転生者と少年と、揺れる赤い花
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「目ェ閉じろ。」
ワクワク気分のまま言われた通りに目を閉じる。
サラッと髪を撫でられるとちょっとした浮遊感。
そして草木が風に吹かれてカサカサと揺れる音が鼓膜を揺らした。
ここがあの丘に続く森だと一瞬で理解できた私はいよいよ常人離れしてきたと思う。
「もういいぞ。」
合図に頷きゆっくりと目を開けると、私を歓迎するようにプルプルと草木が揺れた。
「おぉ!!元気になってる!!」
以前来たときは枯れる寸前の、どことなく哀しさが滲んでいたというのに今は見る影もない。
むしろ前より力強さ、生命力を感じさせる姿に両手を挙げて万歳のポーズを披露した。
「ついに人としての理性を失ったか。」
「ひどっ。いやだってさ、前来たとき…アルが苦しんでたときは凄い萎れちゃっててちょっと心配してたんだよ。」
「…あぁ。ここはオレのゲートの中だからな。影響を受けたんだろ。」
「じゃあ今は元気ってことなんだね。よかった。」
気まずそうに頭を掻いたアルにそういえばと思いついた疑問を口にする。
「前から聞こうと思ってたんだけどゲートってなんなの?異空間だってワンダさんは言ってたけど。」
「今更かよ。クソババアの言う通り、ゲートっつうのは自身の魔力を混ぜて作り上げる異空間のことだ。ゲート所有者または所有者に認められた人物であれば通過することが許される。」
「それ以外の人が通ろうとするとどうなるの?」
「所有者が伴ってない場合はゲート内が迷宮に変化する。そのまま出口を見つけられずに死ぬか、ゲート内に蔓延する所有者の魔力にあてられて死ぬ。お前が妖精の魔力を使うことで体調が悪くなるのと一緒だ。」
「怖っ!」
「分かったら考えなしにゲートに入ろうとすんなよ。まぁお前にはそもそもどこにゲートがあるかも分からねぇと思うが。ほら行くぞ。」
手を優しく引かれながら森の中を突き進む。
肺いっぱいに自然の香りを取り込みながら歩いていく中ではっとした。
そういえばあのとき、私は1人でここに飛び込んだ。
アルの話の通りなら招かれたわけでもない私は、このゲートの中で迷い死んでもおかしくなかったのだ。
それでも無事であった理由はなぜかといえばと思考を巡らせると、おじいさんのあの言葉が蘇る。
「レイちゃんなら迷うことはないじゃろう。アルも君を求めているはずじゃ。」
改めてアルが私を信頼してくれていることを実感し、胸の中からじわじわと熱いなにかが溢れ出した。
「あ?どうした?」
思わずギュッと手を握ってしまったことでアルに伝わってしまったらしい。
不思議そうにこちらを見つめる幼馴染にどう説明しようかと悩んだ結果。
「アルと会えて幸せだなって思っただけだよ。」
面倒臭くなって正直に答えることにした。
するとアルは理解が出来なかったのか数秒フリーズし、その後顔面を真っ赤にして震えだした。
「い、今の流れでどうしてそう……!!」
「んー…内緒。ほらほら!気にせず行きたかったところに連れてって?ね?」
「ぐっ……!!」
可愛いアルに悪戯心に導かれるまま人差し指で自身の口元を押さえながらお願いすると、幼馴染は小さく呻き声を上げながら顔を片手で覆い隠す。
そしてポンッポンッと軽快な音が響くと、驚きの光景が目に飛び込んできた。
「お、おぉ!?なにこれ!?いつの間に!?」
さっきまで生い茂っていた草木が、辺り一面見渡す限りの赤い花で埋め尽くされる。
そして私に甘えるように擦り寄ってくるのは一体どういう仕組みなのだろうか。
「ひゃー綺麗だね!これもアルの魔力を受けてゲートが変化したの?よーしよしいい子だ!この花って確かアイビスの花だよね?」
「……?……だぁあああああああ!?」
思わず花をナデナデしていると異変に気がついたアルが絶叫し、勢いよく目元を隠される。
その後突風が吹き荒れて気がついたら丘の上だった。
先ほどまで綺麗に咲き誇っていた花はどこにも見当たらず、激しく息を切らしたアルが地面に座り込んでいるのみである。
「はぁっ、はぁっ、ゲッホゲホ!!」
「大丈夫?」
アルが噎せるなんて珍しい。
いつもとは逆の光景で彼の背中をさすってあげると、私の手を掴んだ幼馴染は焦ったように言葉を紡いだ。
「ゲホッ……っはぁ!!い、今見たのは忘れろ!一旦忘れろ!」
「う、うん分かった。そんなに言うなら忘れるよ。」
ここで断ればそのまま窒息死してしまいそうな幼馴染の様子に、戸惑いながらも忘れることを約束する。
綺麗でもうちょっと見たかったけど、アルの命には変えられん。
安心させるように微笑んで見せると、彼は下唇を噛んだあと大きく深呼吸を繰り返す。
うん、もう大丈夫そうだ。
「それで、ここでなにするの?」
話題を変えてあげようと声をかけるとアルは視線を丘の方ではなく、右奥にひっそりと立つ小屋へと向けた。
そして一際大きく息を吐き出すと立ち上がり、私をその近くまで連れて行く。
そして小屋の前までたどり着くと、右手に小さな石で建てられたお墓があることに気がついた。
小さな白いお花が添えられているそのお墓には誰かの名前が刻まれているわけではなかったが、自然と口が動く。
「ここって…アルのお母さんの?」
「……あぁ。騒動の後、情けねぇことに1人では行く気になれなくてな。」
「まぁ、いろいろあったもんね。」
「だろ?」
ぶちぶちと近くにあった白い花を千切りお供えするアルは、お墓の前でしゃがみ込み手を合わせながら優しい眼差しで亡き母が眠るその場所を見つめる。
習って私も隣にしゃがみ、アルの言葉を待つ。
「あの人が死ぬ直前まで気にしてたことがあった。」
「どんな?」
「友達は出来たか?って。」
その時のことを思い出したのか、控えめに笑った彼は自嘲気味に呟く。
「そんなモンいらねぇって言う度に怒鳴られて、あまりにもしつこいから会わせたい奴が出来たら連れて来るって約束したっけな。」
「…アルのお母さんって怒ると怖いんだ?」
「あぁ、鬼だあれは。敵わねぇ。」
「じゃあ失礼して!」
地面にワンピースがつく事も気にせず正座して、アルのお母さんと向かい合う。
私を呼ぶ声が聞こえるが構わず頭を下げ、挨拶をする。
「こんにちはアルのお母さん。いつも息子さんには大変お世話になっております。というか…大変ご迷惑をおかけしてます!!本当いつもすいません!!でもアルを傷つけたり裏切ったりは絶対しませんので安心してください!!誓いの品を寄越せと言うのなら、喜んでこの小指をお母さんに献上します!!」
「落ち着けよ。あと服汚れるぞ。こっち来い。」
パコンと叩かれた痛みで頭をさすっているとアルが私の背後から抱きつくように抱え、自身の太ももの上に乗っけると優しく髪を撫でる。
そして再度母親が眠る場所を見つめた彼は、小さく呟いた。
「付き合わせて悪かったな。ちゃんとした墓も作れねぇし、花束も買えねぇしで散々だったからあの約束は果たしたかったんだ。お陰でスッキリした。」
「そう?アルのお母さんには一度ちゃんとお礼とお詫びをしたかったし私としてはありがたかったんだけど…今度は花屋さんで花束買っていこうよ。喜ぶよ?」
「いや赤髪のオレが花屋なんて行っても売ってくれねぇだろ。」
「は?なにそれ。そんなこと許さん。君の幼馴染であるこの私が成敗して…あ、待って。もしアルのお母さんにあんな雑魚と幼馴染だなんてとか思われてたらどうしよう…。」
「なんだそりゃ。…まぁ怒ってるとしたら別のことだろ。さっさと捕まえろ……とか。」
「え、なにを?」
「…珍獣。」
「……害獣駆除の約束でもしてたの?」
「はぁ……なんでもねぇよ。それよりもっとこっち来い。足りねぇ。」
「ん?うん。」
グリグリと頭を擦り付け甘えてくるアルに数回こちらも擦り寄ると、彼は嬉しそうに息を吐く。
蕩けるような温かさとむず痒さの感覚が何故か以前見た夢と似ている気がして思わず赤面し、深く考えないようにと目を閉じる。
結局小さなお墓の横にアイビスの赤い花が幸せそうに咲き誇っているのを、どちらも気がつかないまま時が過ぎた。