転生者は、少年のご機嫌をとりたい
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(こんなお屋敷に住んじゃって、羨ましいったらありゃしないわ。)
そう思いながらも昔ほどの嫌悪感は込み上げて来ないこと、そして用意してきた袋を手渡すぐらいには自分も大人になったのだと悟った。
「はぁ、ドーモコンニチハ、エミリー様。いつも兄がお世話になってますってことで、王都からのお土産。」
「わぁ!ありがとう!…なぁにこれ?」
「やった!王都カステラだよエミリー!!どうやって盗んだのさ!?」
「買ったわよ失礼ね!あ、そうだリリー?レイに贈りものをちゃんと届けてくれたみたいね。兄さんから聞いたわ、ありが」
「エミリー!!早く封開けて食べようよ!」
「うん!!」
「話聞いてないわね貴方たち……!!!というかなんでそんなに仲良くなってるのよ!」
盗賊一派の娘と未来の聖女が仲睦まじくお土産を漁ってるなんて、王が知ったら卒倒する。間違いなく。
頭を抱えて項垂れると、お菓子に夢中なリリーに代わり控えめにランディの服の袖を引っ張ったマリーが口を開いた。
「恩人のおかげでね?リリーに友達が増えたね?」
「……そう、やっぱりレイなのね。ほんっと不思議な子だわ。」
王都指定調剤師は基本的に王都から外に出ることは許されない。それでも今回のように今までも休暇を取って兄に会いに来ることは出来たのだが、その手段を選ばなかったのは一重にこの聖女に会いたくなかったからである。
大好きな兄が王都騎士団に入ったから助けるために最年少で指定調剤師にまで抜擢されるほど頑張ったのに、エミリーが誕生したことでこの村で守ることが決まってしまって……逆に兄と離れ離れになってしまうことになったのだ。
あの時は自分から兄を奪った聖女が許せず、また自分を迷わず置いていく決断をした兄のことも憎らしく思っていたのも事実。
意固地になって貴方一切連絡を取らず、また兄もそのことを察していたのか…はたまた完全に忘れていたのかは不明だが、連絡は来ずというふうに疎遠になっていた。
「もしもしクラウスだが。」
「……はぁ!?に、兄さん!?」
だから兄から昔もらった魔法石から突然声が聞こえてきた時は、驚きで薬品をぶちまけたものだ。
「一応お兄ちゃんなんだが…分かるか?」
「いや分かってて話してるからそこは大丈夫!」
「そうか。……まだ持っててくれたんだな。」
「……ワタシが世界一カッコいいクラウス兄さんからの贈りものを捨てるわけないでしょ。」
「ふっ、久しぶりに聞いた。お前は変わらないなランディ。」
それなのに妙な縁から兄がレイ・モブロードという少女と出会ったことであれだけ溝が開いていた兄弟仲が一瞬で直った。
あれだけ意地を張っていたのが嘘のように、凍った心が溶けていったのである。
だから今回は怪我をした兄の治療と復興の手伝いという目的とともに天敵と向き合ういい機会だと思い、ばくばくの心臓を押さえつけてここまで来たのだ。
(実際に会えばなんてことないただの子供ね。あーあ、なんか気が抜けちゃったわ。)
「さ、パーティーやるんでしょ?準備しないとね。お皿はありますか聖女様?」
「お皿はこっちだけど…ねぇ敬語なんていらないよ?モブちゃんのお友達はエミリーのお友達!!よろしくねランディちゃん!」
「ふ、なによそれ。まぁいいけど。」
「いやいやよくないッス!!アンタは旦那の天敵ッス!!よろしく出来ないっス!」
「えー?心が狭いねー!」
不思議な魔力をまとった白い蛇と談笑する聖女を見ながら、チラリと話題の2人の様子を確認する。
ここから少し離れた部屋で対面で座るレイとその幼馴染。
プイッと彼女から顔を背けてこちらを睨みつけてはいるものの、その手はずっと握ったままだ。
「アル、なんでランちゃんを燃やそうとしたの?」
「よく燃えそうだったから。」
「発想がサイコパスだよそれ!!いけません!」
(…ワタシをそんなに睨みつけるほど不安ならさっさと捕まえなさいよ。)
関わらないのが吉だと判断して、早々にレイへ声をかける。
「レイ、こっちは用意しておくからその猛獣をなんとかしてから来てね。」
「ちょ!?ランちゃん!?」
「っっ誰が猛獣だゴラァ!!」
「あっっっつ!?落ち着いて!?」
後ろから突き刺さる殺気に気がつかないフリをして、可哀想な親友のため怒涛の勢いで食すリリーから王都カステラを取り上げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
嘘でしょ本当に丸投げしていったよ。
「あの野郎なめやがって!!」
「ア、アル!!高価そうな食器がぐらぐら揺れてる!!落ち着いて!?あれ割ったら大変だよ!?」
「知るか!!!いっそ割れろ!!」
「そんなことってある!?」
その後もずっと私を解放せず、ランちゃんが自分のテリトリーに近寄らないように警戒を続けている。
収まりきらない闘気……いや熱気?で食器が揺れるなんてどこの格闘家だよ。驚きだわ。
そして何故そんなに怒るのか、未だに謎のままである。
「ほーらほらアルくんいい子ですねー!はーい笑ってー!」
「ガキ扱いすんじゃねぇよ!!」
鬼も泣いて逃げ出すであろうその表情を和らげようと、両手を彼の頬に添えて上へ押し上げる。
眉間にシワは残るものの、先程よりはだいぶいつものアルの表情に戻った。
「うんいいお顔ですよお兄さん!どうですか?このままランちゃんと仲良く」
「ぜっっってぇに嫌だ!!」
「うっわ即答……」
「ッチ!」
キレよく舌打ちしたアルは理由を決して話そうとはしない。
あまり刺激しない方が良いと判断した私は、話題を逸らそうとお土産の話を持ち出した。
「ランちゃんが王都カステラ買ってきてくれたって!今大人気らしいよ?流石お土産の選択もばっちりだよね!!」
「………………。」
「どんな味か気になる……あ、やば。そういえば手作りのお菓子の味見してなかったかも。」
「は?手作り?お前が?」
意外なところで過剰な反応を示したアルに不思議に思いながらも、良い食いつきを逃さないようにポシェットからクッキーを出して言葉を続ける。
「お母さんが手伝ってくれたんだよ。初めてだったけど結構見かけはいいでしょう?」
「………へぇ初めてか。……へぇ。」
じっとお菓子を見つめるアルに妙案を思いつく。
「2袋あるし…エミリーちゃんたちに出す前にこっそり味見しとこうかな。」
「ん。」
先程までの雰囲気から一変し、嬉しそうに口を開き万全の体制で投げ込まれるのを待っている。
何故だ。味見してないと言っただろう。
「た、食べるの?」
「そのために持ってきたんだろ?こっそり味見すんなら寄越せ。」
なるほどそうか、お腹が空いてるのか。
ならばと一枚掴んでアルの口元に持っていくと、ゆっくりと噛み砕いて味わってくれる。
「ど、どうかな……」
食べられなくはねぇなぐらいの評価を期待してドキドキしていると、片手でクッキーのカケラを拭ったアルは数秒考えたあとに呟く。
「………美味い……んじゃねぇの。」
「へ?えぇ!?い、今なんて!?」
「ん。」
「は、はい……ドウゾ……」
少し頬を赤くして私が運ぶお菓子をもぐもぐと食べ進めるアルを見て、胸の奥からあったかい気持ちが溢れ出す。
美味いんじゃねぇのって……えへへ。
本来なら味見用の一枚だけでいいはずなのに感動からかもう一枚、もう一枚とアルに運ぶ。
「ってあれ!?ない!?嘘だやっちゃったよ!!!アルが可愛いすぎてつい!!」
いつの間にやらみんなで食べる予定だったもう一袋まで開けて餌付けしまったことに気がつき、頭を抱える。
というかどんだけお腹空いてたの。
「まさかお腹空いててあんなに不機嫌だったの?」
「ちげぇよ。………ごちそうさん。」
「お、お粗末様でした。」
いたずらっ子のように舌をちょこっと出したアルが満足顔だったことに、まぁいいかと納得した。