転生者は、1つ、目的を達成する
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「ほんとごめんね…助かりました…」
「あ"ー!うるせぇなこの野郎!んなことより体調はどうなんだよクソが!」
「おかげさまで動けそうです…。」
横にしていた身体を起き上がらせ、一度大きく伸びをする。
時間にしてどの程度かかったかは分からないが、どうやら吐き気や頭痛の波は過ぎ去ったらしい。特訓の成果を感じられて大満足である。
「いやぁ、特訓しといてよかった。やっぱり吐き気とかハンパないって。」
「へぇへぇそうかよ。ったくとんでもねぇもん作りやがって。」
アルは私に濡らしたタオルを投げつけ、その勢いのままポーションを指差す。
「今回こそ"ザ・ポーション"って感じだよね。いえーい大成功。」
「大成功どころじゃねぇよ!コレの価値本当に分かってんのか!?」
『最高レベルのポーションだネ!』
『妖精王サマのモノを使ったんだから当たり前だヨ!』
どうやら緑色のポーションはハイグレードポーションと呼ばれ、王都で大金を出しても手に入るかどうか分からないような高級品のようだ。そんなものを3つも作り出せるって結構チートじゃない?黒歴史が増えていくけど。
「というかなんで3つも作れたんだ?」
『材料大量に持ってきたシ、いつもよりミーたち頑張って妖精の粉を出したからネ!一個多めにできちゃったノ!』
『ほめてホメテ!』
「やるなぁ妖精。」
「おい!!そこで話を完結させんな!わかんねぇだろうが!」
アルをなだめながら3つのポーションをじっくりと観察する。妖精の粉が含まれている影響なのか、ビンを傾けるとキラキラとした光が液体の中でクルクル生きているかのように動き回る。
こんなので本当に治るのだろうか。
(ゲームじゃあるまいし。)
そうは思うがアルがここでのんびりしているということは、おじいさんはもう回復をしたということだろう。
ん?だったらなんでポーションが3つあるんだ?
「ん?あれ?」
「あ"?今度はなんだよ!」
「なんでまだ3つポーションがあるの?」
「そりゃ使ってねぇからだよ。」
「なにしてんの!私のタオルよりおじいさん優先でしょ!おバカさん!」
「うるせぇ!お前待ちだっての!立てるようになったなら来い!オレは使い方しらねぇんだよ!」
乱暴に手を引かれ、足がもつれながら先へ進む。そしてその勢いのまま思いっきり引き戸を開けた。
「ジジイ入るぞ!」
「それ扉開ける前に言うやつ!」
案の定ぽかんとした表情のおじいさんがこちらを見つめていた。
壁に耳をつけた状態で。
「なにしてんだクソジジイ…!」
「す、すまんのぉ。その…出来心というか…のぉ?」
「な・に・が!!出来心だ!!あ"!?病人は大人しく寝てろ!」
「だってのぉ!女の子が家に遊びに来てるんじゃぞ!気にならんほうがおかしいじゃろ!?」
病人の首元に掴みかかるその姿は、オヤジ狩りの光景にしか見えない。
……というかおじいさん元気だなおい。
「さあ!ようこそレイちゃん!ゆっくりしていっておくれ!!ワシのことは気にせずに!」
アルに掴まれたまま私に親指を立てて満面の笑みを浮かべるおじいさん。
気にするなと言われても無理なんだが。
若干引いてしまったが、挨拶がまだだったと思いなおす。
「あー…えーと…お邪魔します。あと私としてはおじいさんに用があるといいますか……」
「な、なんじゃと!?ワシにか!このおいぼれジジイもまだまだ捨てたもんじゃないのぉ!」
「てめぇ調子乗んなよ?もう一度血反吐吐かせてやろうか?あ"!?」
「おやおや…ジジイに負けるなんてまだまだじゃな!情けないぞアルよ!」
「んだとゴラァ!!別に負けてねぇし!……っつか勝負もしてねぇよ!!なに言わせんだ!!」
真っ赤に怒るアルに大笑いするおじいさん。
その2人の光景に、この間会いにきたときのような切迫感は感じられない。アイビスの花がうまく作用していたのだろう。本当に良かった。ちょっと元気すぎる気がするけど。
「ちょっとアル、一応おじいさんは病人なんだからそんなに手荒にしたら可哀想だよ。」
「おお!心配してくれるのかい?ジジイはまだ元気じゃぞ!」
「まぁそんな感じはしますけども、とりあえずベッドに横になってください。」
私がそういうと2人ともしぶしぶといった様子で離れ、おじいさんはベッドに横になった。その拍子に枕元にあったアイリスの花がふわりと揺れて、緑色のキラキラ光る粉が宙に舞う。
「アルから聞いたよ。この花を持ってきてくれたんだとのぉ。ありがとう。」
「いえいえ。それに本当に渡したかったのはこっちです。」
おじいさんの手を掴み、手のひらにポーションを乗っける。数秒ポーションを見つめた後、おじいさんは驚愕の表情を浮かべた。
「こ、これをどこで!?」
「……話すと長くなるのでとりあえず飲んでください。」
「こんなもの受け取れんよ!ワシはこれに見合うほどの対価を持っておらん!」
「対価ですか…?」
「そうじゃ!アイリスの花も貰っておきながら、このポーションまでとなっては!そこまでは甘えられんよ!」
グイグイと私にポーションを押し返してくるおじいさん。気にしなくてもいいといってもこの様子では聞いてくれなそうだ。見返りを求めない善意というのは怪しまれるものだが、私は説得という行為がなによりも苦手なのだ。
やめた、面倒くさい。
飲ませてから考えよう。
「アル、おじいさんを羽交い締めにして。」
「さっきと言ってること真逆だけどいいぜ。」
「なんでじゃ!!」
幼い子供たちに押さえつけられる老人。
そしておじいさんが反論しようと大きく口を開けた瞬間に、ビンを口に差し込んだ。
「ごふっ!」
「さぁ、全部飲んでくださいね。」
「ま、魔物みてぇな顔してるぞお前。」
レディにむかって失礼な。
……確かにちょっと楽しんでいたのは事実だけども。
ピカッとおじいさんが緑色の光に包まれ、一瞬にして髪と肌にツヤが戻る。
『ワーイ!ミッション完了だヨ!』
……本当に効いたのか?これ?
やばい、私では判断ができない。
周りから興奮した妖精たちの声が聞こえるが、私にはおじいさんがちょっと若返ったようにしか見えない。
どうしようもないので固まっている2人の様子を観察していると、しばらくしてからアルがおじいさんの拘束を解きブリキのおもちゃのようにゆっくりと動き出した。
「負のオーラが消えてやがる……すげぇ。前の……ジジイだ……。」
あ、治ってるっぽい。
よかった。じゃあドヤ顔しとこ。
「まぁ?そりゃハイグレードポーションですしね?チョチョイのチョイですよ!」
「そんな貴重なポーションを…ワシなんかのために………」
「……えーと。」
頭を抱えてしまったおじいさんの様子を見て、やはりちょっと強引だったかと言葉が詰まる。
本当そんな気にしなくていいんだけど。
「おじいさん。私とアルはおじいさんともっと一緒にいたくて頑張ってソレを作ったんです。そんなこと言わないで欲しいなぁ…なんて。」
ね?とアルに同意を求めて視線を向けると、彼は静かに涙を流していた。一瞬驚いたがそれはそうだろうと思い直し、アルに近づいて彼の頬に触れる。震える瞳が、確かに私を写した。
「治ったんだよな。」
「そうだよ。」
「夢じゃない……よな。」
やはり男の子とはいえ、まだ幼い。
身近な人の死が回避されたことで、緊張が緩んだのだろう。
ポロポロと真珠のように涙を流す姿を見て、思わず抱きしめる。
「苦しい、暑い。」
「そう思うってことは現実でしょう?」
「あぁ……」
よかったと小声で零し、私を抱き締め返してくる。チラリとおじいさんの様子を見れば、本当に驚いたように私たちを見つめていた。
「そんなに…思ってくれてたのか…」
「当たり前じゃないですか。その花はアルの心に直結しているんです。おじいさんを護りたいっていう気持ちが強いからこそ、癒しのアイビスになったんですよ?だから素直にここは喜んでくださいな。」
途端におじいさんもポロポロと大粒の涙を零し、私とアルをまとめて抱き締めた。
「そうじゃな…2人とも本当にありがとう。」
「素直でよろしい!ね!アル!」
グスッと鼻をすすり、顔を真っ赤にしたアルがおじいさんを睨みつける。
「もう手間かけさすんじゃねぇぞ。」
「そうじゃな…すまなかったのぉ……」
号泣してるくせに、素直じゃないなぁ。
それでも、幸せな瞬間ってこういうことなのだろう。
そう思い、あっと思わず声が漏れる。
「?どうしたって…顔面すごいぞお前。」
「アルよりはマシだと思う……グスッ……もらい泣きしてたら鼻水垂れちゃった…ズッ……そこのティッシュ取って。」
「はっ、お前の方がすげぇよ。」
3人で抱き締めあっている狭い中、アルが懸命に手を伸ばしてティッシュを取る。
「ほら使えよ。
…………………モブ。」
彼はこの時、初めて私の名を呼んだ。