転生者は、両親を泣かす
よろしくお願いします。
登場したばっかりですが、しばらくツンギレ幼馴染くんはお休みです…笑
さて、なぜこんなことになったのか。
ツンギレ幼馴染に手を引かれながら、
これまでの10年間を振り返ることとする。
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私、レイ・モブロード。
生まれた瞬間に人生二度目であることを悟った、超異端児である。
一度目の人生は享年27歳独身。浮ついた出来事なんてなに1つなく、交差点にてトラックが目前に迫った記憶が最後となっている。
おそらく、轢かれて死んでしまったのだろう。
痛みなど全くなく気づいたら赤ん坊だったから、あくまで想像にしか過ぎないけども。
はじめはかなり落ち込んだ。
……30秒くらい。
「レイちゃん、産まれてきてくれてありがとうね。」
そういって、私の新たな母親が嬉しそうに私を抱き抱える姿を見て、まぁ生まれ変わってしまったのならしょうがないと思うことにした。
「おぎゃああぁああ(よろしく頼みますよ)」
一度目ではあまり親孝行できなかったし、今回はその分両親に感謝の気持ちを伝えていこう。
そんなことを思っていた。
………あと母親肌キレイだなとか思ってた。
だからこの時、異世界に転生したなんて想像もしていなかった。
ここ異世界じゃないか…と思ったのは病院から退院して1週間経ったころ。
父親が私を抱き抱えて頬擦りしてくるのをやんわり牽制していたときだ。
変な光の玉が父親の周りに集まりだした。
「うん?ああそんな時間か。今行くよ。」
そう父親が光の玉に触れると散開し、跡形もなく消え去った。
「妖精たちのお世話を任せっきりにしてしまって、ごめんなさいね貴方。」
「いいんだよエマ!君はかわいいレイのそばにいてやってくれ。」
…………え、ヨウセイってなに?フェアリーの妖精?
言葉が話せないから視線で訴えるも、なにを勘違いしたのかぎゅっと抱きしめてくる父親。
「ごめんなぁぁ!レイちゃん!!ダディはお仕事のじかんなんだぁぁあ!そんな悲しい顔をしないでくれ!もう好き!大好き!愛してるぞぉおお!」
ちょっと落ち着けダディ。
ヨウセイってなんだ。その話を聞かせろ。
しかし産まれたての赤ん坊では尋ねることなんてできない。
「あうう……(歯痒い……)」
「じゃあ行ってくるよエマ!もちろん君も愛してる!」
「はいはい。私も愛してますよエドワード。」
私と母親2人をまとめてぎゅっと抱きしめた父親は、それはもう名残惜しそうに外出していった。
そんな姿をじぃ…と見つめていた私を見て、母親は察したのか私のおでこにキスをし、事細かく説明をしてくれた。
どうやらこの世界には魔力なるものが存在し、
父親は妖精と心を通わせる力を持ち合わせているようだ。
仕事は妖精を飼育すること、つまり妖精牧場の経営。絶対異世界の職業じゃないですか。
(なにそれ面白そう)
0歳児になんちゅう難しい話をしてるんだと思ったが、心は27歳児なのでありがたかった。
そしてある程度過ぎたときに判明したのだが、育成した妖精は魔物と戦って負ったキズを癒したり、戦闘時にバフ効果をもたらしたりするらしい。
(なーんかゲームに出てくるポーションみたいな話だな。)
というか魔物もいるのか、怖っ!
二度目の人生とはいえ今度こそ幸せに生きたい。
妖精について勉強して長生きできるようにしよう。
そう心に決めた私は、オムツ替えなどの恥ずかしい仕打ちに耐え抜き、すくすくと成長していった。
転機が訪れたのは3歳のとき。
私の母親、エマ・モブロードの病が悪化したことがきっかけだ。
もともと身体が弱そうなのは知っていたが、3歳になった頃には満足に歩けなくなるほど悪化していた。
母親も父親も私を心配させないよう明るく振舞ってくれている一方で、夜私が寝ようとしている頃に2人で涙を流しながら話し合っている姿を何度見たことか。
(うん、親孝行するかな。)
そう思い、最近話せるようになったことをきっかけに父親に相談してみた。
「おとうさん。」
「どうしたんだい?僕のレイちゃん。お腹空いたかな?待っててね!今僕の愛情たっぷりのスープを用意するからね!」
妖精牧場の経営にお母さんの看病、そして私の世話。
親だから私の世話をしてくれないと困るわけだが、寝る時間もロクに取れていない父親は痩せたように見える。
(ありがとうなダディ。)
「わたし、ようせいさん、おせわする。」
「……え?」
母親が元気だった頃に愛用していた花柄エプロンを着て、ネズミのような小動物と包丁持ちながらフリーズする父親。
…おい待てそのネズミみたいなのをスープに入れる気かアンタ。
「れ、レイちゃん?君はまだまだ幼いんだから、妖精さんのお世話はダディに任せなさい?」
慌てて私のところまで移動してきた父親は、目線を合わせ困惑した様子のまま私の説得にかかる。
「ううん。わたし、おせわするの。」
「……レイちゃん。妖精さんは魔力がとてつもなく強くて大人でも大怪我をする時があるんだ。父親として、娘を危ない目にあわせるわけにはいかない。難しいかもしれないけど、分かってくれる?」
妖精の扱いが難しいことはなんとなく察していた。
たまに父親が傷だらけになって帰ってくることがあったから。それでも母親に頭をヨシヨシしてもらって元気になっていたけど。
「おとうさん、わたしだいじょうぶ。ようせいさんとなかよくなる。」
「レイちゃん…………」
「ようせいさんとなかよくなって、おかあさんのびょうき、いっしょになおすの。」
私の言葉を聞いてまたもやフリーズする父親。
(……押し通せるかどうか。)
この父親は私にデレデレとは言え、Noの時はとことんNoだ。
危険が及ぶ可能性があると分かっている場所に、母親があの状態で私を連れて行くかどうか。
ひさびさに緊張しながら父親にお願いする私を見て、
父親は涙と鼻水を洪水のように垂れ流し号泣し始めた。
(顔面やばいな)
「れいぢゃん……!!ぞんな!マミィの!エマのだめに!!がんがえでぐれでいだなんで!!」
感極まり私を鼻水垂れ流した状態で抱きしめる父親。
(え、きたな)
でもさすがにこの状況でそんなことは言えないので、仕方なく父親の背中をさする。そうすると身体全身を震わせさらに大きな声で泣き始めた。
すると私と父親の周りに以前見かけた光の玉が浮遊し始めた。
「ご、ごれは……!!」
父親が何か言ってるけど、それどころじゃない。
私の身体にくっついてくるんですがどうすれば。
さっきの父親の泣き声に目覚めた母親が杖をつきながらゆっくりと部屋に入り、私達の状況をみて目を見開く。
「ど、どうしたのエドワード?妖精の粉がこんなに……まさかレイちゃん?レイちゃんがケガでも……!」
父親の泣き喚きに動揺しながらも私にケガがないか痩せ細った手を私へ伸ばす。
その手を甘んじて受け入れると、光の玉がふわっと私から離れていく。私の頬を掠めるように飛ぶ光の玉を見て、なんとなく、両親を説得できる自信が湧いてきた。
「おかあさん、わたしようせいさんのおせわする。おせわして、なかよくなって、おかあさんのびょうきなおすのてつだってもらうの。」
「だ、ダメよそんな!妖精は魔力があって危険なのよ!?3歳の貴方ではあまりにも危険だわ!」
父親よりもはっきりと言い放つ母親。
「レイちゃん…貴方になにかあったら…私、私!」
「エマ……レイちゃんは本気だよ。」
ずっと泣いていたはずの父親が鼻水と涙を拭いながら、母親に向き合う。
「レイちゃんは、真剣に僕たちのことを思ってくれてるんだ。妖精たちも…レイちゃんに会いたいとそう言ってる。」
「よ、妖精たちが?」
「この妖精の粉の量を見てよ。もしかしたら…」
「でも!でもエドワード!」
「必ず僕もそばにいるようにする。それにレイちゃんが僕たちを大切に思ってくれてるその気持ちを、無下にしたくない。」
……これは予想外だ。
まさか父親が味方してくれるとは。
でも好機、そう判断した私は最後の壁である母親に今まで見せたことのない笑顔で訴える。
「だいじょうぶ、おかあさんとおとうさんのレイはそんなによわくないもの。」
安心してくれるように。信じてもらえるように。
言葉で伝えないと、伝えられなくなった時に後悔するから。
(我ながら説得力が違うわ)
密かにそんなことを思いながら、ふっと父親と母親の顔をみると…
「「れ、れいぢゃんんんんんん!!」」
(2人とも顔面崩壊にもほどがあるだろう!?)
涙と鼻水で顔面大洪水状態の2人に抱きつかれ、思いっきり頭をぶつけるのと同時に、父親が沸かしていたお湯が思いっきり噴きこぼれた。
(ああ…お湯が)
お湯のことにも気付かず号泣し続ける両親に思わず笑えてきてしまう。
(頑張ろう……幸せになるために)
……その後キッチンの大惨事に気づき、父親が大慌てする姿は実に面白かった。
光の玉もそんな私たちを見て楽しんでいるかのように浮遊する。
こうして私は、3歳にして父親の妖精牧場を手伝うことになったのである。