転生者は、魔女と過ごす〜5日目②〜
9000PVありがとうございます!
ちょっと長くなりそうだったので区切らせてもらいました。
少し暗めのエピソードが続いてますが、もう少ししたらコメディに戻る予定です笑
「おい!なにしてんだよ!」
「静かに…だからガーデニングって言ってるでしょうに。はい、植木鉢持って。」
「お、おう…」
ワンダさんからもらった植木鉢にアイビスの種を植え、アルに無理やり持たせる。
いまいち理解していない様子のアルは、全身を固くさせて直立している。緊張してる様子なのでリラックスさせようとアルの肩を揉む。
「ほら、もっと肩の力抜いて。」
「お、おう…」
「いやいや逆逆!力抜いてって!」
「わ、分かってんだよ!!いいからそれ以上近づくな!ちけぇ!」
私の手を振り払い、小さく息を吐いたアルは大分落ち着きを取り戻した。
(これぐらい落ち着いたら大丈夫かな。)
一度大きく頷くと、妖精たちに声をかける。
「では特別隊、準備は出来てますか?どーぞ。」
『バッチリだヨ!レイちゃん!』
『お任せアレ!』
「……特別隊?」
「ではではこれからドキッ☆はじめてのガーデニング大作戦を決行いたします。」
「もうオレはつっこまねぇぞって…は!?」
植木鉢を持ったまま忙しなく周りを見回すアル。
「なんで妖精が!離れろクソが!」
「ダメダメ。そのままでお願いしますよ。」
「はぁ!?」
「大丈夫大丈夫。私を信じて。」
「ぐっ……」
舌打ちしながらも耐えるように目を閉じる。
恐らく妖精が身体中にくっつく感覚が気持ち悪いのだろう。だがそのまま耐えてもらわなければ困る。
「さぁアル、ちょっとそのままお話ししようか。」
「あ"あ"!?」
「えー…思い出話聞かせてほしいな。なんだかんだそういう話、アルとしたことないでしょう?おじいさんとはいつから一緒にいるの?」
植木鉢を持つアルの手に自身の手を重ね、彼に問いかける。
「ッチ……面倒くせぇな…」
そう言いながらも思い出そうと目を閉じるアルに合わせ、私も目を閉じる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数年前。王都。
オレには父親はおらず、ひっそりとした裏路地で母親と2人で住んでいた。
「かあさん!!かあさん!!」
「どうしたの?アルフレッド?」
母親も生まれつき魔法が使える人だった。
だから息子であるオレが赤髪として生まれたその時に、その魔力量の多さに魔法使いとしての素質を見抜いたのだろう。オレが2歳になったころには既に魔法やこの世界の知識をオレに教えてくれていた。
「みてみてかあさん!おしえてもらったまほう、もうつかえるようになったんだよ!」
「あら!すごいわねアルフレッド!もうお母さんより上手に魔法陣が組めるのね…あなたは自慢の息子だわ。」
そう言って頭を撫でてくれるのが好きだった。たとえ裕福な家庭じゃなくても、周りの人間から奇妙な目で見られたとしても、オレは確かに幸せだった。
「ねぇ聞きまして?あの魔王が復活したって…」
魔王復活、その噂が広まるまでは。
周辺の街、村々が魔物に襲われていったことに王族は焦っていたのだろう。襲われた場所に共通している部分はないのか。さまざまな学者や魔法使いが協力し合い、原因究明を急いだ結果が赤髪狩り。
たまたまかもしれない。
でもそうでなければ?
魔王は魔力を体内に大量に保持できる赤髪を喰らうため、村々を襲っているのではないか。
そんな噂が出てしまえばもう終わり。
気がつけば母親とともに日毎に住処を変えるような生活を過ごしていた。出会う人全員に悪意を向けられ、オレはすっかり捻くれた。食糧が手に入ればオレにほとんどを渡していた母親は、もうほとんど骨と皮だった。
そんなとき、じじいはやってきた。
「ほぉれアルフレッド!ワシはお前さんのジジイじゃ!なんならじいやと呼んでも構わんぞ!」
「うるせぇじじい。」
じじいも若い頃はそれなりに有名な魔法使いだったようで、母親の魔力の後を辿ってオレたちにたどり着いたらしい。変わり果てた母親の様子を見て涙を流し、それでも最期まで母親の看病を一緒にしてくれて、側にいてくれた。
母親が動けなくなったその時には、オレの魔力を媒体にして作れる隠れ家の魔法を教えてくれた。穏やかに母親が息を引き取れたのも、じじいがオレを守ると約束をしてくれたからだろう。
「ほれ見ろアル!あれが王都じゃ!お前さんが見ていた世界なんてこんなに小さい!」
「その話何回目だよクソじじい!黙れ!そして食器ぐらい洗え!」
「何度でも言うぞ!アル!ワシが死ぬまでずっとじゃ!」
「あ"ぁ"うるせぇ!!だったらすぐ死ね!あと洗濯物だせ!」
「なに言うかコヤツ!本当に素直じゃないやつじゃ!!この手にひ孫を抱くまで死ぬつもりはないからのぉ!」
「しつけぇな!あ"!?そこ触んな!まだ掃除の途中なんだよ!やっぱり邪魔だからそこ座っとけ!」
あの夕焼けの丘にある隠れ家で、ほとんど喧嘩しかしていなかったがそれなりに楽しく過ごしてた。
なのに。
「ひ孫抱くまで死ぬつもりはないとか偉そうに言ってたくせによ…。今死にかけてんのはどこのじじいだって話だよな。」
原因不明の病なんて面倒なモンにかかりやがって。
王都に行っても誰も助けてなんてくれなくて。
「きゃあ!赤髪よ!!」
「追い出せ!!」
卵やらなんやら投げられて腹が立った。
魔法で周りの人間を威嚇し、薬屋から可能な限り効きそうなクスリを盗み、そのまま隠れ家に戻ると、投げられたものでドロドロになったオレの姿を見たじじいは涙を流した。
ケガはないか。
辛かったろうに。
じじいが不甲斐ないばかりですまん。
そのあとすぐ、じじいは言った。
「のぉアル。王都とは全く雰囲気の異なる、ステキな村を見つけたんじゃ。じじいはそこでゆっくり暮らそうかと思うんじゃが…どうじゃ?」
「……隠れ家に住むのじゃいけねーの?」
「…すまんのぉ。ここの景色は好きなんじゃが…王都が見えない場所に行きたくてのぉ。」
嘘だ。
オレのせいだ。
オレが心配をかけたから。
オレを守るために、痛む身体に鞭を打って王都から離れたこの村に引っ越そうとしてるんだ。
そんなじじいの気持ちを感じて、でも否定できなくて、無言でその意見に同意した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……やっぱり優しいおじいさんだね。」
「ほとんど腹立つことしか言わねぇけどな。」
「でも大好きなんでしょう?」
「……………。」
「無言は肯定だよ。」
そういうと植木鉢を持つ手が震えてきた。
同時に種を植えた辺りから緑色の光が溢れ出す。あと少しだ。
「うるせぇ。」
「素直になりなよ。大切なんでしょう?」
「……。」
切なげに私に微笑んだアルは、確かに肯定した。
「ムカつくけどな………」
『キタキター!』
その想いに応えるように妖精たちが一斉に騒がしくなる。手元の植木鉢からは眩いほど光が溢れ、気づけばエメラルドグリーンの花が大きく咲き誇っていた。
「は!?なんだこれ!」
「やれやれ…もっと素直に生きるべきだよ。アル。」
この花の大きさが、君の気持ちを表しているのだから。