転生者は、身体を休める
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ここは関所内にある簡易的な病室。
ピピッ、ピピッ。
そんな部屋の中で体温を測り終えたことを告げる電子音が鳴り響くと、緊張の面持ちでベッドに詰め寄ってきた友人は私が確認する前に体温計を奪い取った。
ごくり、と喉が鳴る。
この結果次第で私の未来は大幅に変わってくると言っても過言ではない。
「ど、どうでしょうか…?」
私の問いかけに彼は美しい蒼い瞳をスッと細める。
すると意味有りげに私のおでこへと手を当てて、口を開いた。
「36.4°。」
「っ!!と、ということは…!」
「えぇそうね。レイ………貴女の勝ちよ!!!」
そして続けざまにビリッと一撃、額に鋭い痛みが走った。
「っっいぎゃあああああああああああ!!!」
「うるせぇえええええええ!!!!」
額に貼られた冷えピタが問答無用で引き剥がされたせいでおでこを押さえながら悶えていると、隣を仕切っていたカーテンが勢いよく開かれた。
「てっっめぇクソモブふざけんなよ!!真横でいきなり大声出しやがって!!鼓膜破れるかと思ったじゃねぇか!!」
現れたのは片手を吊った痛々しい状態の幼馴染。
身体を起こし、もう片方の手で皺が残るほどカーテンを握り潰した彼はそのまま鋭く私を睨みつける。
「だってだって私のおでこが!!おでこが抉れちまうよぉおお!」
「知るか!!抉れちまえそんなもん!」
「酷い…!」
「はいはい病院内は静かに!全く大袈裟なんだから。隣で寝てるマリーが魘されたら可哀想でしょ?」
その言葉にはっとして、なんとか叫び声を飲み込む。
ランちゃん曰く、マリーちゃんは強力な催眠魔法をかけられており数日は意識が混濁してしまうため絶対安静が必要とのこと。
催眠魔法の既定値まで睡眠を取れば元に戻るらしいので、こんなことで彼女の睡眠を妨げるわけにはいかない。
「うう、でも痛いよ…」
そんな私の様子を見て肩を竦めたランちゃんは言葉を続ける。
「このまま熱が上がらなければお望み通り、明日には退院させてあげるんだから我慢しなさい。そしてそっちは乙女の会話を盗み聞きしようとしてるから鼓膜がやられるのよ、反省しなさい。」
「べ…別に盗み聞きなんてしてねぇよ。つーかそもそもテメェが乱暴に剥がさなければこんな騒ぐことなかっただろうが。」
「それを言うならそもそもは貴方たちが血だらけで保護されなければ入院なんてしなくて済んだんじゃなくて?」
「「………。」」
ランちゃんの完全勝利だった。
そんな私たちを見て満足げに頷いた我が友、ランディ・バートンは私から抉り取った冷えピタを丸めて何処かへと放り投げて呟く。
「それに…昨日みたいに勝手に抜け出した挙句、熱ぶり返して書庫でぶっ倒れるようなお馬鹿さんにはこれくらいが丁度いいでしょ。ねぇ?そう思わない?レイ。」
……やっぱりまだ怒ってるか。そりゃそうだよね。
昨日、確かに私はベッドから抜け出した。
というのも、マザーさんのところに行ったのに結局私はメディシアナに宣戦布告をしただけで…クラウスさんのためになる情報を一つも持って帰ってこれなかったからだ。
なにかしらあればと漁って漁って…結果ぶっ倒れてさらに迷惑をかけてしまうだなんて。
(そういえばあの時はふらついていてちゃんと謝れていなかったな…)
今一度無謀なことをしたと反省した私は、ランちゃんに謝ろうと身体を起こす。
「あのランちゃん…本当心配かけてごめんなさ」
「あ"あ"ん!?誰が起き上がっていいって言ったの!?横になってなさい悪い子ね!!」
「おいぃいいいい!!!?」
私の頭を見事にわし掴みしたランちゃんは、問答無用で私を布団に沈めてみせた。
流石は王都騎士団団長の弟だけあって強い。動きが速すぎて見えなかった。
頭を鷲掴みにされたまま、そして何も出来ないまま死んだように仰向けに横たわると焦ったようなアルの声が響く。
「ちょ、ちょっと待てクソえくぼ!!お前、力が強すぎだろ!!コイツの頭部を破壊する気か!?」
「あらおかしなこと言うのね!!!ワタシはただ優しく寝かしつけてるだけよ!!ねぇそうでしょレイ!!」
「そ、だね、はは、よく、寝れ、そ…」
「お前もお前で洗脳されてんじゃねぇよ!!っだぁああクソ!!待ってろ!絶対に諦めるんじゃねぇぞ!!」
「だから病院では静かにって言ってるでしょ!!!今レイで手一杯なんだから!!」
「なによりも誰よりもテメェが一番うるせぇわ!!とりあえずその手を離しやがれ!!それで全て丸く収まるんだよ!!」
アルがランちゃんを止めようとしてくれているのか、ランちゃんがアルを片手で鎮めようとしているのか分からないが…騒々しい音とともにランちゃんの握力の強さが徐々に上がっていく。
あれ、大丈夫これ?
私の頭を掴んでること忘れてないよね?
頭蓋骨がミシミシと悲鳴をあげていて今にもトドメを刺されそうになっていると、突然遠くから所々掠れた男の人の声が聞こえてきた。
「アルフレッド起きてるか?少し話を…ランディ、どうしてモブロード嬢の顔を押さえ付けている?」
「あら兄さん、今レイを寝かしつけているところよ。」
「あぁそうだったのか。ならば出直そう。」
「どうして納得しちまうんだテメェは!!いいからさっさとその馬鹿を止めろ!!」
クラウスさんの声を遮って告げられたアルの声が、病室を飛び越えて関所中に響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「気持ちは分かるが…ランディ、あまり過保護になりすぎると嫌われてしまうぞ。隣ではまだ1人絶対安静の患者もいるのだからな。」
「えぇ、ごめんなさい兄さん。反省してるわ。兄さんのやり方を見習ったのだけれど上手く出来なくって。」
「やっぱり出どころはテメェかクソウス…!どうりでトチ狂ってると…!!」
「何言ってるの!兄さんはこの方法でどんな人が相手でも一瞬で寝かしつけてきたのよ!!子守唄より効果抜群なんだから!」
「強制終了させた、の間違いだろうが!!」
「だから2人とも静かにしろと言っているだろう。」
仲が良さそうでなにより。
アルの一言でランちゃんを諌めたクラウスさんのお陰で拘束からようやく解放され、今度こそ身体を起こす。
戯れ合う3人を見ながら一息を吐くと、起きた私に気が付いたクラウスさんがさりげなく私の背中へ手を回して身体を支えてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「気にするな。それより弟がすまなかったな。その後体調はどうだ?熱は下がったと見受けられるが。」
「おかげさまで大丈夫です。…本当、ご迷惑をおかけしてすみません。」
「謝る必要などない。友人として当然のことをしているだけなのだから。」
「ク、クラウスさん……!!」
尊敬の眼差しでクラウスさんを見つめていると、不思議そうに私を見つめ返す彼にトキメキが止まらない。
本当にどこまでも素敵人だ、生きててよかった。
「………ッチ。」
しかし突如真横から発せられた超低音の舌打ちに、夢見心地だった気分が一気に消え失せる。
すぐさま幼馴染の方へ視線を向けると、彼は何かを言いたそうに私を見つめていた。
長年側にいたからこそ分かる、無言の招集。
やべーよ、なんかお怒りだよあの人。
見慣れた金の瞳と目が合って数秒、どうしたのかと口を開こうとすると突然彼は満足げに頷いた。
そしてすぐに私から視線を外してクラウスさんの方を見る。
「で、テメェはなんの話があるって?」
「あれ!?」
呼ばれたはずなのに、なにごともなかったように終わった。
お叱りじゃないならそうで…すごく気になる。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「あ?なんだよ。」
「なんか用があったんじゃ…?」
「?そうだったのか?」
クラウスさんの問いかけにさらに満足そうに頷いた彼は、楽しげに告げる。
「あぁ、でももう済んだからいい。」
「はっや!?え、なんだったの?」
「どうでもいいだろ。それよりコイツの用件を聞く方が先だ。」
「えぇ…?」
全く意味が分からない。
そして少し嬉しそうなアルもよく分からない。
「他所でやりなさいよ貴方たち。」
そんな私たちを死んだような目で見ていたランちゃんは何が分かったように呟いたが、すぐにクラウスさんに向き直り問いかける。
「それで?兄さんの話ってなにかしら?」
「今回の件で報告と確認したいことがあってな。」
「報告と、確認したいこと…ですか。」
「あぁ。嫌なことを思い出させてしまうかもしれないが……聞いてもらえるだろうか。」
クラウスさんの言葉にアルも私も神妙に頷くと、彼は一息吐いた後に淡々と事実を述べた。
「現場に向かった偵察隊より連絡が入り、延200人以上の死体が発見された。マザー・リザリー率いる女盗賊一派は事実上壊滅したと言えるだろう。」
心臓がドクリ、と嫌な音を立てた。