転生者は、魔女と過ごす〜6日目〜
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最近では一段と賑やかになった魔女の家。
荒れ放題だった庭も、ギシギシと軋む床も、幽霊が出て来そうで漏らしそうになっていたあの日も懐かしく思える程度に私の心は強くなった。
「うええええ……気持ち悪っ!!」
「なんだい根性なし!この程度でギブアップかい!!シャキッとしな!この程度の魔力放出で呻いてるようじゃ、お前さんが欲しがってるポーションなんて作ったら血反吐を吐くことになるよ!ほら!もう一度だ!」
「どぅえええ……」
身体が一向に魔力に馴染んでくれる気配はないけれど。
才能なさすぎワロタ。
「そろそろ一度休憩したらどうだ。こちらに戻って来てからぶっ続けで特訓しているだろう?」
ワンダさんに踏みつけられて虫の息になっている私を見かねて、魔女の家の中からクラウスさんが声をかける。
日にちにすれば昨日の朝。
アイビスの花をプレゼントした後。
ワンダさんが石病用ポーション作成に向けて本格的に特訓してくれるようになった。
我が家へはクラウスさんが直々に説明をしに行ってくれて、残り2日泊まり込み修行の許可を貰ってきてくれたのだ。
どうやって許可を貰ったのかは一向に教えてくれないから少々不安だが。
ともかくほぼ一日、休みなく魔力放出の特訓を続けているわけで。
「休憩ぃ?なにあまっちょろいこと言ってんだい!コイツは休憩できるラインにも立てちゃいないよ!」
「休憩をしなければ集中力も途切れてくるだろう。誰もが貴方のような超人ではない。」
「く、クラウスさん…神。」
正直もう身体がヘトヘトで腕すら挙げられる気がしない。無残に床に転がる私を見てワンダさんは盛大にため息を吐いた。
「それでも一番人から遠いお前にだけは言われたくないねぇクラウス!」
「?私は人間だぞ?」
「おーそうかい!!ならお前さんは何日間ぐらい寝なくても万全に動ける?」
「半年ぐらいなら余裕だな。」
おいバケモノかアンタ。
そんな私の視線に疑問を浮かべながら淡々と話し続ける。
「私は成人しているからこれくらいは当然だろう。それに周辺地域の事件は全て私の管轄だからな。それらの書類に目を通すには休みを献上する他ない。じゃないと締め切りに間に合わない。」
クラウスさんが手元にあった大量の書類をワンダさんに見せながら説明する姿を見て、思わず涙が出た。
(やだとんだ社畜勢じゃないですか!)
やらなければならない仕事に文句一つ言わず黙々と向き合うサラリーマンのように見えてきた。
とんだブラック企業に勤めていらっしゃる。
クラウスさんがとてつもなく不憫な人に見えてきて、激しく同情してしまう。
「こんなことで泣きつくなんてまだまだでした。クラウスさん、いや同士よ。……一緒にいい就職先、見つけましょうね。」
「なんでそんな憐れな者を見る目で見つめてくるんだ?」
「フェッフェッ!!なんだか知らないが、やる気になったんなら続きをするよ!」
「押忍!吐き気がナンボのもんじゃい!社会に出れば体調不良なんかで仕事休めないんだよ!!」
「よく分かってるじゃないか!さぁ!もう一度だよ!」
「うおおおおおおおお!魔力よ!!出ろぉおおおおお!!」
「…………。」
楽しそうだから、いいか。
そう思った社畜クラウスは、再度手元の書類に視線を落とし作業を再開した。
魔女の家、6日目開始。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そういえばクラウスさんとワンダさんって、いつから知り合いなんですか?」
あのまま狂ったように続けること数時間、ようやく妥協点に到達した私達は遅いお昼ご飯を堪能していた。そんな中ふと思い至った疑問を2人にぶつけてみる。
「いつからと言われると……どうだったか。」
「もう覚えちゃいないよ。100年くらい前かい?」
「…おそらく10年くらい前だ。私が剣を手に入れた時…貴方が奪おうとした。」
「あー?そうだったかねぇ?まぁ、10年も100年も変わらないさ!」
「そんなことないので、ワンダさん基準で話さないでください。あと剣って……」
ワンダさんを無視し、クラウスさんが私の前に鞘に収まった剣を差し出す。
鞘は年季の入った茶色、つかは金属が剥がれたかのようにところどころが禿げていた。
(こんな汚いの聖剣って?)
以前蘇った記憶で見た、金色に輝くいかにもな感じの剣が聖剣だと思っていたんだけど。
「フェッフェッ!相変わらず元気そうだねぇ!聖剣エクスカリバー!」
「えくすかりばー!?」
やっぱり聖剣なんだ!?
見た目ボロボロの剣を近くで見ようと身を乗り出すと、クラウスさんが微笑ましい小動物を見るような目をしながら私に剣を近づけてくれた。アンタは神か。
「やっぱりこれが聖剣なのかー!よく分からないけどかっけー!」
「ふっ…そうか?聖剣には見えないだろう?」
「ピンチになると輝き出すとかそんな仕様ですか?厨二病っぽい!触ってもいいですか!」
「?チュウニ…?…ああ、いいぞ。」
「クラウスさん太っ腹!じゃ遠慮なく。」
クラウスさんの許可を得て、興味津々で手を伸ばしたその瞬間。
私の脳裏に何かが過ぎった。
「まだ君には早かったようだ。」
そう淡々と告げる男の前に膝をつく青年。
聖剣エクスカリバーへと伸ばした彼の手が、まるでスライムのように溶けていく光景。
「ちょっちょっ!え!?まじで!?これでもダメなの!?ステータス足りてないのぉお!?」
そして静かにフェードアウトしていく視界。
一気に血の気が引いた。
「どうした?」
「いや、あの……なんか溶けそう。」
「溶けそう…?」
自分の手を見て溶けてないことを確認する。
(結構エグかった。)
でもなぜ、今、思い出したのだろう。
「安心していい。ほら。」
「え…」
クラウスさんは私の手を掴み、そっと剣に触れさせた。なんともない。溶けるようなことは起こらない。
(な、なんだ……ただの勘違いか。)
安堵の溜息を吐くとクラウスさんが優しく言い聞かせるように口を開いた。
「未熟者が"彼"の所有者になろうとしない限り、そんな乱暴なことはしない。」
やっぱり溶けることあるんかーい。
自分の表情が引きつり口の端が痙攣している。
その様子の私には気付かず、ワンダさんは思い出したように声をあげた。
「フェッフェッ!思い出したよ!ワタシもお前さんからソレを奪おうとした時、左手を持っていかれたんだった!あの時は笑ったねぇ!」
「……腕あるじゃないですか。」
「その後に生やしたに決まってるだろう?」
なにそれ怖い。
「それはそうだろう。貴方は魔力こそ卓越しているが、英雄としての素質はないからな。」
「いらないよそんな素質!フェッフェッ!」
大爆笑しているワンダさんに呆れながら、クラウスさんは続けた。
「魔力、剣術、そして英雄としての素質がなければエクスカリバーのマスターにはなれない。」
(あ、それ知ってる。)
その3つの要素を同じレベルまで上げるのが大変なんだよ。
(?レベル?なんのことだろう?)
自分でそう思ったのに、意味が分からない。
この疑問が晴れるのは、まだまだ先のお話。