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〇〇は、異変を察知する


干上がった地面にジリジリと照りつける黒い太陽。


そんな砂漠に1つポツンと現れる異質な森。

「死の森」と呼ばれるその場所は常に黒く淀んだ霧が滞っており、一度森に足を踏み入れてしまえば二度と外に出られない迷宮。


森の中は魔物の巣窟。そこを切り抜けることができた者のみがたどり着けるその場所こそ。かつて伝説の勇者と聖女によって封印された魔王が根城としていた、この世で最も危険な場所である。


普段は物音1つせず、まるで幽霊城のような場所なのだが…………


「はあああああああああ!!!」


なぜかこの日は城の中で1人の少女が怒りに身を震わせ、家具破壊を繰り返していた。


「ねーいい加減にしてよ。そんなことをしてもなにも変わらないでしょー?」


「そんなこと知ってるわよ!それでも気が済まないわけ!」


真っ黒のゴスロリワンピースに身を包んだ少女は、近くにあった椅子を掴み思いっきり床に叩きつけた。

ピンク色の髪を乱しながら発狂するその様子は、可愛らしい見た目からは想像できない。


「あーあ、それ彼のお気に入りのイスだよ?ボクしーらない。」


「だって信じられる!?このアタシの!最恐呪文が破られたなんて……!!そんなの!そんなの!!あああああああ!!忌々しい!!」


緩やかに巻かれていたはずの少女の髪が、抑えきれない怒りを表しているかのようにうねうねと動いている。

少女の怒り狂う様子にニヤニヤとした笑みを長すぎる袖で隠しながら、少年はポケットに手を突っ込んでボロボロのソファの上に飛び乗り体育座りをする。


「別に初めてじゃないだろう?前にも破られたことあるじゃないか。」


「いつの話してるのよ!しかもそれはすぐに始末したわ!」


少年は机の上の皿に入ったオタマジャクシのように黒く蠢く塊を、数匹口に放り込んだ。


「そうだねー。キミが()()()()と称して怪しい魔法使いたちをほとんど全員排除するほどガチギレしたのに、まさか逃してるわけないもんね?」


「ちょっとダニー……アンタバカにしてんじゃないでしょうね?」


ダニーと呼んだ少年の胸ぐらを掴み、キッと睨みつける。

心底驚いた表情を浮かべた、少年は両手を挙げニッコリと微笑む。


「よくバカにしてるってわかったね!すごいよメディ!成長したね!」


「………今すぐここで固めてやりましょうか?」


「ええ?やめてよー。ほらその物騒な子たちを抑えて。」


少年が彼女の髪をおもむろにひと束掴むと、その毛先一本一本が蛇へと変化する。

彼らは舌を出し入れして少年に威嚇している。


「うわー相変わらず気持ち悪ー。」


「このメディシアナ様の眷属を貶すなんていい度胸してるわよね!アタシが本気を出せばアンタなんて一発でカッチコチよ!」


「石病とかいう治っちゃう病なら全然怖くないよーだ。」


「っ!!殺してやる!!」


グワッと少女の髪が文字通り牙を剥いた瞬間、タイミングを見計らったように1人の長身の男が窓から部屋へと入ってきた。

大きく広げていた翼をしまい、ぼさっとした黒髪を掻き毟りながらため息を吐く。


「まーたやってんのかお前たち。後始末は俺なんだから少しは自粛しろって。」


「あ、ガンマじゃん。おかえりー。」


「だってダニーが!!」


「だってもないだろうが。いい加減子供じゃないんだから冷静になれ、メディシアナ。300年以上生きてんだからよ。」


ぐっ…と言葉が詰まる少女にこれ幸いと間合いを取る少年。ヘラヘラとした様子を咎めるように男は続けて叱る。


「ダニエルお前もだ。からかったりしてる暇があんならちょっとは俺の仕事手伝え。」


「えーやだよ楽しくないし。ちょっとふざけただけじゃん?全くジョーダンが通じないんだから。」


いじけたように口を尖らせそっぽを向く少年に再度ため息を吐くと、長旅で疲れた身体を癒そうと自分の定位置を探す。


「あれ?俺のお気に入りの椅子は?」


「メディが破壊してたよ?はいこれ木片。」


「またかよおい……あれ手に入れんの苦労したんだぞ?」


「知らないわよ。投げやすい形をしてるのが悪いんじゃない。」


「身勝手すぎる理由に驚きを隠せねぇよ。つかなんで木片だけ手渡してくんの?なに?新手のいじめ?」


長く息を吐き、仕方ないように少年の横に座りこむ。


「で?なににそんなキレてんだよメディシアナ。」


「アタシの呪文が破られたのよ!」


「は?お前の石病(あれ)が?マジで?」


「そうよ!魂を回収できなくて散々だわ!」


「おいおいそれ大事件じゃねーか。どこの誰がやったんだよ。」


「それが全く分からないんだよね。メディの呪いを治すポーションを作れるとなると…それこそ妖精級の高濃度の魔力が必要なわけじゃん?でもそんなヤツどこにもいないから、メディがご乱心ってなわけ。」


「ああああ!!ムカつく!!」


また怒りがぶり返したのか、今度は床に転がっていた枕を引き裂き踏みつける少女。


「ねぇ待ってそれ俺の枕。なんで俺のもんばっか攻撃すんの?狙ってんの?……でもよ今メディシアナの呪いを解除できる可能性がちょっとでもあるのは収集の魔女って言ったか?そんくらいだろ?」


「はぁ!?収集の魔女ですって!?無理よ無理!あんなザコじゃ話にならないわよ!なめないでよね!」


「でもさ、ソイツ今変な動きしてるんだよね。」


「……変な動き?」


少年が空中に手をかざすと世界マップのようなホログラムが出現し、指でそのマップを操作する。


「メディの魔女狩りの数少ない生き残りだからさ、念のため気になって真っ先にボクのオモチャに調べさせたんだけど………。」


「いつのまにそんなことしてたのよ。」


「まぁ聞いてよメディ。」


少年は怪しく笑ってある特定の地域を拡大した。


「実は収集の魔女がこの村を出て行ったあと、この村の住人にかかっていたキミの呪いが破られたんだよ。」


「はぁあああ!?なんですって!!?」


「すげぇなダニエル。お前どこにかけた呪文が突破されたのかまで分かるのか。かけた本人は感覚でしか分かんねぇのに。」


「ボクをそこの脳筋と一緒にしないでよね。…しかもそのあといろんな場所に姿を現してはすぐ移動するんだよ?今まで通り収集の目的なら数ヶ月は同じ場所に留まるはずなのに!これって絶対なにかあるよね?」


「まさかあの女に匹敵するほどの能力を身につけたとでも言うの!?ザコのくせにぃいい!!許せない許せない!ぶっ殺してやる!!」


「だから聞いたじゃん。魔女狩りで見逃したんじゃないの?って。キミってほんと詰めが甘いからさー。」


「煽るなよダニエル。城が吹っ飛ぶぞ。」


はぁ、と再度深くため息を吐き指示を出す。


「しょうがねぇ…じゃあダニエルは引き続き収集の魔女を追え。可能性があんなら消しといたほうがいいからな。」


「いいよー。」


「ちょっと!なんでアタシじゃないのよ!」


「お前はすぐ暴れて目立つから待機だ。お菓子買ってきてやっから待っとけ。」


「くぅぅうう!!……っダニー!捕まえたらすぐにアタシの前に連れてきなさい!ズタズタに引き裂いてやるんだから!」


「はいはい、気が向いたらね。で?ガンマはどうするの?」


「仕事の続きだ。おじさんは忙しいんだよ。」


窓に長い足をかけて飛び立とうとするが、ふとなにかを思いつき少女に声をかける。


「そうだメディシアナ。念のためその村に部下を送っておけ。」


「はぁ?なんでよ。」


「そこの村、なんでか知らんが聖剣を持ってるヤツが警備しててよ。前からちょびっと気になってたんだ。この機会だしなんかあんなら探っといたほうがいいしな。」


「?意味わかんない。」


「ええ…今ので分からないの?ほんと残念な脳みそだねメディ。」


「うるさいわね!…ふん!いいわ!テキトーになんか送っとくから!」


「おーそうしとけ。じゃあな。ちゃんと布団掛けて寝ろよ。」


そう言って窓から身を投げた男は、翼を広げて満月の夜空に消えていった。

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