転生者は、ポーションを作る
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気づけば密かに目標だったブックマーク50件を突破していてびっくりです…!
今後ともよろしくお願いします!
吸って吐いて深呼吸。
肺いっぱいに酸素を送り込むこの作業を、幼馴染の家の前で永遠と繰り返す変人。
そう、私だ。
『ネー!レイちゃんまだナノ?』
『早く行こうヨ!』
「待って、あとせめて3回深呼吸させて。」
この日がついに来た。
魔力放出という特訓で自身の才能の無さに泣きそうになりながらも、ついにポーションを作る運命の日を迎えることとなったのだ。
以前ワンダさんから渡されたポシェットを覗き込み、再度指差し確認を行う。
セイレーンの涙、おっけー。
体力の花、おっけー。
化け鼠のヒゲ、おっけー。
そしてゴルゴンの肝、おっけー。
『エー!レイちゃんそれ4回目だヨ!』
『シツコイー!』
「お黙り!だって忘れてたら怖いじゃん!やべぇ腹痛なんだよ今!」
ワンダさんの強肩から放たれた木箱にノックアウトされ、気がついたら次の日だった私の気持ちが分かるか。
もっと意気込んで臨むつもりだったのに、なんの覚悟も決められないままこの日を迎えてしまった悲惨さは果てしない。
私はちゃんと覚悟を決めないと緊張がお腹にくるタイプなのだ。
それでも、ここまできて何もしないなど本末転倒。バクバクとなる心臓を押さえつけ彼の家までやって来たのだ。手汗も半端ないがついに扉をノックする体勢へと移行する。
「あとはノックするだけ…2回…トントン…」
『レイちゃんハヤクー!』
「こういうのは焦っちゃだめなの。万全の状態で……そうだ念のためもう一度確認を」
「いつまで人の家の前でタラタラしてんだ鬱陶しい!!さっさと入れ!!」
私がポシェットの中身をもう一度確認しようと下を向くと同時に、痺れを切らしたアルが思いっきり扉を開け私を家の中へ引っ張り込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ッチ、ほら飲め。」
「ありがとう…。」
アルから水を渡されてようやく冷静さを取り戻す。
「10分以上独り言言いやがって。オレじゃなかったら通報されてるぞ。」
「おっしゃる通りで…。」
確かに他人の家の前でブツブツ独り言を言っていたら危ない人に間違いない。今後気をつけよう。そう心に決めて水をがぶ飲みし、自分の頬を2回叩いた。
「…大丈夫か。」
「実を言うとかなり緊張してる。」
アルの前に自分の手を突き出すと、他人から見ても細かく揺れているのが分かるほど震えているのが分かる。
特訓したとはいえ一度経験してしまったあの不調を思い出すと、何もしてないのに具合悪い気がしてくるから不思議だ。
「でも大丈夫。絶対成功させるから安心してレイちゃんに任せなさい。」
「……。」
若干引きつった私の顔をじぃっと見つめたアルは、一つため息を吐いた後に私の汗ばんだ右手を攫う。
……なぜ手を繋ぐ必要がある?
どういう意図があるのか分からず問いかけようとすると、その上から被せるようにアルが言葉を発した。
「で?手に入ったのかよ、魔物の内臓。」
「え?あー、ゴルゴンの肝ね。うん、このポシェットの中に入ってるよ。さっきアルの家の前で4回は確認した。」
「確認しすぎだろ…馬鹿か?…あぁ馬鹿だったな。」
「いやいや確認作業は大事だからね?」
「そもそもオレの家まで来てんのに、そこで確認しても遅いだろうが。」
「ぐうの音も出ない。」
たかが数日アルと会っていなかったのに、この気の抜けた会話が酷く懐かしい。気づけば激しく音を立てていた心臓も落ち着いていた。もっとリラックスさせるためなのか、アルが私の指をマッサージするようにほぐす。
「あ"?これささくれじゃねぇか。ちゃんと保湿しろ保湿。」
「えー保湿するものなんて持ってない。」
「あの村になんか売ってんじゃねぇの?すぐ近くなんだから買いに行けよ。」
「………お金くれる?」
「なんでオレが!甘えんな!自分で買え!」
手厳しいなと笑う私と呆れた表情でマッサージをするアル。
はぁーっと呼吸を整えるころには、もういつも通りの私だった。
「……大丈夫か。」
アルも私の顔を見て、静かにもう一度問いかけてきた。
「うん。……ねぇお願いがあるんだけど。」
握られた手に力を込めて私も尋ねる。
「ポーション作る時さ、このまま手を繋いでていい?…手汗ひどいし、またぶちまけるかもしれないけど。」
一瞬キョトンとした顔を見せたアルだが、軽く吹き出し私の手を握り返す。
「今更だろ?そんな顔すんなばーか。」
なんと心強い言葉だろうか。
頼りにしてるぜ相棒。
それならばと片手でポシェットから素材を全て取り出し、目の前に並べる。
右からセイレーンの涙、体力の花、化け鼠のひげ、そしてゴルゴンの肝。
さぁ、運命の時だ。
『アイヨー!ミーたちの出番!』
陽気な声とともにキラキラと光る妖精の粉がそれらに降りかかる。金粉のように煌めき、それぞれの素材が眩い光に包まれた。
それを合図に片手でゆっくり、少しずつ妖精の魔力を素材へと放出する。
血液がゆっくりと全身から抜かれていくような感覚だが、安定している。急激な貧血による中断は心配しなくてよさそうだ。
『レイちゃんあと少しだヨ!ガンバレー!』
『ガンバレー!』
その妖精の声を聞き、思わず瞼をぎゅっと閉じる。大丈夫、もう少しだけ。あと少し。
全身が妖精の魔力に反応して細かく震え出す。危険信号だ。
寒い、気持ち悪い、頭痛い。
(だが耐える!)
頭を緩く左右に振り、今一度集中する。
すると流石我が幼馴染、私の背中をゆっくりと摩り出した。なんとできる男か。
少し気分が楽になりゆっくりと目を開けると、視界を覆うほど眩い光に包まれる。
気づけば目の前にあった素材が全て消え、いつのまにか緑色に光る液体が入ったビンが3つ置かれていた。
(せ、成功…?)
『カンセー!』
『ワオ!ハイグレードポーションだヨ!オメデトー!』
『レイちゃんオツカレー!』
妖精たちは興奮したように至るところから叫んでいるが、それどころではない。
身体の震えは止まらないが、目の前にあるものこそ私たちが求めたもの。
(ついにやった…!これで助けられる!)
感極まった私は少し涙ぐみながらアルに視線を向ける。その視線に気づいたアルはなにかを決心したような表情で一度大きく頷くと、おもむろに立ち上がる。無言で繋いでいた手を離し、どこかへ行ってしまった。
(ええ……このタイミングで?)
すると数秒と経たないうちになにかを持って
戻ってきた。再度私の隣へ座り気遣うように私の背中を摩ったあと、目の前に洗面器をそっと差し出す。
「………さぁ、遠慮すんな。」
(いやそうじゃないだろう。)
だけど具合悪いのは当たっているので、お言葉に甘えて拝借した。