転生者は、お祭りを楽しむ
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よければ今後ともよろしくお願いします!
「もう2人とも遅ーい!」
エミリーちゃんが腰に手を当てて頬をぷっくりと膨らませる。
ははは、なんだそれは。全然怖くないぞ。
「ごめんねエミリーちゃん。」
デロデロに溶けてしまいそうな頬をなんとか引き締めてエミリーちゃんと向き合う。
「なんでこんなに時間かかったの?エミリー約束スッポかされたかと思った!」
「いやぁ……その……」
チラッと先程から無言の幼馴染に視線を向けると、エミリーちゃんもつられるようにアルの方へ顔を向ける。
彼女は一瞬驚きで目を見開いたが、すぐに瞳がカーブを描きクスクスと笑い始めた。
「なぁにそれ?あはは!りんごみたいに真っ赤に腫れてるよ!可愛いー!」
「うるせぇ黙れ消えろ。」
なぜか自分の頬を全力でパンチしたアルは、右頬が異常なほど腫れ上がっていた。
いやだもう何してるのこの人。
痛々しい頬に眉をひそめると、エミリーちゃんが目をキラキラと輝かせて近づいてきた。
「で?モブちゃん何したの?」
「え"。」
「モブちゃんがなんかしたんでしょう?そうじゃないと彼はこんな感じにならないだろうし。ねぇ教えて教えて!」
やっぱりビンタの原因でアレのせいなの?
私のせいな感じ?
「いやぁ…その……ちょっとからかったら?こんなことに…。」
「うんうん。それで?なにしたの?」
「まぁその…ふざけてアルを騎士って呼んでみたり…した感じ?」
ポカンとしたエミリーちゃんが数秒フリーズすると、口に手を当てプルプルと震えだす。
「え、エミリーちゃん…?」
「あはははは!!それはしょうがないね!!自分の頬を殴っちゃうわけだよ!あはは!」
「え?そんな感じなの…?冗談で言っちゃいけない感じ?」
目元に溜まった涙を拭いながらエミリーちゃんは左右に首を振った。
「モブちゃんはなーんにも悪くないよ!番犬くんが勝手に舞い上がって」
「テメェ黙らねぇとその口縫い付けるぞクソアマ!!」
「あはは!!嫌だー!怖いー!」
アルの怒鳴り声に楽しそうに笑うエミリーちゃんは逃げるように村の中へと入っていく。
そのエミリーちゃんの後ろ姿を見ていると、自然の村の中の様子も目に飛び込んできた。
そうだ、お祭り!
前世の世界でいう屋台のような出し物がいくつも並び、そして沢山の人が笑顔で行き交っている。こんなに人沢山いるんだこの村……っていうかエミリーちゃん足早っ!もうあんな奥まで行ってるんですが!
「うおおやばい。アル行くよ!エミリーちゃんに置いていかれちゃう。」
「お、おい!」
今度は私がアルの手を引っ張り村へと足を運ぶ。
エミリーちゃんはあるお店の前で立ち止まり私たちに手を振っていた。
「ねぇねぇモブちゃん!これやってみない?」
「?なにそれ?」
「狙い撃ちゲーム!」
エミリーちゃんが指差した屋台は、いわゆる射的の屋台にそっくりだった。狙い撃ちゲームというくらいだからゲーム自体もほぼ同じなのだろう。
「おおエミリーちゃん!やってくかい?エミリーちゃんなら無料でいいよ!」
「いいの?ありがとうおじさん!」
エミリーちゃんの人脈すげぇ。
彼女は白いテープで印をつけてある位置まで移動し、なにを狙うか悩んでいるようだ。
ぬいぐるみやら雑誌やらなんやらいろいろと商品はあるらしい。ん?まてよ?あの雑誌は………。いいなーアレ欲しい。エミリーちゃんの次に挑戦しようかな。
(あれ、でもちょっと待って。)
どうやって狙い撃つんだ?
輪ゴム銃のようなものがあるのかと思えば何もない。
キョロキョロと探していると屋台のおじさんに声をかけられる。
「どうしたんだお嬢ちゃん?コイツを見んのは初めてかい?」
「え、えぇまぁ…。どうやって狙い撃つのかと思いまして。」
「がっはは!じゃあエミリーちゃんのことよく見とくんだな!」
エミリーちゃんをよく見とく?
意味がわからず首を傾げると、どうやら同じタイミングで彼女が大きく伸びをした。
「決めた!あの魔物のぬいぐるみにする!」
そういったエミリーちゃんは手を銃の形に模して、無言で狙いを定める。
そして……
「バーン!」
ヒュッ。
エミリーちゃんが声を発すると、ぬいぐるみの頭部に一瞬で氷の結晶が突き刺さった。
「やったー!エミリーの勝ち!」
ああ……うん。そういうことね。
「さっすがエミリーちゃんだな!相変わらずすごい腕だぜ!」
「へへーんそうでしょ?エミリー得意だもん!」
嬉しそうに話してるエミリーちゃんだが、タコの足みたいなのが生えた気持ち悪い魔物のぬいぐるみの頭部から氷を引き抜く姿に少し恐怖を覚えた。
ワタ出てるよワタが。
(取った景品が壊れてるけど、魔法の射的みたいなものか。私は出来ないな。)
「どうだい?お嬢ちゃんもやってくか?誰でもできるぜ!」
「いや……その…」
「なんだ?まさかその歳で結晶魔法すら打てねぇのか?」
そのまさかなんですおじさん。
だがそんなこと言えるわけがなく困っていると、横からスッとアルが前へ出る。
「お?なんだ?やってみるか坊主?」
「あぁ。」
「へへっ!エミリーちゃんの連れだから料金はいらねぇよ!せいぜい頑張んな!」
意外にやりたかったんだ…。
やっぱり可愛いやつだとニコニコしながらアルを見つめると、居心地が悪そうにアルが私に視線を寄越した。
「ん?なに?どうしたの?」
「あんま見んな。気持ち悪りぃ。」
「いやぁ、アルの勇姿を見届けようと思ってね。ね、エミリーちゃん?」
「えー、エミリーはどうでもいいや!興味ない!」
「このマイペースガールめ。」
ズドン。
エミリーちゃん視線を向けている間にすごい音がして急いで振り向くと、すでにアルが獲物を撃ち落としたあとだった。
「おいおいすげぇな坊主!魔法が得意なのか?しかも商品に傷1つついてない!」
「まぁな。」
彼はおじさんから撃ち落とした景品をもらい、そのままの流れで私へと差し出す。
「ほら。やる。」
「え?」
「それがよかったんだろ?」
「なんで分かったの?」
「はぁ?あんだけずっと見てたら分かるっつの!それともいらねぇのかクソモブ!」
「いるいる!!いります!やった!ありがとうアル!」
アルから雑誌を受け取り、大事に抱え込む。
すると横から屋台のおじさんがアルをからかうようにニヤニヤしながら近づいてきた。
「おうおう!なんだ坊主!やるじゃねぇか!彼女も惚れ直すぜ!」
「はぁっ!?別にそんなんじゃねぇよ!!勘違いすんじゃねぇ!」
「青春だな!オレも若い頃は嫁とよく」
「興味ねぇよ!勝手に話を進めんな!」
アルと屋台のおじさんが楽しそうにじゃれあってる姿を見てほのぼのしていると、エミリーちゃんが私に声をかける。
「なんでその雑誌が欲しかったの?」
「ん?ほらこの表紙を見てよ。」
エミリーちゃんに見えるように表紙を向ける。
「今話題の王都指定調剤師ランディの秘密に迫る……?」
そう、表紙には以前母親から切れ端をもらったイケメン魔法使いのランディさんの写真が載っていたのだ。
「あ、分かった!モブちゃん、この人のこと好きなんでしょ?」
「あ"!?んだとゴラァ!!しばくぞクソモブ!」
「え?聞こえてたの今の距離で。…違うよ。調剤の勉強をしようと思ってさ。この人王都で有名だからすごいポーションとか作れるんだよ。」
「へぇ!モブちゃん調剤に興味あるんだ!変わってるね!」
「そう?」
今回はおじいさんと母親のためにポーションを作ったが、同じ病で苦しんでいる人は沢山いる。少しでも多く作れるようになれば、辛い思いをする人を減らせるのではないかと考えていた。
ワンダさんにお礼を言いに、さらに細かくポーションの作り方を聞こうと思ったのにいなくなっちゃうし。
(クラウスさんはそのうち帰ってくるって言ってたけど…)
自習できるならしておこうと思ったのだ。
「…だとよエセ聖女。残念だったな。」
私の頭をグリグリと撫で回し、なぜか得意げな顔をするアルとつまらなそうに口を尖らせるエミリーちゃん。
「ふーんだ。すっごく焦ってたくせに生意気!」
「っけ。なにが好きな人だ馬鹿らしい。」
「でもエミリーちゃんの言う通り確かに顔はすごく好みだから、写真集的な役割も果たしてくれるし一石二鳥だね。」
「……は?」
表紙を見てそこに写る銀髪イケメン青年に思わず口角が上がる。ほほう…いい写真だ。
この間もらったのより大きいし、大切にしよう。
「ほらだって見てよ。このえくぼ可愛い…よ…ね…」
ランディさんの顔を指差しながら2人に同意を求めようとすると、射殺さんばかりに表紙を凝視するアルと肩を震わせながら射的のおじさんとともに私たちを見つめるエミリーちゃんの姿が目に入った。
あれ、いつのまにそんなに距離を取っているんだ?
「ッチ……えくぼだぁ……!?」
「そしてなにこの雰囲気。」
「こんな貧弱そうな奴か好みなんて相変わらず目が腐ってんな……なぁ!?クソモブちゃんよぉ!!」
「貧弱?ま、まぁ守ってあげたいような可愛い顔だよね。そこがまたいいんだけど。」
「だぁあああああ!!聞いてねぇよ!!なに細かく説明してくんだうぜぇ!!やっぱりそれ返せ!燃やしてやる!」
「なんでそんなに怒るの!?嫌だよランディさんシリーズ集めてるんだから!」
「あ"!?集めてるだぁ!?ふざけんな!!ならそれも全部出せ!全部チリひとつ残さず消してやらぁあ!」
「ぎゃああ!!離してぇえ!」
「……なぁエミリーちゃん。連れの痴話喧嘩、いつも見せられてるの?胸やけしない?」
「しないよ!!だって面白いんだもん!」
エミリーは聖女のような微笑みを浮かべて、取っ組み合う2人を見つめた。