転生者は、身体を休める②
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「200人以上の…死体……」
「正確に言うならば石像と言うべきかもしれないが…とにかく、ここにいるマリー・リザリー以外の生存は絶望的と見て間違いないだろう。」
まさかそんな、と信じられない自分と。
やはりそうか、と納得している自分がいた。
女盗賊一派壊滅の事実にそれほど動揺しなかったのは、対峙したメディシアナの脅威を目の当たりにしたからか、それとも別の理由か。
どっちにしろ今の私の脳裏によぎったことはひとつである。
「………りましたか。」
「ん?」
「リリーちゃんは、見つかりましたか。」
私の問いかけにクラウスさんはゆっくりと瞬き、少しだけ言い淀む様子を見せた。
しかし彼は私から視線を逸らすことなく、まっすぐに見つめた後に首を横に振る。
「現段階では、彼女に至っては石像すら見つかっていない。」
あぁ、やっぱり。
ヒュッ、と息が詰まり胸が痛い。
比例して布団を強く握り締めていた手が鬱血して白くなった。
「そ…うですか…」
震える息を吐き出してようやく呟けたのは、たったその一言だけ。
なんとなくそんな予感はしていたのだ。
マザーさんからのお願いがなくとも、騒動があれば責任感の強い彼女は私たちを探しただろう。
あの場で無事にいれば顔見知りのダンテさんたちと遭遇しているだろうし、遭遇していれば保護されて一緒に帰ってきているはず。
それがなかったということは…。
「モブロード嬢。」
「…はい。」
思考が巡り黙りこくる私を見たクラウスさんは、悲しげに眉を寄せて思案するように視線を下げた。
そして腹から一息吐くと、意を決した様子で告げる。
「石像の中には落石の影響で破損され、個体確認すらままならないものも発見されている。もしかすると」
「兄さん!」
「…すまない。だが覚悟は、しておいた方がいい。貴方のためにも。」
私の肩に手を置いて慰めてくれていたランちゃんが咎めるようにクラウスさんを呼ぶと、彼は謝りながらもそう続けた。
クラウスさんの言いたいことはよく分かる。
期待しすぎて潰されないようにと、そういうことだろう。
確かに全員が全員石像のまま残っているなんてあの状況ではあり得ないに等しい。
そんなことは前世を平和の国で満喫していた私にもよく分かる。
だけど。
「はい…でも私、信じようと思います。リリーちゃんは無事だって。」
何の根拠もないまま諦めることなどしたくない。
「………そうか。そうだな。」
きっと生きている。
リリーちゃんは何らかの方法であの場脱出していたというあまりにも僅かな可能性に賭ける私だったが、クラウスさんはそれ以上何も言わなかった。
「それで?テメェは回収した石像はその後どうするつもりだ。」
思わず視線を下げてしまっていた私に変わり問いかけてくれたアルの言葉に、思考は一旦途切れる。
そうだ、それも気になっていたんだった。
慌てて視線を戻すとクラウスさんはアルに向き直って答えを返していた。
「盗賊一派とはいえそのままにしておくのは忍びないと兵士からの進言もあり、私の判断でそのままの状態で然るべく場所に弔うこととなった。」
「お前の判断、ね。王都には知らせてねぇのか。」
「エミリー様の啓示で確認しに行ったから盗賊一派の壊滅の事実は報告しなければならなかったが、それだけだな。特段報告することでもないだろう。………なにか懸念すべきことでも?」
その問いかけに私の脳裏には1人の男性の顔が過る。
恐らくアルもそうだろう。
テオ・モルドーラ。
何を考えているかさっぱり分からないあの男。
非番とはいえ彼が秘玉を奪い姿を消したことは伝えた方がいいかと思って口を開こうとすると、幼馴染の鋭い視線が突き刺さった。
どうやら言うな…ということらしい。
彼が制するということは何か意味があるのだろうとグッと言葉を飲み込むと、首を傾げたクラウスさんが私の顔を覗き込んでくる。
「先ほどからアルフレッドと顔を見合わせているが、何かあったのか?」
「え、あ、いや、その、」
「別になんでもねぇよ。人が大事な話してるのに寝そうな面してたから一喝入れただけだ。」
もっと他に誤魔化し方はなかったのか。
(この状況で寝るほど馬鹿じゃないんですけど!)
少しばかり不満に思ってじとっ、とアルを見つめたが知らぬ存ぜぬという顔で肩を竦められてしまい、なんだか納得がいかない。
しかしクラウスさんはそうではないようで、そうかと一言呟いた後に私の頭を優しく撫でた。
「疲れてしまったか。無理をさせてすまない。」
あぁああああ辛い!!
純粋に心配されると罪悪感に押しつぶされそうで辛い!!
「あ、いえ、そんなことは…!!」
「大丈夫だモブロード嬢、焦る必要はない。続きはまた今度にしよう。」
「それでいいからテメェはモブから離れろ。相変わらず距離が近ぇんだよ。燃やすぞ。」
「アルフレッドはモブロード嬢をよく見ているな。流石だ。」
「は?い、いや、べ、別にそんなんじゃねぇし。」
「そうか、つまりは愛か。なるほどな。」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ!!?なに勝手に納得した表情で頷いてやがる!!本当しばくぞお前!!?」
「ちょっと兄さん、彼を刺激しないでよ。また暴れ出しちゃうじゃない。」
「そうか、ならその前にこれを置いていくとしよう。」
なにひとつ会話が成立していない。
そんなことも気にした様子もなくクラウスさんが懐から何かを取り出すと、彼に向かって吠えていたアルは急に動きを止めて瞳を瞬かせる。
「お前…なんでそれを…!」
「2人を保護した際に近くに落ちていたらしい。私が保管していたのだが、暇つぶしに読みたいかと思ってな。無理はするなよ、お大事に。」
なにかをアルの枕元に置いたクラウスさんはぽかんと口が開いたままの私の頭を再度撫でた後、こちらを振り返らずに部屋を出て行ってしまった。
何が何だか分からず今度はランちゃんに視線を向けると、ため息を吐いたランちゃんも腰に手を当てながらアルに告げる。
「本来ならそれも遠慮してほしいところだけど、兄さんからの差し入れじゃ何も言えないわね。ただし、いいこと?貴方は特に骨が折れてたんだから変な体勢で読書しちゃ駄目だからね。」
「…分かってんだよそんなことは。」
「はいはい、じゃあねレイ。貴方は知恵熱出ちゃうだろうから読むのはやめておきなさいよ。」
読書?知恵熱?
何一つ分からないまま片手を振って病室を出ていったランちゃんの後ろ姿を見送り、とりあえず疑問を払拭したいとアルに問いかける。
「ねぇ、それなに?」
「あ?なにが。」
「クラウスさんが置いていったもの。」
「それは……アレだアレ。」
「?アレじゃ分かんないよ。」
「ッチ、アレはアレだっつの。」
「あぁ、アレか。アレ美味しいよね。また作ってね。」
「絶対違うもん思い浮かべてるな。それじゃねぇよ。」
「じゃあどのアレ?」
「なんでそんな候補がたくさんあるんだよお前は。」
珍しく歯切れが悪い。
それでもアレしか言わない言い合いに疲れたのか、吊っている手とは逆の手でなにかを掴んだアルは、私にそれを差し出しながら告げた。
「ほら、マザー・リザリーの倉庫にあった…あの魔法書。」
「え!?本当!?」
「なっ!?馬鹿お前…!」
驚きで思いっきりアルの方へ乗り出してしまい、ずるりと嫌な浮遊感が私を襲う。
ゆっくりと視界が床に向いていくのを客観的に感じて、ふと思った。
あれ、これってもしや……
現在進行形でベッドから落ちているのでは。
「っ、オラ!!!」
そんな背中がヒヤリとする感覚から一歩遅れてやってきたのは、アルのドスのきいた声と首元から引っ張られる異様な感覚。
どうやらアルは咄嗟に本を投げ出して私の首根っこを掴み自分のベッドまで思いっきり引き上げてくれたらしく、床との衝突はなんとか避けられたようだ。
「ご、ごめんね。ありがとう。」
苦笑しながら謝ると、彼は呆れたように大きくため息を吐いた。
「このクソモブ……どっかにぶつけたりとかは?」
「お、おかげさまで大丈夫。」
「そうかよ。」
「助けていただきありがとうございます…いや本当すみませんでした…はい…。」
「だったらいい加減後先考えず突っ込む癖なんとかしろ。………まぁ、ぜってぇにやると思ったけどな。」
「流石アル様仏様…恐縮であります……。」
再度深々と頭を下げると軽く小突かれ、話は終いだと言わんばかりに片手を差し出される。
意味が分からず手を乗っけると、そこには確かに固い本の表紙のような感覚があった。
「あぁなんて懐かしい重み!!」
「オレたちの近くに落ちていた理由は知らねぇが、正真正銘あの魔法書だ。」
「あ、もしかすると…妖精さんたちのおかげかも。」
「は?妖精?」
「うん。アルが気を失った後、妖精さんの声が聞こえてきてね?マザーさんの倉庫からポーションの材料を持ってきて欲しいって頼んだから、その時についでに持ってきてくれたのかもしれない。」
確認しようにもあれからあの子たちは私の近くにはいないようで、尋ねることは出来ないけれど…きっとそうなのだろう。
(助けられてばかりだな…。)
アルから本を受け取り大事に胸に抱え込む。
そしてつい重症のアルを前にしてどうしていいか分からず戸惑っていたあの時を思い出してしまい、堪らず彼の頬に手を伸ばした。
「?どうした。」
「んー…なんでもないよ。」
頬の起伏にあわせてなぞる動きに、彼はくすぐったそうにゆるく顔を動かす。
本当によかった、ポーションが効いて。
こうやって反応が返ってくることがどんなに安心することか。
「……モブ。」
安心感からほっと息を吐くと、今度は彼が許しを乞うように顔を寄せてきた。
「悪かった。」
「なにが?」
「…無茶な…戦い方して?」
「なんでそこ疑問系なの?本当全くもってその通りだから。二度とあんな戦い方しないで。」
「…あぁ、悪かった。もうしない。」
お互いの体温が感じられるぐらいに近づいて、どちらからともなく互いの手を取り強く握る。
思わず目を閉じると、慰めるように瞼の上にそっと温かいなにかが触れた。
「あ、あれ…」
すると不思議なことに、両目からポロポロと涙が溢れて止まらない。
「な、なんだろう…あれ?」
焦る私とは違い、優しく微笑んだアルは額をあわせて告げた。
「怖かっただろうに、オレを助けてくれてありがとうな。」
あぁそういえば私、まだちゃんと泣いてなかった。
静かに涙を流す私を本ごと抱き締めたアルは、私が落ち着くまでしばらくそのまま待ち続けた。
イチャらせましょう、全力で。(突然すみません。)
そんなことよりもコメントでご意見がありまして、キャラ紹介的な設定集を書くことにしました!
キャラ数も増えてきましたので自分の確認のためにも…笑
書き出したらとまらず、いつものことながらなかなかの文章量となりそうですので近いうちに番外シリーズ・設定集のような形で掲載すると思います。
ご興味がある方はぜひご覧くださいませ!!
→→設定集、投稿いたしました!!
重大なネタバレはしないよう配慮した…つもりです。
いずれにせよ、ここまでのお話を読んでくださった方であれば問題はないかと思います。
「ツンギレ幼馴染は勇者か魔王か」シリーズからご覧いただけますので、ご興味がある方はぜひご覧ください(o^^o)