転生者は、特技と弱点を把握する
我が家の裏にある小さな広場。
そこにあるのはピンクや黄色のお花に囲まれた一本の大木。
木には鳥が住みそうな巣箱が設置されていて、妖精の粉と呼ばれる光の玉がそこからフヨフヨ浮かび上がっている。
「おお……やっぱり妖精たちはレイちゃんに興味津々だね。さすが僕の天使!…さぁ!ここにいる妖精たちにご挨拶といこうか!」
漫画でいえばバーーンという効果音がつきそうなほど両手を広げ、高らかに宣言をする父親を尻目に目の前の光景にフリーズする。
(ここにいる…妖精ねぇ……)
繰り返そう。
小さな広場にお花畑、真ん中には一本の大木。
………念のためゆっくり深呼吸をしてもう一度。
小さな広場にお花畑、真ん中には一本の大木。
………………よろしい。
まずは状況把握といこうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レイ・モブロード。
3歳にして夢の牧場デビューを果たしたは良いものの……
(まさか妖精が見えないという致命的な弱点があったとは!!)
こういうのは転生特典みたいなので備わってるものだとタカをくくっていたが、そんなことはなかった。
人生甘くなかった。
「よ、妖精が見えないなんて……。そんなことが……人は生まれながら魔力を持つ生き物だから誰でも見えるはずなんだけど……。」
おーっとちょっと待てダディ。
今聞き捨てならない台詞が聞こえたぞ。
それってつまり…
(妖精が見えない=魔力がないってこと?)
しかも誰でも見えるのが普通ってなに。
異世界に来たから大きくなったら魔法使えたらいいなーとか思ってた私の純情を返せ。
本気でへこみだした私の背中をさする父親。
しかし父親もなぜ私が見えないのか分からないらしく、困惑しているようだ。
「ま、まぁ!レイちゃんはまだ3歳だから!きっとまだ魔力が上手く使えないんだよ!だからしばらくはダディの仕事ぶりをそこで見ててね!レイちゃんに見てもらえてるならダディ張り切っちゃうから!」
「う、うん……」
誠に残念ですが仕方ありません。
しぶしぶ頷いた私を見て安心したのか、父親は早速作業に取り掛かった。
「さあ!ダディの後ろ姿を見てておくれ!おっと!!抱きつきたくなったらいつでも」
「だいじょうぶ。しごとして。」
まずは花の水やり。
ピンク色、黄色、オレンジ色と華やかな色合いが映えるこの花畑はきっと妖精が喜ぶ環境なのだろう。
『ああ!エドワード!!そこ踏んじゃダメ!ミーたちの王冠が壊れちゃうヨ!』
「おとうさん、そこ、ふんじゃだめだって。おうかんこわれるって。」
「お、おうかん?……おお!!いつのまに!?お前たちいつのまに花の冠なんて作ってたんだ…って足元でイタズラしないでくれよ?」
父親が私の言葉を聞いて、妖精たちの作品を踏まないよう避ける。その避け方を見ていると足元に妖精がいるのだろうか。
全く見えない、悲しい。
続いて。
大きくそびえる一本の大木。
樹齢数百年といったところか…いかにも妖精たちの家にするにはぴったりな場所だ。さぞかし気に入っていることだろう。
『あ、エドワード!!ミーたちのイタズラ、引っかかるカナ?どうカナ!?』
『あのまま木に触ったら爆発だネ!』
「おとうさん、き、さわったらばくはつだって。」
「ちょっ…ええ!?爆発!?まさかまた!?勘弁してくれよ!家ごと吹っ飛ばす気か!?なに爆発魔法仕掛けてんだ!」
木に触れる直前に気づき、妖精たちの悪質なイタズラに文句を言いながらも爆発魔法を解除する父親。
『あ!ちょっと!レイちゃん!言っちゃダメだヨ!エドワードの黒焦げ、見たかったのにィ!!』
「お父さんが丸焦げになったところで、腹の足しにもならないよ。」
『たしかに!エドワード丸焦げにしても、食べられないしネ!!』
『レイちゃん面白いネー!』
「ちょっとレイちゃん!不穏なワードが聞こえた!!なに!?僕が丸焦げ!?しかも急に流暢に話してない!?ダディを放って一体誰と……」
そういえば、誰と話してるんだろう。
もしかしてめちゃめちゃイタイ子だったんじゃ。
(……………………うっわぁ絶対そうだ。父親フリーズしてるし。)
「なんでもな」
「レイちゃぁあああんん!!え!!?レイちゃぁあああんんん!!息できてる!?大丈夫!!?!?今救い出してあげるからねぇえええ!エマァァア!!」
え、ちょっなに。
半狂乱になった父親は私を即座に抱き抱え、何故か私の顔を乱暴に拭きながら家の中へと戻る。
「ど、どうしたのエドワード。レイちゃんになにか……どぅえええええ!?レイちゃん!!!貴方レイちゃんなの!?早く!早く妖精たちを!!」
どぅえええええ!?ってなに?
アナタそんなキャラじゃなかったよね?
なにが起こったのか全く把握できないまま、顔を拭かれ、全身を叩かれ、また拭われた。
母親が杖を投げ出すくらい悲惨な状況なのかと思ったが、痛みもなにもない私にはさっぱり分からず。
「あぁ…よかったレイちゃん!元のレイちゃんに戻った…!」
「本当によかった……あのままレイちゃんにたっくさんの妖精が張り付いたままだったらどうしようかと…」
なにそれきもっ!!
どうやら私の姿が隠れるくらい全身に妖精が集っていたらしい。
そりゃ一瞬で娘がそんなになったら半狂乱になるわ。
「でもなんで妖精たちがレイちゃんにくっついてきたんだ?」
「本当なぜかしら?しかもあんなに妖精たちがレイちゃんに触れていたのに、レイちゃんは怪我の1つもしてないわ。」
『レイちゃんに触ってるとおしゃべり出来るんだモノ!ニンゲンとおしゃべりするの初めてだしネ!!』
………おしゃべり?
『ミーたちのことは見えないのに、こうやってレイちゃんに触れば声が届くから不思議よネ!』
「ああ!また妖精が!!ってなんで家まで入ってくるんだ!?こんなこと滅多にないのに!」
………ほほう。
なるほどそういうことか。
「おとうさん、おかあさん。
わたし、ようせいさんとおしゃべりできるって。」
「「は?」」
『人類初だネ!レイちゃんオメデトー!』
レイ・モブロード、3歳。
私の特技と弱点が露呈した出来事である。