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転生者は、ぶん殴る


いつもありがとうございます!

またブックマーク登録いただきありがとうございます!!


すみません少し体調を崩しておりまして…大変長らくお待たせいたしました…涙


もう回復しましたので、また更新ペースを戻せるかと思います。

ご心配おかけし申し訳ありません…。


ぜひ今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などよろしくお願いします^_^



この私レイ・モブロードの行動指針は、全て前世の未練と後悔が基になっている。

頭では割り切っていたとしてもふとした瞬間に、今では顔も名前も思い出せないかつての家族のことを考えてしまうのだ。


あんな形で突然と死んでしまうことになるのなら。


もっと感謝の気持ちを伝えておけばよかった。

もっと家族との時間を大切にしておけばよかった。

最期に一言、お別れを伝えたかった。


けれどそう後悔しても、もう二度とかつての私には戻れない。

どんなに嘆いても一度目の人生はすでに閉幕してしまった。

だからこそ今回は、と心に決めてこれまで歩いてきたのだ。


そんな中で村のために命を張ってくれた彼女たちから自慢げに母親の武勇を聞いたとき、納得するとともに羨ましくもあり、そして目標であった。

彼女たちのように大切な人のために力強く生きていきたいと思えた。それなのに。


「それなのにあの子たちの純粋な想いすら報われないなんてどういうことだこの野郎ぉおお!!」


「お、落ち着けって!」


「これが落ち着いていられると思って!?無理無理!!絶対無理!」


なんとか一発入れようと暴れる私は宥めにかかるアルに訴える。


「人を信じるのは確かに勇気がいることだけどさ!?わざわざ自分から壁を作ってどうするの!?せっかく想ってくれる家族がいるのに、支えてくれようとしてくれる人がいるのに!!」


「モブ…」


間近でアルの綺麗な瞳を見つめていると、2人の言葉が脳内を過ぎる。


「レイのカカ様も素敵だけど……うん!アタシたちのカカ様だって最高のカカ様なんだ!」


「いつか守ってもらうだけじゃなくて、背中を預けてもらえるぐらいに強くなる。それが私たち…マザー・リザリーの娘としての願い。」


心の底から母親を想って笑ったあの子たちは、決して魔法が魅せた効果で願いを口にしたわけではない。

私が前世の無念から悔いのない人生を歩もうと決めたように、己の人生の指針となるものがその程度で捻じ曲げられるわけがない。


「しかもあんにゃろアルのことまで誰にも愛されないだの、アタシしか愛せないだのよくもまぁヌケヌケと!!!」


「事実でしょう?アンタだって利用し甲斐があるから彼と一緒にいるだけで」


「はぁあ!?私の愛の重さを馬鹿にしないでもらえます!?」


マザーさんを睨みつけ、さらに見せつけるようにアルにしがみ付いて吠える。


「そりゃ確かに私の幼馴染は頼りになりますけどね!?私はアルという人間そのものが好きなんです!!頑張り屋さんで褒められるとつい暴言吐いちゃうところとか大好きなんです!」


「は、はぁ!?お、おま、と、突然なに言って!?」


「私がいかにアルが素晴らしく村の人からも頼りにされているかをあの人に教えてあげてるからちょっと待っててね!!」


「やめろ!!!!!」


私の言葉にアルは顔全体を真っ赤に染めながらも必死に声を張り上げたが、意味がわからないという風に首を振ったマザーさんに分からせるべく大きく息を吸い込んで口を開く。


「とにかく髪の色や目先の利益で一緒にいるわけじゃないんです!貴方だってそうでしょう!?だから不利な状況でも頑張って魔物と戦ってきたんですよね!?言ってること矛盾してるんですよ!!勝手に壁作ってるのは貴方の方!!リリーちゃんたちから拒絶したことなんて一度もないはずですよ!!」


「……たかが数年しか生きてない餓鬼が偉そうに。なにが分かるっていうのよ。」


「赤髪に縛られ続ける頑固者に言われたくないですね!誇りに思ってるのか鬱陶しく思ってるのかどっちなんです!?それに不安を一人で消化する必要なんてこれっぽっちもないんですよ!一度正面からぶつけてやればいいんです!!せっかく一緒に生きていて、言葉を交わせるんですから!!死んで後悔しても知りませんよ!?」


「黙れ!!赤髪についてなにも知らないくせに!!アンタは大人しく魂をアタシに寄越せばそれでいいんだよ!!」


「こちとら生きるのに精一杯でそんな余裕ないわこの分からず屋!もうこの際美容院行って髪染めてきなさい!!」


私の言葉に洞窟に響き渡るほど奇声を発したマザーさんは迷いを振り切るが如く一気に間合いを詰めにくる。


できるできる、絶対できる。

そう心に言い聞かせて前を見据えた私は、震える足腰に鞭を打ってアルを突き飛ばし拳を構えた。


「いでよ昇龍け」


「やらせねぇよ!!」


ぶつかり合う鈍い金属音に驚く間もなく振り下ろされた大剣ごとマザーさんが弾き飛ばされた。

そして間に入った張本人であるアルがどこからか持ってきた自分の身長ほどある大剣を地面に突き刺して、こちらを睨みつける。


「素手で挑む馬鹿がいるかこの死に急ぎ野郎!!オレまで突き飛ばしやがって!」


「そ、そういうアルはどこからその剣を…」


「あそこで磔にされ続けてる奴から借りた!!」


「まさかマリーちゃんのこと!?そこまで行ったなら解放してあげて!?」


「うるせぇ!オレにとっての優先順位は…!?」


言葉の途中で素早い乱攻撃を大剣で受け止めたアルは舌打ちをして構え直す。

時を同じく瞳を細めたマザーさんは緩やかに片足を上げたかと思うと、フラミンゴのような姿勢のままこちらの喉元へと二本の大剣の切っ先を定めた。



「踊り子のような華麗な足捌きで、四方位囲まれた一流騎士の猛攻をただの一太刀も受けずに流し…たった1人で私たちの住処を守り抜いたんだってね?」


脳内にマリーちゃんの声が響き渡る。

おそらくこの記憶は、自宅謹慎中に毎日遊びに来てくれた2人からマザー・リザリーの武勇を尋ねた時のものだ。


「ふーん、ねぇ……それって強すぎません?」


「並大抵の剣術や武術だとマザーには通用しないからね?全部見切れるから。」


「もう最強じゃん!?」


「ふふん、まだまだそれだけじゃないよレイ!カカ様の1番の強みはなんといっても大剣の扱いに限るんだ!!男ですら扱い辛い大剣を2本ぶん回す力量、さらに的確に相手の急所を捉えて斬り伏せる太刀筋……!くぅう!あの爽快感は何度見てもカッコいいよねネェさん!機会があったら今度特等席で見せてあげるからさ!」



「モブ、退がれ。」


なるほど確かに、あの2人の言う通り彼女は強いのだろう。

アルからも村が襲撃された時と同じくらいにピリついた緊張が感じられた。

それでもこのまま守られているだけでは、マザーさんに私の言葉は永遠に届かない。


「アル、お願いがある。」


「駄目だ。」


「作戦があるの。」


「お前が敵う相手じゃねぇ。退がれ。」


「私のこと信じてくれるって言ったよね?」


「…………今言うかそれを。」


「ごめんねアル、でもこのままだと私の言葉はマザーさんに届かない。あの2人の友人としてここは絶対に引くわけにはいかないんだよ。」


「…ッチ、頑固野郎が。」


無言で数秒、その後アルはため息を吐いて小さく頷いた。


「なにが望みだ。」


「私がやり遂げるまでその場で待機!!」


「……………約束は出来ねぇぞ。オレの優先順位はお前だ。少しでも危険な真似すれば」


「ありがとう大丈夫。死ぬ気はサラサラないから。」


渋々頷いた彼の頬を突き満面の笑みを見せた私は、安心してもらうために親指を立てながら計画を口にする。


「あの分からず屋の懐に入って一発入れてくるね!!」


「っなんだそのフワッとした計画!?止まれクソモブ!!!!」


背後から私を止める声が聞こえるがもう遅い。

全速力で駆け抜けてマザーさん目掛けて拳を振り上げる。


「馬鹿な子供…なんてスキだらけ…」


スキだらけだとも。こちらは一般人なのだからそりゃそうでしょう。

しかしミソなのはそこではなくて彼女の性質。

娘たちの純粋な想いすら信じられない女性が、このスキがありすぎる突撃をどう思うか。


「っ、」


深読みを、する。


このままいけば殺されてしまうのにまったくもってスピードを緩めない私を見て策があるのかと思案し、さらに唯一戦えるアルは動く気配すら見せなければ尚のこと。

何をしてくるか読めない相手というのは万国共通、強者弱者関係なく不気味であると相場が決まっている。

思考の泥沼に嵌りとことん不気味がって、それでも間違っても魂を奪い取る前に殺してしまわないように慎重になるその一瞬。


私に致命傷を与えないようにマザーさんが剣先を少しズラしたところで、時は満ちた。


「これぞ原点回帰!刮目せよ我が奥義!!」


これこそ前世で身につけた侘び寂びの心意気。

そこまで到達するとむしろ美しいと称賛され、そして同時にドン引きされた秘技。


「土下座直滑降!!!!」


「っ、は!?」


剣術武術は見切れても、この世界にはない動きは見切れまい。

皮膚ずる剥け覚悟でスライディング土下座しただけだったが、ありがたいことに気色悪い液体がこの空間を浸していたおかげで地面が滑りやすく、土下座状態のまま彼女の懐まで滑り込んだ。


「っ、下…!」


マザーさんはすぐに私の居場所に気がつき大剣を構え直したがもう遅い。

今度は拳を顔面に入れるべく両手両足に力を込めて立ち上がった。

さぁ、私の友人、幼馴染を舐め腐った愚か者に鉄槌を。


「喰らいやがれ我が右ストレー」


「ぶっ!!」


「痛っ、え?」


大罪人マザー・リザリーの顔面に拳を叩き込もうと立ち上がったら、懐に入りすぎていたせいで右ストレートが到達する前に彼女のアゴに石頭がクリティカルヒットした。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







嫌な予感がする。


「レイ?…あぁ、例の恩人。」


「彼女の話を聞いてから独り立ちする子が増えてさ、カカ様も寂しがってたよね。」


「そうそう、恩人とやらに命を救われた子はリリーとマリー以外みんな出て行ったもんな。」


「マリーも独り立ちするって噂だよ。リリーもネェさん離れする準備しておきな?」


カカ様に言われレイ探しを続けていてしばらく。

盗賊団全体の雰囲気がかつてと異なるもので違和感を感じていた。


レイに救われて恩を感じていたネェさんたちの独り立ち。

そしてここ数時間全く姿を見せないマリーネェさんまでも独り立ちするという噂。


(独り立ちしたネェさんたちは誰一人として戻ってきたことはない。……そんな大切なこと、アタシに黙っていくとは思えない。)


さらにカカ様がレイを見る目は獲物を仕留めるようなギラギラしたものだったのも気にかかる。

大丈夫だとは思うが、まさかそんなはず。

四方八方走り回ったせいで、不安と共に汗が額を粒になって零れ落ちた。


「大丈夫だよね…?」


「さぁどうでしょう。そもそもあの女がどうなろうと興味がないというのが私の答えです。」


帰って来た返答はネェさんでもカカ様でもない男の声。

すぐに大剣を構えて振り返ると驚きで一瞬で身動きが取れなくなって地面に叩きつけられる。

見たこともない魔法と重圧に一気に押しつぶされそうだった。


「はぁ、全く探しましたよ。貴方にはこんなところで退場してもらっては困るのです。盗賊の残火リリー・リザリーとしてちゃんと()()果たしてもらうまでは。」


「アンタ…誰だ…!!」


「おや、まだ分からないとは…。流石脳筋は違いますね。羨ましい限りですよ。」


必死に相手を確認しようと身を捩ると青く長い髪が目に入る。

そして襲撃者の顔を見て、言葉が詰まった。


「な、なんで…アンタが……」


アタシの質問に青い瞳を細めた奴は、やけに美しい笑顔を浮かべるだけでなにも答えなかった。






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