転生者は、お祭り気分では終われない
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なんと。
気づけば壮大な青空の下、大きな木のふもとに立っていた。
(ここはどこだろう?)
ブワァッと強い風が私の髪を巻き上げたため慌てて手で押さえつけると、ちょうど目の前を桜の花びらが通り過ぎた。
気づけば目線もちょうど前世で死んだくらいの高さになっていて、どうやら身体まで成長しているらしい。
不意に後ろが気になり振り返ると、ここ最近何度も見かけている赤髪の青年が私に背を向けてなにやら呟いている。
その先は崖になっていて、今にもあちら側に転がり落ちてしまいそうな……そんな危うさを感じた。
「ねぇ、そっちは危ないよ。」
私が声をかけると青年は肩を大げさにビクつかせ、ゆっくりと私の方へ振り返る。
青年の目と私の目が合いそうになるその瞬間にある人の手が私の目を後ろから覆い隠した。
『ハーイレイちゃん!その時が来るまでカンニングしちゃだめだヨ!』
どこかで聞いたことのあるような可愛らしい声をキッカケに、私は急速に身体が浮かび上がるのを感じる。
『モウ!せっかちさんなんだかラ!レイちゃんがここに来るのはもっと大きくなってからなノ!ズルは禁止だヨ?』
ぐんぐんと上へ引っ張られる中、声の主を探そうと必死に視線を下に向ける。
するとさっきまで私が立っていたその場所に人影を見かけた。
その人影は私に向かって大きく手を振る。
『バイバーイ!ヘビに気をつけてネ!』
いや、なんで急にヘビ?
疑問に思ったのもつかの間、凄まじい衝撃波が脳内を揺らし視界が歪んでしまう。
そして一気に景色が青空の光景から真っ暗闇の空間へと変化した。
「…………い、………ろ。」
そんな空間で微かに声が聞こえてくるが、一体なんと言っているのだろう?
「……きろっつってんだろ!モブ!」
「……あれ?」
「はぁ……焦らせんじゃねぇよ…」
目を二、三度瞬きすると視界がクリアになっていく。
寄りかかっている私の顔を覗きこむこの少年は…アルだ。
「アル?どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇよ!急に震えだすからびっくりするじゃねぇか!」
「震え…てたんだ…?」
そうだ、私眠気に負けてアルに寄りかかって仮眠を取っていたんだ。
なんとなくまだ夢の中に片足を突っ込んでいるようなフワフワとした感覚が抜けないが、徐々に思い出してきた。
そして今ほぼ全体重かけて寄りかかっていたのはアルの肩だったことをあわせて思い出し、慌てて離れる。
「あ、ごめん。私ずっと寄りかかってたのか。肩凝ってない?大丈夫?」
「んなことはどうでもいいんだよ。おい。」
私の頬を強めに掴み真剣な表情で私を見つめてくるアルを不思議に思っていると、アルがかぶっていた帽子を少し上へあげながら顔を近づけ、おでことおでこを合わせてくる。
「熱はねぇ…な。身体が冷えただけか?」
「お、おう…すごい原始的な計り方するね。流石にちょっと恥ずかしいかな。」
「あ?……へぇ…お前でも恥ずかしがることあんのか。」
なぜかちょっと嬉しそうに、そしておもちゃを見つけたように意地悪げに微笑むアルに苦笑しながら告げる。
「私だって女子だからねー。流石に目の前にイケメンの顔が来ると照れるって。意外と心臓に悪いことするんだから。」
前世も含めてこんな風に熱を計られたことはなく、相手はアルなのに柄にもなく少し恥ずかしくなってしまった。寝起きって怖い。
照れ隠しにアルに微笑みかけると、アルが急速に真顔になりそのまま深く帽子を被り直す。
かと思えば彼は表情を隠したまま、頬を掴んでいた手を横に引っ張り私の眠気を覚ましにかかる。
「いだだだだだだ!!?」
「テメェの方が何回も人の心臓を止めに来てるじゃねぇか………!なんだ?もしかしてオレに喧嘩売ってんのか?それともナメてんのか?なんとか言いやがれクソモブが!!」
「ちょちょちょ取れる取れる!」
「そもそもオレの方がさっきまで有利だったのになに勝手に反撃してきてんだ?照れながら笑うなんて器用なことしてんじゃねぇよ!寝ぼけてるからこんなことになってんのか!?寝たからか!?だったら今すぐ起きやがれこのクソ寝坊助猿が!」
「起きた起きた!超起きたから勘弁して!」
息継ぎもせずまくし立てるアルをなんとかなだめ、ヒリヒリと痛む頬を抑えて涙ぐむ。
頬の痛みに気を取られすぎてアルの話なにも聞いてなかったけど、なににそんな怒ってたんだ……。
(でも聞き返したら今度こそ本当にほっぺ取られそうだからやめとこう。)
頬の熱を冷ましていると大きな笛の音が村全体に響き渡る。
ガヤガヤとしていた祭りの雰囲気がガラリと変わり、一瞬で静けさに包まれる。
壇上に上がってきた知らないおじいさんが小さく咳払いをすると、笛を吹きメロディーを奏でる。
荘厳で、明るくて、それでいて少し悲しいような。
自分の語彙力なさすぎて表現できないが、聴いている者の心を揺さぶるような…そんな音色だ。
そしておじいさんが吹く音色に合わせて、1人の少女が舞い踊る。
(なるほど…これは大トリにふさわしい。)
同じくらいの年頃の少女が踊っているとは思えないほど鮮やかで、儚げでとても美しい。
観客席からはその美しさのあまりため息を吐く音が聞こえてくるほどだ。
やはりエミリーちゃんは聖女の生まれ変わりなのだろう。
心の底から彼女の姿に酔いしれ、ぼーっと踊りを見ているとエミリーちゃんと視線が交わる。
そしてなぜか大きな木のふもとで私に手を振る少女の姿と重なり、声が脳裏に蘇ってきた。
『ヘビには気をつけてネ!』
エミリーちゃんが踊り終わり、深々と一礼する。
その姿に観客たちは立ち上がり拍手喝采。
だけど私はなぜか立ち上がることが出来なかった。
「?おいモブ。」
微動だにしない私を不思議に思ったのか、アルが声をかけてきたがそれどころではない。
「ヘビ…?」
「は?」
なんでいまその言葉が頭をよぎったのだろう。とてつもなく嫌な予感に震え、思わず立ち上がりアルの静止を無視して壇上によじ登る。
驚いた様子のエミリーちゃんに抱きつき、直感のまま一緒に後ろへそのまま倒れ込んだ。
その瞬間にかすかに聞こえた、少女の声。
「なんであの女に似たヤツがいるわけ?」
殺気と憎悪。
ぶっ殺してやるという過激なセリフとともに村全体に悲鳴が響き渡った。