転生者と、元勇者の激励
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雨粒が私の身体を冷やす。
こんな天気だからか人っ子ひとりいやしないとため息を吐いた。
そのままぼーっと黒い車が水溜りを勢いよく通過していく様子を見ていると、向かい側から誰かが必死にこちらに向かって叫んでいるではないか。
雨の音が邪魔して聞こえないけど、傘もささずにどうしたんだろう。
周りには私以外誰もいないはずなのに、どうしてこちらに向かって叫んでいるのだろう。
『うーん、じゃあアナタでいいや。そーれ。』
可愛らしい声が真後ろから聞こえたかと思えば、途端に強い衝撃で道路に弾き出された。
目の前は赤いライトが点滅しており、一気に血の気が失せる。
鳴り響くブレーキ音にクラクション。
そうだ。私、ここで。
『ふふ、ツイてなかったね?可哀想な人。』
目前に迫ったトラックの運転手の表情が絶望に染まったのを見届けて、視界が全て黒く塗りつぶされた。
「もういい、充分だよ。」
その声にゆっくりと目を開けると、いつのまにか横たわっていたことに気がついた。
「ゆっくり深呼吸してごらん。」
自分の顔を覗き込んでいたお爺様は悲しげに微笑んでいる。
きっと見るに耐えないひどい顔をしているのだろう。
なんとも嫌な夢…嫌な記憶を思い出したような気がする。
「すみません、なんの話でしたっけ。」
「ううん、もういいから気にしないで。よく分かったから。今はそのまま忘れたほうがいい。」
優しく頭を撫でられて、徐々に先ほどまでの恐怖感が薄れていく。
そして何を怖がっていたのかすら思い出せなくなったころ、お爺様が憂うように私を見つめた。
「本来僕は既に人間としての生を終えた存在で、エミリーを守るためにこの世に留まっているんだ。だから存在理由以外のことにあまり干渉すべきではないのだけれど、キミは思っている以上に危険な立ち位置にいる。だからあえて言わせてもらうよ。」
そして告げられた言葉は、私の思考を停止させるのには充分な威力を持っていた。
「キミの幼馴染、アルフレッド・フォスフォールとは距離を置くべきだと思う。」
「…はい?」
「キミが望む未来は彼といる限り叶えられない。」
「そ、そんなことどうして分かるんですか。そもそも私が何を望んでるのか知っているんですか?」
「当ててあげようか?大切な家族に囲まれながら平穏に暮らして、大病や怪我をすることなく長閑に、そして静かに最期を迎えること。レイちゃんは既に分かっているはずだよ。アルフレッドくんが聖剣に触れたことが何を意味するのか。このまま時が流れればキミが全てを思い出した時、彼とともに過ごしたことを強く後悔することになる。」
「そんなことありません。」
お爺様の言葉に反応するように頭が痛むが、構わず強く睨みつける。
確かに横暴な言い方で勘違いされることが多い不器用な子だけれど、あんなに優しい人に会ったことがない。
いつだって彼は私の味方だ。
この世界で絶対的に信頼できる大切な人だ。
私は彼と幼馴染になれたことを誇りに思っているのに後悔するだって?
そんなこと絶対にあるわけがない。
「警告ありがとうございます。だけど私は己の直感に従ってこれまで生きてきました。アルと一緒に居たのも、馬鹿やったのも全て私が望んで選んだことです。その結果魔物やら魔女やらにちょっかいかけられることになったとしても後悔はありません。」
「………あのエミラから逃げないと、そういうこと?」
「えぇ。満面の笑みで茶を出してもてなしてやりますよ。」
驚いたように目を見開いたお爺様に、私は胸を張って頷く。
感情のままに吐き出された言葉たちは私の気持ちを赤裸々に語ってくれた。
……というよりその場のノリで言ってしまったけど。
「エミラって誰でしたっけ。どこかで聞いたことあるんですけど。」
「……うん、一応この世界の一般教養だから勉強し直しといた方がいいかな。全く、最も哀れな犠牲者はキミだろうに本当に強い子だ。エミロアが気に入る理由も分かるよ。僕にもその強さがあれば良かったのに。」
「なんの話!?そしてその人も誰!?」
「思い出すよ。いつかね。……そして僕の警告も、頭の片隅においといてくれればそれでいいから。」
楽しそうに微笑んだお爺様は、自身の手袋を外してミイラのように干からびた右手を私の頭の上に置いた。
「大丈夫、その頭痛は偏頭痛なんかじゃない。キミの加護からの合図だよ。彼女はキミが全てを思い出すその時まで影から守ってくれるから。その間はいくらエミラでも手を出さないはずさ。」
「え?加護って…私誰かに守ってもらってるんですか!?痛みしか感じないですけど!?」
「ごめんね、彼女は魔力量が多過ぎるせいで繊細な魔法は昔から苦手なんだよ。僕が少し手直しをしておくから。今度こそキミが幸せに生を全うできるよう心から祈ってる。」
「そ、それはありがとうございます………え?」
その言葉だと、まるで私の前世を知っているようじゃないか。
私の動揺をよそに軽くウインクしたお爺様は、出入り口の白い扉の前まで私の背中を押す。
「さぁこれ以上貴重なキミの時間が削られてしまうとよろしくない。大好きな幼馴染のもとにお帰り?彼も……うん、半狂乱状態でずっとレイちゃんを探してるからね。」
「なぜに!?」
「それはそうだよ。あはは!これからは僕のような存在とゆっくりお話しなんてしては駄目だからね?特に今後キミの加護が姿を現した時は要注意さ。さっき言ったようにこういう配慮は苦手分野だから。」
トンッと軽く背中を押されて部屋の外に出され、慌てて振り返る。
ゆっくりと白い扉が閉まる向こうで、お爺様の綺麗なお顔に亀裂が入りポロポロと皮膚が剥がれ落ちていく様を見て息がつまる。
それでも彼は幸せそうに笑顔を浮かべてこちらに手を振った。
「キミのおかげでかつての僕、リュード・アビュッセルとしての望みは叶えられたよ。彼女に会わせてくれてありがとう。」
「りゅ、リュードさ、」
「モブ!!!」
「さぁお迎えだ。これからもエミリーをよろしく。そして幸せになってね……レイ。」
ガンッと扉が重く閉ざされたと同時に後ろからやってきた幼馴染に強く抱きしめられた。