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転生者は、ひとまず安堵する

26000PVありがとうございます!

またブックマーク登録も合わせてありがとうございます!


今後ともよろしくお願いします!


汚れを拭って先を急ぐ。

たどり着いたその場所には自分が指示した通り、結界魔法が張られていた。

だが見てみてびっくり。

この結界魔法、あまりにも出来が良い。

思わず手を伸ばしてスライムのような結界に触れていると、自分が帰ってきたことに気がついた兵士たちが足早に集合してくる。


「っ!隊長!おかえりなさい!」


兵士たちが安心したように顔を綻ばせる。


「ああ今帰った。」


「ご無事でなによりです。」


「当たり前だ。あの程度敵ではない。」


流石です!と世辞をいう彼らの後ろを見やると、エミリー様の緑色の髪がちらりと確認できた。よかった。ご無事のようだ。


「ところでこの結界魔法は誰が作った?いい出来だな。これならあの程度の魔物では壊せまい。」


自分の評価を聞いた兵士は少し顔をしかめたが背筋を正して問いかけに答える。


「あの悪魔の子です。」


「悪魔?……ああ彼か。」


「はい。やはり流石ですね。言葉遣いは腹が立ちますが、実力は本物のようです。数分でこの結界を作り、その後姿を消しました。」


些かな納得いかないような表情を浮かべて報告する兵士を思わず二度見してしまう。


「姿を消した?」


「え…は、はい。」


言い淀む兵士に視線で先を促すと、意を決したように報告を続ける。


「結界を張り終えた後、突然なにか焦ったように出て行きまして…。」


「彼が?」


彼が焦るとなると理由は一つだ。

急いでエミリー様の方に視線を向けてその理由である彼女の姿を探すが案の定。


(いない。)


「モブロード嬢はどこにいる?」


「モブロード嬢?」


「エミリー様のご友人で、その少年と常に行動している少女だ。」


「ああ、あの娘ですか。えーと…」


思い出そうと頭を抱える兵士の後ろで、顔色が悪い兵士が気まずそうに視線を逸らしたのを見逃さなかった。


「何か知ってるのか。」


「え、い、いや…」


「隠すな。言え。」


少し威圧を込めて目を細めると、その兵士は汗をかきながら状況を説明しだした。


「はい!その少女はなにか切羽詰まった表情を浮かべながらこの結界から出て行ってしまいました!!」


「出て行った………?」


「止めようとはしたのですが足が速く、さらにあの悪魔の子の連れということもあり……申し訳ありません!」


怯えたように震えながら謝罪する兵士を尻目に愕然とする。


「なぜだ?あの少年を連れずに1人で?一体なんのために?」


「エミリー知ってるよ。」


自分の疑問に答えるようにやけに冷めた声で反応が一つ。

視線を向けるとエミリー様はいつものような笑みは浮かべておらず、どこか歯がゆそうに珍しくその顔を歪ませていた。


「なにをご存知なのですか?」


「クラウスが来る前にリチャードさんたちが怪我したっていう人を助けに女の人と一緒にどっか行ったんだけど、その後を追いかけて行っちゃったの。」


「リチャードが?」


再度兵士に目配せをすると肯定するように一つ大きく頷く。


「事実です。ですが……その…救出に行ったきり応答がなく…」


突然湧いた悩みのタネに思わず顔をしかめる。

あの真面目なリチャードが報告を怠るのはありえない。

となれば報告ができない緊急事態に陥っているということだ。


(魔物に遭遇したか…)


もしくはその女が魔物だったのか。


そしてそれをなんらかのタイミングでモブロード嬢は知ったのだろう。

そして彼女はリチャードたちに知らせに行った。たった1人で。


(いや、1人ではないか。妖精たちが見過ごすはずがない。)


とにかく後を追った方がいいだろう。

彼が追いかけているとはいえ、まだ子供だ。


急いで考えをまとめてリチャードの魔力の気配を探る。

微量ながら魔力の流れを感じその道を辿ろうと振り返ると、エミリー様が呼び止めた。


「クラウス分かってるよね?」


「もちろんです。……お前たちも来い。そして学べ。お前たちが悪魔の子と蔑む少年も、その少年とともに行動している少女も我々の保護対象だ。村の住人を護れずなにが騎士か。」


「「は!!」」


「残りは引き続きこの結界を死守しろ。」


「承知しました!」


指示を出して一歩結界から出ると、遠くで強大な爆発音が聞こえた。


(魔力を追うまでもなかったな。)


おそらく少年が放ったであろう爆発魔法にひとまずホッと安心する。

どうやら間に合ったようだ。

爆発に驚いている兵士2人に警告のため声をかける。


「そういえばモブロード嬢についてだが。」


「は、はぁ。」


「彼女に何かあれば今回の襲撃者以上の相手と殺り合いをすることになるぞ。あの爆発で黒焦げになりたくなければ肝に命じておけ。」


「「は、はい!!」」


彼が結界を補強したのも、リチャードたちのもとへ助けに行ったのも、全て彼女のためである。


なにがあろうと一生、これは変わることはないのだろう。


震える兵士たちを尻目に爆発音がした方へと足を踏み出した。

















◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇












凄まじい爆発の連続に思わず顔が引き攣る。

リチャードさんやその他の兵士さんたちを見ても一目瞭然だ。ドン引きしてる。


さてどうしたものかと頭を抱えたその時、この状況を脱出できる唯一の光が現れた。


「こ、これは………」


「クラウス……」


「ああクラウスさん……いいところに。ちょっとアルを止めてくれませんかね…。」


「無理だろう。」


「ですよね…。」


私たちの目の前には楽しそうに笑う少年がひとり。


「おら。」


「ウボスッ!」


「そら。」


「ゲボラッ!」


なんかドSモードに突入して足蹴りとかしてるんだけど。魔物さんから聞こえる悲鳴が耳に痛い。あまりにも楽しそうにしているアルに嫌な予感がするので声をかけてみることにした。


「アルー。もういいんじゃない?その子のライフはもうゼロよ。」


「あ"?何言ってんだ?コイツ随分と調子乗ってそうだったしよ。まだまだいけるよなぁ?」


「ヒッ……ご、ご勘弁を……」


「ほら勘弁って言ってるし、クラウスさんも来たし。もうやめてあげなよ。反省してるってその子も。」


「ね、ネェさん!アンタって人は最高っす!」


「あ?……ッチ、来るのおせぇよ。一般人に何やらせんだ引退しろ引退。」


小言を言いながらこちら側に歩いて来るアルに苦笑しながらも近寄る。


「ノリノリだったくせによく言うね。でもありがとうアル。」


「…おー。」


私の言葉に肩を回しながら答える。

そんなアルと入れ替わるようにクラウスさんが横を通り屈み込む。


「答えろ。貴様と黒蛇以外に仲間はいるか。」


「2匹だけしかいないっすよ……。兄さん先輩と戦ってたヤツっすよね?そういえば先輩は?」


「先輩?黒蛇ならここにいるぞ。」


そういってクラウスさんがポケットに手を突っ込みなにかを出すと魔物さんは悲鳴をあげる。

何を出したのかと思い、覗き込むと思わず吐き気を催した。


「な、なんですかそれ。」


「ん?黒蛇の魔物の残骸だ。」


「なんでそんなもんポケットに入れてんだよ!!頭沸いてんのか!!」


「死んだらポケットに入るぐらいのサイズに縮まったからな。つい入れてしまった。」


なるほど、死んでるから私にも見えるわけか。

……この男サイコパスかよ。


静かにドン引きしていると、クラウスさんが持ってるモノが見えないようにアルが手を引いてくれた。


「コイツにそんなもん見せんなよ。配慮が足りねーぞ。」


「クラウス、その少年の言う通りだ。女性の前でそれははっきり言ってありえん。」


「ああすまない。だが魔物にはコレが1番効果的だからな。自分より上のものが死んだとなれば、強い者の言うことを聞くのは当然のことだ。」


「もう嫌っすこんな村……変な人間ばっかり……。」


「ああ…小さな蛇になりましたね。コイツもう戦意消失してますよ。」


やりきったように感動する兵士さんたちと、安心したように息を吐くリチャードさん。

そしてリチャードさんはアルの方へ顔を向けると静かに頭を下げた。


「君のおかげで助かった。礼を言う。」


「はっ。田舎兵士ってのはこんなヤツにも勝てねぇのか。ダッセェな。」


「アル。」


そっぽを向いて毒を吐くアルを注意しようと声をかけるとリチャードさんが苦笑しながら私を止める。


「いやいいんだお嬢さん。確かに彼の言う通り我々はこの魔物に力が及ばず、妖精の気まぐれで味方してくれなければすぐに死んでいただろう。恥ずかしい話だ。もっと鍛錬しなければな。」


「そうですねリチャードさん。俺たちも頑張らないと。」


「正直言ってコイツが来た時、ヒーローが来たかと思いましたよ。」


兵士さんたちがにこやかに話しかけてくるのを心底迷惑そうに見やるアルだが、彼らはそれすらも笑っていた。


(何だかんだ上手くまとまったようで良かった。)


私もつられるように笑い、自分のことのように鼻が高くなる。


「まぁそうですね。我が幼馴染は最高にカッコいいですから。」


「ぐっ!」


なぜかアルが胸を押さえながら奇声を発したかと思えば、プルプルと小刻みに震えている。


「え、大丈夫?魔力使いすぎて具合悪くなった?」


「ちっげぇよ!テメェいい加減にしろ!!死ね!怪我とかしてねぇだろうなクソが!!」


「ええ……言ってることめちゃくちゃだよ。」


顔を真っ赤にしながら私を指差すアルに戸惑っていると、リチャードさんが豪快に笑う。


「なんだ?白蛇の魔物には勝ててもお嬢さんには手も足も出ないのか!」


「可愛いところもあるんだな少年!」


「応援してるぞ少年!」


「うるせぇ黙れ!!ほっとけ!!」


「やっぱりネェさん最高っす!」


よく分からないけれどアルが兵士さんたちと打ち解けたようで安心した。


今回お祭りに来れて良かったと、心から思った瞬間だった。



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