転生者は、秘密の入り口を見つけたい
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「いいかい、アンタたちもあの2人を見つけたらすぐアタシのもとに丁重にお連れしな。」
「「「うん、カカ様!」」」
勢いよく閉められた扉の向こうで元気よく少女たちの声が響いた後に、ヒール音が遠のいていく。
しばらくアルに頭を撫でられるまま大人しくしていると、静かにアルは赤い椅子を退けて外の音を探った。
そしてしばらく経った頃、ようやく彼は軽く息を吐いて机の柱に頭をつけた。
「……行った?」
「あぁ。ったく、念のため姿隠しの魔法をかけてよかったぜ。びくともしなかった扉を蹴破りやがって…腐っても赤髪ってことか。やり辛れぇ。」
「…あれ?あの扉のせいで魔法使えないんじゃなかったっけ?」
「あ"?そんなもんアイツが扉を蹴破った瞬間に使えば問題ねぇよ。」
「咄嗟の判断力凄すぎ。だから目があってもバレなかったんだね。アルの魔法ってやっぱり凄いや。」
あの時の鋭い瞳を思い出して身震いすると労わるように頭を撫でられる。
融解していく頬をなんとか自制しつつ堪能していると、アルからちょっとした疑問を投げかけられた。
「悲鳴上げるかと思ったが…よく耐えたな。」
「へへ、アルが今みたいに撫でてくれてたからね。落ち着くんだよこれ。そしてなによりアルが守ってくれてるなら絶対に大じょ」
「そういうことを聞きたかったんじゃねぇよ!!!」
「あいたぁあ!?」
撫でてくれていたはずの手が離れて額になかなか強烈なデコピンを喰らう。褒めたのに何故こうなる。
ジンジンと響く痛みに悶えていると、軽く頬を赤らめていたアルは数回咳払いをして颯爽と机の下から飛び出した。
「とにかくアイツが戻って来る可能性も考えてここから出るのが先決だ。」
「そ、そうだね。よーしせっかくマザーさんが扉を開けるように直してくれたんだし、そこから外に出ちゃいましょうぜ兄貴!!」
私も立ち上がろうと中腰になったところで額に人差し指を置かれ、軽く突かれる。
そのままゴロンと机の下に逆戻りして無言で抗議の視線を送れば、残念なものを見るような目でアルは口を開いた。
「そんなところからノコノコ出て行ったら一瞬でバレるわこの単細胞。」
「えー…?じゃあどうするの?」
「この入り口以外に外に出る方法を探せばいい。」
「おぉ!!隠し通路とかそういうこと!?」
「…まぁそういうことだが、なにをそんなに興奮してんだよ。」
「だってカッコいいじゃん!秘密基地みたいで夢があってさ!盗賊一派の親玉のマザーさんならとんでもない隠し通路の1つや2つあってもおかしくないよね!!それで秘密の扉を開くには条件があったりして、あとは」
「あー!あー!うるせぇ!もう充分だっつの!!ったくどこからそんな知識拾ってくるんだか。じゃあせいぜいその熱意で見つけ出してくれ。」
「任せてアル!そうと決まれば早速!!」
「っ!?馬鹿お前そんなところで立ち上がったら」
胸元に抱え込んだ見えない本をさらに強く抱き締めて決意新たに立ち上がろうとすると、机と衝突した鈍い音が私の頭部から響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「でもってどこを探そうか!!だいたいこういうのって本を引き抜くと地下室の扉が開いたりするよね!?どう思う!?」
「かもしれねぇがお前のコブが気になって集中できねぇよ!!」
「よーし!片っ端から引き抜こうー!」
「そんなことより冷やすほうが先だ!座れ!!」
頭を強打して震えていた私を問答無用に引っ張り出したアルは、そのまま無理やり近くの赤い椅子へと座らせ大きなコブに触れる。
ピリッとした痛みに顔を歪めると、まるで自分が怪我したかのように眉を寄せた幼馴染に慌てて口を開く。
「や、やだなー!頭をぶつけたぐらいで大袈裟なんだから!この程度なんの問題も」
「あ"!?このクソモブ黙らねぇともう一つコブ追加させるぞ!」
「なんで!?」
「大人しく椅子に座って治療を受けて早く終わるか、それとも無駄にコブ二つ分の治療をオレにさせるか選びやがれ!!」
「言ってること破茶滅茶すぎませんか!?でもどっちにしても手当てしてくれるんだね!優しいありがとう!!」
「うるせぇ馬鹿!!あといつまでその本抱き抱えてんだ!!没収だこの野郎!!」
両肩に物理的な圧力がかかり椅子に座らせられた私は、ギュッと抱き締めていた(らしい)見えない本をアルに没収され完全な手持ち無沙汰となった。
手当してくれている間特段やることもないため周囲を観察する。
「ブレるから動かすなやかましい!!」
「やかましいって…」
かなり鬱陶しかったらしく、なかなかの強さで両頬を摘まれて前を向くように固定された。
その反省を生かし目線だけをグルグルと動かしていると、ある一点で動きを止めた。
(改めて見るとこの椅子派手だなー。)
備え付けてある机と全く雰囲気があっていない赤。
やたらに背もたれの部分が反っており、寄りかかると必然的に踏ん反り返ってしまう。
その割にカチカチの座席は尾てい骨を容赦なく蝕んでくるので、座らせることを想定していないような歪な作りだと感じた。
マザーさんは椅子としての自覚が足らないコレの、どこを気に入ったのだろうか。
(握りの部分に埋め込んであるこの黒い石は何故か異様になで心地いいけど。)
思うままに石を撫で続けているとスイッチのように下へ沈むことに気がついて首を傾げる。
そして体温に反応するのか私が触れた部分がほんのりと赤くなる様子を眺めて、突然ハッと思い至った。
「赤の…玉座………」
誰かの言葉がバッチリとパズルのピースに当てはまったのだ。
「動くな。」
「赤の玉座だぁあああああ!」
「だぁあああああから動くなって言ってんだろうがぁああああ!!」
「ごめんついでに少しばかりお手を拝借!!」
真横でブチ切れている幼馴染の手を取って、椅子の握りに埋め込まれている黒い石へと誘導し共に上から押さえ込む。
すると小さく、カチリ、と音を立てて眩く光り輝いた。
「なっ!?」
「アル、そのままにしてて!手を離しちゃダメ!」
ガタンッと歯車が回るような音が響けば連動するように部屋の中が一気に暗転し、互いに重ねていた手元から漏れ出した光が液体のごとく溢れ地面に複雑な絵柄を浮かび上がらせる。
大きな翼を折りたたんでしゃがみ込み、頭上で光に反射した星たちの輝きを静かに眺めている荘厳なるその姿。
「……龍か。」
アルの呟きに小さく頷き、互いにゆっくりと手を離す。
すぐに椅子の下を覗き込んだアルは感嘆の声をあげて言葉を続けた。
「へぇなるほど、この椅子の座席の裏に魔法陣が刻まれてやがる。一定の魔力量に反応するように作られてるのか。」
「赤の玉座の裏側だよ。」
「っけ、大層なこった。盗賊の倉庫の仕掛けにしては随分と洒落てるじゃねぇか。………それにしても、お前。」
私の方を振り返ったアルは少し眉を寄せながら口を開く。
「なんで起動の仕方知ってる。」
「……直感、かな。」
嘘ではなく本当のこと。
けれどなんとなくアルの視線を直視出来なくて、絵柄の方へ足を運ぶ。
確認してみれば星に見えた部分は地面に埋め込まれていた本物の宝石だったようで、近くで見ると色合いが異なっていることに気がついた。
『赤の玉座の裏側の、上から4つめの赤い石。』
その言葉通り龍の頭部から一直線上に並ぶ星の上から4つめの宝石は赤く光り輝いており、どこか他の宝石とは変わった威圧感を放っている。
「私、やってみたいことがあるの。」
「…そうかよ。」
呟いたアルは私の隣につき、言葉の続きを待つ。
「どうして知ってるのかも分からないし、最後どうなるのか知らない。」
「そりゃ盛大な賭けだな。」
「……だよね。」
「だが、まぁ、お前が賭けるならオレも乗る。」
宝石に向かって伸ばした私の手が震えているのが見えて思わず苦笑すると、今度はアルが力強く手を握ってくる。
「そもそもがこんな世界、理不尽で意味分からねぇことばっかりで自分の人生今後どうなるかなんて誰にも分からねぇ。常に選択を迫られて賭けをしてるみてぇなもんだ。だったらオレはオレの信じるものに賭ける。」
「信じるもの?」
「オレにとっては…」
少し言葉を区切って頬を掻いたアルは、私の手を鈍く赤く光る宝石に導いて真っ直ぐと私を見つめる。
「お前が唯一無条件で信用できる奴だってことだよ。」
満点の笑顔で笑った彼の顔を見て、思わず涙が一粒こぼれ落ちた。