転生者は、警戒する
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「どうして離れようとするの?アタシはリリーたちの母親…警戒する必要はないでしょ?」
ガタンッと鈍い音が背後から聞こえて、自分自身が無意識に後退していることを悟った。
「レイ?」
心配そうに声をかけてくれるリリーちゃんにも言葉を帰す余裕はない。
何故かは分からないが、私は今最強な警戒態勢にある。
「ふんっ、随分とツレない態度だこと。」
「っ!カ、カカ様!!レイは多分長旅で疲れてて!それで!!だから!えっと!」
「あぁリリー、アタシたちの恩人にこの程度で怒ったりしないから安心して。彼女のことはアンタと同じ…いやもしかしたらそれ以上に大事に思っているの。だって大切な娘たちを救ってくれた恩人だもの。」
「カカ様…!!」
マザーさんを見つめるリリーちゃんは嬉しそうに頬を赤らめ、甘えるように彼女に抱きつく。
そしてニコニコ笑顔でリリーちゃんの髪を撫でたマザーさんは、彫刻のような美しい笑みを浮かべて私へ視線を向けた。
「そう、よかったらレイ・モブロードにもリリーみたいにカカ様と呼んでほしいわね。その誓いの笛を持つ者はアタシの娘になる資格がある子たちなのだから、ね。」
有無を言わさぬその迫力にさらに後ずさる。
何故だろう、理由は分からないがなんだか怖い。
そして距離を取っていたはずなのにいつのまにか手首が掴まれており距離を詰められ、おでこスレスレまでその端正な顔を近づけられた。
「ほら遠慮しないで。
………カカ様と、呼んでごらんなさい。」
ぐらりと世界が揺らぎ、息が詰まる。
緊張からか手先が冷たい、寒い、怖い。
彼女の赤い瞳が脳内に入り込んで来そうで、咄嗟に目を瞑った。
すると驚いたように息を呑んだマザーさんは、一際低い声で呟く。
「…どうして今…。」
「会ったばかりの厚化粧ババアが近づいてくれば誰だってそうなるに決まってらぁ…」
「誰が厚化粧だぁあ!?」
「テメェのことだ化け女狐!!」
私が答える前に聞き慣れた声が問いに答え、間近で火が燃える音が聞こえ、さらに強く掴まれていた手が解放される。
代わりに安心できる体温に包まれてハッと目を開けた。
そして恐る恐る温かいなにかの正体を確認してみると、少し息が上がった我が幼馴染が背後から抱き着き冷え切った私の手を取って温めてくれている。
「ったく!無駄に広くてうざったらしい!ふざけやがって!」
「アルゥウウウウ!!」
「っ!?うるせっ……!!」
精神安定剤、ここに来たり。
歓喜のあまり情けない声で名前を呼んでしまったが、こちらをチラリと見たアルは察してくれたのか宥めるように私の頭を撫でた。
「癒されるー……浄化されるー…」
「そうか。好きなだけそうしてろ。」
「え!?いいの!?じゃ遠慮なく!!」
許可が出たことで彼にしがみつきギュッと力を込める。
すると私の頭を撫でながらアルは威嚇するように口を開いた。
「おいクソピンク、テメェなにしてやがる。コイツ怯えてんじゃねぇか。テメェの相棒もやたら動きがノロくて使い物にならねぇし……随分いつもと態度が違うんじゃねぇの?」
「頭の固い子だね。実家に帰ってきたら気が抜けるのは当然。お友達よりカカ様であるアタシを優先するのも当然のこと。」
リリーちゃんの代わりに答えたマザーさんは恐ろしく美しい微笑みを浮かべてさらに続けた。
「それよりせっかく同族に出会えたのに感想はないわけ?」
「あ"?別にねぇわそんなもん。」
「くふふ、素直じゃないね。マリーなしでここに辿り着けたご褒美に特別に抱き締めてあげてもいいのよ?」
「ダメ!!!」
思わず彼の視界を両手で遮り、出せる最大の声量で叫んだ。
「今は私が抱き締めているので!!!えぇ!!定員超過でダメです!!!」
しーん……と気まずい雰囲気が全身に突き刺さる。
なんだその理由って顔ですね。
激しく同意しますがこればかりは絶対に譲れません。
「あっそ。」
そんな気持ちを込めてマザーさんの鎖骨あたりを睨みつけていると、彼女はパンっと大きく手を叩いて話を区切った。
「ま、そんなくだらないことよりアタシの娘たちにアンタたちを紹介する方が先ね。ついてきなさい。……行くよリリー。」
「うん!」
マザーさんの言葉に元気いっぱいに返事をしたリリーちゃんは足早に後を追いかける。
一度もこちらを振り返らずに。
「いつまでやってんだ!」
「あ、ごめん。」
目隠しをしていたアルから抗議の声が上がり急いで手を退ける。
すると多少身体を離したアルが訝しむように目を細めて言葉を続けた。
「ここに到着してからお前が一番変だぞ。」
「……そうかもね。」
「どうした。」
どうしたと聞かれても分からない。
それでもこの複雑な感情を敢えて言葉にしてみるならば。
「アルがマザーさんに魅了されないように必死…?」
「………………は?」
「うん、それだ!!そうだよ!そう!」
パチリとパズルが完成したかのような達成感に包まれた。
そうだ、確か女盗賊一派の頭は魅力魔法が得意。
あの瞳に見つめられて違和感がしたのは魅力魔法を使われていたからなのだ。
それでも私が途中で目を瞑ったから上手くいかなかった……そういうことなのだろう。
たまたまにしてはナイスな判断ではないか。
私もやれば出来る子だ。
見つけ出した答えに嬉しくなって思わず彼の両手を掴んで上下に乱暴に振る。
「女の私であの赤い瞳に見つめられると心拍数上がって大変だったのに、流石のアルでも男の子だしあのボンッ・キュッ・ボンッには一瞬じゃないかと思って!そうだよ、だからアルがマザーさんを見つめているとヒヤヒヤするんだ!あースッキリした!………ん?となると…リリーちゃんたちも魅力にかかってる可能性ある?でも家族にかける必要はないよね?……うん、分かんないから2人の後を追いかけよう!」
「待て待て待て待て!!!!」
そうして先ほどよりもしっかりと手を繋いで遠くに見える2人の後ろ姿を追いかけようと歩き出すと、これまでにない力で引き止められる。
「ん?どうし……うえぇ!?顔真っ赤!?」
「うるせぇ!!誰のせいだクソが!!」
「ま、まさか既に魅了されて…?」
「はぁ!?違っ…」
「ど、どうしよう!?どうやって治せばいいんだっけ!?マザーさんを好きになっちゃ嫌だよ!!私を1人にしないで!!」
「だあああああぁあああああああああああ!!なんでそうなるこのクソモブ!!!!」
いきなり発狂したアルは私の口元を押さえて強制的に黙らせた後、マザーさんたちとは反対方向へ走り出す。
そして適当に見つけた扉を開け勝手に中に入り、勢いよく扉を閉めた。
「テメェに!言いてぇことが!!2つある!!!」
「は、はい!」
尋常じゃない覇気に怖気づいていると想像していたより遥かに優しく頬を撫でられ、軽くそのまま突かれる。
「まず1つ。どうしてお前が魅了魔法について知ってるのか甚だ疑問だし、あの野郎がオレに魅了を使う利点も分からねぇが………それについては心配いらねぇ。」
「………え?」
ポカンと口を開けて問いかけると息が苦しくなるほど抱き締められて頭を撫でられた。
「オレが魅了魔法に呑み込まれることはない。絶対に。」
「……そっか。よかった。」
その言葉の力強さに心から安心し、彼の少し温かい頬に擦り寄った。
「………それと2つめ。」
「ん?」
あ、そういえば言いたいことは2つあるんだっけ。
ドクドク鳴る心臓音を聞きながら言葉の続きを待っていると、彼の心拍数が格段に上がった。
「オレは一度決めたことは曲げないようにしてる。」
「?うん。修行も頑張ってるし凄いと思うよ。」
「そうだ。こんな辺鄙な洞穴で伝える気はねぇし……感情を押し付けるつもりもねぇ。」
「ん?」
「ちゃんと一人前になるまではと今でも思ってる。……ただな!!」
「は、はい!?」
何を言い出すのかと身構えると急に鼻の頭を甘噛みされて頭の中が真っ白になる。
動きを完全に止めて固まった私に追い打ちをかけるように頬に大げさなリップ音を立てて口付けを落とされた。
「な、な、な!?」
「オレにも限界はあんだよ!!!覚えとけクソモブが!!!」
「は、はい!!!!!」
「分かりゃいい!!!この話はこれで終わりだ!!!とっとと外に出るぞ!!」
「そうしましょう!!早急に出ましょう!!」
ドンドコと心臓が暴れ回り内臓が口から出そうだが、何故だか恥ずかしいだけで嫌ではない。
ガタンッ。
「…………あ"?」
扉に手をかける彼の後頭部を見つめていると髪の間から見える耳が髪色と同じくらい赤くなっていて、なんとなく頬が緩んだ。
(あーやめやめ!!これからマザーさんたちに会うのに早く熱を冷まそう!!)
ガタンガタンッ。
ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンドガッ!!!!
「え、ちょっ、うるさいよアル。」
私の言葉にゆっくり振り返ったアルは気まずそうに口を開く。
「……開かねぇんだけど。」
一気に顔が青褪めた。