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転生者と少年と、妖精の夜渡り

いつもありがとうございます!

そしてブックマーク、評価いただきありがとうございます!

大変励みになっております!


少し間が空いてしまいすみませんでした…。

どこで区切ったらいいか分からず今回は少し長めとなっております!


今後もよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております。


食器を片しながら嬉しそうに母親は呟く。


「そうなの。じゃあもうすぐ最後のお家の修復も終わるのね。」


「そうだよエマ。あの恐ろしい襲撃からもうすぐ1年、ようやく目処がついて安心したよ。妖精の粉も皆さんの怪我によく効きめがあったし、役に立って本当に良かった。」


「本当ね。……でもなんでもかんでもあげちゃうお陰でこっちは大赤字よ?」


「あ、そ、それは……ごめんよエマ!つい!!」


「あら?どうして謝るの?そういうところ、素敵よ。」


「え!?本当に!?本当にそう思う!!?」


「ふふ、えぇ。愛してるわエドワード。」


「ああああああ!!僕も愛してるよエマァアア!」


一体何を見せられてるんだか。


イチャイチャする両親をそのままに、洗った髪の毛をタオルで拭きながら自室への階段を上る。


「あら?一人でお風呂に入ったのレイちゃん?」


「ん?うん。」


「うぇええ!?ダディと一緒に入ろうって約束したじゃないか!!」


「いやもう7歳になるし、なんかもうそういうのいいかなって。」


「そんな殺生なぁああああああ!!!」


「子供の成長って早いものね。さぁレイちゃん?髪の毛乾かしてあげるからこっちにいらっしゃい。」


「大丈夫だよ。ありがとうお母さん。今日はもう寝るね。」


「あらそう?いつもより随分早いような…」


「んん!?ソンナコトナイデスヨー!?オヤスミナサイマセーー!!!」


不思議そうに首を傾げる母親にヒラヒラと手を振って駆け足で自室へ駆け込み、一息をつく。


(なんたって今日は特別な日なんだから、バレるわけにはいかないのだ。)


机の上に広げられた針山を絆創膏だらけの己の手で片付けながら、昨日のことを思い出して思わず頬が緩む。


「ねーねーアル。」


「あ?」


「明日なんだけど予定とかある?」


「っはぁ!?まさか約束忘れてんじゃねぇだろうな!もしそうなら張り倒すぞク…ソモブ……?」


そう口開いたアルの様子を見て私は思わず両手を上げて喜んだ。

そう、昨日でいう明日…つまり今日は待ちに待った妖精の夜渡り当日。

一年前からずっと楽しみにしてた約束の日なのだ。


「何やってんだお前。」


「アルが約束覚えてくれてて嬉しくて!!よかったー!!流石アル!!最高!!」


「そ、そうかよ…。」


「本当良かった…何も考えず当たり前のように用意してたから…」


「あ?用意?」


「なんでもない!それで?何時にどこで待ち合わせる?アルの家に行けばいい?」


「馬鹿かお前夜中だぞ!?オレが迎えに行くから大人しく待ってろ!!!」


「………風邪引かないでね?」


「引かねぇわクソが!!」


「冗談冗談!明日楽しみにしてるからね!!卵焼きもよろしく!」


「っけ、食い意地女が。」


緩む頬のまま拳を突き出すと、呆れたようにこちらを見た少年は優しく拳を合わせてくれた。


「アルまだかなー。」


お風呂にも入ったから眠気対策もばっちりだ。

卵焼きも楽しみすぎてハゲそう。

はやる気持ちのまま窓を開けて周囲を見回すと、既に綺麗な蒼い月が丸々と空に浮かび上がっている。


(今日もあの時と同じ、妖精が飛び立っていく光景を見ることが出来るなんて。)


今まではこの日が憂鬱で嫌だったのに、そう考えるだけでなんとも素晴らしい日に早変わり。

窓は開けたまま枕元に隠しておいたお気に入りのワンピースに着替え、さらに机の上に置いておいたあるものを手に取りニヤける。


「ぐへへ!これでバッチリ…」


「なにがだよ。」


「ひっ!?」


上着のポケットに滑り込ませて上からひと撫でして呟くと、後ろから低い声が聞こえて振り返る。

すると窓に手をかけ覗き込んでいた少年が、眉を潜めながら部屋の中へと入ってきた。


「なにがバッチリなんだよ。」


「っっひゃっはーーー!ナンデモナイデスヨー!?」


「……お前なんか隠してねぇか?」


「そ、それよりちょっと待ってね!?今髪の毛乾かしてるから!!!!あはははは!!全く大変だなこん畜生め!!」


無理やりの話題転換で乱暴にタオルで髪の毛の水分をゴシゴシと拭き取っていると、人の気配が近づくとともに私の手にゆっくりと力が込められたことで、彼が手を重ねてきたのだと理解した。


「アル?」


「指どうした。なんで絆創膏貼ってんだ。」


「う、うん!?そ、それは…えっと…」


どうしよう。今言うべき?

ここで渡すのもどうかと思うけど、嘘つくのは嫌だし……。


すると数秒の沈黙の後、諦めたようにため息を吐いた幼馴染が手を重ねたまま優しくタオルを左右に動かして髪の毛の水分を拭った。


「まぁいいけどよ。これから出かけんのに風呂入るか普通。湯冷めしたらどうすんだ。風邪引いても知らねぇぞ?」


あ、話題を逸らしてくれたな今。本当優しい子だこと。

これ幸いとアルの優しさに甘えることにした私はそのまま言葉を続ける。


「あはは、アルじゃあるまいし。」


「喧嘩売ってんのか。つうかもうちょっと丁寧にやれ。そんな乱暴にしてたら髪が痛む。」


「いやもうギッシギシで今更だし。」


「そうでもねぇだろ。」


終わりだと言わんばかりにタオルを取り上げられ、手持ち無沙汰になってしまった手を握られる。

そして絆創膏の箇所を優しく撫でた彼は寂しそうに眉を寄せた。

あぁ違うよアル、そんな表情をさせたいわけじゃないのに。

罪悪感が込み上げ、場所とかどうこう言ってる場合じゃないと彼の手を強く掴む。


「あ、あのねアル!!これは深ーい理由があって!」


「待った、先に移動するぞ。あんまり時間がねぇからな。」


「ぐっ!!分かった!でもアルに隠してたわけじゃ…いやまぁ隠してたんだけど!!とにかくちゃんと説明するからそんな顔しないで!?」


「っ、くくっ、分かった。……どんな理由であれ勝手に傷作ったのは腹が立つが、ちゃんと聞かせろ。いいな。」


あ、怒られるんだこれ。


「も、もちろんデス……」


「よし、おりこーさん。」


半泣きになりながらも返事をすると、蒼い月明かりに照らされた赤髪と嬉しそうに笑ったアルの微笑みがとても神秘的で思わず魅入ってしまう。

怪訝そうに目を細めた彼にようやく我に返り、勢いよく左右に首を振った。


「なんかいつもと雰囲気が違うね。」


「っ!?き、気のせいだろ……!!」


顔を少し赤らめて小声で呟くアルの姿にピンと来た。


「あ、トイレ?」


「どうやら死にてぇらしいな。」
















◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







「なにも殴らなくても……」


「あそこで便所っていう発想が出てくんのが信じられねぇよ!!!空気読めクソが!!」


プンスカ怒ってしまったアルに連れてこられたのはいつものあの丘。

まん丸お月様の下で横に並び、夜渡りの瞬間を今か今かと待っている。


(どうしよう…今怒ってる状態で説明して、火に油を注ぐ感じになったら。)


ゾゾゾっと背中に寒気を感じ身震いすると、それを見たアルが舌打ちをしながら私に自身の上着を投げつける。


「寒いなら着ろ。」


「う、うーん…そういう寒気じゃ…いや、うん借りますはい。」


恐らく最良の選択をしたであろう私は、じっと先を促すように見つめてくる金色の瞳を見つめ返し言葉を紡ぐ。


「あのねアル。この怪我は他でもなく、自分の不器用さを甘く見てたせいでして。」


「は?どういう意味だよ。」


「と、とにかく!!これを作った結果です!」


ドキドキと緊張しながら自身のポケットからあるものを取り出し、勢いよく彼の前で手を開く。

あるものを見たアルは両目をこれでもかと開き、ピタリと動きを止めてしまった。


「ほら、アルは修行頑張ってるから私も応援したくて!!えっと……お、御守り的なものを!!」


そう、あるものとは、母親から作り方を教えてもらい手縫いで作り上げた御守りだ。


「色は黒が好きって言ってたからさ!!その生地に赤い糸で『安全第一』って書いてみたんだよ!!これがもうすっごい時間かかって大変で!!ま、まぁ…不器用過ぎて血文字のようになっちゃって不気味な感じになって……配色完全に間違えた感じだけど…。」


「…………。」


「や、やっぱり要らない…よね。こんな不気味なもの……」


なにも言ってくれないアルに手を引っ込めようとすると、痛いぐらいに手首を掴まれる。というか痛い。


「なんで仕舞おうとすんだよ。」


「いや……あの……」


懇願するようにじっと見つめられて、恐る恐る彼の手に渡す。

すると聞いたことがないぐらい静かな声でアルは呟いた。


「それでそんなに絆創膏貼ってんのか。」


「うん。上手くいかなくて。」


「あの日からずっと作ってたのか。」


「うん。時間かかった割にはって感じだけど。」


「オレのために。」


「うん。アルのために。」


気がつけばぐるりと世界が反転していた。


背中が地面についた拍子に空に赤い花びらが舞っていく。

その花びらの形からここにもアイビスの花は咲いてるのかと考えていると、視界いっぱいに映る幼馴染は苦しそうに自身の胸元を片手で掴んだ。


「お前のせいでっ、ここが、苦しいっ……!!なんだよこれっ、どうしてくれんだよテメェ…!!」


一瞬驚いたものの彼の瞳を見てすぐにふっと安堵の息を零す。


「気に入ってくれた?」


「知らねぇ!!」


「大事にしてくれる?」


「気が向いたらな!!」


「抱き締めても?」


「聞くな分かれ!!!!」


だって彼の瞳(そこ)には確かな喜びの感情が存在していたから。


ゆるゆると手を伸ばせば、待ちきれないというようにアルが私の腕を取って抱き締める。

しばらくそうした後に王都から日付が変わったベルの音が鳴り響くと、それを合図に可愛らしい妖精たちが月に向かって飛んで行くのを共に眺めた。


「グスッ、綺麗だね。」


「…また泣いてんのかお前。」


「だって圧巻じゃん!!なんて素晴らしい!!生きてて良かった!!」


「はっ、そうかよ。………モブ。」


「ズビッ……ん?」


「オレ、オレもお前に…その……」


「え?」


「っっっっクソが!!!」


「なんで!?」


それからアルが震える手であるものを取り出すまであと17秒。

私が号泣しながら喜んで彼を押し倒すのは、その後すぐのことである。










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◇『幼馴染の御守り』を手に入れた。

効果 〇〇〇〇、〇〇、無効。

一度目の妖精の夜渡りと比べて大分距離が縮まりましたね。うんうん、地道にコツコツと進んでおります。


長かった6歳はこれで終了、次回からは7歳となったレイちゃんたちがまたもや巻き込まれていきますので今後ともよろしくお願いします!


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