〇〇は、夢に見る。
いつもありがとうございます!
そして皆さま、メリークリスマス!!!!
本来ならアルとレイちゃんの話をお届けしようと思っていたのですが…間に合いませんでしたすみません…!!!
今回は魔物側の視点となります。
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自身が出せる最大の力で翼を早く動かして、瞬きをする間も惜しんで一つの影を探す。
今現在息を切らして城内を飛び回っている俺だが、はっきりと分かる。
これは夢だ。夢なのだ。
理由は単純にして明快。
この状況は痛いほどに非常に見覚えがあるし、ここ毎日ずっと同じ夢ばかり見る。
とりわけ思い出したくなかった部類の嫌な記憶だというのに。
おそらくあと数秒後にはお目当ての背中を探し当て、声をかけることになるだろう。
「っ、待てよ!!」
ほら、やっぱり。
冷静に状況を分析する脳とは裏腹に冷や汗を流しながら奴の前に降り立った俺は、なにやら慌てた様子で翼を広げ進路を塞いだ。
そうだ、確かこの時の俺は何とかして目の前の男を説得しようと必死だった。
「な、なぁ、冗談だよな…?」
奴は少し思案するように視線を逸らしたあと、何も言わずに俺を真っ直ぐに見つめる。
あぁ、このなんとも言い難い沈黙もひどく懐かしい。
全く困ったことに口数が少ないコイツは、言いたいことを纏めるためにこうして相手を見つめる癖があったのだ。
全てを諦めてしまったような悲しげなその金の瞳で、真っ直ぐと。
少しでも憚れてしまうと諦めて口を閉ざしてしまうため、あのメディシアナでさえも苛立ちながら静かに待ってやっていたっけ。
もちろん普段なら辛抱強く待ってやるところだが…続く言葉を聞くのが怖かった俺は、この時ばかりはその性格にあやかろうとした。
「ど、どうせ喧嘩していつもみたいに引っ込みがつかなくなっちまっただけなんだろ?な?そうなんだよな?」
このまま何も言わせずに丸め込んでしまえばいい、と。
「お前はあの御方と旧知の仲だから…その…思うこともあるのかもしれねぇけど、ち、ちょっとの喧嘩でそんな、お前が出て行く必要ないんじゃねぇの?」
そう思っていたということは多分、俺は薄々何処かで分かっていたのだろう。
「ほ、ほら、今ならあの御方も頭が冷えただろうし、きっと、きっと考え直して…あ、俺が!!俺がついていってやるよ!!そうしたら、な?今までのように」
もう元には戻れないということを。
『…ガンマ。』
ほら、きた。
ついに俺の言葉を遮るように名前を呼んだアイツは、ゆっくりと首を横に振る。
『………ありがとう。』
たったそれだけ、たったそれだけでアイツはあの瞬間に裏切り者となり………俺は友を失った。
「おーいガンマ。ガンマってば。」
ペチペチ、と頬を叩かれて目が覚める。
ボサボサに絡まった髪を掻きながら身体を起こせば、俺の顔を覗き込んでくるメイド服を着た幼い少女と、その少女を抱き抱えているダニエルと目があった。
「あ、起きた。よかったじゃんアルファ、君のご主人様は生きてたよ。」
「うー。」
「…え、なに?俺、生死確認されてたわけ?」
「そりゃあもう死んだように眠ってたからね。あのアルファが不敬を気にせず、ボクを引きずってまで連れてきたぐらいだよ。」
「うお、そんなにか…ごめんなアルファ。びっくりしたよな。」
「あうー。」
「記憶を欠損させないように復元しようとするからそうなるんだよ。苦楽を共にしたアルファじゃないと嫌だなんて…新しく眷属を作り直しちゃえばいいのに無茶しちゃってさ。」
「あ"ーー!!!」
「はいはい、これ以上はキミのご主人様を虐めたりしないよ。泣かなーい泣かなーい。」
そう言ってぐずる小さなアルファの背中をトントン叩くダニエルは、まるで年の離れた兄のように見える。
(あやし上手だな。ま、元は人間だし意外でもないか。………アイツも無口のくせにこういうの上手かったし。)
あぁ、また考えちまった。
そんなことを思いながら、癖のないアルファの黒髪を撫でて笑みを浮かべる。
「気にすんなよアルファ。ほらおじさん元気だから。なーんにも心配いらないからな?」
「うー?」
「おーそうだ。おじさんは元気元気。もうしばらく経てばすぐ大きくなれるからな、あと少しだけ辛抱してくれ。」
「あい。」
「よしいい子だ。偉いぞ。」
かき混ぜるように黒髪を撫で続けると、ふとアルファはじっとこちらを見つめて口をパクパク動かした。
なにか言いたいことがあるのかと思い顔を寄せれば、少女は何も言わないままポケットから布きれを出して俺の目元にあてる。
「なんだ?」
「………さぁ?雨漏りでもしてたんじゃない?ま、そんなことよりもボクらのわがまま女王様がもうすぐお帰りだよ。」
「え、マジで?やっべぇよこんなところ見られたらなに言われるか」
分かったものじゃない、と言葉が続く前に部屋の扉がぶっ飛んで宙を舞う。
「あ。」
「うぐぇあ。」
その扉が一直線に俺の脇腹に突き刺さり、そのまま勢いよく身体が壁に向かって弾き飛ばされた。
「あうー!!」
どうしたアルファ、なに?綺麗に壁にめり込んでるって?
大丈夫、知ってるから。
何度目かも分からない既視感と衝撃に完全に目が覚めた俺は、恐る恐る入り口に視線を向けて…そして驚く。
「メディシアナお前……………髪の毛どうした?」
チキチキと怒りを表して舌を鳴らす女王様の髪は、焼かれたように長さがまばらになっていた。
彼女が唯一拘っていた髪型縦巻きの原形すらないなんて…一体何があったのだろう。
「今それ聞いちゃうの?ガンマって馬鹿なの?」
「え。」
しかしどうやら、その疑問をぶつけるには時期尚早であったらしい。
「あっはっは!!!おかしいわね!?幻聴かしら!?だっっっらしなぁああああいアンタの代わりに大仕事に行ってあげたアタシに対して……髪の毛がなんですって?ガンマ、アンタ相当死にたいようね…………!!!!」
「おかえりなさいませ、そして俺なんかのために仕事変わってくださりありがとうございます。」
「はぁ!?アンタのためぇ!?ふざけんじゃないわ自惚れるのも大概にすれば!!!?」
「え、だってさっき俺のためだって言って」
「一度死んでやり直してきなさい!!!!」
「理不尽っ。」
次に俺を襲ったのは強烈な一撃、そして息が止まるぐらいの衝撃とミシッと骨が歪む音だった。
相当怒りに触れたらしく、加減のかの字もない攻撃である。
おのれ、本当にあの世に送る気かメディシアナめ。
万全の体調ではない今の俺ではまずい。
ちょっと普通に死んだかもしれない。
「はいはい、やりすぎだよメディ。」
自分自身で念仏を唱えながらぶっ飛んでいく俺の身体を抱き止めたのは、硬い壁ではなくて柔らかなゼリー状の何か。
それからほのかな魔力の匂いを感じ取り、あのダニエルが俺を守ってくれたのだと胸が熱くなった。
「ちゃんと加減してよね。もし幹部が1人減っちゃったらボクに皺寄せが来るじゃないか。」
…気がしたが、なんだか勘違いだったようだ。
激しく肩を落とす俺を見てケタケタ笑っていたダニエルは、俺に抱き抱えていたアルファを渡したあとにメディシアナに向き直りそういえばと口を開く。
「それよりどうだったの?マザー・リザリーおよび女盗賊一派殲滅大作戦。」
「は?あぁ…まぁ…そうね。アンタの言う通りあの女勝手に魔落ちしてたわ。」
「あらら、だったらガンマの策は間違いなかったみたいだね。魂はもう充分なほど集まってきてるし、アイツらの生贄を利用して呪いを拡散させる必要はなくなったわけでしょ?殺すのはちょっと早いんじゃないかと思ってたけどさ、既に魔落ちした奴は魔王様の器になんてなれないから生かしておく価値ないしね。新しい候補者様サマサマだね。」
(新しい候補者…ベータが持ち帰った記憶にあったアレのことだよな。)
頭を掻いていた手の動きが思わず止まる。
アルフレッド・フォスフォール。
調べても名前以上の情報が手に入らず、アルファとベータを相手にして怯むどころか圧倒的魔力と先天性な戦闘感覚で見事に立ち回ってみせた不可思議な少年。
器として充分すぎる素質を持ちながら、どうやって今まで赤髪狩りから逃れていたのか。
ましてやどうして聖剣使いなんかと一緒にいるのか、本来なら一度赴いて遠目からでも少年を観察するべきなのだろう。
それでもあの金色の瞳を思い返すと、どうにもそんな気持ちにならないのは何故だろうか。
会いたいようで会いたくない。
瞳の色が似てる奴なんて今まで何千人と見てきたというのに、心が浮き立つような痛むような複雑な心境になったのは初めてだった。
「うー。」
心配するようなアルファの声で我に帰り、再度彼女の頭を撫でる。
(馬鹿馬鹿しい、あんな夢を見たせいか。)
「あっはっは!!本当そうよね!!フォスフォールもまだまだ嬲り甲斐がありそうだったし、いけ好かなかったあの女も始末できたし!!こんなにスカッとすることなんて……」
………ん?なんか…おかしくね?
しばらくその黒髪を堪能していたが彼女の言葉に不穏ななにかを感じて慌てて視線をメディシアナに戻すと、彼女は何故か額に血管を浮かべながら鬼の形相で唇を噛み締めていた。
「おーいメディシアナ?お前その口ぶりだと例の少年と会ったみたいに聞こえるんだけど。そしてすげぇ顔だぞどうした。」
「はぁ!?会ったけどそれがなんだって言うのよ!!!」
「だよな、会ってな…え?」
「どうだっていいのよそんなこと!!問題はフォスフォールの横にくっついてる小娘よ!!!あんの雑魚ぉおせっかくこっちが気分良く戦ってたっていうのに!!あああああああ腹が立つぅううううあああああああ!!!」
「ちょちょちょ!?え!?なに!?お前あの少年に会ったの!?しかも戦っちゃったの!?嘘!?え!?なんで!?」
「あーあ、これは殺っちゃったね。また新しい候補者見つけ直さなきゃだねガンマ。」
「いやいやいやいやいや殺っちゃったってちょっと待て!?メディシアナ!!お前ちゃんと龍の墓場に行ったんだよな!?気が変わったとかであの村襲撃しに行ったりとかしてねぇよな!?」
「はぁあ!?言われた通り龍の墓場に行ってきてあげたわよ!なに疑ってんのよ殺されたいの!?」
「あ、アレじゃない?なんかアルファたちと争ったときに数人女盗賊一派の人間がいたよね。仲良かったんじゃない?」
「ど、どんな人脈だよマジで!?嘘だろ…本気で殺っちゃったの……!?本気で…」
「ガンマ?」
ダニエルの問いかけにも答えられないほどぐるぐると思考が巡り、サァーッと顔面から血の気が失せていくのが分かる。
脳裏には何故か、夢で見たアイツの後ろ姿がぶり返した。
(なんで、なんで殺せるんだよメディシアナ。)
そんな思いで彼女を見つめると、何故か鼻で笑ったメディシアナは大袈裟にため息を吐いたあとに口を開く。
「安心しなさい、別に殺しちゃいないわ。」
「…え?」
「え、じゃないわよバーカバーカ!!確かに骨ぐらいは折ってやったけどそれだけ!!!!!殺してないって言ってるの!!」
「い…生きてんのか。なんだ…」
「…あーう。」
心内に過ったのは候補者が消えなかったことへの安堵か、はたまた別のなにかか。
とにかく無意識にほっと息を吐くと、慰めるように今度はアルファが俺の頭を撫でた。
「ふーん、殺さなかったんだ。へぇ。」
「なによ!!文句あるわけ!?」
「殺してないならそれに越したことはないんだけどさ、メディにしては珍しいなと思って。どうしたの?殺すのが惜しくなるほど気に入ったの?」
「だから雑魚娘のせいで興が削がれたって言ったでしょ!!!さてはアンタ話聞いてなかったわねダニー!!」
「あーもーごめんってば。今度はちゃんと聞いてあげるよ。それでどうしたの?その雑魚娘ちゃんとやらがなにしたのさ。」
そんな俺の動揺なんぞつゆ知らず頭の後ろに腕を組んだダニエルは、呑気にメディシアナに問いかける。
それをキツく睨み返したメディシアナは、顔を凶悪に歪ませて呟いた。
「ふざけたことにソイツ、アタシの石化呪文を解いてみせるって大見得切ったのよ…!!!あっっの憎たらしい顔…今思い返しても腹が立つ!!!!」
「…なるほど、そういうこと…ね。」
そりゃあ荒れもするかと頷きながら合点がいった。
おそらくその娘がメディシアナの殺気を一身に引き受けたおかげで、候補者の少年が死なずに済んだのだろう。
叶うことならそこまでメディシアナを煽る才能がある娘の顔を一眼見たかったが、未来永劫その機会は失われたようだと。
しかしそんな俺の思惑はメディシアナが続けた言葉に打ち砕かれることとなる。
「だからアンタたち、間違ってもアタシより先にあの小娘に手を出すんじゃないわよ。アレを始末するのはアタシ。いいわね。」
「お、おう?」
話は終わりとばかりに床を踏み壊して背を向けたメディシアナに、動揺からか思わず頭を掻いてしまう。
「あれ?それってつまり…その子も殺してないってことか?え?マジ?明日槍でも降るの?」
「ふふ、ぷくくく。」
メディシアナの姿が見えなくなった頃合いを見て、長い袖で自身の口元を隠すダニエルの姿が視界に入った。
「何笑ってんだよダニエル。」
「いやぁ、その雑魚娘ってきっとレイって子だろうなぁって思って。」
レイという言葉にそういえばどこかで聞いたことがあるなと言葉を漏らす。
あの少年に意識が持っていかれてしまったが、確かにレイと呼ばれる少女はベータの記憶の中にも存在していたような。
「だからってなんで笑ってんの?おじさんよく分からないんだけど。」
「あー……これだからガンマってガンマだよね。」
「おーい、なにそれまさか貶してんの?泣くぞ?おじさん泣くぞ?」
「ま、ガンマも彼女に会えば分かるんじゃない?なんたってメディが気にいるぐらいの大物なんだからさ。」
「気に入ってんのかあれ…っていうよりなんだよその言い草は。お前だって会ったことないだろうが。」
「……さぁ?どうだったか忘れちゃった。」
舌を出して笑い立ち去ったダニエルの顔はなにか良からぬことを考えている嫌な表情だった。
(あの夢に参ってる場合じゃないなこりゃ。レイ、レイね…。)
「なんだか、荒れそうだよな…アルファちゃんよ。」
「あーい。」
俺がそのレイという少女に会うことになるのは、今はまだ先の話である。
これでひとまずひと段落!!!
次回からはほのぼの回になりますのでお楽しみに!