転生者は、妖精の知らせを受ける
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マリーちゃんが目覚めてからしばらく経ち、あれから彼女は無事に退院することができた。
辛い現実にも気丈に立ち向かう姿勢を見せたマリーちゃんを、クラウスさん達騎士団が生活面の面倒を見てくれることになり…今では兵士さん達のご飯を作るお手伝いをしながら関所で暮らしている。
「お父さんとお母さんから許可を貰ったし、もしよかったら私の家で暮らさない?」
慣れない男性に、しかも少し前までは(もしかしたら現在進行形で)敵の騎士団に囲まれて苦労することもあるだろうからと、そう彼女に言ったこともあったのだが。
「ありがとうね?でも自分を鍛え直すいい機会だと思うの。騎士団にも恩はあるし、働きながら恩を返すことにするよ。」
と笑って答えた彼女の姿に、若いのになんと逞しい少女なのだろうと心が震えたものである。
「あの瞬間私が男だったら間違いなく、惚れてたね。」
「何の話だっつの。」
私が呟くと間髪入れずにご最もなツッコミとパコン、と頭を軽く叩く音が部屋に響き渡った。
衝撃を感じた箇所を静かに摩りながら真横に座っている見慣れた金色の瞳を見つめると、彼は憐れみを込めた視線のまま口を開く。
「突然黙ったかと思えば意味不明なこと口走りやがって。新手の現実逃避かなにかじゃねぇだろうな?これ以上頭おかしくなったら珍獣どころじゃねぇぞお前。」
「いやいや、自分を励ますべくマリーちゃんの頑張りを思い返してたら言わずにはいられなくなっちゃってさ。」
「はぁ、そういうことか……。ったく、好きだよなお前も。」
「でもそんなこと言っておきながら実はアルも気になってるくせに。」
「あ?興味ねぇよ。どうでもいいわ。」
「またまた照れちゃって。だって私によく騎士団でのマリーちゃんの様子を教えてくれるじゃん。なんだかんだいって、それとなーく気にかけてあげてるんでしょう?」
「オレはそんなに暇じゃねぇ。」
とかなんだか呆れた風に呟くアルだったが、私は知っている。
騎士団で盗賊一派の残党であるマリーちゃんを保護することに一部の兵士から反発があった時、さりげなく間に入ってあげていたこと。
慣れない環境で頑張る彼女が一人ぼっちにならないよう、不器用ながらに声をかけてあげていたことを。
(本当、素直じゃないんだから。)
揶揄う気持ちでアルの頬をニヤニヤしながら突ついていると、気に入らなかったのか額に軽くデコピンを返された。
だがしかしそんな照れ隠しも、ただただ可愛く愛おしいだけである。
「ねぇ、抱き締めていい?」
「ふざけんな。そんなことよりお前、綴り間違えてんぞ。」
「え、嘘。どこ?」
「そこ。」
「………あ。」
「っけ、バーカ。他の奴を気にかけてる場合かよ。しっかりしろ。」
「あはは…。」
思わず苦笑いを浮かべると、軽くため息を吐いたアルは私の頭を撫でてくれた。優しい。
こんな調子で互いの肩が触れ合うほど近くに座って手元にあるノートを覗き込んでいる私たちは、今朝からずっと例の魔法書の内容を書き写している最中なのである。
クラウスさんから例の魔法書を受け取りしばらくして、訓練の合間を縫ってアルは自ら音読を買って出てくれた。
しかしきっと読み返したくなるであろうその時に毎度アルに音読を頼むのもどうなのかという結論に至り、ここはもういっそのこと全て書き写してやろうということになったのだ。
思った以上にものすごい膨大な量で現在進行形で頭がいかれてしまいそうだが、自分から言い出したことなので仕方ない。
「よし、いい感じいい感じ。アル、次お願いしてもいい?」
「あぁ。次は…赤の秘玉への………………。」
「?どうしたの?」
「…………いや、なんでもねぇ。ここはもう読んでた。飛ばすぞ。」
「?」
様子がおかしかったアルもすぐに気を持ち直し、絶妙な速さと声のトーンで読み進めていく。
実に聞き取りやすいいい声だ、流石私の幼馴染。
一方私もその後は必死に食らいついて書き続け、そうやって日が少し傾き出す頃合いにはその全てを書き写すことができた。
「おわっったぁぁああーー!」
感激のあまり思わず両手を天に掲げながら椅子の背もたれに寄りかかる。
「あぁ終わった…!!これでいつでも読み返せる完全保存版が私の手に…!!」
「そりゃよかったな…っと、やっぱりもうこんな時間かよ。覚悟してはいたがそれなりにかかるもんだな。」
「本当大変だったねぇ…アルは大丈夫?」
「あ?なにが?」
「結局休憩もあまり挟まずずっと長い間読み続けてもらっちゃったから……喉痛かったりイガイガしてたりしてない?飴ちゃんいる?」
「はぁ、大袈裟だな。いらねぇしこの通り問題ねぇよ。」
「よし分かった。今お水を入れるから待っててね。」
「あぁそうか、話を聞く気ねぇだろお前。」
さりげないアルのツッコミを無視し、精一杯の感謝の気持ちを込めながら手持ちの水筒からコップに水を注ぐ。
その間私の横顔をじっと見つめていたアルはおもむろに口を開いた。
「それで?」
「?なにが?」
「ひと通り読んではみたけどよ、お前なりに聞いてみて役に立ちそうとか………なんか感じるものとかあったか?」
様子を伺うようにアルにそう尋ねられて、一瞬動きを止める。
しかし嘘をついても仕方がないだろうとひと息ついて、彼の質問に答えた。
「正直に言うとなんとも言えない、かな。」
「というと?」
「うーん、とてつもなく大変なことに首突っ込んじゃったなっていうのは聞いてて分かるんだけど、なんだか全体的にモヤがかかってるっていうか……情報が欠落してる気がするというか……決定的ななにかが足りないような気持ち悪い感じがするんだよね。」
「特に破られたりした形跡はなかったが……まぁ内容も内容だったし、仕方がねぇかもしれねぇな。そもそも信じてたまるかよ、こんなもん。」
アルが視線を落とすのも無理はない。
なにしろこの魔法書の内容は本来、口にするのも憚れる大魔王についての記載ばかりだったからだ。
アルからみれば、そりゃあ到底信じられない御伽噺のように感じられただろう。
「それもそうだけど…その……多分……」
「ん?」
「えっと……」
思わず言い淀んだがアルに励ますようにスルリと頬を撫でられて先を促され、覚悟を決めて続けた。
「私だから理解が出来ないのかもしれないって、思うんだよね。」
「………は?いや別にお前だからってことはねぇだろ。オレだって意味分からねぇよ。」
「あーいや、そうじゃなくて…お前は違うってそっぽ向かれる感じというか……。」
「は?」
「あはは…だよねー……意味分からないよねー…。」
私の言葉にアルは何も言わずに目を細めた。
戸惑うのは無理はない。
私だって分かっていないのだから。
でも彼が読み進めれば進めるほど感じる途方もない疎外感が、「お前には関係のないことなのだ」と警告してきているように感じるのだ。
そして心のどこかで、そのことにしょうがないと納得している自分がいることも事実。
自分で自分が分からないというのが、正直な感想だった。
するとそんな私の複雑な表情を見たアルは、私の頭を撫でて優しく告げる。
「…まぁ百歩譲ってコイツは魔法書だから、そういう仕掛けを仕組まれてる可能性もあるっちゃある。」
「え、そうなの?」
「あぁ、だから…あんまり深く考えてもしょうがねぇかもな。」
「………そう、だね。うん。いつか分かるかもしれないしね。」
「あぁ。とりあえずは、書き写しが終わってよかったじゃねぇか。」
「うん、ありがとうアル。」
力強く優しい彼の言葉に、強張っていた身体からふっと力が抜ける。
アルにはこうしていつも助けられてばかりだ。
「ではアル様、こちらをどうぞ。」
「おー。」
これまでの感謝の気持ちをたっぷり込めて、水を並々に注いだコップをアルに丁重に手渡す。
片手で受け取ったアルはもう片方の手で私の頬を軽くペチペチと叩くと、その後そのまま一気に水をあおった。
『レイちゃんレイちゃんレイちゃんレイちゃんレイちゃーーーーん!!』
「ブッ!!!」
「アルゥゥウウ!?」
そしてほぼ同時に私の名前を連呼する妖精たちの声が聞こえてきたかと思えば、何故かアルは凄まじい勢いで自身の頭を机に打ちつけた。
「え!?え!?なに!?なにしてるの!?もしかして突然机に頭ぶつけるのが今時の流行りなの!?そういうお年頃なの!?」
「っ、ちっっっげぇぇええよ!!!突然なにかが後頭部に……!!!」
苛立ちに顔を歪ませたアルは自身の後頭部を摩りながら背後を睨みつけると、さらに般若のように顔を歪ませて唸った。
「おい羽虫ども………なにニヤニヤしてやがる。まさかお前ら………!!!」
『ミーたちわざとじゃないヨ!!』
『ソウダヨ!!ただ、ウン!!減速しなかったダケダヨ!!』
「おいクソモブ、コイツらなんて言ってやがる。」
「……えっと、その……ごめんって言ってる。」
「よし分かった反省の色がねぇお前らは全員仲良く燃やしてやるからそこ一列に並べ!!」
「うわぁあああごめんアル!!わざとじゃないらしいから許してあげて!!?」
『ソウダソウダー!』
『このくらい寛大な心で許セー!!』
『ミーたちはレイちゃんをずっと探してたのに独り占めシテー!』
『反省しろアルー!!許さーン!!』
「君たちはもう少し反省しようか!?…って、私を探してたの?」
唸り続けるアルの頭を撫でてなだめつつ妖精たちに問いかけると、彼らは興奮した様子で言葉を続けた。
『ソウナノ!!レイちゃん、石になった人間を助けたいんデショ?』
『だからミーたち、きっと役立つ情報を妖精王サマから教わってきたノ!!』
「え……え!?妖精王様に!?」
「おい一体なんの話…」
イラついた様子で私に問いかけてくるアルの口を塞ぎ妖精たちに先を促すと、彼らはそれは楽しそうに言葉を続けた。
『『『ズバリ、誓いの里ノ、ミネルヴァに会いに行くとイイッテ!!』』』