転生者と、不穏な足音
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淡く幻想的に輝いていた大剣が落ち着きを取り戻したのをしかと見届けた後、私はずるずるとその場にしゃがみ込む。
どうやら興奮のあまりいつのまにか息を止めてしまっていたらしい。
「モブ!?」
「あ、はは、見ちゃった……」
いや、見てしまった。
慌ててこちらに駆け寄ってくる幼馴染に向けて呟くと、私の額に手を当てたアルは眉を潜めて口を開いた。
「っ、やっぱりお前調子悪いんじゃ」
「いやいや、興奮のあまりちょっと力抜けちゃって…凄かったね今の技…」
「…見えたのか?」
「なんか髪留めがバァーって光ってからアルもバァーって…いやぁ生でギガスラッシュを見れるなんて思わなかったなぁ。」
「は?ギガ…なんて?」
「ん?ギガスラッシュだってば。さっきの技はそうでしょう?」
「………。」
「とにかくもう大丈夫!!今はマリーちゃんを早く助けてあげないとね!!」
難しい顔して動きを止めたアルに笑みを見せて再度立ち上がった私は、引き続きマリーちゃん救出のため縄に手をかける。
すると上から私より少し大きい手が被せられた。
「アル?」
「震えてる。」
「え、あれ…本当だ。」
そう言われてはじめて、自分の手が小刻みに震えていることに気がついた。
そしてさらに言えば何故だか…身体が怠い。
「何もしてないのに。」
「気ぃ張ってたんだろ。少し休んどけ。」
「で、でも早く助けてここから出ないと」
「お前よりオレの方が早く解ける。」
「……これも?」
渋る私の頭を撫でていたアルは、私が指し示した紐へと視線を移して眉を潜める。
「なんだこれ。血だらけじゃねぇか。」
「え、あぁこれは英傑ワダツミ?さんの血とやらで固められてるんじゃないかな。」
「あ?なんだそういうことかよ…ッチ、これじゃあ魔法かけた張本人じゃねぇと解けねぇな。」
「だよね。はぁ、マザーさんに起きてもらうまで待つしかないかな。」
「その必要はありません。」
アルと会話していたはずなのにどこからか聞き覚えのある男性の声が聞こえて肩が跳ねる。
一方のアルはすぐに大剣を構え、自身の背中で私を庇う。
先ほどまでとは異なりアルの表情は少し強張って見えたのは、この場を支配する不気味な気配のせいだろうか。
「今の段階で大罪人マザー・リザリーを完封するとは……王都騎士団団長との仲が随分とよろしいようでなによりですよ。」
「…そういうテメェは以前より陰険さが増してるじゃねぇか。天下の副団長様がそんな風じゃ、王都騎士団の今後が心配になるな。」
「ふっ、こちらとしても以前の貴方の方が殺し甲斐があったというもの。飼い主が凡庸となれば赤髪でさえ腑抜けと化すのですね。実に残念です、悪魔の子よ。」
アルを悪魔の子と呼んだ人物を忘れられるはずがない。
私たちがやってきた入り口から音もなく現れたその人を見て、意識しないままその名を呼ぶ。
「王都騎士団副団長テオ・モルドーラ…さん。」
「おや、覚えて頂いていたとは。えぇ、ご機嫌ようモブロード嬢。ただの村娘である貴方がここまでやって来るとは夢にも思いませんでしたよ。」
靴の音を響かせ、長い青髪を一つに束ねたその人は数年前と変わらぬ美しさで髪をかきあげた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
颯爽と地に降り立ったテオさんに向けて、アルは警戒を怠らずに言葉をかける。
「オレの記憶ではマザー・リザリーの許可がねぇとここまで来れないって話だったんだがな。」
「私にしてみれば貴方たちがこの場にいることが不思議ですが、えぇそうですね。正攻法でいけばそうなります。」
「……どういう意味だ。」
アルが威嚇を込めて先を促せば、テオさんは言葉を続けた。
「マザー・リザリーの隠れ家である龍の墓場のゲート口は彼女の魔力で隠され、日毎に場所を変えて出現するのです。マザー・リザリーの許可がない限り辿り着けないというのは、正確にはゲートの出現場所を教えてもらえないと突入できないと言う意味でして。あのクラウス騎士団長でさえ大罪人マザー・リザリーを捕らえることは出来ていなかったのはこれが理由です。逆に言えば、出現場所を知っていればどうということもありません。」
「へぇ、じゃあ上司にゲート場所を黙ってて自分の手柄にしようってことか。」
「いえそんなことは。生憎覚えていたのはこの日だけでしたので。」
テオさんの言葉に少しの違和感を覚える。
しかしすぐに話題が変わり、その違和感がなんだったのか分からないまま彼らの会話に耳を傾けた。
「じゃあゲート内はどうやって突破しやがった。マザー・リザリーの性格上、タチが悪りぃ内装になってそうだがよ。」
「赤の他人にはそうでしょうね。ただこのゲートは彼女の娘たちも利用するのですよ。だから娘たちには誤っても牙を剥かないよう、彼女は愚策を思いついたのです…コレを使って。」
「っ、それって…」
「えぇ、貴方もお持ちの誓いの印です。マザー・リザリーが認めた人物のみ渡される代物ですが、実は所有者とともにゲートに入れば私のような部外者も入れるのですよ。恐らく盗品も一緒に隠れ家に持ち込めるように配慮した結果でしょう。」
彼が首元から取り出したソレを見て思わず声を出すと、テオさんは淡々と言葉を続けた。
「愛は人を愚かにするとはよく言ったものですが、こうして侵入されたらどうするつもりだったのでしょうね。追い払える自信でもあったのでしょうか。牙を抜かれた幼子に負けた敗者が傲慢なことです。お陰様で楽に事が進むので有り難いことですが。」
そうしてゆっくりとマザーさんへ近づいたテオさんは、倒れている彼女の首元から何かを毟り取った。
ちらりと見えたのは、私が持っているモノとは少し大きめの誓いの印。
すぐにこちらに向き直った彼にアルは手元の大剣に力を込めると、心外だという様子でテオさんは肩を竦めた。
「ご安心を、今回は貴方と争う気はありません。久方ぶりの休日ですし、いただけるものだけ拝借したらすぐに退散します。」
「そんな言葉信じられるか!!」
「そうですか。邪魔されるつもりなら相手になりますが、お荷物を抱えたまま私に勝てるとお思いですか?」
「…………………。」
「えぇ、冷静さを失わなくなったことは評価しましょう。その評価に応じてひとつ警告を。」
スッと人差し指を口元に当てた彼は、蒼く澄んだ瞳を細めて口を開く。
「もうじきここは壊滅しますので、貴方たちも早く脱出した方がいいですよ。」
「っ!?どういう意味だ!!」
「犯罪一派の然るべく結末…というべきですかね。貴方は大丈夫かと思いますが、大事に隠しているそこの一般人を助けたいなら忠告を聞くことですよ。彼女に話し合いが通用するとは思えませんしね。」
彼がパチンッと指を再度弾くと、何もなかった場所から大きな扉が出現しゆっくりと開く。
「なんの真似だ。」
「餞別ですよ。言ったでしょう、私は今日は休暇でここにきていると。王都内ならまだしも、管轄外で幼い子供が目の前で噛み殺されるのを眺める趣味はありませんから。」
あまりの衝撃に口を開いたまま唖然としていると満足げに頷いたテオさんはそのまま何も言わずに誓いの印を口元に当て、笛を吹き始めた。
そして同時に洞窟内全体を震わせるような地震が私たちを襲う。
「っ、仕方ねぇ!!モブ!ここから脱出するぞ!!」
彼の言葉は最もだが音色を聞いたテオさんが真っ直ぐに歩き出したのが気にかかる。
何故かこのままにしておくと、恐ろしい事が起こるような。
「モブ!!!」
「ごめんアル!2人を連れて先に出て!」
「はぁ!?おい待て!どこに行く!!」
その問いかけに答える余裕はない。
脳内ではまたもや不思議な声が私に語りかけてきた。
『音色が吸い込まれる扉を見つけたら』
そうだ、やることはひとつ。
「今度は3回強く叩く!!!!」
「……なに?」
何故か動きを止めたテオさんを押し除けて、彼の音色が吸い込まれていく感覚がした中央の床を思いっきり3回叩く。
『選バレシ勇者へ、英傑ワダツミノ祝福ヲ。』
「モブ!!!!」
今度は洞窟内に低く唸るような言葉が響くと、目の前が真っ白に包まれた。