謎多き騎士は、微笑みを浮かべる
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今回は謎多き騎士ことあの人視点でどうぞ!
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ガチャンッ。
心臓を握り潰されるような感覚に飛び起きると、その拍子に机の上に置かれたカップが床に落ちて粉々になってしまった。
他人事のように液体が床を濡らしていく光景を見て、漠然と考える。
ここはどこだ。俺はなにをしている。
「副団長!お怪我は!?」
すぐ真横に立っていた脇役がこちらに駆け寄ってくる姿と、相手の言葉を噛み砕いて脳を働かせる。
副団長?
……………あぁ、私か。
一気に目が醒めた。
「この程度で怪我をするわけがないでしょう。それよりここは私の執務室のはずですが、貴方は一体なにをしているのです。」
「も、申し訳ありません!報告書を提出しに参ったのですが応答がなかったものですから…」
横目で部下が視線を向けた方に注目すると、隣の机の上に置かれた書類の束が目に入った。
仮にも提出書類を勝手に机に置くなと小言を言いたくなるが、彼が手に持っている毛布を見てなんとなく怒る気力も失せた。
「その、勝手に失礼いたしました…」
「いいえ、そのままそこに置いてもらえれば結構です。後で確認しますので。」
「は、はい。」
「それとその毛布は必要ありません。邪魔ですから持ち帰るように。あと返事ははっきりと。」
「はっ!!」
慌てた様子の部下は放っておき、思わず目頭を指で押さえてため息を吐く。
私としたことが業務中に居眠りするとは。
しかも部下は部屋に入った後に居眠りしていた私に掛けるための毛布を持って戻ってきたことが予想出来る。
迂闊すぎる。失笑レベルだ。
だがそれもこれも見たくない記憶を見せられたせいだと言い訳をしつつ、脳裏に焼き付いた光景を振り払う。
しかしあの時と同じように外では雨足が強まってしまい否応にもぶり返すため、苛立ち気に窓を睨みつけた。
(なぜこのタイミングで…ああもういい、考えるのはやめだ。破片を片付けなければ。)
「あの…」
憂鬱気味に立ち上がろうとすると恐る恐ると言ったように言葉を発した部下に視線を向ける。
「まだ何か?」
「これは自分がやりますので、少しお休みになられたらいかがですか?」
「不要です。」
「ですが暫く休息を取られてないですよね?顔色があまり」
「失礼ですね、これは生まれつきですよ。」
「そ、そんなことないと思いますが…」
一向に引く様子のない雰囲気に控えめに頭を掻くと、自慢の髪が少しガサついている気がした。
思わず壁に掛けてある鏡に目を向けると、確かにいつもより少しだけ目つきの鋭さがない。テオ・モルドーラとしての覇気が控えめだ。
「難しいようであれば温かい飲み物だけでもどうでしょうか。」
「……………。」
「自分、こう見えて珈琲屋で働いていた経験があります。」
「要らない情報をどうも。」
身体が冷えているからか、いつもは一蹴するはずの申し出が魅力的に思えてくる。
…珈琲一杯くらい飲んでも罰は当たらないか。
そんな風に考えたその時、別の誰かが部屋の扉を叩いた。
「なんです。」
「王より至急、顔を出すようにとの命であります。」
内容を確認し、ふっと息を吐く。
そうだ休んでいる時間はない。今が大事な時期だ。
「向かいます。」
すぐに上着に手をかけ歩き出すと後ろから部下が敬礼し大声で叫ぶ。
「っいってらっしゃいませ!!お戻りまでに菓子も手配しておきます!!」
「やめなさい。珈琲だけで充分です。」
「っっっはい!!!!」
思わず溢れた落ちた言葉と、振り返った先に満面の笑みで返事をする部下の姿を見て盛大にため息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王都中心部。
商人が行き交う華やかな街並みとは異なり、王宮が建てられているこの区域は異常なほどの静けさに包まれている。
無駄に大きな門は外部と遮断するように閉められ、窓も内部の様子が見えないように全て閉ざされているのは魔王が暴れまわっていた時代から続いているらしい。
なんともまぁ、王の性格をよく表しているものだと初めは感心したものだ。
「お、お待ちしておりましたテオ様。」
怯えた召使いが私に一礼し、駆け足で扉を開ける。
ゆっくりと開けた暗闇の先で、やけに輝く王冠を身につけた男が金色の瞳をギラつかせた。
「ただいま参上いたしました。」
片膝をつき頭を下げて一礼すると、王はしゃがれ声でこちらを責めるように言葉を続ける。
「テオ、余はすぐにここに来るようにと伝えたはずだぞ。」
「申し訳ございません。持てる限りを尽くしたのですが。」
「その間に余が襲われたらどうするつもりだ!!!」
苛立ちに任せて怒鳴り声をあげると背後で召使いの悲鳴をあげる。
一方の私は特に気にもせず肩を竦めた。
「王よ、再三申し上げておりますがアレはここにはおりません。」
「関係あるまい!!アレはどこへでも姿を表すのだぞ!?余から聖女殿の写し身を攫ったときのように!!!」
「それはゲートを通ることができればの話です。最早そのような力は残っておりません。」
目線で召使いに下がるよう伝えると、激しく首を上下に動かして早々に立ち去る。
上手く恐怖心を植え付けているものだと考えていると、王は震えた声で言葉を続けた。
「しかしこの世を漂っておる…感じるのだ…!!消滅するまでは絶対に安全とは言い切れぬ!!」
「ヘンリー・キングラン王。聖女様が心配は無用だと仰っていらっしゃるのです。駒もいい具合に仕事をしてくれました。」
その言葉を聞いた王が動きを止める。
確かに騒動があったあの日はなぜか弱体化が確認出来なかったのだが、日にちが経ってようやく確証を得ることが出来た。
「うんうん。やっとさっき確認できたよ。あれだけズタボロになっていれば、もうワタシの邪魔は出来ないよね。手を出そうものなら消滅しちゃうし?そんなこと、あの人には出来ないよね。」
そう楽しげに語っていた声を思い返していると、王がその名を口にする。
「それは聖女…聖女エミラ殿が?」
「はい。」
世界の中枢を担う王都を統べるこの王は、とてつもなく臆病で用心深い。
暴走すると少々面倒だが病的なまでに聖女に心酔しているお陰で、この一言で大抵は収められる。
「ご存知の通り、私は聖女エミラ様に加護を受けた者です。あの御方から直々にお伺いしております。」
「なんと、そうか、いやそうであったな。であれば間違いあるまい。駒と称しておったあの魔女も始末したということなのだな?」
「ええ、魔力は完全に消滅しております。」
それについてはあの日に魔力の消滅する瞬間を感じ取った。
間違いなく順調に進んでいると確信を持って告げればようやく王は息を吐く。
「では写し身は余の元に返ってくるのだな?」
「まだその時ではありません。まだ下準備が残っております。」
そう告げると眉をひそめた王は訝しげに呟く。
「それは本当に必要なのか?アヤツは今は写し身の護衛をしておるが余の剣であることには変わりはない。叛逆など考えられぬ。」
「いいえ、このままにしておけば必ず脅威となります。王よ、王都騎士団長クラウス・バートンはアレと同じ聖剣使いであることをお忘れですか。」
軽く悲鳴をあげた王は情けなくも頭を抱えて身体を震わせる。
「御安心を。全ては私の計画通りに進んでおり、誤差など生じるはずもありません。」
「では才能も剣術も足りていない、聖剣に選ばれなかったお主が、クラウスを倒せるというのか?」
よくもそこまで人によっては逆鱗に触れるような言い方が出来ると呆れながらも考えを巡らせる。
焦ったように王都を飛び出していった奴の弟の様子から確信した。
予想通り、奴は最早完璧ではない。
だがその言葉をこの愚かな王に伝える必要もないと判断した私は先ほどと同じように魔法の言葉を繰り返す。
「えぇもちろん、完膚なきまでに叩きのめしてご覧に入れましょう。…………敬愛なる聖女様に選ばれたものとして。」
自身の言葉にはらわたが煮え繰り返りそうになりながらも、完璧な微笑みを浮かべて。
テオさんは頭を痛めて産んだお気に入りのキャラの1人ですが、ふざけにくいのが悲しいところ。