新兵は、蛇を連れて行く
いつもありがとうございます!!
またブックマーク登録いただきありがとうございます!!!
大変、大変励みになっております!!
今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!!
「痛ッス。」
ガタンと揺れた馬車内で響き渡る、誰かの悲鳴。
ぎくりと俺たち3人組の肩が跳ね上がると同時に、今回の隊を取り纏める先輩は眉を上げた。
「ん?誰だ今の間の抜けた妙な声は。」
「はい、エミリー様から指名されたにも関わらず寝ぼけていた怠惰なこの男、キッド・バルナーブス新兵が頭をぶつけた声であります。」
「……え、え!?俺ぇええ!?」
「またお前かバルナーブス!!いい加減にしろよ…!!」
「ひっ!ち、ちがっ!!ムーンお前って奴はぁあうぎゃああああああ!!」
淡々と答えたムーンの言葉によって生贄となったキッドからサッと目を逸らし、背後に置いてある壺へと恐る恐る声をかける。
「こら!声出すなって言ってるだろシラタマ…!」
「ッチ、人間如きが偉そうに…はいはいっスヨ。大人しくしてるっス。」
あぁ、前途多難すぎて頭が痛い。
やっぱり連れてくるんじゃなかったかなと後悔してももう遅い。
どうしてこんなことになったのか、それは今から数十時間前に遡る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの時、俺ことダンテ・ガントレッドは全身複雑骨折のリハビリからようやく復帰を果たし、長期間の休養を許可してくれたクラウス隊長に感謝を伝えるべく挨拶をしに行った。
「そうか、もう身体は大丈夫なのだな。」
「はい、隊長!!長い期間お休みをいただき、ありがとうございます…!!」
「気にするな…といいつつお前たちは親子揃って無茶をする傾向がある。今後も期待しているが、決して無理はするなよ。」
「あ、はは……心配おかけしてます…あの人にはもっと安静にしておくように言っておきますので…。」
「そうしてもらえるとありがたい。」
そんな穏やかな会話をしていた最中、あの方は現れた。
バンっと勢いよく開かれる扉から弾丸のように飛び出してきたその方は、走って来られたのか荒い呼吸を整えながらかつての聖女様と同じ真っ直ぐな紫色の瞳をクラウス隊長へ向けた。
「お、はようございます…エミリー様。」
あまりの剣幕に少し動揺した隊長だったが、流石は隊長。
何も言えなくなっている俺なんかよりすぐに冷静さを取り戻してエミリー様に向き直り、片膝を着く。
惚けていた俺もすぐに見習って頭を下げた。
「はぁ、はぁ、うん、おはよう…ってそうじゃないの!!大変なのクラウス!!今すぐ出かけたいの!」
「落ち着いてくださいエミリー様、そんなに焦らずとも菓子はこの通りちゃんと用意してあります。市場に行く必要はありませんよ。」
「え、本当!?ありがとうクラウス!!って違うの!!そうじゃないの!!龍!!龍が出てきたの!!」
その言葉に、驚きで目を見開いた。
「え、えぇ!?龍って…まさかあの龍ですか!?」
エミリー様のお言葉に、許可が出る前に思わず頭を上げてしまう。
しかしエミリー様は俺を責めることなく、大きく頷きながら興奮した面持ちで言葉を続けられた。
「そう!!そうなの!本当だよ!エミリーさっきまで特訓してたんだけどね、急に眠くなったかと思ったらお星様みたいに光ってる大きな龍がバァーンって目の前に生えてきて!!」
「なるほど生えて来たのですか…。」
「なんで納得できるんですか隊長!!?」
「とにかく!その後あっちの空に飛んで行ったの!なんだかすごく追いかけなきゃいけない気がするの!今すぐ!!だからクラウス馬車出してお願い!」
「………エミリー様、申し訳ありませんがそれはできません。」
「ど、どうして!?エミリーのこと信じてないの!?」
「いいえ、そうではありません。」
憤慨するエミリー様の目を見つめた隊長ははっきりと告げる。
「信じているからこそ、お連れするわけにはいかないのです。」
「どういうこと…?」
「エミリー様、そのお力は間違いなくかつての聖女エミラ様と同じ、数多の未来の可能性を見通すものかと思われます。」
「未来の可能性?」
「はい。その可能性が具現化する方法、方角、対象…そしてエミリー様との深い関係なほど鮮烈に、貴方様の心に訴えかけてくるものだと聞いております。」
「だ、だったら尚更早くしないと!!」
「焦ってはなりません。よろしいですか、啓示が龍ともなれば命に関わる場合があるのです。私たちとしては、今この状況で貴方様を失うわけにはいかない。」
「………。」
「エミリー様は私たちの希望なのです。厳しいことを言うようですが、聖女の力を安定して行使できるようになるまで…この村から出ることは難しいとご理解ください。」
「……うん、そうだよね。分かった。」
悲しげに眉を寄せたエミリー様に胸が痛む。
しかしその後気丈にもしっかりと隊長を見つめ返したエミリー様は、冷静さを取り戻したように口を開いた。
「でもどうするの?放っておくの?」
「いえ、その啓示が何を示すのかは確認したほうがよいでしょう。偵察隊を編成し、向かわせます。」
その言葉の後、じっと見透かされるような青い瞳に見つめられて数秒。
恐る恐る背後を確認するが誰も居らず、静かに自分を指差すと隊長は大きく頷いた。
「行ってくれるか。」
「お、俺!?俺でいいんですか!?」
「適任かと思ってな。どうでしょうか、エミリー様。」
肩を竦めた隊長は意見を求めるようにエミリー様に視線を向けると、エミリー様も大きく頷いた。
「うん、エミリーからもお願いしたいかな。なんとなくだけど、その方がいい気がする。」
「え、え!?」
「あ、あとお友達がいるよね?その人たちも一緒に…なんてどうかな。危ない仕事をお願いすることになっちゃうけど…」
「そそそそんなことは決して!!こ、光栄です!!エミリー様!!あいつらもきっと喜ぶと思います!!」
「ふふ、そっか。ありがとう。でも本当に無理しないでね。なにかあったらすぐに撤退してね。」
「は、はい!!承知しました!お心遣い感謝いたします!!!」
「友にはお前から声をかけるといい。私はいくつか隊を編成した後、魔法石で再度召集をかけるとしよう。頼んだぞ。」
「はっ!よ、よろしくお願いします!」
そのまま隊長の執務室から飛び出して、向かった先はもちろん2人の友のところ。
隊長に挨拶しに行った俺を待ってくれていた彼らは、いつも通り関所にある訓練所で清掃に励んでいた。
「………なるほど、それで俺たちも選ばれたってわけか。」
「一緒に来てくれるか?」
「あぁ、もちろん。」
「おうよ!やってやろうじゃん!!」
経緯を説明した2人は、驚きはしたものの快く引き受けてくれた。
本当にいい仲間を得たと感動していると、視界の端で何か白いものが動く。
「…ん?」
「それなら隊長から呼び出される前に早いところ準備しようぜ。」
「あぁ!何が必要か考えないとな!」
「そうっすね、じゃあまず俺を連れて行けっす。」
「「「…え。」」」
いつの間にか俺たちの真横に立っていたのは、戦友アルフレッドの従者であるシラタマ。
ここ最近では珍しく人型になっていた彼は、端正な顔をこれまた珍しく歪ませて俺たちを見つめていた。
「ばっ、馬鹿言うなよ!!!お前を無許可で連れ出したら何言われるか…!!隊長に言えって!!」
「アイツがオレが外出るのを許可すると思うっすか?」
「まぁ、無理だろうな。」
「………お前らに無理言ってるのは重々分かってるっすけど…嫌な予感がするっすよ。恥を忍んでお願いしてるっす。」
「それって今回の任務にアルフレッドが絡んでるってことか?」
「分からないっす。ただ…オレは行かなきゃいけない気がするっす。」
ムーンの問いかけに答えたシラタマは、まるで人間のように思い悩んでいるようだった。
悲しげに縮こまる姿に胸を打たれた俺は、数秒考えた後にシラタマの頭を撫でる。
「……分かったよ、一緒に行こう。」
「おいダンテ。」
「シラタマだって俺たちの友達だろ?」
「はぁ?誰がっすか。ふざけんなっす。」
「えぇ…?そこは…うん……まぁいいや。」
苛立ちに任せて俺の手を振り払った小さな手に苦笑しつつ、渋る2人に向き直る。
「とにかく、友への声かけは任せるって隊長にも言われたんだ。キッドとムーンだけを指定されたわけでもないし、連れて行ってやろうと思う。」
「………あーもうしょうがねぇな!じゃあシラタマが隠れる場所は俺に任せとけ!とっておきのを用意してやるよ!!」
「はぁ…いいよ。いいよ分かった、俺も協力する。」
「ありがとう。いいかシラタマ、移動中は俺たちの言うことちゃんと聞くんだぞ?」
「仕方ないっす。了解っす。」
そうして3人で準備をして、嫌がる蛇の姿のシラタマを壺の中に隠して、あれよあれよという間に召集され馬車に乗って移動して今に至るのだ。
「本当次はないからな…!!」
「うーッス。」
気のない返事をする蛇に思わず頭を抱える。
本当、なんで連れてきちゃったんだろうなぁ…俺。
「さて、堕落なバルナーブスは放っておいてそろそろエミリー様が啓示された区域に到達する。何か見えるか。」
そう思わずため息を吐いたその時、思考を遮るように発せられた先輩の声にはっと意識が戻る。
慌てて武器を持ち荷台から顔を出したが、特に目ぼしいものは見当たらない。
「いえ、龍らしき姿もありません。」
「…そうか。では近辺の安全が確保でき次第、周囲の偵察に入る。気を抜くなよ。」
「「「はっ!!」」」
ムーンとその他数名が結界を張って馬を隠し、残りの隊員である俺や既にボロボロなキッドは2人1組になって地面に降り立った。
「調べるって言ったって実際見晴らしのいい平野だし、なんにもなさそうだけどな。」
「何もなければそれに越したことはないって。よっこいせっと……ほら行くぞキッド。」
「おう!…っていうか、え?壺、そのまま背負ってくの?」
「あのな、馬車の中に置いていけるわけないだろ?ちゃんと連れてきた責任は取らなきゃ。」
「めっちゃ不思議そうに先輩たち見てるよ?アイツなにしてんのって視線凄いよ?」
「そんなの関係ないね。」
「やっぱお前度胸ついたよな…。」
痛い視線はさておき、互いの位置を把握しつつ調べ漏れがないよう慎重に調べ上げていく。
するとある地点でうっすらとではあるが奇妙な紋様が地面に掘られていることに気がついた。
(なんだ?これ?)
「大当たりッスヨ、人間。」
地面に手を触れると、突然背負っていた壺からにゅるりと白い蛇が顔を出す。
慌ててキッドが先輩たちから見えないように立ち上がってくれたが、当の本人は気にせず身体を唸らせて壺から出てきてしまう。
「ダ、ダメだって!!」
「魔法陣で見えないように隠してるつもりッスガ…フン、血の匂いは誤魔化せないッス。」
「な、なにを…誤魔化すって?」
「見てれば分かるッスヨ。…退いてろッス。」
そう言って牙を思いっきり剥き出したシラタマは勢いよく地面に齧り付く。
すると地面の上を薄紫色の光が走り抜け巨大な魔法陣が浮かび上がると、地響きを立てて地面が盛り上がっていく。
「な、なんだ!!なにごとだ!」
「その場を動くなッスヨ人間!!!死んでも責任持たないッス!!」
「なっ!!お前、フォスフォールの…!!まさかお前たち無断で!!」
「やべっ!ババババレた!!」
「ハッ、もうどうでもいいッス!!隠しもの、見せてもらうッスヨ!!」
そのシラタマの言葉を合図にして…
俺たちの周りの景色はガラリと変わった。
長くなってしまったのでここで一旦区切らせてください…!!
いつになったらもっと上手く区切れるのだ私は…涙
近いうちに続きを投稿しますので暫しお待ちいただければ幸いです!!