転生者は、魔女と過ごす〜2日目〜
7000PVありがとうございます!
そしてブックマークなどなどありがとうございます!
相変わらずゆるっとストーリーは進みます笑
恋愛色が強くなるのはもう少し後になりそうです……
「ほら、コイツがなにか分かるかい?」
長い三つ編みを一つに束ね、伊達眼鏡をかけた美人が大きな紙を壁に貼り付ける。そして私の反応を観察しながら、まるで視力検査のように紙の中央を指し示した。
「その紙になんか書いてあるんですか?」
「というとレイ?お前にはこの紙が真っ白に見えてるってことかい?」
「………ただの真っ白の紙です。」
「………フェッフェッフェッフェッ!!なんだいレイ!!お前さん魔法陣どころか、魔法文字も見えないとはねぇ!!魔力ゼロ!救いようないねぇ!こんなヤツ初めて見たよ!フェッフェッ!ああ!お前さんに笑い殺されちまうよ!勘弁しておくれ!」
また何時ぞやのように床に転がりながら笑い転げる魔女を見て、深くため息を吐く。
「……アルには見えるの?」
「あ?見えるに決まってんだろ。」
「ちなみになんて書いてあるの?」
「……………。」
私をしばらく見つめ、諦めたかのように小さく呟く。
「ゴブリンにも読めるあいうえお。」
「フェッフェッ!!ゴブリン以下の魔力の人間なんて悲惨だねぇ!!フェッフェッフェッフェッ!ゴホゴホ!」
「………………。」
初めて他人に殺意が湧いた。
魔女の家、2日目開始。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで?いつまで転がってるつもりですか魔女さん。」
「フェッフェッ!おー怖いねぇ……!改めてお前さんの実力が分かって良かったじゃないかい!拗ねるなんてまだまだガキだねぇ?」
「別に拗ねてないです。」
もはや酔っ払っているかのようにダル絡みしてくる魔女さんから逃れるため、部屋の隅で体育座りをして気配を消す。
「おいそんな隅行くな。服汚れんぞ。」
「………………。」
どんなに大人気ないと言われようが、私は今日一日ここでヘソを曲げてやる。
いや…1日は無理かも。
30分くらいにしておく。
そう思いながら膝の間に顔を埋める。
「へっ…世の中なんてそんなもんだし…」
「おやまぁ拗ねちまって!!元気をお出しよ!死ぬもんじゃあるまいし!」
頭をぐしぐしと撫で回されるが、そんなことで私の機嫌は回復しない。
「アルがなんか面白いことやってくれないと元気でない。」
「なんでそこでオレに回ってくるんだよ!!意味わかんねぇっての!オラ!顔上げろ!!………あー、菓子があるぞ。」
「食べる。」
「本当単純だなお前。」
別にいいもん。単純で。
せめてもの反抗心で両手いっぱいに菓子を鷲掴みにして口へ放り込む。うまい。
どうだ、この美味しいお菓子は私が全てたいらげてやる。
そんな意気込みで魔女さんを睨みつけると、彼女はとぼけるように肩を少し上へ上げた。
「全くしょうがないねぇ……」
魔女さんはお菓子を狂ったように食べる私を抱き抱え、部屋の外へ出ようと歩き始めた。
「……?どこ行くんですか?」
「しょうがないから、アンタにワタシたちの世界を見せてやるんだよ。ホラついでにお前さんも来な小僧!!」
「お、おい!!」
外に出て私を下ろし、魔女さんは私の右肩を鷲掴みにした。
「ほら目を閉じな!ワタシがいいと言うまで開けるんじゃないよ?」
言われるがまま目を閉じる。有無を言わせぬ魔女さんの迫力にビビっていたのは秘密だ。
「ほら小僧!お前はレイの左肩に手を置きな!グズグズすんじゃないよ!」
「はぁ!?そんなことしてどうすんだよ!」
「いいからさっさとしな!」
両肩に圧力がかかり、身体が湯たんぽのように暖かくなってくる。心なしか、まぶたの裏の世界もほんのりと赤くなってきたように見える。
「フェッフェ!さぁレイ、身体は暖まってきたかい?」
「はい……なんだか気持ちいいです。」
「フェッフェ!そうかい!ならゆっくりと目を開けてみな!」
言われた通り、ゆっくりと目を開くとそこにあったのは昨日アルが草むしりをしていた魔女の庭………の光景だけではなく。
(な、なにアレ!!!)
じっくりと私を観察している紫色の大蛇が目に入った。
「どうだい見えるかい?素晴らしい大蛇の姿をしたワタシのコレクションが!!」
「み、見えますけど…あれは?」
「フェッフェ!アレは魔物の一種さ!」
「ま、魔物?!?」
ゆるゆるとこちらに近づいてくる魔物に対してこちらは身動きが取れない。しかしある一定の距離まで詰めてくると、まるで壁にぶつかったかのように近づいてこなくなった。
「戦いを好まない性格だが擬態能力があってねぇ……ワタシやクラウスのように手練れな魔法使いにしかコイツを目にすることはできないのさ!門番には持ってこいだろう?」
「す、すごい……魔物ってこんな感じなんだ……」
本当に生きている。
なんだがゲームのような感じで魔物という名前を聞いていたけれど、たしかに目の前の大蛇は私を認識して、近づいてきた。
「どうだい?機嫌は直ったかい?」
「直るどころか爆上がりですよワンダさん……!でもどうして私にも見えるようになったんですか?」
「それはワタシの魔力を操作しているからさ!」
私の瞳に向けて指を指し、魔女さんは得意げに続けた。
「今お前さんの眼球はワタシの魔力でコーティングされている状態でね!いくらボンクラなアンタでも私が見ている世界そのままが見えているはずだよ!」
「ま、魔法ってすごい!」
「ただこれは一般人にはできない繊細な魔法でね、生半可な魔法使いが使えばお前の眼球は爆発するだろうさ!」
「なんですぐ爆発するんですか。魔法って怖い。」
そういいつつなにも話さないアルの方へ視線を向けると、大蛇を見ながらなにかを深く考え込んでいるようだった。
「アル…どうしたの?」
「……あ?」
「フェッフェッ!小僧にもお前さんと同じ魔法をかけてやったのさ!たとえお前さんでもあの大蛇は見えなかっただろう!?ざまぁない!!まだまだ修行が足りないねぇ!!」
「っチ……うるせぇババァ!オレは戻る!」
からかわれたのが頭にきたのか、アルは私の肩から乱暴に手を離し部屋の中へ戻ろうとする。だがしかし。
「……っな」
「アル?大丈夫?」
彼はまるで目が回ったかのようによろけると、そのまま地面に座り込んでしまった。
「フェッフェ!!バカな奴め!乱暴に魔力の流れを断ち切るからそうなる!」
魔女さんは私の肩からゆっくりと手を離し、アルを肩に担ぎ上げる。
「ばっ!離せババァ!」
「大人しくしないかい!そんなに動くと胃の中のものが外に出ちまうよ?そんなことになったら恥ずかしくて外も出れんだろうに!」
胃の中のものが外に出る。
(なんだかものすごく身に覚えがあるぞ。)
「はい!!ワンダ先生!」
「なんだい劣等生!」
「ひどっ……もし、もしですよ?妖精から魔力を貰って魔法を使ったとしたら……その魔力を貰った人ってどうなると思います?」
「はぁ?妖精から魔力を?聞いたこともないねぇ……」
アルを担いだまま目線を上にやり、しばらく考えた魔女さんは口を開く。
「まぁでも、あいつらは魔力の塊なだけで考えなしだから………」
魔法分の魔力を与えるだけ与えてブチ切りするだろうから、受け取る側の負担は凄まじいだろうねぇ……。
下手したら死ぬかもねぇ!フェッフェッ!
と爆笑している魔女さんを尻目に、私は頭を抱えた。