転生者は、質問される
いつもありがとうございます!!
まだブックマーク登録いただきましてありがとうございます!
大変励みになっております!
イチャイチャさせるぜといいながら今回は真面目回です。
でも大丈夫!!またすーぐイチャイチャさせますから!
これからもよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!
「待って!行かないで!」
扉を閉めさせまいと、庭園の中央に立っていた青年が一瞬でこちらに近づいてきて手を差し込む。
「よっっっこいしょ!!」
「はやっ。」
キラキラと光る金の髪とは真逆の、真っ黒の手袋をはめた彼の手元から不似合いな破壊音が響き渡る。
それよりその顔でよっこいしょって、かわいいかよ。
「申し訳ないけど出て行かないでほしい。この姿をエミリーに…他の人たちに見せるわけにはいかないんだ。」
美青年がなにか辛辣な表情で呟いているが、私はそれどころではない。
バキバキと白い木片がこぼれ落ちていく様を見て、衝撃の事実を悟った。
「その体格でこの馬鹿力…さては細マッチョ!?」
「え?」
「すみません大好物です。なんでもないです取り乱しました。」
このままでは残念な子だと思われると考えとりあえず謝ると、ようやく少し顔の筋肉を緩めた彼が困ったように眉を寄せて言葉を続けた。
「こちらこそ怖がらせてしまってごめんね。」
「え、いや全然大丈夫です。あまりに神々しい光景だったのでとりあえず冷静さを取り戻そうと扉を一度閉めようとしただけですので。」
「そ、そう?」
川のせせらぎとともに(室内なのに)太陽の光が差し込む美しい庭園にこんな美青年が立って私に手を振っていたら、誰だって幻覚だと思うだろう。
決して大げさではない。
そう思考を巡らせていると、目線を合わせようと膝をついた青年は私の手を優しく包み込む。
「今日はエミリーと遊んでくれてありがとう。こうしてキミの時間に割り込んでしまうことは心苦しいのだけれど、どうしても2人きりでお話をしたいんだ。少しだけ…少しだけ僕に時間をくれないかな。」
「は、はぁ。」
「ありがとうレイちゃん。」
あまりにも真剣な表情で真っ直ぐこちらを見つめる彼に負けて、私は深く考えずに承諾してしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「とりあえず椅子と机と…あ、紅茶でも飲むかい?待っててね、すぐ用意するから。」
青年がパンと手を叩くと、フワフワと家具が浮かび上がり私の目の前へお行儀よく整列されていく。
すごい魔法みたい。……いやコレ魔法か。
そして軽く私を持ち上げた青年は運ばれてきた椅子の上に私を座らせると、自身も私の真向かいに腰を下ろす。
「あの、すごく今更なことを聞いてもいいですか?」
「ん?なにかな?」
「貴方はその……以前お会いした郵便屋さん、ですよね?」
ニコリと微笑み軽く頷いて肯定する。
「やっぱり。あと風の噂で聞いたんですけど…」
「噂?」
「なんでもエミリーちゃんのお爺様でいらっしゃる、とか。」
「あぁ、うんそうだね。…あれ?言ってなかったかな?」
キョトンと目を丸くする青年に私は頭を掻き毟る。
「めっちゃくちゃ初耳ですよお爺様!!!そういうことは早く言ってくださいそしていつも大変お世話になっております!!!」
「あの時はこんな風になるとは思っていなかったから名乗らなかったんだね。こちらこそお世話になってます。」
皺一つ見当たらないツルツルお肌のこの人がお爺様とは……流石エミリーちゃんのご親族。レベルが違う。
あまりの若々しさに、この人をなんのためらいもなくジジイ呼ばわりしたアルの目が本気で心配である。
「あぁ、もしかしたらこの姿で会いに来たから余計に若く見えるのかも。見かけは人間をやめた時…17歳のままだから。」
「じゅ、17歳!?」
「でも普段は混乱させるといけないから歳相応の見た目を魔法で繕ってるんだ。今回はそうするとレイちゃんが見えないからかけていないだけ。だからアルフレッドくんが僕をジジイと呼ぶのは間違いではないんだよ。」
「へぇそうなんですか。……ってなんで考えてることが分かるんですか!?しかも私が見えないことも知ってるんですか!?」
「前者はレイちゃんの脳内を少し覗かせてもらって。そして後者は随分前に妖精がざわめいていたからかな。」
「勝手に脳内見ないでくだ……え?妖精ってことはお爺様もあの子たちの声が聞こえるんですか!?」
「…………その言い方だとやっぱりレイちゃんには彼女の声が聞こえているんだね。」
綺麗な瞳を伏せたお爺様は、深く深くため息を吐く。
その表情を見てチリッと一瞬頭痛がして、漠然とした不安を抱く。
そしてお爺様は少しだけその瞳に陰りを滲ませながら言葉を続けた。
「人から加護へ、概念として生まれ変わった僕にも声を聞きとることは出来ないんだ。あれらの身振り手振りを見てそうじゃないかなと思っただけ。現に一度、キミが病院内で両親を待っていたときに僕が普段の姿で通りかかっても反応しなかった。試しに魔力を少し漏らしてみても反応なし。それで確信したんだ。そのせいで隣にいた魔落ちは露骨にこちらを警戒してしまったのだけれど。」
そう言われてダニーと対峙したとき、彼が呟いた台詞を思い出す。
やたらにお爺さんが私について来ないようにと警戒していたのだが、あれはエミリーちゃんのお爺様のことだったようだ。
また再度、今度は先程よりも鋭い痛みが走る。
「でね、僕がレイちゃんに聞きたかったのは、どうして魔力を持たない少女であるキミが、純潔の魔女エミロアの声を聞くことができるのかについてなんだ。」
お爺様の言葉を聞いた瞬間、弾けるような痛みが走った。
「い"っっっ!!!」
「レイちゃん!?」
その衝撃は今まで感じたことがなく、痛みで思わず声に出してしまうほど。
ようやく私の異変に気がついたお爺様は焦ったように私の頭に触れる。
「……え、」
すると驚いたように手を離し、呆然と呟いた。
「なんだ……これ……」
私が聞きたいわ。めっちゃ頭痛い。
お爺様は懸命に私の頭を撫で、なにかの呪文を唱えると嘘のように痛みが引いていく。
しばし目を伏せて呼吸を整え、そして激情のまま彼に向かって吠える。
「というより誰ですかその人!?そんな人知らないんですけど!?私が聞こえるのは妖精さんたちの声だけですから!」
「……。」
「あの、お爺様?」
「ねぇ、今のような頭痛ってしょっちゅう起こるのかな。」
「いえ、たまにですけど…でもさっきのは痛かったなぁ…偏頭痛ってこんなに辛いんですね。」
「これは…でもまさか…エミロアがそんなことをするわけ…」
「………大丈夫ですか?」
言い淀んだお爺様はおもむろに呟く。
「ごめん、また頭痛がするかもしれないけどひとつ確認させてほしい。」
「は!?嫌ですよ!」
「大事なことなんだ。いくよ。」
全く人の話聞いてないわ。この人本気だ。
無意識に耳に手を当てて両目を瞑って痛みに備えると、脳内に直接お爺様の声が響き渡る。
「レイちゃん、キミはいつ、どこで彼女と会ったんだい?」
だからそんな人知らないのに。
そんな思いとは裏腹に私の脳内ではけたたましい音量で車のクラクションが鳴り響く。
………車?車ってなんだっけ。
『ごめんねリュード。まだその記憶には触れないであげてネ。』
どこかで聞いたことのある声が脳内に響くと同時に、誰かが息を飲んだ音を聞きながら意識を手放した。