転生者は、特別な日を迎える
「ふーんふふーんふーん」
いつも以上に機嫌よく、そして鼻歌を歌いながら花に水をやる父親を一瞥。
牧場の通い始めて早数ヶ月。
相変わらず妖精を見ることはできないが、今日はそんなことより大切なことがある。
なんたって今日は特別なのだ。
『ねーねー!レイちゃん!ハッピーバースデー!!コレコレ!約束の肝ダヨ!』
『ハッピーバースデー!』
突如目の前に気持ち悪い臓器がゴロゴロと出現する。
うわぁ……ちょっと動いてるじゃん。
そう、今日こそ私の4歳の誕生日。
そしてその日にグロい臓器をプレゼントして貰うことになったことには、深い理由があるのだ。
「うん、ありがとう。早速だけど、手伝ってほしい。」
私はこの誕生日プレゼントを、3ヶ月前からずっと心待ちにしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わたし、妖精と話せます宣言をした後。
それはもう大変だった。
頭を打ったとか妖精に幻術をかけられたとか、そりゃもう大変だった。
それほどまでにこの世界では、
妖精は話せないものとして認識をされているらしい。
『そりゃそーだヨ!ミーたちだってニンゲンとおしゃべりしたの、ハジメテ!』
……だそうだ。
だから私は妖精に幻術をかけられた体でその場をやり過ごし、この特技を隠すことにした。
レイ・モブロードとして平穏に生きるためにはそうした方が良さそうだし、…………説明面倒だし。
『でもレイちゃん、本当に魔力がカラッポ!この状態だと魔物も見えないネ!あら大変タイヘン!!』
『レイちゃん大変!一発で殺されチャウ!』
うるせぇ、羽もぐぞ。見えないけど。
この妖精たちのおかげで晴れて魔力が空っぽであると証明された私は、同時に魔物の姿も一切感知できないと宣告された。
妖精が見えないなら、魔物なんてもってのほからしい。
魔物に出会った瞬間人生終了だなんて、辛すぎる。
(もうこの家で一生過ごそう。)
しかし良かったことはなにより、妖精と話ができるということ。
この妖精たちは喋る。とにかく喋る。
それはもう喋る。
妖精たちは私とのお喋り(ほぼ一方的)がとても気に入ったようで、隙があれば私に話しかけて来る。
だから私の家が村から離れていることや、そのせいで同学年の子供達に遭遇できないことも彼らから教えてもらった。
良かった。この世界両親と私しかいないのかと思ったわ。
でも私にくっつかないとお喋りが出来ないせいで私が「妖精ホイホイ」のようになる頻度が上がってきた。そのため一度にくっついてきていい妖精は10匹までと定めた。
ある程度は守っているようだが、彼らが興奮しているときはおそらくやばい外見になっているのだろう。
両親(主に父親)が泣きながらこっちに走って来るから、なんとなく想像がつく。
「それにしてももうすぐ4歳になるのに友達1人もいないって……」
『レイちゃんー!鬼ごっこシヨー!』
「それどころじゃないし、君たちのこと見えないから100%私の負け。」
『アハハー!レイちゃん面白いー!』
……あー妖精も友達ってことにしよう。
うん、なら沢山いるわ。
そして、そう。彼らは物知りだ。
私が何も知らないのが面白いのか、聞いてもいないことをずっと話し続ける。
『最近魔王が復活してネー!王都では大騒ぎだヨ!魔王の大好物な赤髪のニンゲンがいると街が危険だから、迫害対象になってるってもっぱらのウワサだヨ!ニンゲンて怖いネー!』
「そうだね。でも私、黒髪だし。赤髪……というかニンゲンの知り合いいないから……平気。」
『ワァー!レイちゃんボッチー!』
「どこからボッチなんて言葉覚えてきたんだ全く。」
『でもでもニンゲンはオッカナイのもいるから、ずっとミーたちとアソボ!そしたら安全!レイちゃん長生きデキル!特に赤髪は魔力が豊富だからタイヘン!』
『ウンウン!大変タイヘン!』
「おーけー。覚えとくよ。」
『それに最近、石病が流行っててネ!これにかかるといつか石になっちゃうんダヨ!エマも同じ病気だよネ!大変タイヘン!』
「ちょっと待った。」
今、エマも同じ病気と言ったか?
お母さんと同じ病気?
実はお母さんを治すと意気込み、妖精牧場に行くと宣言したその日。
まずは母親の病状を知ろうと父親と母親から根掘り葉掘り聞こうとしたのだが、何も収穫はなかった。
それも当然。この病が何から来るのか、全く分からない病だったからだ。
「お母さんの病気……わかるの?」
『分かるヨー!あったりまえダヨー!』
『石病はミーたちの粉とゴルゴンの肝を調合したポーションで治るんだヨー!』
なんと!それは凄い!!
「ち、ちなみにゴルゴンの肝って…」
『少しここから離れた場所にいる魔物ダヨ!ソンデモッテ、ミーたちイタズラしたとき、ゴルゴンの肝手に入れたノ!凄いデショ?』
「うぇ、持ってるのか肝。やるな妖精。………というかイタズラ爆発魔法って魔物仕留めるぐらい威力あるんだ。絶対私にイタズラしないで。」
『シナイヨー!レイちゃんにイタズラしたらすぐ死んじゃうモノ!』
「分かってるならおーけー。」
これはいいことを聞いた。
妖精たちは博識でいい意味でも悪い意味でも純粋だ。よって嘘をつくことは絶対にない。
妖精の粉はここから大量に取れるし、私では入手不可能なゴルゴンの肝は妖精が既に持ってる。ならばあとは調合するだけ。
「ねぇ、ゴルゴンの肝私にちょうだい。あと調合の仕方教えて。」
『エー!図々しいレイちゃん!でもそんなところもスキ!!』
『じゃあレイちゃんの誕生日にアゲル!プレゼントにしてアゲル!』
「た、誕生日ってまだ3ヶ月あるんだけど」
『ダッテー!なんでもない日にあげても意味ないジャン!』
『それに今のレイちゃんだとどうやったって調合なんてできないカラ、宝の持ち腐れダヨ!』
「…やっぱり調合出来ないんだ私。」
『ウン!魔力カラッポレイちゃんには調合なんてムリ!ミーたちが手伝って魔力をあげないとムリ!』
『ソンデモッテ、ミーたちがレイちゃんに魔力流し込んダラ、レイちゃん爆発しちゃうからダメー!』
本当不便な身体だな……私。
そして魔力もらうと爆発するのか私。
どうあがいても4歳まで待たなければならないのであれば仕方ない。
「分かった。じゃあ誕生日プレゼントととしてよろしく。」
『ミーたちそっちにいないケド、オッケー!任せてレイちゃん!もっとイッパイ!用意しとくネ!』
「乱獲はしないでね。」
『じゃあアソボー!』
こうして私は3ヶ月、姿の見えない妖精たちと遊び続け、お話しし続け…。
ついにこの日を迎えたのだ。
魔物の臓器も見えないかもと思ったけど、魔力が通ってないから見えるし。本当に魔物はいるんだな。あと妖精たちの存在も改めて感じることができた。
…ふふふ、ニヤニヤが止まらない。
(しかも調合がうまくいけば母親も救えるんだからな)
「うん!レイちゃんの誕生日だからか、妖精たちも賑やかだよ!さぁ!水やりも終わったことだし、家の中でパーティーしよう!僕の天使!!」
……水やりを終えた父親が、何かの臓器をもってニヤニヤとしている私を見て卒倒したことは、本当に申し訳なく思ってる。
レイ・モブロード。4歳なりたて。
ついに母親を救うための素材を手に入れた瞬間である。
しかし私は気づかなかった。
この調合で私の平穏な日々は遠のき、
赤髪の少年にキレまくられる日々に変わってしまうことになってしまうとは。
次回、いよいよツンギレとの初対面の瞬間です!
お楽しみに!