転生者と戦いの爪痕と、少年の本気②
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「おい!おいモブ!!」
奇声を発しながら目を回した幼馴染をガクガクと揺さぶるが応答はない。
グデッと脱力したモブの様子を見て己の失態を悟り、急激に頭が冷えた。
言い訳はしない。
制御不能になった、その言葉に尽きる。
戦いの後で気持ちが高ぶっていたのか分からないが、プツッとなにかの糸が切れると同時にムズムズする感情が身体の内側から溢れ出して止まらない。
なぜだか無性に頭を撫でて甘やかしてやりたいし、同じくらい困らせて泣かせてやりたい気もする。
なによりも、閉じてしまったその瞳に自分を映してほしい。
「……なに寝てんだよばーか。」
普段よりも数段小さい声で呟いたオレはため息を吐きながら抱き締めている腕の力を抜き、幼馴染の身体を抱え直す。
一応コイツの希望を叶えるため隙間を埋めるように抱き締めると、この幼馴染は少し嬉しそうに頬を緩ませた。
「ほら、満足かこの野郎。」
ツンツンと幼馴染の眉間に指を当てて尋ねると、不愉快そうに眉を潜めた。
「はっ、気に入らないってか。」
「そんなことはない。微笑ましくて癒される。」
少し面白くなって来て頬が緩みながら話しかけると、予想していなかった返事が聞こえてきた。
「モブロード嬢のご両親がいらっしゃったのだが……いやもう少し時間を稼ごう。大丈夫だ私に任せてお」
「さっさと連れてけそしてテメェは死ね!!」
完全に調子が戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
モブを抱えながら迎えにきた彼女の両親の元へ足を運ぶと異常な速さで気配がひとつ、こちらに近づいてきた。
「あああああああ!!無事でよかった僕の天使ぃいいいいいい!!あ、なんだろう!!5ヶ月ぶりぐらいの再会な気がする!!神様ありがとうーーーーー!!!」
顔面大洪水を引き起こしているモブの父親は、オレの腕の中で眠るモブを見て背中を大きく反らし神に祈りを捧げた。
相変わらずの親バカ具合と身体の柔軟性は尊敬に値すると思う。
「うう……」
魘されるように顔をしかめたモブは父親の暑苦しさから逃げるように寝返りを打って、オレの首元に縋り付いた。
おいやめろ、お前の父親の眼球が飛び出そうだぞ。
「…………キミには感謝してるよ。僕の娘を守ってくれたこと、とっても感謝してる。無事で本当に良かった。でもね!!?それとこれとは話が別なんだよ!!レイちゃんに抱きつかれるなんてそんなの罪深すぎて世界の均衡が崩れるからね!?」
「まず落ち着けよ。」
「もうエドワードったら……ごめんなさいねアルくん。すぐ黙らせるからね。」
おっぶっ!!!!と奇声を発したモブの父親は、泡を吹きながら腹を抑えて地面に倒れた。
一方遅れてやってきたモブの母親は晴れやかな表情でオレの頭を優しく撫でる。
「こんな無茶なことをして…とても心配していたのよ?アルくんのお爺様はこちらまでお越しになるのは大変でしょうし、私たちと一緒に帰りましょうね。」
「は、はぁ。」
なんだかとても照れ臭い。
どうしたらいいか分からなくてとにかくモブを家族の元へ返そうとすると、モブの母親はいたずらっ子のように無邪気に笑う。
「ねぇ?もしアルくんがよければもう少しレイちゃんを抱き締めてあげてくれないかしら?こんな幸せそうな顔しちゃって……ふふふ、この子、貴方のことがだーい好きだから嬉しいのね。」
「は!?」
「なななななななに言ってるのエマ!?ははははははは!?冗談キツイって本当!ダディはまだ認めな」
「あらやだエドワード早起きねもう少し寝ていたら?」
「ぐっっは!!!キミの鋭い拳が僕を貫く!!愛してるよエマ!!」
「あら、私もよエドワード。」
壮絶な夫婦漫才が繰り広げられても起から様子のないモブは、ふにゃふにゃと口元を緩ませる。
へぇ、嬉しいのかオレといて。…へぇ。
収まったはずのムズムズが蘇り顔面に熱が集まっていく。
気を抜くと頬が緩んでしまいそうで慌てて口元に力を込めるが、モブの母親には勘付かれたのか微笑まれた。
情けない表情を見せてしまったことを反省し、とりあえずクラウスを足蹴りした。
「?どうした。」
「気にすんな。」
首を傾げたクラウスはすぐに興味を失ったのか、モブの母親と向かい合って頭を下げる。
「この度はモブロード嬢には大変お世話になりました。お恥ずかしい話、彼女の協力がなければ隊はまとまらず被害は大きなものとなっていたことでしょう。」
「ふふ、自慢の娘です。隊長さんも私たちを守るために身体を張ってくださって…子供たちを守ってくださってありがとうございました。流石王都の騎士団長さんですね。」
「大変光栄なお言葉ですが、私よりもぜひこちらの有能な騎士に。」
その言い方に腹が立ち再度スネを蹴ると、クラウスは困ったように眉を寄せた。
痛がらねぇところもムカつく。
「ふふ、そうですね。ありがとう、アルくん。」
「……っす。」
「よく出来たな。」
「触んな。」
オレの頭を撫でようとしたので威嚇すると大げさに肩を竦めたクラウスは、一変して真剣な表情で言葉を続けた。
「ただ…彼とは少し約束がありまして。長くなりますので、私が送っていきます。」
「あら?そうなの?」
ゆらりと揺らめくクラウスの青い瞳がこちらをじっと見つめる。
そんな約束などもちろんしていない。が。
「……まぁそんな感じで。とりあえずコイツ返します。」
「…そう。分かったわ。じゃあまた今度お家に遊びに来てね。」
「…そうします。」
こちらの雰囲気を察した彼女は今一度深くクラウスへお辞儀をすると、モブを抱き抱え、地面に伏した自身の旦那を引っ張り帰路へ着いた。
「見た目によらず力持ちだな。……それにしてもモブロード嬢の母君には敬語を使うのか。面白いな。」
「うるせぇよ。で?テメェと約束なんてした覚えはねぇが。」
「色々と確認したいことがある。こちらへ。」
足早に歩き始めたクラウスの後ろを、ため息を吐きながら着いて行くことにした。