少年は、決断する
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その後戻ってきたクラウスにリチャードが耳打ちをして、不気味なほどの笑顔でクラウスがオレの肩に手を置いた。
「すまない、これから少し用事が出来てしまったから今日はここまでにしよう。ゆっくり休むといい。」
嘘つくんじゃねぇ。
せめて筋肉馬鹿に立てたその親指を隠しやがれ。
バッチリ見えてんだよこっちに。
……それでも一応今日は休むことにして、一応はゆっくり身体を休めようと行き着いた先が。
「……アル?」
「………あ?」
今一番心が休まらない場所だった。
どうやら無意識にモブのところまで足を運んでしまったらしい。しかもわざわざ屋根を登ってモブの部屋の窓の横に座り込んでいた始末。馬鹿なのかオレ。
動揺しているこちらの様子など露知らず、窓から顔を出している幼馴染は眠そうに呟いた。
「なんでそこにいるの?」
「聞くな!!!」
「…まぁいいけど、こっちおいでよ。ふぁあ……そこ危ないよ?」
「っ、テメェの方が危ねぇだろ!!そんなに身を乗り出すな!!落ちたらどうすんだよ!」
「だってアルが来ないんだもん。それと落ちたらどうするって台詞はそのままお返しするから。」
「…………。」
「もう早くー…。」
手招きをするモブにつられて渋々屋根の上を移動し、窓から部屋の中に入る。
欠伸しながら窓を閉めたモブは、目を擦りながらオレにクッションを手渡した。
「お前ついさっきまで寝てただろ。」
「……バレた?」
「布団敷きっぱなし。それにすげぇ寝癖。」
「きゃー……はずかしー…」
そう言いつつまた布団に戻ろうとする怠惰の塊を捕まえて寝癖全開の黒髪に触れる。
気持ちよさそうに目を閉じたのをいいことに手で梳かしてやりながらふと疑問を口にした。
「お前なんで窓開けたんだ。」
「んー……?」
「特に今日は約束もしてねぇし…いつも外見てるのか?」
「あーうん…それね…」
「擦るな。」
ゴシゴシと目を擦る手を掴み辞めさせると、こちらを見た瞳がふわりと緩む。
「アルがいたらいいなーって思って。」
「…は?」
バクンッと心臓が一際大きく波打つと、固まったオレの頭を撫でるモブはそのまま言葉を続けた。
「そしたら本当にいるからびっくりしたよ…確認してみるもんだねー…会いたかったよー私の可愛い幼馴染……でもさ…今度は玄関から来てね危ないし……あーやっぱり無理めっちゃ眠い。ちょっと顔洗ってくる。」
硬直した手のひらからすり抜けてモブが部屋を出て下の階へ向かう。
なんだそれ。
ふざけんなって本当に。
手が白くなるほどクッションをギュッと握りしめてやり過ごさないと、すぐにでもアイツを追いかけてしまいそうだ。
脳内で先ほどの幼馴染の安心しきった表情が何度も何度も再生され、意味がわからない呻き声が口から漏れた。
なんか、すごく、こう、とんでもなく、
可愛い。
「ふぅすっきりすっきり!!おまたせしました、レイちゃん完全復活…」
「このクソモブふざけんな!!」
「うぐぇばす!?」
浮かんだ言葉を打ち消すようにモブの顔面にクッションを投げつける。
顔が熱い、やっぱり全然休まらねぇ。
そんなことを思いながらも顔面で受け止め悶えるモブの手を掴みギュッと腕の中に閉じ込める。
蛙が潰れたような苦しそうな声が聞こえるが全然マシにならない感情に任せて抱きしめていると、異変を感じたモブが戸惑いながら声をかけてきた。
「ど、どうしたのアル?……はっ!やばい!!」
何かに気がついたモブはオレもろとも近くにあった布団を被り、静かにするよう口元に人差し指を立てる。
そして動揺から拘束力が緩んだ腕の中からするりと抜けだして、オレを布団に押し倒した。
「レイちゃんさっきの悲鳴は!?」
ガタンッと荒々しく扉が開く音とモブの父親の声にびくりと肩が上がった。
オレを隠したモブの意図が分かり、極限まで気配を殺す。
こんな所にいるなんてバレたらいろいろまずい。
「ンン?ナンデモナイデスヨー?」
「そ、そうかい?ならいいんだけど…何かあったらすぐダディを呼ぶんだよ?」
「モチロンデス。」
おいなんで今ので騙されるんだ。
明らかに怪しかっただろコイツ。
扉を閉める音とため息の音が聞こえると、ゆっくりと布団が剥ぎ取られて微笑まれる。
「周囲、安全確保です隊長。」
「………そうかよ。」
その微笑みも今のオレには威力が高い。
視線をそっと逸らしながら差し伸べられた手を掴み起き上がると、モブは能天気に続けた。
「お父さんにバレるといろいろ面倒くさいからさ、ごめんね押し倒しちゃって。」
「いや……別に。」
そもそもはオレがクッションを投げたせいだからなにも言えない。
複雑な思いのまま頭を掻いているとじっとこちらを見つめていたモブがジリジリと距離を詰めてくる。
「っ、なんだよ。」
「それで?なにがあったの?嫌なことでもあった?」
「は?なんでそうなんだよ。」
「アルの様子がおかしいから。」
「…そんなことねぇ。」
「あー嘘だね。ほらほら、お姉さんに言ってごらんなさいな。」
視線を合わせてきたモブはそう一蹴して横に座る。
なんでこういう時誤魔化せないのか分からない。
諦めるようにため息を吐いて身体を寄せるが逃げられることはなく、ぴったりとくっついてコイツの温かみを感じた。
「修行が大変?難しい?」
「……まぁ、ある程度は。」
「げっ、やっぱりそうなんだ…。今どんなことしてるの?」
「武器に魔力を込めて、共鳴させる修行。」
「うわぁ…ごめんよくわかんない。とりあえず凄そう。」
「別に凄かねぇよ。」
「人間に魔力を送り込むのが大変なんだから、武器もそりゃ難しいに決まってるよね。」
「いやそんなことはねぇ。人間と違って武器には多少荒々しく送り込んでも支障は………あ?」
「え、なに?」
オレは今まで魔力を送り込むという動作をしたことがなく、全ての過程をぶっ飛ばして高難易度技術の魔力操作を習得した。
というのもただ魔力を送り込むのではアイツに妖精を見せる際、ふとした拍子の雑念の影響で眼球を傷つける可能性があったからである。
一切の雑念を捨てて無意識に魔力を送り込むことが出来るようになったからこそ、長時間魔力操作することが出来るようになったわけだ。
さらに言えば、なにかしら雑念が入れば無意識に魔力を送り込むのをやめてしまう癖がついてしまっているということ。
「おーい、アルくーん。」
(あぁそうか、コイツを傷つけないことを一番に魔力操作の特訓したからそんなことに。)
であれば攻撃の瞬間に魔力がたちまち消えてしまう理由も、そういうことなわけで。
「ちょいちょい、本当にどうしたの?なんか顔が赤いけど熱でもあるんじゃ…」
「クソが!!」
「なにが!?」
気がついてしまえばなんてことはないが、とてつもなく恥ずかしい。
なによりあのクラウスが見抜いてそうで辛い。
明日からどんな顔すればいいんだと頭を抱えると、遠慮がちに頬に手を添えられた。
「ねぇアル、そんな無理しなくていいんだよ。」
「は?無理なんてしてねぇよ。」
「修行の後も毎日会えるのは嬉しいけど、それだと疲れが取れないんじゃない?」
「おい、勝手に変な憶測すんじゃねぇ。」
また変なことを言い出した馬鹿の頭を叩く。
確かに心臓はバクバクするし呼吸はたまに止まるし、煮えたぎるように熱くなるときだってあるが結局は。
「お前に会えなかった時の方が、よっぽどしんどい。」
ため息を吐きながら呟いた言葉は真横の幼馴染を固まらせた。
まずい、引かれたかもしれない。
サァッと血の気が引いていく感覚に目眩がして、祈る思いで様子を伺うと少しだけ頬に赤みが増した幼馴染が目に入った。
「あーやだやだ。これだからイケメンは。」
「あ?」
「ふんっ!この人間兵器め!!そんな可愛いことばっかり言ってると将来女ったらしになるからね!!気をつけなさい本当に!!」
「なんの話だよ!!うおっ、」
飛びついて来たモブを受け止めると、懐くように頬に擦り寄られる。
熱くなっている幼馴染の頬から伝染するようにこちらも熱くなってきて、フワフワとした心地で抱き締めた。
「ねぇアル、好きな色って何色?」
「なんだよ突然。」
「いいからいいから。」
好きな色なんて今まで考えたことはない。
モブの髪を梳かしながら数秒考えて、弾き出された答えに思わず苦笑した。
「黒。」
「え、黒?なんか意外。」
「うるせぇよ。」
「ふーん、そっか黒かぁ。……黒かぁ。」
そう呟くモブを見つめ、思わずこちらも問いかける。
「お前、好きな花とかあんのか。」
「え、花?うーん、そうだなー…」
淡い期待を抱いて頬を突きながら返事を待つと、思いついたように顔を輝かせたモブはとびきりの笑顔で呟いた。
「やっぱりアイビスの花かな。思い出があるし。」
「くくっ、そうだと思った。」
「うわーなんか悔しい。でもなんで花?今の流れだと色じゃない?」
「あ?色はもう決まってんだよ。」
「??」
本当、単純。
ポカンと馬鹿っぽく口を開いているモブの頭を撫でてじっと見つめる。
花を指定したのはお前だ。文句言うなよ。
「ちょっとよく分からないんだけど。」
「そうか。」
「えぇ!?教えてくれない感じ!?」
非難する声を聞き流しつつ窓の外を見ると、スッキリした自身の心の内を写したように綺麗な青い空な広がっていた。
楽しかったです。(小学生並みの感想)