転生者は、秘玉に触れる
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そしてお待たせしました…!!
存在を匂わせてきたあの人もついに参戦!(な、長かった…!!
ストーリーもドンっと進みますので、よろしければブックマーク登録・評価・感想などお待ちしております!
ーーー選バレシ勇者へ、英傑ワダツミノ祝福ヲ。
眩い光に視界を奪われ身動きが取れない間に、思いっきり叩いた底から蒸発したはずの赤い液体が噴き上がる。
勢いに負けて尻餅をつき頭上を見上げれば、周囲から集められた液体が球体と化し生き物のように蠢いていた。
「え?」
その後一瞬龍のように姿を変えたソレは一度宙でとぐろを巻くと、一息で私を飲み込んだ。
「っ、モブ!!!」
激しい水の流れに意識が持っていかれそうになる寸前で、私の名前を叫ぶアルの声が聞こえハッと目が醒める。
冷静になれば確かに息苦しいものの、水の中なのに呼吸ができることに気がついた。
ーーー……友の匂いを纏うとは、奇怪な。
(………友?)
ーーー我には分かる、ただの村娘ではあの2人より恩恵を貰うことなどあり得まい。実に変わり種な娘だ。
どうすればいいのか分からず必死に手を動かしていると、ふと人差し指が遠くにあるなにかに触れる。
少し触れただけでも分かる熱量と、心臓の鼓動のように一定の感覚で脈を打つソレに惹かれて手を伸ばせばまたもや声が聞こえてきた。
ーーー欲しいか?ソレは常人には天地がひっくり返ろうと扱えぬ代物。手にしたところで其方には災いしか招かないだろう。…それでも自ら不幸を求めるか。
災いなんてこちらの方から願い下げ、不幸などもってのほか。
それでもこのままテオさんの手に渡るよりはと手を伸ばす。
(コレは勇者を、大切な幼馴染を導くための大切なものだから悪用されるわけにはいかないの。)
私の答えにきらりと一瞬輝きを放ったソレは、自然と手の内に収まりこぼれ落ちないよう強く握り締める。
ーーー………成程、其方はアレを勇者と見るか。ならば心して持っていくがいい。
その言葉の終わりとともに、力の限り腕を引き抜いた。
同時に水の流れが急速に変わり強い力で外に引っ張られ、息が出来ない。
ーーー忘れるなよ、光と闇は表裏一体。光に近づけば近づくほど闇は濃くなり深くなる。勇者の器となればそれは即ち…魔王の器ともなることを知れ。
「死にましたか、レディ。」
………そんな聞き方ってある?
思わず顔を顰めると誰かに首元を掴まれ、強く引っ張られた。
息苦しい液体からそのまま引き抜かれると、全身ずぶ濡れになって冷えた身体がそのまま地面へと叩きつけられる。
「い"っ……た……!」
「モブ!!!」
「おや失敬。返事がなかったのでてっきり死んだものかと。」
不穏な台詞に顔が引き攣り、脈が早くなる。
急いで逃げようとすると髪の毛を掴まれ、地面に押さえつけられた。
必死に振り払おうともがくも所詮は子供の力、大人には敵わない。
「ソイツに近づくな!!」
「おや、いいのですか?流石の私でも彼女を抑えたまま貴方の相手をしては手元が狂ってしまうかもしれませんよ。せっかく助かったのにバラバラになるなんて災難ですね。」
「そんなことさせるかよ!!」
アルが全身に力を込め大剣構えると、またもやアルから貰った髪飾りが輝き視界が歪む。
その輝きを見たテオさんは意外そうに小さく呟いた。
「ほう、必殺技ですか。」
「っ、」
「ですがやはり甘い。貴方のような人物は弱点をつくのが1番楽でいいですね。」
「ぐっ…!」
「アル!!!」
何故か途端に動きを止めてしまったアルはテオさんの刀で乱暴に弾き飛ばされ、壁に身体を打ちつけられる。
「さぁ、お次は貴方だ。レイ・モブロード。」
そう呟いたテオさんは身動きが取れない私の髪の毛を掴み持ち上げた。
痛みに顔を歪めながらも負けじとテオさんを睨みつけると、彼は蒼い瞳を細めて口を開く。
「まずはその手にある秘玉を、こちらに。」
握り締めていた手をゆっくりと広げると反動でコロリと転がったソレは炎のように赤く揺らめく輝いている。
まさしく秘玉と呼ばれるに相応しい煌めきである。
奪い取ればいいものを私自ら差し出すように仕向けるのは、圧倒的力の差を思い知らせるためか。それとも。
「……貴方には使えませんよ。」
「……誰の入れ知恵か知りませんがいずれにせよ、貴方のような脇役が気にする必要はありません。」
にこやかに笑って告げたテオさんは、私の手のひらからこぼれ落ちた秘玉を拾い上げ天にかざす。
悔しい。何もできないなんて。
『本当!脇役だなんて失礼しちゃうよネ!』
脳内に聞こえてきた声に目を見開く。
テオさんは声に反応しないことから、聞こえているのはどうやら私だけのようだ。
『……ちょっとだけ、イタズラしちゃおっか。』
「さて、それからもう一つ貴方に聞き……」
聞こえてきた声に疑問を抱くと同時に不自然にテオさんの言葉が区切れる。
視線を向ければ秘玉を掲げたまま動きを止めた彼が、表情を無くして立ち尽くした。
「…ふざけるな。」
「え?」
再度こちらに視線を向けた彼は恐ろしいほど冷めた瞳で私を見つめながら、髪を掴む力を増す。
「貴方は、何処まで知っているのですか?」
「………っ?なんの話…」
「誰の入れ知恵で、何が目的か…そして何より、貴方が何者なのかを私に教えていただけませんか。」
痛い。
「……分からない…知らない…!」
「ご冗談を…!ならばどうして」
もう何も考えたくなくて固く目を閉じると、テオさんの言葉がまたもや不自然に途切れた。
不思議に思い恐る恐る目を開ければ、驚きで目を見開いているテオさんと視線が交じる。
「………っ。」
そして私の全身を濡らしていた赤い液体が頬から一滴滑り落ちると、ついに彼の顔から血の気が失せた。
「………まさか……」
何があったのかと問いかける前に、目の前の彼の肩から突然血が噴き出す。
咄嗟にテオさんが身を捻ると、入れ替わるように見慣れた赤が彼の懐に入り強烈な一撃を喰らわせる。
私の髪を掴んでいた手が離れたことで身体が宙へと浮かび上がると、一瞬で私を抱きかかえたその人物を見て彼の首元にしがみついた。
「っ、アル!!」
「悪い、遅くなった。」
落ち着く匂いと優しい眼差しに不安だった心が一気に解けていく。
全身真っ赤に染まった私のせいで汚れてしまったアルだったが、構わず頬を寄せてぐずる私を励ましてくれた。ただの天使である。
「………化け物め。」
「その化け物を怒らせたテメェが戦犯だクソ野郎。今度はこっちのっ!?」
アルの言葉を遮るように天井から落石が始まった。
見事交わしたアルに不適な笑みを浮かべたテオさんは、肩の傷口を押さえながら一歩後ろへ下がる。
「……時間切れか。いいでしょう。今回は予想外なことが多すぎる。秘玉を手に入れられただけで良しとします。」
「あ"!?逃すと思ってんのか!!」
「逃す?いいえ、逃げ出すのはお互い様だ。」
「なんだと…!?」
その瞬間、落石が続き騒音が響き渡る中でありえない音が聞こえてきた。
「……誰か…歌ってる?」
こんな状況なのに楽しげで、しかも崩落しているこちらに近づいてくる。
明らかにおかしい。
「っ、待って!」
「………またお会いしましょう。」
テオさんは肩の傷口を押さえながら苦しげに表情を歪め、私の言葉を待たず姿を消した。
一方のアルも私を抱えたまま足早に出口に向けて走り出す。
「待ってアル!秘玉が!!」
「あんな玉ころより脱出が先だ!!おい!お前はコイツ支えてろ!」
「…う、うん!!」
「舌噛むんじゃねぇぞ!」
アルは道すがらマリーちゃんとマザーさんを拾い上げ、落石を避けながらテオさんが出現させた扉目掛けて走り抜ける。
そしてようやく辿り着き、その取っ手に手をかけた。
「はぁ?せっかくこのアタシが直々に来てあげたっていうのに、どこに行こうっていうの?」
扉は一瞬で何かに押しつぶされ、途方に暮れる私たちの前で黒い傘がくるりと回った。