しいところがあればすぐに食らいつき、壊滅させる実力があるから任せたのだが。
自ら長期偵察ができるよう考えて行動しているとは。
(勇者でも生まれてくるのか……?)
そのレベルで信じたくないことである。
「ん?黒蛇も一緒にいるんだろ?」
「そうよ。でも飽きて近くの森で破壊活動をしてるらしいわ。」
「後輩に仕事押し付けてなにやってんだ…。まぁそこはいつも通りか。」
「今後は何かあれば白蛇の方から連絡が来るみたいよ。ねぇどう?すごいでしょアタシの眷属!ほら靴を舐めなさいよ!」
「おーすごいすごい。靴は舐めないけど本当よくやったな。」
まぁ主人であるメディシアナに嘘をつくなんて万に一つもない。
あの眷属たちは残虐性に惹かれるイかれた蛇たちだ。あの村にメディシアナ以上に凶暴なヤツがいない限り、寝返ることはありえないだろう。
300年以上もの間、あの蛇たちがメディシアナ以外に仕えたことなんてただの一度もないのだから。
(我らが魔王を除いてな。)
「で?ガンマはどうなのよ。仕事してんのアンタ。」
「ええ……これ以上ないくらい働いてるんだけど…ヘコむわぁ……。」
突然のメディシアナからの爆弾に思考が吹っ飛ぶ。
「今週だってほとんど飛び続けてさ…見てこれ俺の翼ボロッボロなのよ。」
「ちょっと汚いわね!アタシの髪に羽根がついちゃうじゃない!!殺すわよ!」
「俺の仲間の暴言が酷い件について。」
思わず膝を抱えいじけていると、メディシアナがしぶしぶ髪の毛を伸ばし濡れた布を取る。それを面倒くさそうに俺の翼に当てて汚れを拭い始めた。
「いやーありがとうよ。優しい仲間がいてくれておじさん嬉しいわ。」
「そうよ、このメディシアナ様に感謝しなさい!で?魔王サマの器になる生き物なんて、本当に存在するわけ?」
「いやいるって。魔王がそう言ってんだからよ。」
メディシアナが鼻で笑い俺の翼を全力で叩く。普通に痛い。
「目印は赤髪だっけ?そんなのアンタがほっとんど殺しちゃったじゃない!!」
「不可抗力だっての。魔王の魔力が込められた血液を注入して身体が保てるのは、もともと魔力を豊富に蓄えている赤髪くらいだろ?まぁ……ちょっと入れるだけで破壊衝動に耐えられず目に入ったもの全部壊しちまうんだからしょうがないって。」
「そのおかげで悪魔の子なんて呼ばれ出しちゃって人間から粛清対象にされてるんだから最高よね!あっはは!お腹痛いわ!」
「笑うなよ…というか魔王が完全体にならないと大変なのはお前も一緒だろうがメディシアナ。他人事じゃないんだからな。」
「はぁ?」
俺の髪の毛を鷲掴みにしたメディシアナは、ニヤリと嫌な笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる。
「確かに魔王サマがいた方がいいけど、アタシはアタシが楽しく生きられればそれでいいの。別に完全復活しなくてもアタシにはなーんにも支障はないわけ。そこんとこ勘違いしないでよね?」
そうだ昔からこの少女はそうだった。
苦笑しながら頷くと満足したメディシアナは、俺の髪を乱暴に離してまだ俺が座っているソファを蹴り飛ばした。その勢いで壁にめり込むソファと俺。なんでなの。
「分かればよろしい!ということで、アタシにも何か壊すもの寄越しなさい!ダニーもいなくて暇なのよ!」
「……アイツまだ収集の魔女を追いかけてんだろう?サボってんじゃねーかっておじさん思ってんだけど。」
「ぜぇったいそうよ!!アタシの前に早く連れてこいって言ったのに、おちょくってんだわ!!!ああああああもう!!腹ただしい!!」
「ねぇおかしくない?俺が壁にめり込んでるんだけど反応なし?おーいメディシアナー。」
さっさと連れて来なさいよ!!
と窓の外に向かって叫ぶメディシアナに、俺の訴えは届いておらず。
慣れたことととはいえ、深くため息を吐いた。