転生者は、魔女と過ごす〜3日目〜
横並びに座る少女と少年と女。
少女は唸りながら手を開いたり閉じたりを繰り返し、少年は無言で手元の四角い黒い物体を握りしめている。その様子を女は鼻で笑いながら適当に本のページをめくる。
最初に根をあげたのは言わずもがな、私ことレイ・モブロードだった。
「ワンダさん……これいつまでやればいいんですか…。」
「あん?なんにも感じなくなるまでに決まってるじゃないかい!」
「そんな日が訪れるとは思えないんですけど……。」
「なんだいなんだい!すぐ弱音を吐いて…!特訓したいと言い出したのはお前さんだろう?レイ!」
「まぁ……そうなんですけど……」
横目で凄まじい集中力を見せる少年……アルを見ながらため息を吐いた。
「フェッフェッ!こういったことは小僧のほうが得意そうだねぇ?ほらほら集中しな!魔力に押しつぶされない強靭な肉体を手に入れたいんだろう?」
「……出来るんですかね?」
「99%無理だけどねぇ!!フェッフェッ!」
「………………….。」
魔女の家、3日目開始。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
事の始まりは昨日。
魔女さんが私とアルに大蛇を見せてくれたあの時、私は彼女に聞いたのだ。
もし妖精から魔力を貰って魔法を使えば、その人はどうなるのか。と。
彼女は答えた。
「下手したら死ぬかもねぇ!!」
(冗談じゃない!!)
家に戻った後妖精たちに詳しく話を聞いてみれば。
『ミーたちもレイちゃんに負担を掛けないギリギリのラインで魔力を渡してるヨ?』
『デモデモ!渡した後はテキトーにしちゃったけどネ!ミーたち細かいの苦手ナノ!』
(なんてこった。)
………つまりまとめると。
あの時私が死なずに成功したのは本当にたまたまで、かつ次もそうなるという保証はどこにもない。
さらにポーションを作るにはやはり、妖精たちの魔法が必要となるのは確実。
そして忘れてはならないのは、妖精は気まぐれだということ。
ポーション作りの最中に飽きて魔力を渡してくれなくなる可能性もなくはない。そんなことはしないとは思うけど。……それを抜きにしても、これは立派な死亡フラグだ。
もはや彼らに細かいことを伝える暇もなければ、基本お気楽に生きてる彼らには意味もない。
ならば、この状況を打開するべく出来ることといえば。
(大きな魔力を扱うには、魔力の放出に耐えられる身体を持つこと!!)
そう、妖精からの魔力の供給にも耐えられるようこの4歳児の肉体を鍛え上げることだ。……魔力皆無の干からび人間が、魔力の塊である妖精のチカラに耐えられるようにするなんて果たして可能なのか。それは私のやる気にかかってるのだ!
(……なーんて意気込んで現在に至る。)
魔女さんに修行をつけてくれと言ったらとてつもなくバカにされて、すでにそのやる気を半分以上失っているが。
そんな中、なぜかアルも魔法の修行がしたいと言い出した。
(その言葉で私を軽くあしらっていた魔女さんも、修行をつけてくれるようになったのだけれども。)
私は手首に魔法道具をつけて、その魔法道具自体が持つ魔力に身体をならす修行。
アルは私から離れたところで魔女さんから説明を受けていたから、なにをしているのか全くわからない。
これ以上、彼は何を習得しようとしているのだろうか。
「ワンダさんワンダさん。アルはなんの修行をしてるんですか?」
「まったく集中力のないガキだねお前さんは!」
「すいません。でも気になっちゃったら夜しか眠れないタイプでして。」
「眠れてるじゃないかい!」
(ほら、こんなやりとりをしていても反応しない。)
いつもならキレながらも会話してくれるのに、無視だ。それか全くこちらの声が聞こえていない。それほど集中してまで修行をしたいと思うなにかが、この数日であったのだろうか?
(なにか抱え込んでるなら、近所のお姉さんの特権で力になってあげたいのだけれど。)
「……そんな心配そうにするんじゃないよ。」
魔女さんはめくっていた本をどこかに放り投げ、私の頭を乱暴に一、二回大雑把に撫でる。
「アイツがやってるのは魔力操作の修行だよ。昨日私がアンタたちにやってみせたようなタイプのね。」
「??あー、眼球に魔力をコーティングっ!みたいなやつですよね。………それってあんなに集中してまで習得するべきものなんですか?」
「どうだろうねぇ?かなりコツがいる技術だが、その能力でできることなんて……せいぜいポーションづくりぐらいだろうさ!だか……」
言葉を区切ると、魔女さんはチラリとアルに視線を向けた。
「それすらもあの小僧には向いてないだろうねぇ……アイツの魔力は確実に戦闘向きだ。」
「???それ…アルは分かってるんですか?」
「フェッフェッ!分かってなかったら今までアイツは生きちゃいないだろうよ!」
「そ、そうですか……」
それならますます、意味がわからん。
「だったらなんであんなに頑張って修行してるんですかね?」
頭いっぱいにはてなマークを浮かべると、魔女さんは思いっきり吹き出した。
「フェッフェッ!アイツはアイツなりの想いがあって努力すると決めたのさ……これ以上の詮索は野暮ってもんだよ!お前さんは大人しく修行をしてな!この魔道具の魔力にも身体が怯えるようじゃ、妖精の魔力なんて到底受け止められやしないよ!」
「はーい…………って………妖精の魔力なんて私、使いませんからね。」
「はぁ……分かった分かった!いいからさっさと続きをやりな!このバカ弟子が!」
魔女さんは全て分かっているかのように微笑し、本を拾いなおす。その様子を見て私は疑問は残りつつも、死亡フラグを折るために修行を再開した。