少年は、振り向かせたい
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クラウスがあの野郎に呼び出されてしばらく。
いつまで経っても戻ってくる気配はない。
「悪いな少年、椅子を奪ってしまって。」
「どうせ戻る気はねぇんだろ。だったら座ってもらった方が鬱陶しくねぇ。」
「いい奴だなー。」
「うるせぇ爆ぜろ!!」
これ以上このゴリラと話す時間がもったいないと、気を取り直して木刀に魔力を込めてみる。
すると一気に赤い魔力のオーラを纏った武器は、頑丈さや攻撃力が通常とは比べものにならないほど段違いに強化された。
「へぇ、見事なもんだ!」
「……ここまではな。」
しかし試しに木刀を振ってみれば、あっという間に跡形もなく魔力が消えてしまう。
「おぉ?なんだどうした?」
「途中で消えちまうんだよ。こういうのってよくあんのか?」
「いや…初めてみた。」
「…だよな。」
興味深そうに木刀を覗き込む姿を見て思わず頭を抱えた。
戦闘経験が豊富なコイツでさえ見たことがないということは、かなり稀な反応なのだろう。
長時間魔力を送り込むのはできるはずなのに、一体何が気に入らないのだろうか。
「まぁそんな気にするな!!まだまだ時間はあるんだからさ!!」
「っけ、呑気なこった。」
「急がば回れって言うだろ?なにかしらの理由があってそうなってる。焦らず紐解いていけば自ずと分かるさ。」
諭すように続けられた言葉に、ため息を吐きながら頭を掻いた。
「だけどよ…」
「お嬢ちゃんだって待ってくれてるんだろ?大丈夫だって。」
「あ"?」
「ん?どうした?」
「なんでそこでモブが出てくるんだよ。」
「え?だってお嬢ちゃんと婚約するために聖剣使いになるんだろ?あの子の親父さん厳しそうだもんな…」
「待て待て待て待て待て!!!なんだそれは!!誰から聞きやがったそんなこと!!」
「エミリー様だが……ふふん、そんな照れるなよ。顔が真っ赤だぞ?」
「照れてねぇえ!!!とんでもねぇデタラメ言いふらしてんのかあのエセ聖女!!」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる包帯野郎はそのままオレの顔を覗き込み、さらに続けた。
「でもずっとあの子と一緒に居るためにそんなに頑張ってるんだろ?そしてお嬢ちゃんはそれを喜んで応援してくれてるんだろ?違うのか?」
「ち、がわねぇけど…」
「じゃあそうじゃないか!!愛だな!!若いっていいよなぁ!!」
あの野郎、口止めしたのにさらりと暴露しやがったな。今度会ったら殺す。つうか愛とかそんなんじゃ……ねぇし。
そうは思うものの暴露された怒りと羞恥で限界を超えて、脳味噌が茹で上がった。
「クソ……」
なんとも小さく情けない声で呟くと、嫌な笑みを浮かべてリチャードは続ける。
「お嬢ちゃんとなかなかいい雰囲気なんだって?」
「はぁ!?」
「だから隠すなって説得力ないぞ?ここだけの話…………どこまでいったんだ?キスは?」
「っっっっっっるせぇぇえええええ!!!なんでテメェにそんなこと言わなきゃなんねぇんだよ!!!」
「いやだってなぁ、なんとも微笑ましくて。それでどうなんだ?したんだろ?ん?正直に言っちまいなって楽になるぞ?」
このままではずっとうるさいままだ。
ならコイツの質問に答えてさっさと終わらせよう。
そうだ、サラッと答えて終わらせればいい。
そう思って距離を取り、大きく息を吸い込んで言葉を発した。
「そ、そんなの……してねぇ…っつの…。」
「え。」
思った以上に小さい声になったのは不可抗力だ。
「なんだクソ筋肉ゴリラが文句あんのか!!爆ぜろ!!!」
「いや、そうだな。少年は奥手だったな。」
「ほ、頬にはしたことあるんだから別にいいじゃねぇか!まだそれは早いっつうか……まだってなんだクソが!!」
「少年!?」
冷静さを取り戻すため近くにあった大木に頭を打ち付けると、止めに入ったリチャードは真剣な表情で言葉を続けた。
「落ち着くんだ!!俺が悪かった!!」
「そうだ…全体的にテメェが悪い…!!」
「あぁ……そりゃ好きな子とキスしたいに決まってるよな。これからまだまだ機会はたくさんあるから元気出していけ!」
「だああああああああ!!!!うるせぇぇえええええ!!!」
満面の笑みで地雷を踏みぬかれた気分だった。
今日のこの瞬間ほどクラウスの戻りを待ち望んだ時はない。
いや、アイツが居たらもっと収拾がつかなくなるか。
やっぱり騎士野郎はクソだ。絶対許さねぇ絶滅しろ。
顔から噴き上がる熱を冷ますため水を頭からぶっかけると、優しい微笑みを浮かべた母親の言葉まで思い出してしまった。
「いい?アルフレッド。貴方にとって手放しがたい子が現れたら遠慮してはダメよ。お母さんみたいに攻めて攻めて攻めて攻めて攻めまくるのが大切なの。一瞬の足踏みが命取りになることを覚えておきなさい。大丈夫、凄く簡単だから。チュッチュッと唇でも奪って既成事実を作りなさいね。」
やっぱり母さんはいろんな意味で凄かった。
簡単じゃねぇよ。全然簡単じゃねぇよ。
「少年。」
オレの肩に手を置いたクソ筋肉は励ますように声をかけて、首元から何かを取り出した。
それは煌びやかに光る樹脂のような首飾りで、中に花の蕾が閉じ込められているのが見える。
「……なんだそれ。」
「昔、俺の両親は好きな植物を魔法で固めてアクセサリーにする店を開いてたんだ。しかも魔力を込めると…」
中に閉じ込められているのは植物がゆっくりと花開き、なんとなく心が落ち着く香りが広がった。
「へぇ…」
「いいだろ?結構人気だったんだよ。きっとお嬢ちゃんも好きなんじゃないか?」
だろうな、と漠然と思う。
妖精の夜渡りの前に魔力操作を安定させるために使った、似たようなものを見せた時にアイツは凄く喜んでいた。
「お詫びにこれの作り方教えるから、元気出せ?な?」
「……あ?」
「これを作るのにはちとコツがいるんだ。俺たちガントレッド家の人間しか作り方は知らない。」
どういう仕組みなのだろうかと観察していると思わぬところで美味しい話が舞い込んできた。
しかしニヤリと笑った包帯男は言葉を続ける。
「大事なのは雰囲気作りだ!しかももうすぐ妖精の夜渡りの時期なんて…こんなに絶好な機会はない!贈り物を渡して、ばっちり!!決めてこいよ!」
ドンっと背中を叩かれ、盛大に咳き込んだ。
リチャードさんの悪気のないお節介がツンギレを追い詰める。
次回もほのぼの回、アル視点でお送りします!