転生者は、襲撃から逃れたい
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エミリーちゃんとともに倒れこむと同時に頭上から金属音が響き渡る。
先ほどまで楽しげな雰囲気だった祭りは一転しパニック状態に陥った。
「モブちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫。エミリーちゃんは?」
「全然平気!助けてくれてありがとう!」
いや、まだ安全とは言えない状況です。
地面に伏せながら互いの状態を確認し、辺りを見回すと鞘に収まったままの聖剣を振るってクラウスさんがなにかと闘っている。
これは本格的にまずい。
はやくエミリーちゃんとここから移動しないと。
エミリーちゃんの手を握り起き上がるタイミングを考えるが、いつ起き上がればいいか全く見当がつかない。
すると倒れている私たちの目の前が急に歪んだかと思えば、見覚えのある顔が視界に入った。
「モブ!」
「アル!」
帽子を投げ捨て私の顔を覗き込んだアルはほっとした表情を浮かべ、私の手を掴み起き上がらせてくれる。
「移動するぞ!行けるな?」
なんというグッドタイミング!!
肯定の意味を込めて私が大きく一度頷くと、アルは私とエミリーちゃんの手に触れ、闘っているクラウスさんに声をかける。
「おい!移動するぞ!お前はどうすんだ!」
「ああ。襲撃者の相手を終えたらすぐに追いかける。」
余裕そうに片手を挙げたクラウスさんに反応するように、地面になにかが這いずっているような音と合わせて少女の声が反響して聞こえてくる。
「随分な言い草。ワタシの毒に対応できない弱小種族のクセに生意気なわけ。」
「やはり門兵に神経毒を使用したのは貴様か。」
「今回は虐殺じゃなく偵察だから。もう歩くことはできないだろうけど、死んでないだけありがたく思ってほしいわけ。それよりも…ワタシはそこの緑頭に用があるんだけど?」
シューっという静かな音が辺り一帯から聞こえてくる。
その声には明らかに怒気が含まれていた。
「ねぇ?その憎たらしい顔は一体どこから拾ってきたわけ?」
「えー?エミリー生まれつきこの顔だからそんなこと言われても困るよ?」
緊張感ないなエミリーちゃん。
流石鋼メンタル。
そのエミリーちゃんの回答にクラウスさんもふっと微笑み、今一度剣を構える。
「彼女の言う通り、貴様に答える義理はない。」
「答えないならいーの。ソイツを持ち帰ってメディサマに献上すればいいだけの話だから。」
その言葉を合図に衝撃波が発生する。
息がしづらいほどの余波に思わずよろめく。
だが別名超人のクラウスさんは、そのなにかからの攻撃を受け流しながら私たちに告げた。
「先ほど兵士部隊が防御結界を張り終えたと報告があった。すまないがそこまで避難してもらえるか?」
「………ッチ。」
「案ずるな。私は問題ない。すぐに行く。」
「………誰もテメェの心配なんてしてねぇよクソが。さっさと給料分の仕事しやがれ。」
アルが吐き捨てるように告げると私たちの手を強く掴み、一瞬でその場から離脱した。
「へぇ…赤髪までいるなんて、この村に偵察を命令された意味がよく分かったわけ。流石メディサマ。」
シュルシュルと音を鳴らし、自身も後を追おうと力を込める。
その隙を見てクラウスは一気に間合いを詰め、静かに言い放つ。
「やはり命令をされたということは、貴様は魔王軍の幹部ではないようだな。」
もし幹部なら、あまりにもお粗末すぎる。
その一言に合わせ鞘に収まっている剣を見えないスピードで相手の腑にくらわせて、一気に地面に叩きつけた。
「偵察という任務は敵側の情報を持ち帰ることで初めて成功となる。………そのメディサマとやらは考えなしのようだな。」
我が主人を馬鹿にされた怒りに任せて薙ぎ払うが、クラウスは容易く受け止める。
そして人間が持つ剣に触れていた襲撃者の身体が、一瞬で溶けた。
「あ"あ"あ"ア"!!」
「自身の感情を抑え込むこともできず、あまつさえ敵である私に情報を与えてしまうタイプに偵察の任務を与えるとは。」
「おのれ…人間風情ガ…!」
「子供たちもいなくなったことだ。心置きなく、貴様を処分させてもらう。なにか言い残すことはあるか?」
「調子に乗るなヨ…噛み殺してくれるワ!」
黒き鱗を持った大蛇の魔物は、その牙をクラウスへと向けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ブゥン。
視界がぐるっと回ったかと思うと驚いた表情の兵士さんたちが突然現れた。
「ど、どうも?」
周りを見回すとどうやら結界内部のようだ。
円形状に張られた結界は触るとゼリーのようにプニプニしており、外の景色も若干曇っているが見ることができる。
これ、ほんとに結界なの?
好奇心に駆られるままに結界に触れていると、兵士たちから動揺の声が聞こえてきた。
「転送魔法だと……?こんな高度な魔法誰が…。」
「オレだっての。そこどけ田舎兵。」
すかさず暴言を吐くアルに一気に警戒色を強める兵士さんたち。
あれ、この光景どっかで見たぞ。
ただ違うのは、怯えた様子でアルを見る人々がいることと。
「あ、番犬くんは助けてくれたから警戒しなくていいよ?」
村の人々から崇められているエミリーちゃんが私たち側についてくれていることだ。
「エミリー様!ご無事でなによりです!……ですが今なんと?」
「だから、あの番犬くんは助けてくれた恩人だからそんな怯えなくていいってこと!」
「なっ!騙されてはなりません!彼は悪魔の子ですよ!?この事態を引き起こしたのも、ひとえに彼が赤髪だから」
「もうしつこいなぁ。違うってば。エミリーが狙われたの。」
鬱陶しそうにエミリーちゃんが眉をひそめると、兵士さんたちに動揺が走る。
それに住人たちも戸惑うような素振りを見せている。
アルはこのやりとりを全く気にしていないようで辺りをキョロキョロとみまわしているが、私はこのエミリー効果に手を合わせた。
(私じゃこの人たちの意識を変えることは難しい。このまま印象を変えるきっかけをエミリーちゃんに作ってもらえれば…)
だがそんな祈りは思わぬ形で叶うこととなる。
「それにこの番犬くんはただの恋する男の子だから!全く無害だよ!」
「「「え!」」」
エミリーちゃんから最大級の爆弾が投下された。
さっきまで険しい顔で警戒していたアルが早歩きでエミリーちゃんに近づき、首元に摑みかかる。
「おいエセ聖女……黙って聞いてりゃなに言ってやがんだ?そんなに戻りたきゃさっきいた所にまた転送してやろうか!?」
「ほらこんなにムキになっちゃって!ね?魔物さん的にもこんな人より聖女の生まれ変わりのエミリーの方が重要人物だと思ってるよ!」
「いい加減にしろクソアマ!」
こんな2人のやりとりを見ているが私は衝撃で動けなかった。
(エミリーちゃんはアルの想いに気づいていたのに、あえてそっけない態度を?)
アルへの偏見をなくすため、そして自分たちが両想いであること(まだ本人の口からは聞いてないがもうこれはオッケーということでいいだろう)をこの村の人たち全員の前で堂々と宣言するなんて………。
(エミリーちゃん、なんて恐ろしい子!)
だがそこが!
「尊い!!ツンデレごっつぁんです!」
「あ"?また変なことを考えてやがんな脳内ピンク!」
あとはここでアルに認めさせれば、君たちの勝ちだ!!
「そうだよね!アルは(エミリーちゃんに)恋するただの男の子だもんね!」
「は!?い、いや!オレは!」
私の無茶振りにかなり焦った様子を見せるアル。悪いが逃がさんぞ。
格好の獲物を前にキラキラと瞳を輝かせながら詰め寄り、アルの両手を握り圧力をかける。一気に顔を赤らめたアルに畳み掛けるように言葉を紡いだ。
「ね!(エミリーちゃんが)好きなんだよね!」
「い、いや…だから…」
「(エミリーちゃんが)大好きなんだよね!好きで好きでたまらないんだよね!」
「だああああああああああ!!」
プシューっと顔から蒸気を発生させるとともに変な奇声を叫んだアルは、思いっきり私の手を振り払って一気に私から離れる。
奇声のみで否定しない、つまりは肯定。
「いやぁ流石エミリーちゃん。アルの恋心を見抜くとはお見事!」
「えへへ!そうでしょ?…でもモブちゃんちゃんと分かってる?」
「もちろん分かってる分かってる。」
これで村の皆さん(特にエミリーちゃんに惚れているライバルたち)は分かってくれたはずだと、若干ドヤ顔で視線を向ければ。
信じられないようなものを見るような目で、私とアルを見比べていた。
(ん?なんで私を見てるんだ?)
そこはエミリーちゃんとアルじゃない?
その違和感に首を傾げるが、突然結界の外から女性の声が聞こえてこの話は打ち止めとなる。
「誰か…誰か助けてください。」