転生者は、衝撃を受ける
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流れは決まっているのに文章能力が、追いつかぬ!!!辛し!!
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「っ、ふざけんな!!」
「なにぐぁ!?」
なにが起こったのか分からない。
だがアルがキレながら回し蹴りでなにかを弾き飛ばしたことだけは分かる。
華麗に着地したアルにどうしたのかと問いかけようとすると、彼は大広間の方を鋭く睨みつけた。
併せて楽しそうな誰かの笑い声が響くと再度言葉が聞こえてくる。
「くふふ、よく防いだじゃないか。…それにしてもちょっと悪戯しただけなのに余裕なさすぎ。」
「そんな殺気ダダ漏れで悪戯とはよく言ったもんじゃねぇか…!!コイツに近寄るなクソ女狐!!」
「……まぁ多少はね。アンタたちが面倒なかくれんぼをしてくれたせいで予定が狂っちまった。いくら優しいこのアタシでも苛立つってもんだろ。アタシたちの唯一の可能性がそこの恩人レイ・モブロードなんだから。」
「え?」
その言葉に思わず聞き返すとカツンッ、と一際大きなヒール音が響く。
すると磔にされたマリーちゃんの横に真っ赤な髪を靡かせたマザーさんが突然姿を現し、大きく身体を伸ばす。
そのまま気を失っているマリーちゃんの頭を労うように撫でた彼女は、苦しげな視線をこちらに向けて呟く。
「マリーを救うにはアンタの力がどうしても必要なの。」
「ど、どういう…」
「アタシたちを助けてほしい。」
マザーさんの言葉とその瞳の揺れに言葉が詰まる。
私の様子に一歩マザーさんが足を踏み出すと、アルは私を抱え込む力を増して一歩後退し低く唸る。
「それ以上寄るな。」
「じゃあこのままマリーが磔にされたままで……あぁ、アンタには愚問か。」
「分かってるじゃねぇか。」
「くふふ、たった一つの譲れないものを守り通す…その気持ちは痛いほど分かる。残念だけど力尽くでやるしかないかな。同胞のアンタとは戦いたくないけどね。」
ピリッと張り詰めた空気、妖しく輝く2人の赤い瞳。
よろしくない、間違いなくよろしくない。
「両者そこまで!!!」
そう判断した私は勢いよく挙手して2人の間に割って入る。
突然大声を上げた私に驚いた様子のアルの瞳が金色に戻るのを見届けて、同じく大きな瞳を瞬かせるマザーさんに声をかけた。
「いいですかマザーさん、もしアルに手を出そうものなら私は未来永劫絶対貴方に協力しませんよ。それが困るなら私に何を手伝って欲しいのか、まず詳細を説明してくれませんか。」
「…へぇ。」
「っ、おい!!こんなよく分からねぇ頭沸いたクソ女に構う必要はねぇ!!それにコイツは…!!」
全力で私を説得しにかかる幼馴染を落ち着かせるため頭を撫で、出来る限り穏やかに彼に告げる。
「ありがとうアル。でもね、マザーさんとは一回ちゃんとお話しするべきだと思う。」
「はぁ!?」
「私にはあの人がどういう人なのかなにが目的なのかさっぱり分からない。いい人なのか悪い人なのか、なにも分からない。」
「だったら尚更!」
「でもなにも分からないからって理由で助けを求めてる人を見過ごすことはしたくない。あの時こうしておけばよかったなんて、後悔したくないの。」
「……っ。」
「わがまま言ってごめん。」
「……お人好しクソモブが。」
言葉を詰まらせた苦しげに呟いたアルは大きく深呼吸して、私を見つめる。
「オレから離れることは許さねぇ。少しでもアイツが変な動きを見せたらそこで終わりだ。いいな。」
「うん、ありがとう。」
ギュッと首元に抱きつき頬を擦り寄せるとアルからいつもの倍以上の力で擦り返されて心が痛む。
これ以上心配かけないようにしっかりしなくては。
気合を入れてじっとこちらを見つめるマザーさんに向き直り、口を開く。
「話してくれますか。」
「……あぁ。いいとも。」
私の言葉に頷いた彼女は、パチンっと指を鳴らした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まずこの場所のことから説明してあげる。」
指の音に反応して足元の液体に炎が灯り、大広間全体を明るく照らす。
改めて周囲を見回しているとマザーさんは重々しく口を開く。
「ココは龍の墓場最深部にして伝説の英傑、ワダツミの腹内。」
早速思考回路がバーストした。
「は、腹内ってことは…え?体内?」
「そう。ちなみにアンタたちが無遠慮で踏みつけてるその液体は、至上の宝とされる英傑ワダツミの魔力が込められた血液ね。」
「こ、こんな汚染水みたいな気持ち悪いのが宝?」
「くふふ、なかなか言ってくれるわね。それでも金銀財宝より遥かに価値のあるものさ。なんたって英傑ワダツミは類稀なる魔術の才能の持ち主。決戦の際にはその身体を龍へと変貌させて魔王城の結界を打ち破ったとされる奴だからね。そんな天才の血液を取り込めば圧倒的な力が手に入る。世間的には黒魔術は禁止されてはいるが、裏世界の住民からすれば喉から手が出るほど欲しがる秘宝だ。……もちろん魔物も。」
(…ん?秘宝?)
マザーさんはそう言って微笑んだが私の脳内は溢れんばかりのハテナマークに埋め尽くされた。
(秘宝ってなんか、もっと違うもののような気が…)
そんな感覚に首を傾げるも、今は集中すべきだと思考を振り払い疑問をマザーさんにぶつける。
「と、とにかくどうやってそんな秘宝を手に入れたんですか?」
「とんだ偶然だがアタシが若い頃、盗んでやろうと思いワダツミの居場所を突き止めたら丁度死に逝くところでね。そこから奪われないようにずっとここを根城にしてるの。アンタたちだって英傑ワダツミの亡骸からちゃーんと入ってきただろう。」
「…あの入り口の岩が、英傑ワダツミさん?」
「ご明察。正確に言うと石にされたんだけどね。遥か昔、魔王軍幹部随一の暴れん坊に。…全く恐ろしい奴だったよ。」
その言葉を聞いて納得してしまった。
自然にできたものではなく誰かが手を加えて龍の姿に岩を彫ったのかと思ったが、まさか龍そのものが岩になってしまっていたとは。
「そしてその暴れん坊関連で、アタシはレイ・モブロードの力を借りたい。」
「え、無理です。すぐ死にます。」
「馬鹿。戦力としては期待しちゃいない。アタシが欲しいのはもっと別のもの。」
私に向かって指を指していたマザーさんはその人差し指を自身の足元に流れる英傑の血に浸すと、その場所が突然着火して再度大広間を明るく灯す。
その眩しさに目を細めて数秒。
アルが軽く息を飲んだ様子に恐る恐る目を開けると、目の前に広がった光景に戦慄した。
「なにあれ…」
大広間の奥にある三つの空洞。
その中にびっしりと詰められた、よく出来た人型の岩。
「これ全部、アタシの娘たち。」
悲痛な声に視線をマザーさんに戻すと、彼女は近くの石像に触れて呟く。
「さっきも言った通りこの血液を狙って魔物が攻めてきてね。戦ったがまるで歯が立たなかった。可愛い娘たちをこんな風に石に…」
村の襲撃を思い返し、問答無用で命を奪っていく様子が簡単に想像がつく。
言葉が見つからず言い淀んでいると、これまで沈黙を保っていたアルが低く呟く。
「なんでテメェは助かった。」
「……。」
「普通親玉を殺すまで撤退しねぇだろ。それにこの気色悪りぃ液体もテメェのもとにある。負けたならなんで奪われなかった。」
「アル…」
「そんなものアタシが赤髪だからだよ。」
「答えになってねぇ!!」
「いいえ、これが全て。」
赤い瞳を細めた彼女は淡々と言葉を続ける。
「奴らがなんで赤髪がいる町や村を襲うか知ってる?魔王の血液を取り込んでも壊れない器を探してるからさ。」
「器…ですか?」
「そう。なんでも魔王の血液を扱えるのは1人だけらしいから、時が来るまでは生かしてもらえるってわけ。それに魔王軍幹部の1人がアタシに言ったのさ。
『なるほど、キミには資格がありそうだね。どうかな?ボクのおもちゃにならない?そうすれば一年に一度、キミの娘を1人、生贄として捧げてくれれば皆殺しにはしないであげる。彼女もそれなら納得するだろうし。』
……ってね。」
その言葉に唖然としていると彼女はそのまま言葉を紡いだ。
「皆殺しにされるよりはと渋々その要求を飲んだ。生き残った娘たちはアタシを責めることなく、時が来ればこうして生贄にされることを受け入れる。笑っちまうよ、アタシが負けたばっかりに駒にされてるってのに……あの子たちは絶対にアタシを責めたりしない。責めてくれない。」
マザーさんが一呼吸置くと、彼女を取り巻く雰囲気が途端に重くなった。
「………それでもある日、アイツらに食い潰される生活に一筋の光が差し込んだ。」
「え、」
「数年前、王都で働きに出てたアタシの娘たちが魔物に理不尽に攻撃され、壊滅的被害を受けた。あの子の、リリーの泣きじゃくる声は忘れもしないよ…これまでも度々あることだったからもうダメだと思ったさ。……だがあの子たちは帰ってきた。そして驚いた、致命傷をたったひとつのポーションで治したってね!!!」
一際激しく彼女の赤く煌めいた瞳に呑み込まれそうになる。
「話を聞けばあれはアンタが作ったらしいじゃないか…!!しかも使い方によっては、あの憎い石病を治せるときた…!!石病さえ、あれさえ克服できたらアタシはアイツに勝てる…!赤髪であるアタシが、あの子たちのカカ様であるアタシが救ってあげなきゃならない!!この状況をひっくり返せる!そう!あと少しだ!!成分まで徹底的に調べあげた!!それなのに、それなのに、それなのに!!アタシの魔力じゃ完成しないなんて…そんなこと……!!!」
「ひとつ、確認させろ。」
低い声でマザーさんの言葉を遮ったアルは淡々と口を開いた。
「徹底的に調べた、今、そう言ったな。」
「それが…?」
「どうやって調べた。ポーション自体は使い切って手元にねぇはずだろ。」
アルの問いかけに動きを止めた彼女は淀んだ瞳をこちらに向けるだけでなにも答えない。
「そうか………そうかよ。
喰いやがったな。
コイツが助けたテメェの娘の魂をよ!!!」
衝撃だった。
アルの言葉よりも、それを否定しなかった彼女が。