転生者は、調べる
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頬が痙攣しているせいで歪な笑みを浮かべながら、震える手で彼の肩を掴む。
「ん?ん?開かない?開かないってなにが?」
私の問いかけに無言で扉を指差す幼馴染にさらに顔が引き攣った。
「いやいやいやいやいやいや!?ご冗談!押し扉なのに引いちゃってるとかそういう感じだよきっと!もうおっちょこちょいなんだからアルくんは!!どれ、このレイちゃんが道を開いて進ぜよう!!」
安心させるように彼の肩を強めに叩き道を開けてもらい、まずは扉を観察する。
こういう場合は焦らず冷静さを保てた者が脱出できるのだ。
まるでなにかを守っているかのように頑丈な鉄製の扉、それなのに鍵穴はどこにも見当たらない。
なんとも周りから浮いている扉だ。
上から下まで隅々まで確認していると、ある箇所で目ん玉がこぼれ落ちそうになった。
「……………ねぇアル。」
「なんだ。」
「ここの下の部分。めっちゃ歪んでるよね。」
「……………だな。」
「多分だけどさ、これ、私たちが入る前からこうなってたらそもそも開かないと思うんだよね。」
「…………………………だろうな。」
「1発で扉がひしゃげるって、どんだけ力一杯閉めちゃったの君!?!?」
「うるせぇ!!この程度で壊れるちゃっちい扉だったんだろ!!!」
「これ鉄製だから!一般的に頑丈に分類されるやつ!!」
「さらに細かく言えば魔法を弾く加工してある超頑丈なやつな!!」
「なにそれすごい!というか自分でわかってるじゃん!!」
互いに睨みつけあい数秒。
無能な争いをしていると気がついた利口な私たちは早急にこの言い合いに見切りをつけた。
「………悪い。」
「私こそ大きな声出してごめんね。でも魔法で開けられないとなるとリリーちゃんたちが見つけ出してくれるのを待つしかないね。」
「ッチ、仕方ねぇ。」
扉に寄りかかってため息を吐いたアルに倣い、私も彼の隣に腰をかけて改めて周りを見渡した。
壁一面に並ぶ本、積み上げられた四角い木箱。
そして部屋の隅にポツンと置かれたテーブルとやけに目立つ赤い椅子。
「ここ何の部屋だろう?資料室?」
「資料室っていうより倉庫って感じだが。」
「あぁそういえばマリーちゃんが言ってたよね。貴重な素材がある秘密の倉庫があるって。それならこの頑丈な扉も………ん?」
そう話していてある案を思いつく。
ニヤリと笑みを浮かべるとアルから怪しむような視線を向けられたが関係ない。
「ふっふっふっ、私いいこと思いついたんだけどさ。」
「…………なんだよ。」
「時間もあることですし、ちょーーーっとばかし探検しない?」
「そういうところ行動的だよなお前。」
「いいじゃんいいじゃん!!盗むわけじゃないから!見るだけ見るだけ!ちょっと見聞を広げるだけ!」
「はぁ……分かった。明るさ調整してやるから待ってろ。」
「なにそれ!?そんなこと出来るの!?」
「ここをこうすりゃ多分な。」
一箇所出っ張っている壁にアルが手をかざすと、この洞窟に入ってきた時のように勝手に松明に火が灯る。
文書や木箱に書いてある文字を読むのには丁度いい明るさである。
「おー、上手くいくもんだな。」
「まさかのぶっつけ本番!?天才か我が幼馴染!!カッコいい!!」
「カッ…!ば、馬鹿なこと言ってねぇでさっさと調べるぞクソモブ!!」
「よっしゃ!じゃあ早速木箱の中身をはいけーー………ん?」
「どうした?」
環境が整ったところで近場にあった木箱の蓋を意気揚々と開けてみてびっくり。
中には数年前に見た、ある代物が箱にビッシリと詰められていた。
「この色合いに形…間違いない!ゴルゴンの肝だ!」
私の言葉に反応して真横から同じように覗き込んだアルは顔をしかめる。
「あ?なんだこの量。」
「売買用かな?」
「まぁ確かにゴルゴンの肝は特別保護されてやがる貴重素材だが…ロクな使い道がねぇ物を売る奴なんているか?」
「…うん、閉めようか。」
その後もほかの木箱の中身を確認していって驚く。
「体力の花、化け鼠のヒゲ…セイレーンの涙。」
「どこかで聞いたことのある組み合わせじゃねぇか。」
全て、ハイグレードポーションの素材となるものばかり。
並べられた膨大な量の素材の数々を見つめていたアルはおもむろに私に問いかける。
「おいモブ、前にあのクソピンクたちにハイグレードポーションを渡したって言ってたよな。」
「うん。」
「材料についてなにか詳しく話したか?」
「いやそんな時間なかったよ。ランちゃんにもあの時はまだ伝えてなかったし、知ってたのは私とアルと妖精さんだけ。」
顎に手を当ててしばらく考え込んだアルは突然立ち上がって適当に一冊本を手に取り、ページをめくる。
「見てみろ。」
「え?…うっわなにこれ。」
今度は私がアルの手元を覗き込むとびっちりと書き込まれた文字が視界に飛び込んできた。
図式やら記号やらもひとつひとつ丁寧に几帳面に記されており、一種の執念や狂気を感じるほど。
「全部、石病についての考察と分析だ。」
「石病って…私のお母さんやアルのおじいさんがかかってたあの病気だよね。」
「あぁ。ここまで重なれば間違いねぇ。アイツ、ハイグレードポーションを作ろうとしてやがる。」
「え、じゃあこの研究の末にあれらの材料が必要って分かったのかな?それ天才すぎじゃない?」
「アイツは赤髪…調剤なんて魔力の質から考えても圧倒的に向いてねぇはず。そんな奴が妖精でないと気がつかないハイグレードポーションの素材を見つけられるとは考えにくい。」
「?じゃあどういうこと?」
「…………もっと調べるぞ。モブ、そこら辺の本を漁れ。」
「うん、分かった。」
アルに言われるがまま本を手に取りページをめくって確認していく。
なにが書いてあるか難しくて理解できないことが多いが、それでも何冊か目を通してみてあることに気がついた。
「ねぇアル、ここら辺の本調べてみて分かったんだけど大まかに2つの事柄について詳しく調べてるみたい。」
「2つ?」
「うん、1つはさっき見た本と同じく石病について。」
「もう1つは?」
なんとなく私はその言葉を口に出すのはよろしくないと判断し、該当のページと項目を指し示す。
「この言葉がよく出てくる。」
鉛筆の芯が折れた痕が残るほど力を込めて書かれた、
『大魔王』の文字を。