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転生者は、疲れを癒す

「………どうした」


家への帰り道。

アルは私を結局背負ったままゆっくりと歩いている。なんだか身体が重い。思わず額をアルの背中に押し付けると、アルの体は少し強張った。


「今日はもう遅い。また明日にでも関所を訪れれば良い。」


クラウスさんはそう一言残すと、足早にその場を去った。


「なんでもない…」


初めての村。

妖精に囲まれていない違和感。

エミリーちゃんやクラウスさんとの出会い。

アルを取り巻く現状。

そして、今まで見たことがないはずなのに頭に浮かんだ2つの光景。


(前世の記憶?………それにしては現実離れしてる気がする……)


よく分からないことが、なぜか鮮明に焼き付いて離れない。忘れるな、間違えるなと誰かに言われているかのようで気持ち悪い。思わず軽くため息を吐くと、アルが一瞬歩みを止め、軽く何かを呟くとまたゆっくり歩き出した。


「ん?ごめん…疲れた?もう降りるよ」


「うるせぇ黙れ。大人しくしてろ。」


自分と大して変わらない(むしろ前世分を含めれば私の方が遥かに歳上)少年に甘えすぎた。帰ってから考えればいいことだと顔を上げると、見たことのない風景に戸惑う。気づけば周りは背丈以上の草木に囲まれていて、どことなく薄暗い。


「ここどこ?」


「今日は散々お前に振り回されたからな…!ちょっとはオレに付き合え!!」


「は、はい。」


私を背負い直し、迷いなく進み続けるアル。

どことなく不思議な雰囲気が漂うこの場所に、思わず言葉を失う。そして彼が足でなにかを蹴り飛ばすと、まるでカーテンがゆっくりと開くかのように、草木が私たちを避けていく。そして目の前に広がった光景に、私は息を呑んだ。


「………ここ……は…」


クラウスさんが自己紹介した際に脳裏に蘇った、あの丘だ。赤髪の少年が、天に剣を抱えていた、あの場所だ。アルが私を背中から下ろし、丘の一番高いところまで私を引っ張っていく。


「ほら。」


登るとそこには、絵に描いたような絶景が広がっていた。

夕日が草木と街を照らし、風がゆっくりと頬を撫でる。この光景の美しさを表すには、なんて言えばいいのだろう。私の語彙力では表現できないほど、神秘的で美しい。


「す、すごい!」


「あれが王都。で、あっちがオレたちがいた田舎村。」


「村!?小さっ!王都でかっ!あれは!?あの奥のやつ!」


「もっと言うことねぇのかよお前は……ちなみにあれは教会。」


「あれは!?」


「ギルド組合の本拠地。」


「ギルド!?ギルドなんてあるの!?」


初めて見る光景に怒涛の質問責め。

呆れながらもアルは一つ一つ私の質問に答えてくれた。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「これで満足かよ……!!どんだけ質問してくんだこの野郎……!!」


気づけばかなりの時間、アルに質問責めをしてしまったようだ。アルは疲れたように地面に座り込み、下から私を睨みつける。


「ごめんごめん。なんか楽しくなっちゃって。アルはすごいね。妖精さんたちと同じくらい物知り。」


「……そうかよ。」


私もアルの横に座り、改めて景色を眺める。


「で、ここどこなの?」


「真っ先にその質問するべきだろうが!!……ここはオレが王都で暮らしてた時に見つけた隠れ家。」


「隠れ家?」


アルは近くにあった石をあさっての方向に投げると、あるところで石が忽然と姿を消した。


「な、なにどうなってるの…」


「魔法でここ一帯を隠してんだよ。」


「どんな仕組み……」


「魔力カラッポのてめぇに説明するだけ無駄だ面倒くせぇ!!…とにかくここなら誰かに寝込みを襲われることもねぇし、邪魔されることもねぇ。」


「どんな生活送ってたの……。でもほんと綺麗なところだね。なんか安心する…。」


その言葉を聞いてからアルは一度咳払いをすると、言葉を続けた。


「仕方ねぇからお前にここを貸してやる。なんか企んでるときはここで、オレに、言え。」


「いやいやそんな…」


「あ"あ"?うるせぇ!!お前はこういうところじゃねぇと何にもしゃべらねぇじゃねぇか!!なにがなんでもないだ!!お前が何に悩んでんのかなんてオレにはさっぱり分かんねぇんだよ!!面倒くせぇ!!」


あのおんぶされていた時の私の様子を思い出したのか、だんだんヒートアップしてくる。青筋を浮かべたアルが睨みつけてくるので、思わず両手を挙げて降参ポーズを取ってしまう。


「いや…あの……」


「なに今更遠慮してんだクソが!!!」


「し、してな………」


「してんだろうが!!言いたいことがあんなら言え!!!」


思わずグッと押し黙る。

そんな私を見てアルは一息をついた。


「分かんねぇことがあんならさっきみたいにオレに聞け!不安なら不安ってそう言え!!手伝ってほしいことがあんなら……言え。ある程度のことならやってやる。」


夕日に照らされた赤髪が緩やかに風に揺れる。なんとも強力な味方が身近にできたものだと思わず吹き出してしまう。


「ふふ……すっごい偉そう……」


「あ"あ"!?んだとゴラァ!!」


「でもやっぱり、君はいい人だね。」


私を励ますために自分の大切な隠れ家にまで連れて来てくれるなんて。


「不安なことなんてないよ。ほんと今日はただ疲れちゃっただけ。」


そうだ。考えたって仕方ない。

あの光景が何を意味するのか、分かったときに考えればいい。

今はそれぞれの、大切な人を守るために全力を尽くそう。


「………そうかよ」


少し安堵したように呟くアルにニヤリとしてしまう。アルの顔の前に拳を突き出し、高らかに言い放つ。


「イケメンな幼馴染がいるなんて幸せものだな。気が向いたら、またここに招待してね。」


「………ッチ。」


少年は少女に応えるように、その拳に自身の拳を合わせた。


























「おい……いけめんってどういう意味だよ。」


「ん?………カッコイイって意味。」


「かっ………!!!!」


言葉を詰まらせた様子を見て、この異世界に誕生してから初めて、大声で笑った。

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