転生者は、宣言する
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いよいよ女盗賊一派編も終わりに近づいてきました!!
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大事なのはメディシアナを倒すことではなく、これ以上被害を出さないこと。
自身の行動指針を決めながら立ち上がり、目の前に佇むマザー・リザリーの頬の部分にそっと触れる。
幸いアルが私たちを巻き込まないようにするために遠くで戦ってくれているおかげで、マザーさんの石像に破損は見られない。
このまま保護できれば恐らくは問題はないだろう。
だからまずはアルと合流し、その後マリーちゃんを連れて生きてこの場から脱出することを考るのだ。
(待っていてくださいマザーさん。マリーちゃんだけでなく、絶対に貴方も救い出してみせますから。)
そう決死の想いで奮起したその時、ドンっと空気を震わす爆音と爆風に紛れてなにかを視界に捉えた。
「……アル…!!」
額から目元にかけて血が滴り落ちており、片手は折れてしまったのかダラリと力なく垂れ下がっている。
直視するのも憚れるほど、彼はすでにボロボロだった。
「ほらほらどうしたの!?こんなもんじゃないでしょ!?あの雑魚娘が殺されてもいいの!?」
「っ、!!!!」
「あっはっは!!そう!!!もっとよ!!もっと怒りに身を任せなさい……!!!そしてアタシと殺し合いましょう!!!」
それでも自身の様子に気づいていないのか、どこからか聞こえる声に眼光を鋭くさせて一心不乱に食ってかかる。
今の彼の姿は、まるで血に飢えた猛獣のようだった。
(ど、どう考えても冷静じゃない…!!)
このままではどちらかがボロボロになるまで……正しくはどちらかの息の根が止まるまで終わらないだろう。
一刻も早く彼を止めないとまずいことは明らかだった。
暴れ狂う彼の姿がまた爆風に巻かれて姿が見えなくなると、震える身体に喝を入れるために両頬をパチンと叩く。
そして再度ゆっくりマリーちゃんの手を握り締めて呟いた。
「マリーちゃん、私……やれるかな。」
すると気を失っているはずの彼女が、まるで私を励ますように弱々しくも確かに握り返してくれた。
恩人なら、大丈夫。
そう言ってくれたような気がした。
「女は度胸、女は度胸…!!」
さぁ、時は来た。
メディシアナがどこにいるかも分からないのにあの中に入っていくのは、普通に考えて自殺行為である。
加えてこの爆風となると、雑魚の私ではアルの居場所など到底探し当てることは出来ない。
情けないことだが…アル自身がこちらに来てくれないと合流はまず不可能だろう。
この騒音に負けず、かつ興奮状態の彼に果たして声が届くだろうか。
それでもこのまま時間をかけてはアルの身が、精神が危ない気がする。考えている余裕はない。
深呼吸をして瞳を閉じて、そしてかつて彼が言ってくれた言葉を思い出す。
「お前を、必ず守る。」
(大丈夫、アルにきっと届く…!!)
「アル!!!!」
だから全身全霊をかけて、彼の名を呼んだ。
「助けて!!!!!!!」
その瞬間、煙の向こうで赤みがかった金色の瞳と確かに目があった気がした。
呼応するようにあがる一際大きな爆発のあと、全身に感じるのは炎のように熱い熱。
離れないように、離さないようにギュッと抱き締めれば恐る恐る背中に手が回される。
「………………モブ。」
「そうだよ?幼馴染のレイ・モブロードだよ。分かる?」
小さく頷いた彼に密かに安堵の息を吐く。
モゾモゾと動いて体勢を変えたアルは、顔をこちらに向けて私をじっと見つめて口を開く。
「怪我は…してねぇ…か?」
その言葉に、あっと声を漏らす。
「あ、いや、えっとね、助けてって言っておいてアレだけど全然怪我とかしてないんだ。どうしてもアルと一緒に居たかったから…その…心配かけてごめんね。」
「…………謝るな。お前が無事ならそれで……あぁでも、オレはお前を、お前の心を、傷つけて……」
「アル。」
少し語尾を強めてアルの名前を呼んで彼の言葉を遮った。
「マザーさんのことは確かに結構…ショックだよ。私を庇ってくれたから…あんな…ことに。」
「…モブ。」
「でもだからこそ私にはやらなきゃならないことがある。途方に暮れるのは今じゃない。そうでしょう?大丈夫、大丈夫だよ。貴方の幼馴染はそんなに弱くないんだから。」
血で少し固まってしまった彼の髪を数回撫でて、微笑む。
すると眩しいものを見るかのように瞳を細めたアルが次に目を開ける頃には。
ふっと炎が消えるように静かに、でも確かにその瞳から怒りが消えていた。
「あぁ………そうだな。お前の強さを、オレはよく知ってる。」
「そ、そんな風に真っ直ぐに言われるとちょっと照れるかも…。」
「はっ、なんでだよ。変な奴。」
「と、とにかく!!私の目的のためにもアルは早くその傷の治療しないとダメなの!!分かった!?」
「あぁ…そうする。」
ぐりぐりと擦り寄ってくるアルの頭を撫でてホッと息を吐いた。
ちょっと苦しいけどこの程度どうってことない。
よかった、帰って来てくれて。
とすると残る問題は、あと一つだけだ。
「…っは、なによ、なによそれ……笑えない…全く笑えないんだけど…………!!!」
底冷えするような低い声。
苛立ちに任せて地面を思いっきり踏み抜いた鈍い音に、冷や汗が背中を伝う。
姿はもう見えないけれど、メディシアナがすぐ近くに来ているのが分かった。
肌に突き刺さる殺気に眩暈がするが、それでも決して弱気になってはいけない。
少しでも怯めばそれこそ命取りだ。
「ようやく、ようやく調子が戻ってきていたのに…………!!よくも台無しにしてくれたわね雑魚娘が!!!!」
「っ、させるかよ!!!」
バチンッと電気が弾けるような音がすると、私たちのすぐ真横の地面が抉れ持ち上がる。
その異様な光景から彼女の怒りの大きさを知り、密かに息を呑んだ。
「って、マリーちゃん!!マリーちゃんは!?」
「問題ねぇ無事だ!逸らしてあるからな!!」
「うっはまじっすか流石アルくんそこに痺れる憧れるぅ!!」
「っ、あああああああああああ!!!なんなの忌々しい!!なんで、なんで…!!なんでさっきよりイキイキしてんのよ!!なんでまだそんなに動けるのよ!!」
「どうしてだと?そりゃあコイツが腹括ったってのにいつまでも情けねぇ姿見せられねぇだろ…!!髪の毛一本触れさせやしねぇから覚悟しやがれ!!」
「うん、気持ちはありがたいけどどちらかといえば安静にしてて欲しいな!?君が一番重症だからね!?」
「っ、なによ……!!なによなによなによなによ!!余裕ぶっこいて!!壊れかけのくせに!!!アタシより弱いくせに!!」
怒りに地面が裂け、絶叫が響き渡る。
「アタシを恐れなさいよ!!惨めに泣き喚き、怨み恨んで絶望しなさいよ!!そこのマザー・リザリーのように救いなんて来ないんだから!!一切合切の希望もなく!!!無様に死に絶えろ!!!」
身が竦むような圧倒的な力が前に立ちはだかる。
それでもアルを抱き締める力を強めれば、彼も私を支えるように力を込めてくれる。
あぁ、こんなに心強いことがあるだろうか。
思わずふ、と口元が緩むと威嚇音を鳴らしていた蛇の舌が動きを止めたのか、僅かながら静寂が訪れる。
その隙にはっきりと彼女に告げた。
「マザーさんは必ず救い出します!!私が貴方の呪いを解いてみせる!!レイ・モブロードの人生にかけて!!!」
「あぁあああああああああああああ!!!!!」
私のすぐ真横をなにかが貫く。
誰もなにも話さないままただ砂煙があがり、コロコロと石が転がる音のみが洞窟内に響き渡る。
「………なんて嫌な目つき。嫌い、嫌い、大っ嫌い。」
その静寂を破ったのは、意外にもメディシアナだった。
「いいわ。そこまで言うなら、アンタみたいな雑魚がこのメディシアナ様の呪いを解くって言うのなら、やってみればいいじゃない。」
「え?」
メディシアナの言葉に驚いていると、彼女はさらに続ける。
「それで身の程を知ればいいわ。アンタのような弱者が何をやっても、なにも変わらないってことをね!!今度こそアンタがどん底まで絶望したその時に、ぐっちゃぐちゃにぶっ殺してやる!!!」
「……いえ、諦めませんから。絶対に。」
「あぁ、そんなことさせねぇよ。」
決意固めて私たちが静かに答えると、鼻で笑ったメディシアナは呟く。
「ふん、今から楽しみね。アンタたちの顔が苦痛で歪むその時が。………あぁそれと…………」
珍しく少し言い淀んだ彼女は短く咳払いをして告げる、
「もう少し器用に戦えるようになっておきなさい、フォスフォール。」
その言葉を最後にこの場を支配していた鋭い殺気が薄れていき、視界の端で開いた黒い傘がくるりと回って立ち所に消えていく。
見えなくても分かる、彼女はこの場を去った。
「い、生き…残った…の…?」
思わずこぼれ落ちた私の言葉にアルは笑う。
「なんとか、な…それに…してもお前…本当……すげぇ…度……胸…」
「え、ア、アル…?アル!?アル!!!!」
そして安心したのも束の間。
血を流しすぎたアルの身体はくらりと傾き、そのまま彼は意識を失った。