転生者と少年は、飛び込む
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「お、おいなに泣いてんだお前。」
「だ、だって…!だってアルが!!突然嬉しすぎる御言葉をぶっ込んでくるからぁああああああああ!!」
「…はぁ?」
ポカンと口を半開きにして私を凝視するアルはこの状況をよく理解できていない様子だった。
私にとってこんなに幸せなことはないというのに。
「っ、そんな価値、オレにはねぇ。」
かつて丘の上で自分も他人も信じられないと突き放そうとしたあの少年が、信憑性ゼロの意味不明なことばかり繰り返す私を無条件で信用すると言ってくれるなんて誰が想像できただろうか。
「生きてて良かった…!!」
「……そんなに嬉しかったのか?」
「だってアルに、大切な人にそんな風に思ってもらってたなんて…!!私は今世界一幸せな自信がある!!ありがとう!嬉しい!幸せ!」
「連呼するな!!なんかこっちが恥ずかしくなってきたわ!」
照れた様子でそんなことを言われてもただの萌え。
なんのご褒美だマジで。
前世の私はよっぽどの善行を積んだのだろう。
ポロポロと涙をこぼしながら感謝の気持ちを込めて彼の肩に寄りかかると、やっぱり優しいアルはあやすように頭を撫でた。
自分に対する疑心も、アルが信じてくれるならとどうでもよく感じる。
アルがそばにいてくれるなら、と思うだけで心が羽根が生えたように軽くなる。
「アル、ありがとう。」
いつのまにか身体全身でひっついていた私は、もう完全に普段の自分を取り戻していた。
「ん。」
変わらず甘やかし続けてくれていたアルはこちらの変化を感じたのか、返事もそこそこに私の顔を覗き込み安心したように大きく頷いた。
「よし、いつもの間抜け面だな。」
「どういう判断基準!?」
「そうやって笑ってろ。その方が…まぁ…」
「その方が?」
「っ!!だ、だから!!お前らしくていいってことだ!!言わせんなバーカ!!」
投げやりに言われた言葉に思わず赤面すると、話は終いだと言わんばかりにアルは軽く私の頬へ口付けて顔を離した。
「そ、それでこの後はどうする。この石が何か関係あるんだろ。」
「え、なんで分かるの?」
「この絵面が浮かんできてからお前、ずっとそこを気にしてるじゃねぇか。」
「へぇ…すごいね。流石の観察眼。」
「べ、別にいつも見てるわけじゃねぇわぶっ飛ばすぞ!!」
「誰もそんなこと言ってないけど!?」
突然ご乱心したアルを宥めつつ、互いに握った手を赤い石にかざしてそのまま優しく触れる。
「『優しく願いを込めて2回、叩くこと。』」
「……それだけか?」
「うん。でもわざわざそう言うくらいだからただ叩くだけじゃダメなんだよ。どうしたら願いを込めたことになるのかは分からないんだけどさ。」
「なるほどな。おいモブ、じっとしてろよ。」
「え?」
私の言葉を聞いたアルはおもむろに手を握り直せば、手元から暖かい何かが身体を巡ってくる。
(この感覚…妖精の夜渡りを見に行ったときと同じ?)
アルに問いかける前に彼は迷いなく手元に力を込めて、一度、赤い宝石を優しく突いた。
すると石は歓迎するように一際眩く輝いて、翼を閉じていたはずの龍の絵柄は頭上の赤い宝石に向けて今にも羽ばたこうとしている図へと変わる。
「え?え!?なにこれすごっ!?魔法!?」
「あぁ。願いを込めろなんて随分古臭ぇ言い方してるが、要するにこの石に魔力を込めろってことだ。」
「私にも魔法が見えたよ!?」
「お前を介して魔力を込めたからに決まってるだろ。ったく、そもそも願いを込めろなんて…もっと分かりやすく言えよ。今時そんな言い方する奴なんていねぇぞ。」
「そ、そうなの?」
「王都にいた頃に聞いた、勇者と魔王の御伽噺の一節ぐらいだな。『命の灯火消え逝く若き勇者は、聖女の加護を纏いし聖剣へ最期の願いを込めて、自らの存在を対価に闇の根源たる大魔王を封印せしめる。』ってよ。まぁあの当時は意味はよく分からなかったが…聖剣使いが武器に魔力を込めて戦うならかつての勇者もそうだろ。」
「なるほどね……それ、聖剣使いの修行をしてないと分からなくない?」
「あぁ。英傑ワダツミの胡散臭ぇ手記があったり御伽噺の勇者を絡めてきたりと…かなり手が込んでやがる。面倒ごと確定だな。」
「………やっぱりやめとく?」
「あ?また同じこと言わせるつもりか?」
「…えへへ。出来ればまた言って欲しいけど、今はそれだけで十分かな。」
互いに顔を見合わせて微笑むと、アルは再度迷いなく願いを込めながら赤い宝石を優しく叩いた。
触れた宝石から光が溢れ道導のように本棚の一部を照らすと、翼を広げた龍の絵柄は勢いよく羽ばたいてその一点へ飛び立つ。
まるで本当に空へ飛び上がったような強風が肌を掠め、龍はそのまま赤い宝石が指し示した箇所に絵柄がしがみついた。
そしてこちらに向けて大きく口を開けて咆哮すると、脳内で続けて声が聞こえてくる。
『轟く龍の雄叫びに怯まず立ち向かうとあら不思議。秘密の入り口がお出迎え。』
まさに今のこの状況の通り。
じっと龍の様子を観察していたアルの頬を突いて、こちらを向いた彼ににこりと微笑む。
「ねぇねぇ、こういう時役に立つ言葉があるんだけど聞きたい?」
「すげぇ嫌な予感がするが…一応聞いてやる。」
「ふっふっふっ…こういうのはね…?
考える前に、飛び込め!!!」
苦い顔つきで無言で訴えかけてくる幼馴染に親指を立てると、アルは呆れた笑みを浮かべながら私を抱き抱えて金色の瞳を輝かせた。
「ふざけやがって……いかにも単細胞らしいテメェの言葉だな!!」
そして大口を開けた龍めがけて、私を横抱きに抱えたまま全速力で駆け抜ける。
龍は私たちを歓迎し、一口でパクリと飲み込んだ。