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転生者は、怒られる


「ッチ…なんでお前がそんなに泣くんだよ。泣き止むの時間かかりすぎだろうが。」


「もらい泣きに弱くてさ…本当よかったね。今までの人生で一番泣いたわ。」


「まだ数年しか生きてねぇくせに、何言ってんだクソモブ。」


「…うん。呼んでくれるのは嬉しいけどさ、もうちょっとなんかないの?」


「うるせぇ!!呼び方なんてオレの勝手だろうが!呼んでもらえるだけありがたく思えよ!」


「えー…せっかくなら名前で呼んでもらおうと思ったのになー。まぁいいけど。」


この一件でアルはだいぶ私に慣れてくれたらしい。これで今までよりは会わなくはなるだろうが、良いお隣さんとして今後過ごしていけるだろう。心の中でガッツポーズをし、我が家を目指して歩いているとなぜか父親が家の前で仁王立ちしているのが見えた。


あれ、なぜだろう。


すごく行きたくない。


「おい、なんでお前の親父さんあそこに立ってんだ?」


「ナンデダロウネ。」


「………なんで般若みたいな顔してんだ?」


「アレ、地顔。」


「嘘つくんじゃねぇ!まさかお前…」


そのまさかだ。


「実は昨日頭ぶつけて気を失ったからさ、1日外出禁止令がでちゃって……。仕方ないから今日は窓から脱走してきたんだった。えへへ。」


「何やってんだ!!猿かお前は!!!」


「ふぇ、だっふぇ!!」


頬を思いっきり引っ張られて、さらにグリグリ回される。その結果解放される頃には頬がリンゴのように真っ赤になってしまった。


「だって…そこまで気が回らなかったんだもん……。」


「なんでそこで窓から出るという発想に行き着くんだよ!逆に怖えよ!つうか気を失ったってなんだ!?安静にしてろ馬鹿!」


そんな風に馬鹿騒ぎしていれば、当然父親にはバレるわけで。

どこかのラスボスのテーマソングのようなBGMが流れてきそうな歩みで、ゆっくり私たちに近づいてくる。


「ヒィ!!キタ!あの顔はヤバい!怖い!助けて!!」


「しらねぇよ!自業自得だろうが!早く謝ってこいよ!」


「無理無理無理!!鬼もびっくりの形相だよ!!あんな顔してる人の近くに近寄りたくないんですけど!」


私がアルにしがみついて彼の背後に隠れると、父親の負のオーラが倍増する。


ヤベェ……私を、実の娘を殺る気だ!


「…あ"?おい待て…オレを盾にするな!」


「そんなこと言うなよ相棒!今だけ!今だけだから!!」


「ふざけんな!むしろこの状態が余計な怒りを買ってやがる!アイツから殺気が!」


「ヒィイ!やっぱり実の娘を!?助けてアルゥウウウウ!」


「ちがっ!…ぐふっ!首締まるだろうが!抱きつくな!」


お互い取っ組み合うように攻防戦を繰り広げていると、急に太陽の光が大きな影に遮られる。


「なんか楽しそうだね?僕の天使。」


私とアルは組み合った状態でフリーズしたまま、無言で視線を合わせる。

アルが父親の方を向きそうになるが、瞬きをせずアルの目を見つめることでなんとか思い留ませる。


やめろ、早まると死ぬぞ。


たらりと冷たい汗が額から流れると同時に、絶対零度の声が聞こえた。


「おかしいな…今日は外に出てはいけないって…ダディ、言ったよね?しかも、()()()と遊ぶくらい外に出たかったなら言ってくれればよかったのに。」


やけに男友達と強調しながら、父親が私とアルの肩に手を置く。(なぜかアルの肩からミシミシと音が聞こえるのは気のせいだろうか。)そしてそのまま、満面の笑みで私とアルの顔を覗き込んだ。


「僕も、一緒に遊びたいなぁ…?」


((守りたくないこの笑顔!!!))


打ち合わせしていないとは思えないほど息ぴったりに同時に走り出した私たちだったが、大人の全力に叶うわけもなく。


数十分にも及んだ悪魔の鬼ごっこの末、あえなく御用となったのであった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








腕を組んで私を見下ろす、絶賛お怒り中の我が父親。

そして正座にて反省中の私とアル。命がけの鬼ごっこの後にこの正座は辛い。


「僕がどんだけ心配したと思ってるんだい?」


「ごめんなさい……」


「朝起きたときにワタワタしてたからどうしたのかと思ったら、まさか窓から脱走する計画を立てていたとはね。」


「とっさの思いつきで…。」


「僕はね、結構、怒ってるんだよレイちゃん。」


「ご、ごめんなさい…。」


父親が言うことは最もだ。

せめて、せめて。


「窓から出る前に一言伝えてからにするべきでした…。」


「いや窓から出ることがまずダメなの!なんで玄関があるか分かる!?というかそもそもレイちゃん昨日運ばれて帰ってきたんだから、安静にしてなきゃダメでしょう!?」


「す、すみません…」


父親から手が伸びてきて思わず瞼をぎゅっと閉じると、頭の上に感じる手のひらの感覚。


「キミは僕とエマの宝物なんだ。頼むから危ないことはしないでくれ。いいね?」


「はい……」


トントンと頭を優しく叩かれると、その様子を見ていたアルが恐る恐る口を開けた。


「…その…レ……」


チラリと私を見たアルはなぜか急に咳払いをして言葉を不自然に区切る。

かと思えば気合いを入れるように勢いよく左右に頭を振り、


「モ、モブが脱走することになった原因は…その……オレにある……ので…」


すみませんでした。


素直じゃないし、謝る姿なんて1ミリも想像できなかった彼がペコっと頭を下げたのだ。


「明日槍でも降るの…?」


「てめぇ聞こえてんぞモブ。」


おっとこれはいかん。


すると父親がアルに近づき、彼の額にデコピンをした。


「い"っ!!」


「これで僕の可愛い天使を数日独り占めしたことはチャラにしてあげるよ。」


その後アルの頭にも同じように手を置き、数回撫でる。


「レイちゃんを家まで送ってくれてありがとう。それに、キミはわざと捕まってくれただろう?」


「え!?なんで!!」


思わず私が声をあげると、父親が困ったように視線を向ける。


「だって僕と一騎打ちだったら、意地でも捕まらないように逃げ回るつもりだったでしょう?レイちゃんは頑固で臆病だからね。彼もそれが分かってたから、程よいタイミングで捕まってくれたんだよ。」


「私は1人で逃げちゃうかもしれないのに?」


「あ"?お前はそんなことしないだろうが。」


「そう!僕の可愛いレイちゃんがそんなことするわけないよ。実際彼を捕まえたらしぶしぶ僕のところに帰ってきたじゃないか。」


まぁアル1人に父親を押し付けるのは、明らかに間違いだと思ったからね。これが全く知らない他人だったらバリバリ逃げるから。


そんな風に心で思ったが、口には出さないでおく。

そんなことを知らない父親はアルの頭も数回撫でて、ちょっと不気味なほどにこやかに笑った。


「よくレイちゃんのこと分かっているじゃないか!これからも"友達"としてレイちゃんと仲良くしてほしいな!あくまで"友達"としてだけどね!」


「…………………。」


「あれ?なんで返事してくれないの?」


プイっと視線を父親から視線を逸らしたアルは、どことなく顔が赤い。

その様子を見た父親は目玉が飛び出そうなほど目を見開いてフリーズする。かと思えばその顔が急に無表情になり、私へと大股で詰め寄った。


「レイちゃん。今後一切彼と2人きりになるのは禁止ね。遊ぶのも僕の目が届く範囲で。」


「は!?ふざけんな!なんでアンタに監視されなきゃなんねぇんだよ!」


「いいかいレイちゃん!!男はみんなケダモノ!!」


一体なんの話をしてるの。

そしてなんでアルがそんなに焦ってるの。


ガミガミと2人で言い争う姿を見て、思わず遠い目をしてしまう。


こんなの見てないで、お母さんにポーションを渡しに行こう。


はぁ、と短くため息を吐いて父親に声をかける。


「2人ともうるさいから私は妖精さんと常に一緒にいるようにする。じゃ、お母さんのところ行ってくるから。アルもここまで送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね。」


「お、おう……」


私は2つ目の目的を達成すべく、その異様な雰囲気の部屋から抜け出した。






































「あっはっはっ!!!妖精に負けてるねキミ!!哀れ!!可哀想!!」


「うるせぇ!アンタもだろうが!父親のくせに!」


「それ言われちゃうと辛い……グスン………」


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