転生者は、落下する
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アルとレイの行く末をこんなに多くの方に見守っていただけているなんて…感激すぎる…!
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「………あ?」
バクンッと飲み込まれるような音が聞こえてから数秒たった頃。
抱えられるままアルの首元にしがみついていた私は、戸惑い混じりに呟いた彼の声に顔を上げた。
目前には壁一面囲まれていた本棚の代わりに、赤く脈打つ血管のようなグロテスクななにかが蠢いている。
なんとなく嫌な予感がして首元に回した腕に力を込めたその瞬間、内臓が浮かび上がるような感覚に幼馴染と顔を見合わせた。
「……おい……」
「…………いやいや…ん?まさかそんなわけないって……」
互いに引き攣った笑みを浮かべ、恐る恐る足元へと視線を向ける。
しかし運命とはなんとも非情なもので、私たちに最悪な現実を突きつけてきた。
「「底抜けじゃんよぉおお!?/じゃねぇかぁああ!?」」
仲良く台詞が被ったのを合図に身体は重力に従って急速落下。
グルグルと左右にうねる気色悪い空洞を猛烈なスピードで落ちていく。
「いぎゃぁああああああああああ!!!」
「このっ…!!」
情けなく叫ぶ私とは裏腹に一言そう呟いたアルは私を片手で支え、手ぶらとなったもう片方の手のひらを頭上に掲げる。
その直後ビィンッと糸が張るような音が聞こえて、バンジージャンプの要領で身体が再度上に向かって跳ね上がった。
「っ、おい!絶対にこの手離すなよ!!」
強烈にかかる重力に瞳を固く閉じて堪えながら頷くと、ぐるりと数回世界が回転したような感覚の後に少しだけ衝撃が走った。
ザブンッ。
「げ…」
嫌な着地音とともに悲痛なアルの声が真上から聞こえ、恐る恐る目を開ける。
さきほどまでの浮遊感はない。
どうやら無事にどこかの地面に着地したらしい。
助けてくれたアルに礼を告げるべく私を横抱きにしたままの幼馴染に視線を向けると、彼は心底嫌そうな苦い顔つきでフリーズしていた。
「ど、どうしたの!?まさかどこか怪我した!?」
「…あ?いや、なんでもねぇよ。」
「嘘だ!絶対に何でもないって顔つきじゃないよそれ!!どこ怪我したの!?とにかく降ろして!!」
「っ、馬鹿!暴れんなクソモブが!!!下見ろ下!!」
慌てて降りようともがくと彼は絶対に私を降ろすまいとグッと抑え込み、下を見るように促す。
誘導されるまま足元を確認して、思わず再度全力でしがみついた。
「うげぇえ気持ち悪っ!!!なにこの液体!!」
「知らねぇよ!…まぁ匂い的に油かなにかじゃねぇの?」
「こんな気持ち悪い油なんてある!?」
赤黒い色合いでスライムのように若干粘り気のあるその液体は、何故か私の動きに合わせて蠢いており明らかに人体に有害そうだ。
「ねぇこれ大丈夫?アル浸かってるけど溶けたりしてない?」
「あ?まぁ落下途中に外れ道を見つけて入り込んでみれば、よく分からねぇ液体に足突っ込むハメになった以外は問題ねぇな。感触が気持ち悪りぃぐれぇだ。」
「嘘でしょう本当に!?というかあの状況でよく見つけたね!?」
「当たり前だっつの!!ナメてんのかオレを!」
ナメてはないですが、有能すぎませんか。
感謝の気持ちを込めて頭を撫でると迷惑そうな視線を向けられたが、やめろとは言われなかったので続行する。
アルって最高、はっきり分かるんだね。
そしてある程度愛でて満足した頃合いに大きな咳払いしたアルは、ザブザブと気色悪い液体の中を無遠慮に歩き出した。
「それで?次はどうすんだ。」
「えっとね…ん?このまま行くの?」
「あ?……まぁ。」
「いやいやいや!?重いから降ろして!?それにアルが大丈夫なら私も歩け」
「うるせぇ!!この方が守りやすいんだよ!黙って抱えられとけクソモブが!」
「えぇ?…じゃあすみませんがお願いします。」
守りやすいと言われれば、それは従わざるを得ない。
ならば遠慮なく私の足となってもらおうと身体を幼馴染に預けて、再度記憶を呼び起こす。
そして思い出した内容に顔面から血の気が失せた。
『うねり狂う洞窟を、右、右、右、左に進む。』
「うわ、やば…」
「なんだよ。」
「ちょ、ちょっと一回この抜け道の入り口まで戻ってもらっても?」
「……まさかあのまま下まで降りなきゃいけねぇとか言わねぇよな。」
「それがここを通り抜けるには道順があって、右か左か確認しながら進まないといけなくて…。」
「……ちなみにどっちに進めばいいんだよ。」
「最初は…右。」
「じゃあこっちで合ってる。落下してきた方向から唯一右側にあった外れ道だからな。」
「そこまで確認してるとか最高かよ!!!感謝!!」
「うるせぇ喚くな!ほら行くぞ!」
バツグンの安定感で抱えられたまま突き進む。
うねり狂う洞窟とはよく言ったもので、取り囲む壁は一定の間隔で脈を打っている奇怪な空間だ。
「あの場所からは脱出できたけど、なんだか変な場所に出ちゃったね。どこだろうここ。」
「さぁな。まぁ龍に喰われてここに来たってことは……案外奴の腹の中だったりするんじゃねぇの?」
「ちょっと揶揄うのやめて!?」
「人聞き悪りぃな。揶揄ってねぇよ。」
「嘘だね!めっちゃ悪い顔してるからね今!あ、そこ右!」
「おー。」
私が行き先を告げて、アルがその方向へ進む。
こうして会話しながら進むのは楽しいけれど、心の何処かで少しばかりの靄を感じた。
それがまるでアルを操作しているように感じるだなんて、一体どうして私はそんなことを一瞬でも思ってしまったのだろう。
『いつかは、向き合わないといけないヨ。』
「え?」
「どうした?」
「……ううん。なんでもない。」
水が跳ねる音に紛れて、少女の声が聞こえたような気がした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから、どれぐらい進んだだろうか。
「で、最後は左だよ。」
「ん。」
「大丈夫?疲れてない?」
「はっ、このくらい余裕だっつの。」
鼻で笑ったアルはここまでスピードを緩めずに歩き続け、有難いことにこの道案内も最終局面を迎えようとしていた。
相変わらず周りの壁は気持ち悪くて足元は変な液体が溜まっているけど、このまま何もなければもう文句は言うまい。
しかし世の中そんなに甘いものではなくて、何かを感じ取った様子のアルが初めて歩みを止めた。
やっぱり今の台詞はフラグっぽいと思った。
今後の反省として活かしていかねばならない。
そんな現実逃避はともかく無言で道の奥を凝視するアルの様子に不安になり、出来るだけ身を縮こませて身体を寄せればアルも私の耳元に顔を寄せて呟く。
「人の気配がする。大人しくしてろ。」
こんなところに人がいるなんて怪しすぎる。
自分たちのことは棚に上げてそう結論付けた私たちはゆっくりと奥へと進み、壁に背中を付けて覗き込むようにその先を確認する。
『先で行き当たる三つの空洞を目印に笛を吹く。』
その言葉通りこの道の行き当たりには大きな穴が三つ空いた大広間が存在していた。
これまでとは打って変わり光が差し込んでいる神秘的な光景に、なんとなく首元にかけた笛へと視線を落とす。
(ついにここまで来た。)
漠然とした達成感に一息ついて視線を戻すと、大広間の真ん中には大きな十字架が建てられていることに気がついた。
違和感が拭えずジッと目を凝らして観察してみれば、真ん中に何かが括り付けられているのが確認できる。
「………え、待って、あ、あれって…」
「どういうことだ…」
アルも私も目にした光景が信じられず言葉が詰まる。
何処かで見たことがある茶髪の三つ編み。
供えられている大剣は、かつて村が襲われた時に彼女が振るっていたもの。
手首足首を縛られ磔にされているあの子は、あの少女はまさか。
「マリー……ちゃん?」
「くふふ、アンタたち、自力でここまで来れたのね。褒めてあげる。」
スラリと響く金属音と共に空間に響き渡る穏やかな声が、私たちに語りかけた。