転生者は、最後の目的を、達成する
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リビングからまだ騒がしい声が聞こえるが、私はそれどころではない。
目の前にある扉は母親の部屋につながる唯一の出入り口だ。
遠くから部屋の様子を覗いたことは何度もあるが、実を言うと中に入ったことは一度もない。
というのも母親であるエマ・モブロードが、娘である私に自身の弱った姿を消して見せようとはしなかったのが大きな要因である。
「レイちゃんの中の私は、笑顔がステキなお母さんでありたいの。」
ドアノブを握る前に、以前盗み聞きした母親の願いが思い起こされる。
今まではその思いに配慮してあえて入らないようにしていたが。
「お母さん、入るよ。」
それも今日で終わりにしてみせる。
ポーションを入れたポシェットにそっと触れた後、母親の返事を待たずに部屋へと侵入した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな風に気合いを入れて部屋に入った私が馬鹿らしい。
「あら?レイちゃんおかえりなさい。」
なんかめっちゃくつろいでるんですけど。
母親はベッドに横にはなっているものの、雑誌を広げてニコニコ笑顔で私を出迎えた。
「ちょうど良かったわレイちゃん。貴方に新しいお洋服をと思っていたの。」
「その雑誌、王都で販売されてるやつ?」
「そうそう。ここで可愛らしいお洋服があったら参考にするのよ。」
「なんの参考にするの?」
「ふふふ。いいからいいから。さぁレイちゃんは何が好きなの?」
渡された雑誌には既に赤ペンでいくつか丸がしてあった。こういう雑誌とかは前世とよく似ているよな…とペラペラとページをめくる。季節ものの洋服、占い、観光名所……そのうちとあるページに目がとまり、まじまじと見つめる。
話題の魔法使い特集………だと?
どういうことだ。
全員イケメンじゃないか。
「あら?レイちゃんも女の子ね。もう気になりだしちゃうお年頃なの?」
いやお母さん、私が気になっているのはそこだけではない。なんでここの特集だけやたら折り目がついてたりかなり読み込んだ跡があるのは何故なんだ。
………さてはお主、熟読したな。
そんな私の視線になにかを感じ取ったのか、いたずらっ子のような表情で母親は暴露する。
「たまには現実離れしたかっこいい男性を見たいじゃない?」
ノリノリで身を乗り出し、嬉しそうに眺める母親。
「ふふふ。女の子は誰しもが一度はこういう王子様に憧れるのよねぇ……あ、エドワードには内緒よ?」
「それお父さんが聞いたらきっと発狂するよ…。」
「もちろんエドワードを一番愛してるわよ?こういう人はたまに見るだけで満足なの。」
美人は3日で飽きるっていうし、異世界でもそれは同じことなのだろう。改めて個人個人の顔を凝視し、大きく1つ頷く。
これは…いい。
「……私は右から二番目の銀髪お兄さんが好みかな。えくぼが可愛い、癒される。」
「王都指定調剤師ランディさん?レイちゃんはこういう人が好きなのね。てっきり一番左の戦闘魔術師さんみたいな人がタイプなのかと思ってたけど。」
「あー確かにカッコいいけどね…目つきが鋭くない?私は子犬系の優しい顔が好きなの。」
「ふふふ。まぁ理想と実際好きになる人は違うって言うしね。」
「ちなみにお母さんは誰が好きなの?」
「断然この人よ。」
「うぇえ!?ダンディすぎ!!お父さんと全然違うじゃん!これ知ったらお父さん発狂するんじゃない?」
「だから言ったでしょう?ここだけの秘密…ね?このページはレイちゃんにあげるわ。」
チョキチョキとハサミで切り取り、イケメン魔法使いが特集された記事を手渡ししてくる。
思わずそれを両手で受け取り静かにポシェットに入れた。………これはあとでじっくり見ておくとしよう。
それよりも本題だ。私は母親と好みのイケメン討論に来たのではない。
「お母さん、これあげる。」
「……?これはなにレイちゃん?とっても綺麗ね。まるで妖精の粉みたい。」
ポシェットから取り出したポーションを手渡すと、母親は不思議そうにそれを眺める。陽の光に当てたりして楽しんでいる様子を見るに、ポーションを見たことがないようだ。
「それは秘密の特別なお薬だよ。」
「……特別な?」
「教えてもらったから間違いない。」
さぁ飲んでくれと期待の眼差しを向けると、母親は少し顔を引きつらせた。なぜ?
ポーションを眺めていた瞳を私に向け、静かに呟く。
「これを飲むとどうなるの?」
「え?どうなるって……」
「私のこの病気が治るの?」
「えっと……」
思っていた反応と違う。
その台詞では、まるで治りたくないように聞こえるではないか。
私の戸惑いを感じた母親は、意を決したようにその心中を吐露した。
「私たち、レイちゃんは特別な力を持っているんじゃないかってずっと前から感じていたの。同じ年齢の子たちと比べてもかなり大人びているし、わがままも言わない。それになにより、とても妖精に好かれている。」
母親は私の頭をひと撫でし、手のひらを私に見せる。彼女の手には妖精の粉がキラキラと付着していた。
「妖精に好かれるというのは本当に凄いことよ。でもそれと同時に世界を変えてしまうほどの力を持ってしまうことを意味するの。もし、もしこれを飲んで私のこの不治の病が治ることがあれば………貴方が私の手の届かないところへ行ってしまう気がするのよ。」
私の身体を抱き寄せ、髪を優しく撫でる。
その手は微かに震えていた。
「まだ母親らしいこと何もできてないのに、貴方がここを巣立って行ってしまうような…。ごめんね、よく分からないわよね。でも貴方には危険な目にはあってほしくないのよ。」
初めて見た母親の弱気な姿。
そして改めて感じる母親からの愛情。
こんなに心配させているが、確かに私は愛されているのだと感じて少し嬉しくなってしまった。母親の想いに答えるように強く抱きしめ返す。
「そういえばお父さんにもさっき怒られたんだ。」
「…そう。」
「外出禁止だったのに窓から脱走しちゃってね。あんなに怒った姿を見たのはじめて。」
「それはレイちゃんのことが大切で、大好きだからよ。」
「うん大丈夫、分かってる。」
少し強めに母親を押して身体を離し、私と同じ瞳の色を真っ直ぐに見つめ返す。
「私もお父さんとお母さんのこと大好き。だからこそ守られるだけじゃなくて、私も2人のことを守りたいの。」
前世では叶わなかった、家族全員で幸せに暮らすという願いを込めて母親に言葉をぶつける。
「それでなにか問題が発生するようなら全部踏み倒して、最終的には幸せになるの。ちょっとやそっとじゃ私はめげたりしない。まぁ頼りないのは分かるけど、私を信じてよ。お母さんとお父さんの娘はそんなに弱くないって知ってるでしょう?」
ドヤ顔で胸を大きく一度叩くと、母親は何かに気づいたように笑い、そして泣いた。
「ほんと、変わらないわねレイちゃん。説得の仕方も前と同じだわ。……でもそうね、私たちの娘は優しくてたくましい女の子だものね。」
「えへへ、そうでしょう?」
「私も長生きしてレイちゃんみたいにたくましく生きないと……ね?」
「!…そうだよお母さん!女は度胸!師匠も言ってた!」
「ふふ、調剤師さんが言うなら間違いないわね。レイちゃんのステキな力を借りるとしましょうか。」
『ソレソレ!一気飲みダー!』
まるで飲み会のような合いの手を入れる妖精の声が聞こえていたのか、はたまたただの偶然なのか。母親は、手にしていたポーションを一口で全て飲み干した。
緑色の光に包まれた母親はさらに美しくなった。
白すぎた肌は健康的な肌色となり、少しこけていた頬は柔らかそうな弾力を取り戻している。
なるほど、私の顔が凡人なのは父親の影響か。
かなり失礼なことを思いつつも、母親にこんな疑問をぶつけた。
「今の気分はいかがですか、お母さん?」
「ふふふ、そうね。とっても幸せよ。」
なら私も幸せだよ、お母さん。
心からじわっと溢れてくる暖かい想いに身を任せ、思いっきり母親に抱きついた。